播種性血管内凝固症候群 DIC と 血小板減少 出血傾向 治療戦略

播種性血管内凝固症候群 DIC の 病態と治療

播種性血管内凝固症候群(DIC)の基本
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定義と特徴

全身の血管内で無秩序な凝固反応が起こり、微小血栓形成と出血傾向が同時に生じる重篤な症候群

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主要症状

出血症状(紫斑、鼻出血、血尿など)と臓器障害が二大症状

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診断の重要性

早期診断・早期治療が生命予後を左右する重篤な病態

播種性血管内凝固症候群(DIC)は、本来出血箇所のみで生じるべき血液凝固反応が全身の血管内で無秩序に起こる重篤な病態です。日本語では「播種性血管内凝固症候群」、英語では「disseminated intravascular coagulation」と呼ばれ、その頭文字をとって「DIC」と略されます。また「汎発性血管内凝固症候群」や「消費性凝固障害」とも呼ばれることがあります。

DICは単独で発症することはほとんどなく、重症感染症や悪性腫瘍、大きな手術後などの基礎疾患に続いて二次的に発生します。早期診断と適切な治療が行われなければ、多臓器不全を引き起こし死に至ることもある危険な病態です。

播種性血管内凝固症候群 DIC の病態生理と発症メカニズム

DICの病態生理を理解することは、適切な治療戦略を立てる上で非常に重要です。DICでは、体内で血液凝固系が過剰に活性化されることで発症します。通常、組織因子が血液に曝露することで外因系凝固カスケードが始動します。

この過程で、以下のような病態が生じます。

  1. 過凝固状態の発生: 様々な原因により全身の血管内で凝固反応が過剰に活性化
  2. 微小血栓の形成: 全身の細小血管内に微小血栓が多発
  3. 凝固因子の消費: 血小板や凝固因子が過剰に消費される「消費性凝固障害」の状態に
  4. 線溶系の活性化: 微小血栓を溶解するために線溶系が活性化
  5. 出血傾向の出現: 凝固因子の枯渇と線溶亢進により出血傾向が生じる

DICの病態は一様ではなく、進行速度によって臨床像が異なります。

  • 急速進行性DIC: 数時間から数日で進行し、主に出血症状が前面に出る
  • 緩徐進行性DIC: 数週間から数ヶ月かけて進行し、主に静脈の血栓症や塞栓症状が中心

また、線溶の状態から「線溶抑制型」と「線溶亢進型」に分類されることもあります。線溶亢進型ではD-dimerが高値となり、出血症状が著明になります。

播種性血管内凝固症候群 DIC の原因疾患と危険因子

DICは様々な基礎疾患に続発して発症します。主な原因疾患としては以下が挙げられます。

三大原因疾患:

  • 敗血症(細菌、ウイルス、真菌などによる重症感染症)
  • 急性白血病(特に急性前骨髄球性白血病)
  • 固形がん(進行期の悪性腫瘍)

その他の原因疾患:

  • 外傷(特に頭部外傷、多発外傷)
  • 熱傷(広範囲の重度熱傷)
  • 産科合併症(羊水塞栓症、常位胎盤早期剥離、子宮内胎児死亡など)
  • 劇症肝炎
  • 急性膵炎
  • 毒ヘビ咬傷
  • 血管性病変(大動脈瘤、巨大血管腫など)
  • 膠原病(全身性エリテマトーデスなど)

これらの基礎疾患によってDICの発症メカニズムは若干異なります。例えば。

  • 敗血症: 単球や血管内皮からの組織因子(TF)産生やトロンボモジュリン産生低下
  • 悪性腫瘍: 腫瘍細胞が産生する組織因子(TF)が外因系凝固経路を活性化
  • 産科合併症: 胎盤組織や羊水中の組織因子が血中に流入

基礎疾患の種類によってDICの病型や進行速度、臨床像が異なるため、原因疾患の特定は治療方針の決定に重要です。

播種性血管内凝固症候群 DIC の臨床症状と診断基準

DICの臨床症状は多彩ですが、主に出血症状と臓器症状の二つに大別されます。

出血症状:

  • 皮膚・粘膜の出血(紫斑、点状出血)
  • 鼻出血、口腔内出血
  • 血尿、消化管出血
  • 手術創や穿刺部位からの持続性出血
  • 重症例では脳出血、肺出血、大量消化管出血など致命的な出血

臓器症状(微小血栓による臓器障害):

  • 腎機能障害(急性腎不全)
  • 肝機能障害
  • 呼吸不全(急性呼吸窮迫症候群)
  • 中枢神経症状(意識障害、痙攣など)
  • 循環不全(ショック)

DICの診断は、基礎疾患の存在と特徴的な検査所見に基づいて行われます。日本では厚生労働省DIC診断基準や日本血栓止血学会のDIC診断基準が広く用いられています。

主な検査所見:

  • 血小板減少(15万/μL未満、または急速な減少)
  • FDP(フィブリン/フィブリノゲン分解産物)上昇
  • D-dimer上昇
  • PT(プロトロンビン時間)延長
  • APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)延長
  • フィブリノゲン低下(150mg/dL未満)
  • AT-III(アンチトロンビンIII)低下
  • TAT(トロンビン・アンチトロンビン複合体)上昇
  • PIC(プラスミン・α2プラスミンインヒビター複合体)上昇

DICの診断には、これらの検査所見を総合的に評価するスコアリングシステムが用いられます。基礎疾患の種類によって診断基準が若干異なるため、原疾患に応じた診断アプローチが必要です。

播種性血管内凝固症候群 DIC の治療戦略と血小板輸血の役割

DICの治療は、「原因疾患の治療」と「DICそのものに対する治療」の二本柱で進められます。

1. 原因疾患の治療(最優先事項):

  • 感染症:適切な抗菌薬治療、感染源のコントロール
  • 悪性腫瘍:化学療法、放射線療法など
  • 産科合併症:分娩、子宮摘出など
  • 外傷・熱傷:適切な外科的処置、全身管理

2. DICに対する特異的治療:

抗凝固療法:

  • ヘパリン療法:主に線溶抑制型DICや血栓傾向が強い場合に使用
    • 未分画ヘパリン:初回5,000単位、その後1時間あたり300~500単位の持続点滴
    • 低分子ヘパリン:出血リスクが低く、投与が簡便
  • 遺伝子組換えトロンボモジュリン(リコモジュリン®)。
    • 用量:0.06mg/kg/日、1日1回30分かけて点滴静注
    • トロンビンを捕捉し抗凝固活性を発揮、プロテインCを活性化

    補充療法:

    • 血小板輸血:血小板数が2~3万/μL未満、または活動性出血がある場合
      • 10単位/回が標準的投与量
      • 消費が激しい場合は効果が限定的なことも
    • 新鮮凍結血漿(FFP):凝固因子の補充
      • 通常10~15mL/kg/日
      • PT、APTTが著明に延長している場合に有効
    • クリオプレシピテート/フィブリノゲン製剤:フィブリノゲンが100mg/dL未満の場合
      • 特に産科DICなど急速にフィブリノゲンが低下する場合に重要

      抗線溶療法:

      • トラネキサム酸(トランサミン®):線溶亢進型DICでの使用は注意が必要
        • 血栓傾向を増悪させる可能性があり、適応を慎重に判断
        • 産科DICや白血病に伴うDICでは禁忌の場合も

        その他の支持療法:

        • AT-III製剤:AT-III活性が70%未満の場合に考慮
        • 遺伝子組換え活性化プロテインC(APC):重症敗血症に伴うDICで検討

        治療効果の判定には、臨床症状の改善とともに、血小板数、凝固・線溶系マーカーの推移を経時的に評価します。特に血小板数の回復はDIC改善の良い指標となります。

        播種性血管内凝固症候群 DIC の病型別アプローチと最新治療法

        DICは原因疾患や病態によって異なる病型を示すため、病型に応じた治療アプローチが重要です。近年、DICの病型分類と個別化治療の重要性が認識されています。

        線溶抑制型DIC(敗血症型):

        • 特徴:微小血栓形成が主体、PAI-1上昇による線溶抑制
        • 治療戦略。
          • 抗凝固療法が中心(リコモジュリン、AT-III製剤)
          • 抗線溶薬(トラネキサム酸)は禁忌
          • 血小板・FFP補充は出血リスクに応じて

          線溶亢進型DIC(白血病型、産科型):

          • 特徴:著明な出血傾向、D-dimer著増、フィブリノゲン急速低下
          • 治療戦略。
            • 凝固因子・血小板の積極的補充
            • フィブリノゲン製剤の早期投与(特に産科DIC)
            • 抗線溶薬の使用を検討(白血病型では慎重に)

            バランス型DIC(固形がん型):

            • 特徴:凝固亢進と線溶のバランスが取れている
            • 治療戦略。
              • 原疾患治療を優先
              • 抗凝固療法と補充療法をバランスよく

              最新の治療アプローチ:

              1. 遺伝子組換えトロンボモジュリン(rTM):

                日本で開発された薬剤で、抗凝固作用とともに抗炎症作用も有します。特に敗血症性DICに対する有効性が報告されており、出血リスクが低いことが特徴です。

              2. プロテアーゼ阻害薬:

                ナファモスタットメシル酸塩やガベキサートメシル酸塩などのプロテアーゼ阻害薬は、凝固系と炎症系の両方を抑制する効果があります。特に急性膵炎に伴うDICで使用されることがあります。

              3. 血液浄化療法との併用:

                重症敗血症に伴うDICでは、エンドトキシン吸着療法(PMX-DHP)や持続的血液濾過透析(CHDF)などの血液浄化療法と抗凝固療法の併用が有効なケースがあります。

              4. 個別化医療アプローチ:

                最近では、凝固・線溶バランスを評価する詳細なマーカー(TAT、PIC、PAI-1など)を用いて、患者ごとの病態に応じた治療選択が推奨されています。

              5. 新規経口抗凝固薬(DOAC)の可能性:

                慢性DIC(特に悪性腫瘍に伴う)に対して、DOACの有用性を示唆する報告も出てきています。ただし、急性期DICでの使用はエビデンスが不足しています。

              DICの治療は日進月歩であり、新たな治療法や診断アプローチが開発されています。特に日本はDIC研究の先進国であり、日本発の診断基準や治療薬が世界で注目されています。

              播種性血管内凝固症候群 DIC の予後因子と看護ケアのポイント

              DICの予後は原因疾患の重症度や治療への反応性によって大きく左右されますが、いくつかの予後不良因子が知られています。また、DIC患者の看護ケアには特有のポイントがあります。

              予後不良因子:

              • 高齢(65歳以上)
              • 多臓器不全の合併
              • 重症感染症(特にグラム陰性菌敗血症)
              • 進行がん(特に消化器がん、肺がん)
              • 診断時の血小板数が著明に低値(3万/μL未満)
              • フィブリノゲン値が著明に低値(100mg/dL未満)
              • AT-III活性の著明な低下
              • 治療開始の遅れ

              DICの致死率は原疾患にもよりますが、20~50%と報告されています。特に多臓器不全を合併した場合は予後不良です。

              看護ケアのポイント:

              1. 出血モニタリングと予防:
                • 皮膚・粘膜の出血斑の観察(特に圧迫部位)
                • 穿刺部位や創部からの出血の監視
                • 尿・便・吐物・喀痰の出血確認
                • 不要な侵襲的処置の回避
                • 転倒予防(出血リスク軽減)
              2. 臓器障害の早期発見:
                • バイタルサインの頻回測定