バソプレシン 投与方法と禁忌、副作用の重要性と臨床応用

バソプレシン 投与方法と禁忌、副作用

バソプレシンの基本情報
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薬理作用

抗利尿作用、平滑筋収縮作用、血管収縮作用を持つ脳下垂体後葉ホルモン剤

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主な適応

下垂体性尿崩症、腸内ガスの除去、食道静脈瘤出血の緊急処置など

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注意すべき副作用

水中毒、心不全、ショック、横紋筋融解症など重篤な副作用に注意が必要

バソプレシンの投与方法と用量調整の基本

バソプレシンは脳下垂体後葉ホルモン剤に分類され、主に抗利尿作用、平滑筋収縮作用、血管収縮作用を有する薬剤です。臨床現場では、その効能に応じて異なる投与方法と用量が設定されています。

下垂体性尿崩症に対しては、通常成人にはバソプレシンとして1回2~10単位を必要に応じて1日2~3回、皮下または筋肉内に注射します。患者の年齢や症状に応じて適宜増減することが推奨されています。

腸内ガスの除去(鼓腸、胆のう撮影の前処置、腎盂撮影の前処置)に対しては、通常成人にはバソプレシンとして5~10単位を皮下または筋肉内注射します。こちらも年齢や症状に応じた調整が必要です。

特に注目すべきは食道静脈瘤出血の緊急処置における投与方法です。この場合、通常成人にはバソプレシンとして20単位を5%ブドウ糖液など100~200mLに混和し、0.1~0.4単位/分の注入速度で持続的に静脈内注射します。この投与法では、患者の状態を綿密にモニタリングしながら投与速度を調整することが重要です。

筋肉内注射を行う際には、神経走行部位を避け、繰り返し注射する場合には同一注射部位を避けるなどの配慮が必要です。特に小児等には連用しないことが望ましいとされています。

バソプレシンの禁忌となる患者と注意すべき病態

バソプレシンの使用にあたっては、いくつかの重要な禁忌事項があります。これらを十分に理解し、患者の安全を確保することが医療従事者の責務です。

まず、本剤の成分に対してアナフィラキシーや過敏症の既往歴のある患者には投与してはなりません。アレルギー反応のリスクが高く、重篤な有害事象を引き起こす可能性があります。

冠動脈硬化症(心筋梗塞症、狭心症等)の患者にも禁忌とされています。これは、バソプレシンが心筋虚血を延長させる可能性があるためです。同様の理由から、動脈硬化に起因しない虚血性心疾患のある患者にも注意が必要です。

急速な細胞外水分の増加が危険となるような病態を持つ患者にも投与すべきではありません。具体的には、心不全、喘息、妊娠高血圧症候群、片頭痛、てんかん等がこれに該当します。これらの患者では、バソプレシンによる水中毒が病態を悪化させるおそれがあります。

血中窒素貯留のある慢性腎炎の患者も禁忌とされています。バソプレシンは水分貯留を引き起こすことにより、血中窒素の排泄を抑制し、腎機能をさらに悪化させる可能性があるためです。

また、高血圧を伴う循環器疾患のある患者や、動脈硬化性疾患のある患者にも慎重な投与が求められます。バソプレシンは全身の血管を収縮させ、血圧を上昇させる作用があるため、これらの患者では症状を悪化させるリスクがあります。

妊婦または妊娠している可能性のある女性に対しては、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すべきです。バソプレシンは子宮収縮を引き起こす可能性があり、胎児への影響が懸念されます。

高齢者に対しては、一般に生理機能が低下していることが多いため、患者の状態を注意深く観察しながら慎重に投与する必要があります。

バソプレシンの重大な副作用と対処法

バソプレシンの投与に伴い、様々な副作用が報告されています。特に注意すべき重大な副作用について理解し、適切な対処法を知ることは臨床現場で常に重要です。

最も警戒すべき重大な副作用の一つがショックです。発現頻度は明確ではありませんが、発生した場合は直ちに投与を中止し、適切な救急処置を行う必要があります。アナフィラキシー反応の可能性も考慮し、気道確保、酸素投与、エピネフリン投与などの対応を迅速に行うことが求められます。

横紋筋融解症も重大な副作用として報告されています。筋肉痛、脱力感、CK(クレアチンキナーゼ)の上昇、血中および尿中ミオグロビンの上昇を特徴とし、急激な腎機能悪化を伴うことがあります。これらの症状が認められた場合は、直ちに投与を中止し、十分な水分補給と腎機能のモニタリングを行うことが重要です。

心不全や心拍動停止といった循環器系の重篤な副作用も報告されています。バソプレシンは血管収縮作用を持つため、心臓への負荷が増大し、特に心機能が低下している患者では心不全を誘発する可能性があります。投与中は心電図モニタリングや血圧測定を頻回に行い、異常が認められた場合は減量や投与中止を検討すべきです。

水中毒も重要な副作用の一つです。バソプレシンの抗利尿作用により、過剰な水分貯留が起こり、低ナトリウム血症を引き起こすことがあります。初期症状として体重の急速な増加、頭痛、脱力感、眠気などが現れます。水中毒が疑われる場合は投与を中止し、水分摂取を制限する必要があります。

重篤な低ナトリウム血症に関連して、中枢性神経障害(中心性橋脱髄症)も報告されています。これは不可逆性の神経障害であり、バソプレシンの投与を急に中止するとナトリウム値が急速に上昇し、発症リスクが高まります。そのため、投与中止の際は徐々に減量し、ナトリウム値を緩徐に上昇させるなど、補正速度に十分注意することが重要です。

その他にも、精神錯乱、昏睡、無尿、心室頻拍(torsades de pointesを含む)などの重篤な副作用が報告されています。いずれの場合も、早期発見と適切な対応が予後改善のカギとなります。

バソプレシンの敗血症性ショックにおける新たな投与法

敗血症性ショックの治療において、バソプレシンは従来ノルアドレナリンに次ぐ第二選択の昇圧剤として位置づけられてきました。しかし、近年の研究により、その投与方法に関する新たな知見が得られています。

2023年に発表された「The Vasopressin Loading for Refractory septic shock (VALOR) study」は、難治性敗血症性ショックに対するバソプレシンのローディング(負荷投与)の効果を評価した前向き観察研究です。この研究では、通常の持続投与に先立ち、1単位のバソプレシンを負荷投与することで、より迅速な昇圧効果が得られるかどうかを検証しました。

研究結果によると、バソプレシン負荷投与後の平均動脈圧(MAP)の変化が22mmHg以上の患者(レスポンダー)では、その後の持続投与においても良好な反応が得られることが示されました。具体的には、バソプレシン投与開始6時間時点のカテコラミン指数(CAI)の減少が、レスポンダー群で有意に大きかったのです。

この研究の意義は、バソプレシン負荷投与が、その後の持続投与に対する反応性を予測するマーカーとなり得ることを示した点にあります。敗血症性ショックでは迅速な対応が求められるため、早期に効果的な昇圧戦略を選択できることは臨床的に非常に重要です。

ただし、この研究にはいくつかの限界もあります。参加人数が当初予定の100人に対して92人であったこと、閾値の設定が後方視的に行われたことなどから、外的妥当性の検証が今後必要とされています。また、バソプレシン投与前の変数を用いた予測式の開発も今後の課題として挙げられています。

敗血症性ショックにおけるバソプレシンの使用に際しては、虚血などの副作用リスクも考慮する必要があります。特に、肝機能に異常をきたしている食道静脈瘤破裂による出血の患者では、バソプレシン投与により肝血流量がさらに減少し、不可逆性肝不全を引き起こすおそれがあることに注意が必要です。

敗血症性ショックにおけるバソプレシンのローディング投与に関する詳細な研究結果はこちら

バソプレシンの尿崩症治療における効果と副作用管理

バソプレシンは中枢性尿崩症の治療において重要な役割を果たしています。尿崩症は抗利尿ホルモン(ADH)の分泌不全や腎臓での反応性低下により、大量の希釈尿が排出される疾患です。バソプレシンはADHとして作用し、腎臓の遠位尿細管における水の再吸収を促進することで抗利尿作用を発揮します。

中枢性尿崩症に対するバソプレシンの臨床効果は高く評価されていますが、国内で実施された臨床試験によると、副作用の発現率は比較的低いことが報告されています。具体的には、55例中3例(発現率5.5%)に副作用が認められ、めまい(3.6%)、頭痛(1.8%)、嘔気(1.8%)などが主な症状でした。

臨床検査値異常としては、血中ナトリウム減少(3.6%)、AST上昇(1.8%)、ALT上昇(1.8%)、WBC増加(1.8%)、血中クロール減少(1.8%)、トリグリセライド上昇(1.8%)などが報告されています。これらの異常は定期的な検査によって早期に発見し、適切に対処することが重要です。

尿崩症治療においてバソプレシンを使用する際の最大の懸念は水中毒です。バソプレシンの抗利尿作用と過剰な水分摂取が組み合わさると、脳浮腫、昏睡、痙攣などを伴う重篤な水中毒を引き起こす可能性があります。そのため、患者への水分摂取に関する適切な指導が不可欠です。

また、小児の夜尿症に対するバソプレシン製剤の使用も行われていますが、この場合の副作用プロファイルは成人とやや異なります。国内臨床試験では315例中31例(9.8%)に副作用が認められ、頭痛(1.3%)、食欲不振(1.3%)、悪心(1.0%)、顔面浮腫(1.0%)などが報告されています。臨床検査値異常としては、ヘモグロビン減少(1.6%)、尿蛋白陽性化(0.6%)などが見られました。

尿崩症治療におけるバソプレシンの投与では、効果と副作用のバランスを慎重に評価することが重要です。特に長期投与が必要な場合は、定期的な臨床評価と検査値モニタリングを行い、副作用の早期発見と適切な対応を心がけるべきです。

バソプレシンの薬理作用と臨床応用の最新知見

バソプレシンは、その多様な薬理作用から様々な臨床状況で応用されています。その作用機序と最新の臨床応用について理解することは、医療従事者にとって重要です。

バソプレシンの主要な薬理作用は、抗利尿作用、平滑筋収縮作用、血管収縮作用の3つに大別されます。抗利尿作用は、腎臓の遠位尿細管における水の再吸収を促進することで発揮されます。これにより尿量が減少し、尿の濃縮が起こります。この作用は主にV2受容体を介して行われ、中枢性尿崩症の治療に応用されています。

平滑筋収縮作用は、腸管平滑筋に直接作用してこれを収縮させる効果です。この作用により、腸内ガスの除去や、胆のう撮影・腎盂撮影の前処置として用いられています。腸管運動を促進することで、検査前の腸管内ガスを減少させ、より鮮明な画像を得ることが可能になります。

血管収縮作用は、腹部内臓の細動脈を収縮させ、門脈血流を減少させる効果です。これにより一時的に門脈圧が下降するため、門脈圧亢進による食道静脈瘤出血時に止血作用を発揮します。この作用は、食道静脈瘤出血の緊急処置として重要な役割を果たしています。

最近の研究では、バソプレシンの新たな臨床応用として、心停止後の蘇生や、カテコラミン抵抗性ショックの治療における有用性が注目されています。特に、敗血症性ショックにおいては、ノルアドレナリ