ベルソムラの一包化と粉砕の可否、安定性に関する注意点

ベルソムラの一包化における注意点

ベルソムラの一包化、本当に大丈夫?
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一包化と安定性

吸湿による硬度低下と溶出遅延のリスク。長期の一包化は非推奨です。

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粉砕・簡易懸濁の可否

製剤技術の特性上、粉砕は不可。簡易懸濁法も非推奨とされています。

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配合変化と代替薬

他剤への影響や代替薬(デエビゴ、ロゼレム等)の選択肢について解説します。

ベルソムラ錠の一包化と安定性

 

ベルソムラ錠(一般名:スボレキサント)の一包化は、多くの薬剤師が直面する疑問の一つですが、公式には推奨されていません 。その最大の理由は、製剤の物理的な安定性、特に吸湿性にあります 。ベルソムラ錠は、難溶性の主成分を体内で溶けやすくするために「ホットメルトエクストルージョン(加熱溶融押出法)」という特殊な技術を用いて製造されています 。この製剤は湿度の影響を受けやすい性質を持っています。

ある研究では、ベルソムラ錠を一包化して室温・高湿度条件下で保管した際の安定性が検討されました 。その結果、以下のような変化が報告されています。

  • 外観と成分量: 30日後も錠剤の外観やスボレキサントの含有量に変化は見られませんでした 。
  • ⚠️ 硬度と質量: 錠剤の硬度は著しく低下し、質量は増加しました。これは錠剤が湿気を吸収したことを示唆しています 。
  • 溶出性: 最も重要な点として、主成分の溶出率が有意に低下しました。新品の錠剤が2時間でほぼ100%溶出したのに対し、一包化された錠剤は約84%しか溶出しませんでした 。

この溶出性の低下は、薬物の吸収が遅れたり、効果が十分に発揮されなかったりする可能性を意味します。臨床効果への直接的な影響は明確に証明されていませんが、このリスクを考慮すると、特に長期にわたる一包化は避けるべきであると結論付けられています 。現場では「一包化不可」と判断するのが最も安全な対応と言えるでしょう 。

参考論文:ベルソムラ錠の一包化における安定性については、こちらの論文で詳細なデータが公開されています。

スボレキサント(ベルソムラ®)錠の一包化調剤における安定性の検討

ベルソムラ錠の粉砕と簡易懸濁法の可否

嚥下困難な患者さんに対して、錠剤の粉砕や簡易懸濁法が検討されることがありますが、ベルソムラ錠ではどちらも推奨されていません。

粉砕の可否について

添付文書上、ベルソムラ錠の粉砕は認められていません 。前述の通り、本剤はホットメルトエクストルージョン技術によって成分の溶解性を高めているため、粉砕によってその特殊な製剤構造が破壊され、薬物の吸収が損なわれる可能性があります 。メーカーの安定性試験では、粉砕後の光や湿度に対する安定性データが示されていることもありますが、これは品質管理上のデータであり、臨床での粉砕投与を推奨するものではありません 。したがって、粉砕指示があった場合は疑義照会を行うのが原則です。

簡易懸濁法について

簡易懸濁法は、錠剤を粉砕せずに温湯(約55℃)で崩壊させて投与する方法です 。しかし、ベルソムラの製造販売元であるMSDは、簡易懸濁法による投与を承認外の用法としており、推奨していません 。簡易懸濁で投与した際の有効性、安全性、薬物動態は検討されていないためです 。一部の医療機関が作成している簡易懸濁可否リストでも、ベルソムラは「不可」と分類されています 。吸湿による物性変化のリスクもあり、チューブ閉塞の原因となる可能性も否定できません。

医薬品の基本的な情報や公式見解は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)のウェブサイトで確認することが重要です。

PMDA 医療用医薬品の添付文書情報

ベルソムラの一包化における配合変化と相互作用

ベルソムラの一包化を考える際、他剤との配合変化や薬物相互作用についても慎重な検討が必要です。

吸湿による物理的な配合変化

ベルソムラ錠が持つ吸湿性は、同じ分包紙内の他の薬剤に影響を与える可能性があります 。例えば、湿度に弱い他の薬剤の安定性を損なったり、逆にベルソムラ錠が他剤から水分を奪って変質させたりするリスクが考えられます。特に、粉砕された薬剤が混合されている場合、接触面積が増えるため、そのリスクはさらに高まります。このような予期せぬ物理化学的変化を避けるためにも、ベルソムラの一包化は原則として避けるべきです。

薬物代謝酵素(CYP3A)を介した相互作用

ベルソムラは主に薬物代謝酵素CYP3Aによって代謝されます 。そのため、CYP3Aの働きを強く阻害する薬剤との併用は禁忌とされています 。

禁忌(併用してはいけない薬剤)の例:

これらの薬剤を服用している患者にベルソムラを処方すると、ベルソムラの血中濃度が著しく上昇し、副作用のリスクが非常に高まります。一包化を行う・行わないにかかわらず、これらの薬剤が併用されていないかを確認することは、薬剤師の重要な責務です。

配合変化に関する情報は、最新のインタビューフォームで確認することが推奨されます。

ベルソムラ錠 インタビューフォーム

ベルソムラ服用困難時の代替薬と処方提案

ベルソムラの服用が困難な嚥下障害のある患者さんには、他の剤形や特徴を持つ睡眠薬への変更を医師に提案することが有効です。代替薬を選択する際は、作用機序、剤形、副作用(特に筋弛緩作用による嚥下機能への影響)を総合的に評価する必要があります 。

代替薬の選択肢(例)

薬剤分類 一般名(製品名) 剤形・特徴 嚥下困難者への適性
オレキシン受容体拮抗薬 レンボレキサント(デエビゴ) 錠剤。ベルソムラと異なり、一包化が可能とされている 。粉砕は非推奨。 ⭕️ 錠剤が小さい。一包化で対応可能な場合に有用。
メラトニン受容体作動薬 ラメルテオン(ロゼレム) 錠剤。粉砕可能で、簡易懸濁も可。筋弛緩作用がほとんどない。 ✅ 粉砕や簡易懸濁に対応可能で、誤嚥リスクが低い。
非ベンゾジアゼピン系 エスゾピクロンルネスタ 錠剤。筋弛緩作用が少ない 。 🔺 錠剤のままで服用可能なら。粉砕・一包化の安定性データは要確認。
ベンゾジアゼピン系 ブロチゾラムレンドルミン 口腔内崩壊錠(OD錠)がある 。 ⚠️ OD錠は有用だが、筋弛緩作用による嚥下機能低下のリスクを考慮する必要がある 。

患者さんの状態(特に呼吸機能や日中の活動レベル)に合わせて、これらの選択肢の中から最適なものを医師と協議し、処方を提案することが望まれます。

ベルソムラの服用タイミングと食事の影響―一包化によるコンプライアンスへの影響は?

ベルソムラの効果を最大限に引き出し、安全に使用するためには、服用タイミングと食事の影響を理解し、患者に正しく指導することが極めて重要です。特に一包化を検討するような高齢の患者さんでは、これらの指導がコンプライアンスに直結します。

厳守すべき服用タイミング

ベルソムラの添付文書には、「就寝の直前に服用させること」と明記されています 。また、服用後に一時的に起床して仕事などをする可能性がある場合は服用を避けるよう注意喚起されています 。これは、薬の効果が発現した状態で活動することによる、もうろう状態や転倒などのリスクを避けるためです。

食事の影響

ベルソムラは、食事と同時、または食直後に服用すると、空腹時に比べて吸収が遅れ、効果発現が遅延する可能性があります。これは特に、脂質の多い食事を摂取した場合に顕著です。効果がなかなか現れないと感じる患者さんの中には、この食事の影響を知らずに服用しているケースが少なくありません。

一包化がもたらすコンプライアンスの罠 罠

ここに一包化の落とし穴があります。高齢の患者さんでは、複数の薬剤を服用していることが多く、「夕食後」の用法で一包化されていることがよくあります。もし、ベルソムラをその「夕食後」の袋に一緒に入れてしまうとどうなるでしょうか?

  1. 患者は夕食直後に他の薬と一緒にベルソムラを服用してしまう。→ 食事の影響で効果発現が遅れる。
  2. 服用後、就寝までの時間に入浴や趣味の活動などをしてしまう。→ 「就寝直前」の指示が守られず、ふらつきや転倒のリスクが高まる。

結果として、患者さんは「薬が効かない」「ふらふらする」と感じ、自己判断で服用を中止するなど、アドヒアランスの低下につながる恐れがあります。ベルソムラを一包化しないことは、製剤の安定性だけでなく、こうした服薬指導上の誤解を防ぎ、正しい服用タイミングを患者に意識させる上でも重要な意味を持つのです。


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