悪液質ステロイド治療による症状緩和効果

悪液質におけるステロイド治療効果

悪液質ステロイド治療の概要
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抗炎症作用

炎症性サイトカインの産生を抑制し、全身倦怠感を改善

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食欲増進効果

60%以上の患者で有意な食欲増加を確認

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短期効果

効果は2~6週間程度で、長期使用には副作用リスク

悪液質に対するコルチコステロイドの抗炎症機序

がん悪液質の病態において、コルチコステロイドは強力な抗炎症作用を発揮することで症状緩和に寄与します 。悪液質では腫瘍から放出される液性因子や腫瘍により惹起された免疫反応と代謝変化が病態に関わることが示唆されており、これらに対してステロイドが効果的に作用します 。

参考)がん悪液質には集学的な治療が必要【がん身体症状の緩和ケア】 …

炎症性サイトカインの放出を抑制し、炎症反応を減少させることで、がん悪液質の全身倦怠感や食欲不振といった症状を改善させます 。特にIL-6、TNF-α、IL-1などの炎症性サイトカインの産生を抑制し、リンパ球への抗原提示能障害により液性及び細胞性免疫に影響を与えることで、悪液質の進行を抑制する効果が期待されます 。

参考)https://www.gifu-upharm.jp/di/mdoc/pinsert/2g/p1772142312.pdf

局所におけるサイトカインの産生を抑制することで、がん悪液質症候群に伴う全身倦怠感や食欲不振を改善する作用機序が明らかになっています 。この抗炎症作用により、悪液質患者の生活の質(QOL)向上に寄与することができます。

参考)公益社団法人 福岡県薬剤師会 |質疑応答

悪液質患者における食欲不振改善効果の臨床データ

悪液質に対するステロイド治療では、60%以上の患者で有意な食欲増加作用が確認されています 。プレドニゾロンベタメタゾンなどのコルチコステロイドは、欧米で多用されるプロゲステロン製剤とともに、悪液質患者の食欲不振に対し用いられ、体重やQOLの維持に良い結果が得られています 。

参考)C.倦怠感・食思不振

進行がん患者84名を対象とした比較試験では、デキサメタゾン8mgとプラセボを14日間内服する試験が行われ、デキサメタゾン群では15日目の倦怠感の尺度が有意に改善したことが報告されています 。この結果は、ステロイドの悪液質に対する確実な治療効果を示す重要な臨床エビデンスです。
ただし、コルチコステロイドでは食欲が増進して健康感が改善する場合がありますが、体重はほとんど増加しないという特徴があります 。これは悪液質の根本的な代謝異常を完全には改善できないことを示しており、集学的なアプローチの重要性を示しています。

参考)がんにおける悪液質 – 11. 血液学および腫瘍学 – MS…

悪液質ステロイド療法の投与方法と用量設定

悪液質に対するベタメタゾンの標準的な投与方法として、2~4mg朝1回で開始し、有効であれば効果を維持できる投与量まで減量するプロトコルが推奨されています 。無効な場合は4mgまで増量し、それでも無効であれば中止することが適切とされています。
代替的なアプローチとして、ベタメタゾン0.5~1mgで開始し、有効な投与量まで4mgまで漸増する方法も採用されています 。この方法は副作用のリスクを最小限に抑えながら、適切な治療効果を得ることを目的としています。
デキサメタゾンの場合、8mg/日の投与が一般的に用いられ、2週間程度の短期投与で症状改善効果を期待できます 。ベタメタゾンに関しては漸減法として4~8mg/日を3~5日間投与し、効果が維持できる最小量に調整する方法も報告されています 。

参考)https://www.hosp.u-toyama.ac.jp/oncology/deta/carebook/book/pageindices/index72.html

悪液質末期患者における不応性悪液質への適応

不応性悪液質の段階に進行した患者において、ステロイドは特に有効な治療選択肢となります 。悪液質が進行して不応性悪液質になると、グレリン様作用薬(アナモレリン)では効果が出なくなりますが、この時期の倦怠感に対してステロイドが効果的に作用します。

参考)ステロイドを超有効に使うための4つの大切なポイント【がんの倦…

不応性悪液質の特徴として、悪液質の症状に加えて異化亢進を示し、抗がん治療に抵抗性を示す状態があり、パフォーマンスステータス(PS)不良(WHO基準でPS 3または4)で予測生存期間が3ヵ月未満の患者が該当します 。この段階では緩和的治療が主体となり、ステロイドは症状緩和における重要な選択肢です。

参考)http://jascc.jp/wp/wp-content/uploads/2019/03/cachexia_handbook-4.pdf

終末期の倦怠感を訴える患者にステロイドを積極的に使用することで、多くの患者は倦怠感が解消し、元気を取り戻すことができます 。たとえ終末期であったとしても、自分に残された課題や、やり残したことを実行する機会を提供できる点で、ステロイド療法の価値は非常に高いと評価されています。

悪液質ステロイド治療における副作用管理と注意点

悪液質に対するステロイド治療では、効果は短期効果で2~6週間しか持続しない特徴があります 。1カ月以上の投与になる場合、消化性潰瘍、血糖異常、ムーンフェイス、精神症状(不眠、せん妄抑うつ)、カンジダ性口内炎、結核などのステロイドによる合併症を生じるリスクが上昇します。
長期使用による副作用として、筋減少、感染症のリスクが報告されており、除脂肪体重は増えないという課題も明らかになっています 。これらの理由から、予測される予後が1~2か月と限られていて、長期使用による副作用を許容できる場合にのみステロイドが選択肢となります 。
終末期患者においては、残された時間がそれほど多くないため、長期間の投与になることは少なく、副作用も限定的となります 。血糖値が上昇した場合には適切な対応を行いますが、厳密なコントロールは必要なく、高血糖で昏睡に陥らない程度の管理で十分とされています。浮腫の原因となるミネラルコルチコイド作用が少ないベタメタゾンやデキサメタゾンが臨床的に選択される理由もここにあります 。