ベンゾジアゼピン系の一覧と抗不安薬の特徴

ベンゾジアゼピン系の一覧

ベンゾジアゼピン系薬剤の基本情報
💊

薬理作用

抗不安、鎮静、催眠、筋弛緩、健忘、抗てんかん作用を持つ

⚠️

注意点

依存性があり、長期使用で耐性が生じる可能性がある

🕒

作用時間による分類

超短時間型、短時間型、中間型、長時間型の4種類がある

ベンゾジアゼピン系抗不安薬の主要16種類

ベンゾジアゼピン系薬剤は、縮合したベンゼン環とジアゼピン環を中心とした化学構造を持つ向精神薬です。BZD、BDZ、BZP、BZなどと略されることもあります。日本の医療現場では、抗不安薬や睡眠薬として広く使用されており、その種類は多岐にわたります。

現在、厚生労働省で保険診療による使用が認められているベンゾジアゼピン系抗不安薬(精神安定剤)は、主要なもので16種類あります。これらは薬理作用や半減期によって分類されることが多く、医師は患者の症状や状態に合わせて適切な薬剤を選択します。

主なベンゾジアゼピン系抗不安薬には以下のようなものがあります。

  1. ジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾンなど)
  2. クロルジアゼポキシド(商品名:コントール、バランスなど)
  3. メダゼパム(商品名:レスミットなど)
  4. ロラゼパム(商品名:ワイパックスなど)
  5. ブロマゼパム(商品名:レキソタンなど)

これらの薬剤は、不安障害、パニック障害、睡眠障害などの治療に用いられますが、その使用には慎重な判断が求められます。特に高齢者への処方や長期使用については、近年様々な懸念が指摘されています。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬の作用時間による分類

ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、体内での消失半減期(薬の血中濃度が半分になるまでの時間)によって、以下のように分類されます。

1. 超短時間作用型(半減期:2〜5時間程度)

  • ハルシオン(トリアゾラム):半減期2〜4時間
  • マイスリー(ゾルピデム):半減期2時間
  • ルネスタ(エスゾピクロン):半減期5時間
  • アモバン(ゾピクロン):半減期4時間

※マイスリー、ルネスタ、アモバンは非ベンゾジアゼピン系ですが、同じベンゾジアゼピン受容体に作用するため、ここに分類されています。

2. 短時間作用型(半減期:6〜10時間程度)

  • デパス(エチゾラム):半減期6時間
  • レンドルミン(ブロチゾラム):半減期7時間
  • リスミー(リルマザホン):半減期10時間
  • エバミール・ロラメット(ロルメタゼパム):半減期10時間

3. 中間作用型(半減期:20〜30時間程度)

  • エミリン(ニメタゼパム):半減期21時間
  • サイレース(フルニトラゼパム):半減期24時間
  • ユーロジン(エスタゾラム):半減期24時間
  • ベンザリン・ネルボン(ニトラゼパム):半減期28時間

4. 長時間作用型(半減期:35時間以上)

  • ドラール(クアゼパム):半減期36時間
  • ソメリン(ハロキサゾラム):半減期85時間
  • ダルメート(フルラゼパム):半減期65時間

作用時間の長さによって、それぞれ適した使用場面が異なります。例えば、入眠障害には超短時間型や短時間型が、中途覚醒や早朝覚醒には中間型や長時間型が選ばれることが多いです。ただし、長時間型は翌日への持ち越し効果(二日酔い様症状)が出やすいため、高齢者への使用には特に注意が必要です。

ベンゾジアゼピン系薬剤の薬価と商品名比較

ベンゾジアゼピン系薬剤には、先発品(オリジナル薬)と後発品(ジェネリック医薬品)があり、薬価(保険適用時の公定価格)にも差があります。以下に主な薬剤の薬価と商品名を比較してみましょう。

ジアゼパム製剤の比較

商品名 製造会社 規格 薬価 分類
セルシン錠 武田テバ薬品 2mg 6.2円/錠 準先発品
セルシン錠 武田テバ薬品 5mg 9.7円/錠 準先発品
セルシン錠 武田テバ薬品 10mg 11.3円/錠 準先発品
ホリゾン錠 丸石製薬 2mg 6.2円/錠 準先発品
ホリゾン錠 丸石製薬 5mg 9.7円/錠 準先発品
ジアゼパム錠 各後発メーカー 2mg 5.9円/錠 後発品
ジアゼパム錠 各後発メーカー 5mg 6.0円/錠 後発品

注射剤の比較

商品名 製造会社 規格 薬価 分類
セルシン注射液 武田テバ薬品 5mg 79円/管 先発品
セルシン注射液 武田テバ薬品 10mg 82円/管 先発品
ホリゾン注射液 丸石製薬 10mg 83円/管 先発品
ジアゼパム注射液 日医工岐阜工場 5mg 120円/管 後発品
ジアゼパム注射液 日医工岐阜工場 10mg 118円/管 後発品

その他のベンゾジアゼピン系薬剤

商品名 一般名 規格 薬価
レキソタン ブロマゼパム 1mg 5.9円/錠
レキソタン ブロマゼパム 2mg 6.1円/錠
レキソタン ブロマゼパム 5mg 7.0円/錠
ワイパックス ロラゼパム 0.5mg 6.1円/錠
ワイパックス ロラゼパム 1.0mg 6.1円/錠
コントール クロルジアゼポキシド 5mg 10.1円/錠
コントール クロルジアゼポキシド 10mg 10.1円/錠

このように、同じ成分であっても先発品と後発品で薬価に差があります。また、注射剤は経口剤に比べて薬価が高くなる傾向があります。医療費の観点からは、可能な限り後発品を選択することが推奨されていますが、個々の患者の状態や反応に合わせた選択が重要です。

ベンゾジアゼピン系薬剤の副作用と依存性の問題

ベンゾジアゼピン系薬剤は効果的な治療薬である一方で、様々な副作用や依存性の問題が指摘されています。特に長期使用においては注意が必要です。

主な副作用

  1. 鎮静作用関連:眠気、ふらつき、注意力・集中力の低下
  2. 筋弛緩作用関連:脱力感、転倒リスクの増加(特に高齢者)
  3. 認知機能への影響:記憶障害、判断力低下、認知症様症状
  4. 逆説的反応:興奮、不安増強、攻撃性の増加(特に高齢者や小児)
  5. 持ち越し効果:翌日の日中の眠気、作業能力の低下

依存性の問題

ベンゾジアゼピン系薬剤は、使用を続けるうちに「依存性」と「耐性」という2つの重大な問題を引き起こす可能性があります。

  • 依存性:薬を急に中止すると、不安、不眠、イライラ、発汗、震え、けいれんなどの離脱症状が現れる
  • 耐性:同じ効果を得るために、徐々に用量を増やす必要が生じる

これらの問題から、日本老年医学会のガイドラインでは、75歳以上の高齢者に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用制限が推奨されています。また、厚生労働省は2018年度の診療報酬改定で、1年以上同一のベンゾジアゼピン系薬剤が継続処方された場合、医療機関の報酬を減額する措置を導入しました。

ベンゾジアゼピン系薬剤の減薬や中止を行う際は、急な中止を避け、徐々に減量していくことが重要です。医師の指導のもと、計画的に行うべきであり、患者自身の判断で用量を変更したり中止したりすることは危険です。

ベンゾ系薬剤の依存性と減薬に関する詳細情報

ベンゾジアゼピン系薬剤の適正使用と代替療法

ベンゾジアゼピン系薬剤の問題点が認識されるようになり、医療現場では適正使用への取り組みが進んでいます。また、代替療法の検討も重要視されるようになってきました。

適正使用のガイドライン

  1. 短期間の使用を原則とする:2〜4週間を目安に
  2. 最小有効量を使用する:必要最小限の用量から開始
  3. 高齢者への処方は特に慎重に:低用量から開始し、作用時間の短い薬剤を選択
  4. 定期的な評価と見直し:効果と副作用を定期的に評価し、継続の必要性を検討
  5. 漫然とした長期処方を避ける:長期使用が必要な場合は定期的な休薬期間を設ける

不安・不眠に対する非薬物療法

  1. 認知行動療法:不安や不眠の原因となる考え方や行動パターンを修正する心理療法
  2. 睡眠衛生指導:規則正しい生活リズム、寝室環境の整備、カフェインやアルコールの制限など
  3. リラクセーション技法:呼吸法、筋弛緩法、瞑想など
  4. 運動療法:適度な運動は不安軽減と睡眠の質向上に効果的
  5. 光療法:朝の光浴は体内時計の調整に役立つ

代替薬物療法の選択肢

ベンゾジアゼピン系薬剤の代わりに検討される薬剤には以下のようなものがあります。

医療従事者は、患者の状態や背景を総合的に評価し、ベンゾジアゼピン系薬剤の使用が本当に必要かどうかを慎重に判断することが求められます。また、すでに長期使用している患者に対しては、急な中止を避け、徐々に減量していく計画を立てることが重要です。

患者と医療者の良好なコミュニケーションを通じて、薬物療法と非薬物療法を組み合わせた総合的なアプローチが、不安や不眠の効果的な管理につながります。

日本老年医学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」の要約