アリシンの効果
アリシンによる疲労回復と滋養強壮の効果
にんにくの主成分であるアリシンは、疲労回復と滋養強壮に優れた効果を発揮します。アリシンがビタミンB1と結合すると「アリチアミン」という物質が生成され、ビタミンB1分解酵素から守られるため体内に長時間留まり、吸収率も向上します。
アリチアミンは糖質からのエネルギー代謝を効率化し、ブドウ糖を速やかにエネルギーに変換することで、肉体的・精神的な疲労を効果的に回復させます。1952年に京都大学医学部の藤原元典氏がこのアリチアミンの特性を報告し、その後武田薬品工業によって製剤化されたアリナミン錠は、従来のビタミンB1剤にない優れた効果を示しました。
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運動による筋肉疲労に対しても、アリシンを14日間摂取することで筋肉疲労の指標であるクレアチンキナーゼやIL-6の増加が抑制され、筋肉の総抗酸化力が向上することが確認されています。スポーツ選手やハードワーカーの間で注目される理由は、このような科学的根拠に基づいています。
参考)アリシン
アリシンの抗菌作用と免疫力向上効果
アリシンは強力な抗菌・抗ウイルス作用を持ち、古くから天然の抗生物質として利用されてきました。にんにくに含まれる有機硫黄化合物は、グラム陽性菌・グラム陰性菌の両方に対して殺菌効果を示し、結核菌やブドウ球菌などの危険な菌にも対抗します。
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特筆すべきは、抗生剤を長期使用することで発生する薬剤耐性菌(MDR株)に対してもアリシンが有効であるという研究結果です。アリシンは細菌の細胞膜を破壊し、バイオフィルムの形成を阻害することで、抗生物質治療における細菌の耐性を低減させる効果があります。
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免疫力向上のメカニズムとしては、アリシンがマクロファージのアポトーシス(細胞死)を阻害し、免疫細胞の活性を維持することが研究で明らかになっています。2016年のフロリダ大学の研究では、熟成にんにく抽出物を90日間摂取した健康な成人において、風邪やインフルエンザへの罹患率が低下することが確認されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3472178/
ウイルス感染に対しても、アリシンは体内の免疫細胞であるナチュラルキラー細胞を活性化させ、がん細胞やウイルス感染細胞を攻撃する能力を高めます。COVID-19パンデミック時には、にんにくの抗ウイルス作用と免疫調整作用が補助療法として注目されました。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7673072/
アリシンによる血液サラサラ効果と生活習慣病予防
アリシンは血液中の余分な脂質や老廃物を排出し、血液をサラサラにする効果があります。血液がサラサラになると、酸素や栄養素が全身に運ばれやすくなり、髪や肌の健康維持にもつながります。
加熱によってアリシンは「スルフィド類」と呼ばれる硫黄化合物に変化し、血栓の形成を防ぐ抗血栓作用を発揮します。この作用により、動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞といった重篤な心血管系疾患の予防効果が期待できます。
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高血圧患者を対象とした研究では、にんにくエキスを定期的に摂取することで血管の収縮が抑えられ、血圧が自然に低下したという結果が報告されています。血管内皮細胞に対する実験では、アリシンを10~20μM濃度で添加すると28時間後に抗酸化酵素であるグルタチオン量が8倍に増加し、血管を活性酸素から守る働きが確認されました。
血管内皮細胞に対するアリシンの抗酸化作用に関する研究論文
アリシンの抗酸化作用は活性酸素を除去し、血液中のコレステロールが酸化されて過酸化脂質が発生するのを防ぎます。これにより、糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病の予防に役立ちます。LDLコレステロール値の上昇を抑え、血流を良くすることで、代謝の活性化と冷え性の改善効果も期待できます。
参考)アリイン
アリシンの抗酸化作用とがん予防効果
アリシンは強力な抗酸化作用を持ち、体内で発生する活性酸素を除去することでがん予防に寄与します。活性酸素はストレス、紫外線、喫煙などによって増加し、過度に存在すると細胞のDNAを損傷させ、がん化の原因となります。
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にんにくに含まれるアリインという成分は、細胞が傷つけられるとアリシンに変化し、さらに「DATS(ジアリルトリスルフィド)」というがん細胞の増殖を抑える成分に分解されます。DATSは強い抗菌力を持ち、胃がんの原因となるヘリコバクター・ピロリ菌への感染予防効果が期待できます。
米国国立がん研究所が発表した「デザイナーフーズ計画」では、にんにくが最もがん予防効果の高い食品として最上位に位置づけられています。アリシンの抗酸化作用が発がん性物質の形成を妨げ、免疫機能を健全に保つことで、慢性的な炎症を抑えてがんの発生リスクを低減させるメカニズムが研究されています。
含硫アミノ酸はアリシンの分解過程で生成され、体内の有害金属や発がん物質を排出する働きも確認されています。さらに、アリシンは免疫細胞を活性化させることでがん細胞を撃退する効果もあり、多角的ながん予防作用を持つ成分として注目されています。
アリシンの摂取量と副作用への注意点
アリシンは優れた健康効果を持つ一方で、過剰摂取には注意が必要です。生のにんにくを大量に摂取すると、強い殺菌作用により腸内の善玉菌まで減少し、腸内環境が悪化して腹痛、下痢、便秘などを引き起こす可能性があります。
参考)https://www.rakuten.ne.jp/gold/pycno/special/allicin.html
アリシンの刺激が強いため、食べ過ぎると胃腸の不調、胃痛、頭痛、めまい、発汗の増加などの症状が現れることがあります。適量としては、生のにんにくの場合は1日1片、加熱した場合でも2片までが推奨されています。
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薬との相互作用にも注意が必要です。アリシンには抗凝固作用があり、血液が固まりにくくなるため出血リスクが高まります。抗凝固薬や抗血小板薬を服用している方、手術予定がある方は特に注意が必要です。また、血糖値を下げる薬と併用すると極端に血糖値が低下し、めまいや混乱、意識喪失の危険性があるため避けるべきです。
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アレルギー反応として、全身性蕁麻疹、アナフィラキシー、光アレルギー、水膨れ、ただれ、赤い発疹が確認されており、個人差によって発症することがあります。生のにんにくを皮膚に直接貼付すると化学熱傷(やけど)を引き起こす危険性があるため、民間療法として使用する際は十分な注意が必要です。
もし食べ過ぎてしまった場合は、水分をしっかり摂取して水溶性のアリシンを体外に排出しやすくすることが推奨されます。加熱調理することでアリシンは別の物質に変化するため、胃腸への刺激を和らげたい場合は十分に火を通してから摂取すると安心です。
なお、ペットを飼育している家庭では注意が必要で、犬や猫がにんにくを摂取すると溶血性貧血を引き起こす危険性があるため、ペットの手の届かない場所で保管・調理することが重要です。
にんにくの有機硫黄化合物の抗菌特性に関する包括的な研究論文(英語)