ベータ遮断薬一覧と分類
ベータ遮断薬の基本的機序と分類体系
ベータ遮断薬(β-アドレナリン受容体拮抗薬)は、交感神経系のβ受容体を選択的に遮断することで、心拍数の減少、血圧降下、心筋収縮力の抑制をもたらす薬剤群です。臨床的には降圧薬、狭心症治療薬、不整脈治療薬、心不全治療薬として幅広く使用されています。
ベータ遮断薬の分類は以下の特性により決定されます。
- 受容体選択性:β1選択性、非選択性(β1・β2両方)
- 内因性交感神経刺激様作用(ISA):有無による分類
- 膜安定化作用:有無による分類
- 脂溶性・水溶性:薬物動態に影響する特性
この分類により、各薬剤の適応疾患や副作用プロファイルが決定され、患者の病態に応じた最適な選択が可能となります。
β1選択性ベータ遮断薬一覧と特徴
β1選択性ベータ遮断薬は心臓のβ1受容体に選択的に作用するため、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者にも比較的安全に使用できる利点があります。
主要なβ1選択性薬剤一覧:
- メトプロロール(セロケン、ロプレソール)
- 先発品薬価:セロケン錠20mg 10.4円/錠、ロプレソール錠20mg 10.4円/錠
- ジェネリック薬価:メトプロロール酒石酸塩錠20mg「サワイ」7.6円/錠
- 特徴:脂溶性で中枢移行性があり、徐放剤も利用可能
- アテノロール(テノーミン)
- 先発品薬価:テノーミン錠50mg 9.3円/錠、テノーミン錠25mg 8.8円/錠
- ジェネリック薬価:アテノロール錠50mg「サワイ」6.1円/錠
- 特徴:水溶性で腎排泄型、1日1回投与可能
- ビソプロロール(メインテート)
- ジェネリック薬価:ビソプロロールフマル酸塩錠2.5mg「サワイ」10.4円/錠
- 特徴:高いβ1選択性、心不全に対する強いエビデンス
- 投与量:2.5-5mg分1が一般的
- ベタキソロール(ケルロング)
- 先発品薬価:ケルロング錠5mg 26.3円/錠、ケルロング錠10mg 45.9円/錠
- ジェネリック薬価:ベタキソロール塩酸塩錠5mg「サワイ」11.8円/錠
- 特徴:ISA有り、24時間持続作用
β1選択性薬剤は気道への影響が少ないものの、高用量では選択性が低下するため注意が必要です。
非選択性ベータ遮断薬一覧と使い分け
非選択性ベータ遮断薬はβ1・β2受容体の両方を遮断するため、心血管系への効果が強力である一方、気管支収縮や末梢血管収縮といった副作用リスクも高くなります。
主要な非選択性薬剤一覧:
- プロプラノロール(インデラル)
- 特徴:プロトタイプとなる薬剤、脂溶性
- 適応:高血圧、狭心症、不整脈、片頭痛予防
- 投与量:40-80mg分2が一般的
- ピンドロール(カルビスケン)
- 特徴:ISA有り、心拍数の極端な低下を防ぐ
- 適応:高血圧、狭心症
- 副作用:ISAにより夜間血圧降下が緩やか
- チモロール
- 特徴:眼圧降下作用があり、緑内障治療にも使用
- 全身投与と点眼薬の両方で利用
- オクスプレノロール
- 特徴:ISA有り、膜安定化作用有り
- 適応:高血圧、狭心症、不整脈
非選択性薬剤の選択においては、患者の呼吸器疾患の有無、末梢循環障害の有無を慎重に評価する必要があります。特に喘息患者では禁忌となる場合が多いため、十分な問診と検査が重要です。
αβ遮断薬一覧と臨床応用
αβ遮断薬はα受容体とβ受容体の両方を遮断することで、血管拡張作用と心拍数・心収縮力抑制作用を併せ持つ特殊な薬剤群です。
主要なαβ遮断薬一覧:
- カルベジロール(アーチスト)
- 投与量:高血圧 10-20mg分1、狭心症 20mg分1、心不全 1.25mg分2から開始
- 特徴:脂溶性、抗酸化作用有り
- 適応:高血圧、狭心症、慢性心不全
- 心不全での投与:段階的増量で維持量2.5-10mg分2まで調整
- アロチノロール(アルマール)
- 投与量:10-20mg分2
- 特徴:水溶性、ISA有り
- 適応:狭心症、不整脈(心不全適応なし)
- 利点:インデラルより効果・持続時間が優れる
- アモスラロール(ローガン)
- 規格:錠10mg
- 適応:本態性高血圧症、褐色細胞腫による高血圧症
- 特徴:褐色細胞腫に対する特異的効果
- ラベタロール(トランデート)
- 規格:錠50mg/100mg
- 適応:本態性高血圧症、褐色細胞腫による高血圧症
- 特徴:妊娠高血圧症候群にも使用可能
αβ遮断薬は血管拡張作用により、単純なβ遮断薬と比較して起立性低血圧のリスクが高くなる傾向があります。特に高齢者や糖尿病患者では慎重な投与が必要です。
ベータ遮断薬の薬価比較と経済性評価
ベータ遮断薬の薬価は先発品と後発品で大きな差があり、医療経済性の観点から適切な選択が重要です。
薬価比較(代表的な薬剤):
薬剤分類 | 先発品 | 先発品薬価 | ジェネリック | ジェネリック薬価 | コスト差 |
---|---|---|---|---|---|
メトプロロール20mg | セロケン | 10.4円/錠 | サワイ | 7.6円/錠 | 26.9%削減 |
アテノロール50mg | テノーミン | 9.3円/錠 | サワイ | 6.1円/錠 | 34.4%削減 |
ベタキソロール5mg | ケルロング | 26.3円/錠 | サワイ | 11.8円/錠 | 55.1%削減 |
経済性評価のポイント:
- ジェネリック医薬品の活用:特にアテノロールやメトプロロールは後発品の価格差が大きく、経済的メリットが高い
- 徐放製剤の考慮:セロケンL錠120mg(66.8円/錠)は1日1回投与で服薬アドヒアランス向上が期待できるが、コストは高くなる
- 外用剤の選択肢:ビソノテープ(41.5-75円/枚)は経皮吸収型で消化器副作用を回避できるが、皮膚症状のリスクがある
- 点眼薬の特殊性:ベタキソロール点眼液(115.6円/mL)は緑内障治療において全身への影響を最小限にできる
医療機関における薬剤選択では、薬事効果と経済性のバランスを考慮し、患者の病態・併存疾患・社会経済状況を総合的に評価することが重要です。また、後発品への変更時は患者への十分な説明と経過観察が必要です。
薬価情報と薬剤詳細が確認できる公的データベースです。
臨床での投与量と適応症について詳しい解説があります。