β遮断薬一覧と選択性分類の特徴

β遮断薬一覧と分類

β遮断薬の基本分類
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β1選択性遮断薬

心臓のβ1受容体を選択的に遮断し、気管支への影響を最小限に抑制

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非選択性β遮断薬

β1・β2受容体を両方遮断し、より強力な効果を発揮

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ISA(内因性交感神経刺激)

部分的アゴニスト作用により、心拍数の過度な低下を防止

β遮断薬の基本的作用機序と分類

β遮断薬は、β-アドレナリン受容体を遮断することで心拍数を低下させ、血圧を下げる薬剤です。主に心臓のβ1受容体と気管支・血管のβ2受容体に作用し、その選択性によって以下のように分類されます。

β1選択性遮断薬の特徴:

非選択性β遮断薬の特徴:

ISA(内因性交感神経刺激作用)について:

ISAを有するβ遮断薬は、β受容体を遮断しながらも軽度の刺激作用を示します。これにより心拍数の過度な低下を防ぎ、運動耐容能の維持に寄与します。

β1選択性β遮断薬の特徴と代表薬一覧

β1選択性遮断薬は、心臓のβ1受容体に対する選択性が高く、気管支への影響を最小限に抑えた薬剤群です。

ビソプロロール(メインテート®)

  • 用法・用量:2.5〜5mg 1日1回
  • 特徴:β1選択性が高く、ISA(-)
  • 適応:頻脈合併例、甲状腺機能亢進症、若年性高血圧
  • 半減期:10〜12時間

アテノロール(テノーミン®)

  • 用法・用量:25〜100mg 1日1回
  • 特徴:水溶性でβ1選択性あり
  • 適応:高血圧、狭心症
  • 半減期:6〜7時間

メトプロロール(セロケン®、ロプレソール®)

  • 用法・用量:20〜40mg 1日2〜3回
  • 特徴:脂溶性でβ1選択性あり
  • 適応:高血圧、狭心症、不整脈
  • 半減期:3〜4時間

アセブトロール(アセタノール®)

  • 用法・用量:100〜400mg 1日2回
  • 特徴:β1選択性+ISA(+)
  • 適応:高血圧、狭心症、不整脈
  • ISA作用により心拍数の過度な低下を防止

これらの薬剤は、β1選択性があるため喘息・COPD患者でも慎重に使用可能ですが、完全に選択的ではないため注意が必要です。

非選択性β遮断薬の特徴と使い分け

非選択性β遮断薬は、β1・β2受容体を両方遮断し、より強力な効果を発揮する薬剤群です。

プロプラノロール(インデラル®)

  • 用法・用量:30〜60mg 1日3回
  • 特徴:脂溶性、非選択性、ISA(-)
  • 適応:高血圧、狭心症、不整脈、甲状腺機能亢進症
  • 半減期:3〜4時間
  • 注意点:気管支収縮のリスクがあり、喘息患者では禁忌

カルベジロール(アーチスト®)

  • 用法・用量:10〜20mg 1日2回
  • 特徴:α1β遮断薬、非選択性β遮断
  • 適応:高血圧、心不全
  • α1遮断により末梢血管拡張作用も発揮

ピンドロール(カルビスケン®)

  • 用法・用量:20mg 1日1回
  • 特徴:脂溶性、非選択性、ISA(+)
  • 適応:高血圧、狭心症
  • ISA作用により心拍数の過度な低下を防止

カルテオロール(ミケラン®)

  • 用法・用量:10〜20mg 1日2回
  • 特徴:水溶性、非選択性、ISA(+)
  • 適応:高血圧、狭心症、緑内障
  • 点眼薬としても使用可能

非選択性β遮断薬は、β2受容体遮断により気管支収縮を引き起こす可能性があるため、気管支喘息患者では禁忌となります。

β遮断薬の副作用と禁忌事項

β遮断薬使用時に注意すべき副作用と禁忌事項について詳しく解説します。

主な副作用:

  • 心血管系:徐脈、房室ブロック、心不全の悪化
  • 呼吸器系:気管支収縮(特に非選択性)
  • 代謝系:低血糖症状のマスキング、脂質代謝異常
  • 末梢循環:末梢循環障害、レイノー現象
  • 中枢神経系:倦怠感睡眠障害、うつ状態

絶対禁忌:

  • 気管支喘息(非選択性β遮断薬)
  • 高度房室ブロック
  • 洞房ブロック
  • 心原性ショック
  • 重篤な心不全(急性期)

相対的禁忌・慎重投与:

  • 糖尿病患者:低血糖症状をマスキング
  • 末梢動脈疾患:血管収縮により症状悪化の可能性
  • 甲状腺機能亢進症:急激な中止により甲状腺クリーゼのリスク
  • 高齢者:過度な降圧による転倒リスク

離脱症候群の注意:

β遮断薬の急激な中止は、反跳性高血圧や狭心症の悪化を引き起こす可能性があります。中止時は段階的に減量することが重要です。

薬物相互作用:

β遮断薬の臨床応用と競技での使用制限

β遮断薬は多様な臨床場面で使用されますが、特定の競技においては使用制限があることはあまり知られていません。

臨床での主な適応:

  • 高血圧症:第一選択薬として使用
  • 狭心症:運動誘発性狭心症に特に有効
  • 心筋梗塞後:二次予防として生存率向上
  • 不整脈:上室性頻拍、心房細動の心拍数コントロール
  • 心不全:β1選択性薬剤による心保護効果
  • 甲状腺機能亢進症:症状緩和目的

特殊な適応:

  • 頭痛予防:プロプラノロールが使用される
  • 本態性振戦:症状軽減効果
  • 社会不安障害:症状緩和(適応外使用)

スポーツにおける使用制限:

2025年禁止表国際基準によると、β遮断薬はアーチェリーなどの精密性を要求される競技において競技会時に限って禁止されています。これは、β遮断薬の手の震えを抑制する効果が、競技の公平性に影響を与える可能性があるためです。

競技で禁止される理由:

  • 心拍数低下による精神的安定効果
  • 手の震えの抑制
  • 緊張・不安の軽減
  • 集中力の向上

この規制は、β遮断薬が持つ抗不安作用と手の震えを抑制する効果が、射的競技などで不公平なアドバンテージをもたらす可能性があることを示しています。

適切な薬剤選択のポイント:

  • 呼吸器疾患の有無:β1選択性薬剤を選択
  • 心機能の状態:心不全例ではカルベジロールが推奨
  • 患者の年齢・活動性:ISA(+)薬剤の検討
  • 併存疾患:糖尿病、末梢動脈疾患の有無を確認

β遮断薬は、適切に使用すれば心血管疾患の予後改善に大きく貢献する薬剤群です。しかし、その多様な作用機序と副作用プロファイルを理解し、患者個々の状態に応じた薬剤選択が重要となります。

日本循環器学会のガイドラインでは、β遮断薬の使用に関する詳細な推奨事項が示されています。

循環器内科医によるβ遮断薬の詳細解説