アラキドン酸カスケードをわかりやすく
アラキドン酸カスケードのPLA2と細胞膜リン脂質のわかりやすく
アラキドン酸カスケードの出発点は「アラキドン酸が細胞膜リン脂質から切り出されること」です。アラキドン酸は細胞膜リン脂質の2位に結合していて、ホスホリパーゼA2(PLA2)がそれを加水分解して遊離アラキドン酸を作ります。日本血栓止血学会の用語集でも、PLA2により脂質二重層から遊離され、その後にPGやLTへ代謝される流れとして整理されています。
ここが「炎症の蛇口」に相当します。蛇口(PLA2)が開かないと、下流のCOXも5-LOXも材料が不足して一気に動きにくくなるため、上流の制御は影響が広いのが特徴です。臨床でのイメージとしては、局所で細胞が刺激を受けて膜リン脂質が動員されると、短時間で生理活性脂質が増え、痛み・腫脹・血流変化・気道反応などが同時に立ち上がります。
参考)日本ペインクリニック学会
あまり意識されにくいポイントとして、PLA2は1種類ではありません。分泌性(sPLA2)、細胞質(cPLA2)、Ca2+非依存性などのサブファミリーがあり、アラキドン酸代謝ではcPLA2やsPLA2が重要と説明されています。つまり「同じPLA2阻害」でも、病態・組織・刺激で寄与が変わり得るため、教科書的な一直線モデルだけでなく、どの細胞・どの局所で蛇口が開いているかを考えると理解が深まります。
アラキドン酸カスケードのCOXとCOX-1とCOX-2のわかりやすく
COX(シクロオキシゲナーゼ)経路は、遊離アラキドン酸からプロスタグランジン(PG)やトロンボキサン(TX)などを作る主要ルートです。日本ペインクリニック学会の解説では、アラキドン酸は主にCOX経路・リポキシゲナーゼ経路・CYP経路で代謝され、そのうちCOX経路でPGやトロンボキサンが産生されると整理されています。
COXには少なくともCOX-1とCOX-2というサブタイプがあり、COX-1は血小板・消化管・腎臓などに常時発現して恒常性維持に関わり、COX-2は炎症などで誘導されPGE2など炎症を促進するPGを合成すると説明されています。ここがNSAIDsの「効く場所」と「副作用の場所」を分けて考える基本です。
参考)アラキドン酸カスケード | 一般社団法人 日本血栓止血学会 …
さらに、COXは単に“PGを作る酵素”ではなく、アラキドン酸をPGG2へ、さらにPGH2へ変換する反応活性(COX活性とペルオキシダーゼ活性)を併せ持つ膜結合酵素として記載されています。つまりCOX阻害は、いくつかのプロスタノイドの“入口”をまとめて狭める操作であり、結果として「痛み」「発熱」「血管」「血小板」「胃粘膜」など多方面へ波及します。
アラキドン酸カスケードのプロスタグランジンとトロンボキサンとプロスタサイクリンのわかりやすく
COX経路の産物は「プロスタノイド」として一括されますが、現場では少なくともPGE2・TXA2・PGI2(プロスタサイクリン)の3点を押さえると会話が通りやすくなります。日本ペインクリニック学会の解説では、NSAIDsはCOX阻害によりプロスタグランジン類の合成を抑制し、とくにPGE2が起炎物質・発痛増強物質であるため、PGE2の抑制が鎮痛・解熱・抗炎症作用につながると説明されています。
血栓・血管の話をわかりやすくするコツは「TXA2とPGI2の綱引き」です。日本血栓止血学会の用語集では、血小板活性化に伴うTXA2合成が血小板活性化の増幅や血管収縮に重要である一方、内皮細胞由来のPGI2は血管拡張と血小板活性化抑制を持つと整理されています。つまり、同じ“COX由来”でも、血小板側(TXA2)と内皮側(PGI2)で作用が逆向きになり得ます。
この綱引きは薬の説明にも直結します。低用量アスピリンはCOX-1阻害を通じてTXA2合成を抑えて抗血小板作用を示す、といった形で「なぜ血小板が標的になるのか」を言語化しやすくなります。さらに、COX阻害が強すぎたり選択性が偏ると、PGI2側の“ブレーキ”にも影響し得るため、単純な「炎症を止める薬」ではなく“バランスを変える薬”として捉えると、説明の質が上がります。
アラキドン酸カスケードの5-LOXとロイコトリエンのわかりやすく
LOX(リポキシゲナーゼ)経路は、アラキドン酸からロイコトリエン(LT)などを作るルートで、特に5-LOXがロイコトリエン合成に重要です。日本血栓止血学会の用語集では、LOXは酸素添加位置で分類され、ロイコトリエン合成には5-LOXが重要と明記されています。
ロイコトリエンは「炎症やアレルギーの主要メディエーター」と説明され、アラキドン酸が5-LOXによりLTA4を経てLTB4やLTC4/LTD4/LTE4(ペプチドLT)へ代謝される流れが示されています。ここを押さえると、アラキドン酸カスケードが“痛み・熱”だけではなく、“気道・アレルギー”にも直結することが腑に落ちます。
そして臨床で説明に使いやすいのが、NSAIDs過敏症(いわゆるアスピリン喘息の文脈)です。日本ペインクリニック学会は、NSAIDs過敏症はアレルギーではなく、アラキドン酸カスケードのリポキシゲナーゼ経路活性化によるロイコトリエン異常産生によるものと考えられ、COX-1阻害で誘発されると解説しています。患者説明でも「体質で、薬を飲むとロイコトリエン側が強く出やすい」という表現に置き換えると、納得感が上がります。
アラキドン酸カスケードのNSAIDsとアセトアミノフェンのわかりやすく(独自視点)
検索上位の定番は「NSAIDs=COX阻害」で終わりがちですが、医療従事者の現場では“同じ痛み止めでも説明の軸が違う”という視点が役立ちます。日本ペインクリニック学会では、NSAIDsはCOX阻害でプロスタグランジン類(特にPGE2)合成を抑えて鎮痛・解熱・抗炎症作用を発揮する一方、アセトアミノフェンはCOX阻害は弱く抗炎症作用はほとんどなく、作用機序は中枢神経でのCOX阻害が想定されるが詳細は未解明、と説明されています。
この差は、そのまま「患者に伝えるべき注意点の差」になります。NSAIDsはCOX-1も抑えうるため胃腸障害や腎障害などが問題になり得て、COX-2選択的阻害薬が開発された経緯も含めて“副作用は仕組みから起こる”と説明できます。いっぽうでアセトアミノフェンはNSAIDsに分類されず、胃腸障害や腎障害の副作用が少ない一方、肝障害には注意が必要と整理されています。つまり「どの臓器のPGを落としやすい薬か(落としにくい薬か)」という観点で、生活背景に応じた提案へつなげられます。
意外と盲点になるのが、喘息や鼻茸の既往がある患者への問いかけです。NSAIDs過敏症はCOX-1阻害とロイコトリエン異常産生が関係すると説明されているため、「以前、解熱鎮痛薬で息苦しくなったことは?」の一言を“カスケードの知識”として実装できます。知識が薬理学で止まらず、問診・薬剤選択・指導文の質に転換される点が、独自性としての価値になります。
(参考:アラキドン酸がPLA2で遊離され、COX-1/COX-2や5-LOX、PGI2/TXA2、LTまで一連で整理されている用語解説)
アラキドン酸カスケード | 一般社団法人 日本血栓止血学会 …
(参考:NSAIDs・アセトアミノフェンの作用機序、COX経路/LOX経路/CYP経路、COX-1/COX-2の位置づけ、副作用とNSAIDs過敏症の考え方)
