DPP4阻害薬一覧と特徴・作用機序・副作用解説

DPP4阻害薬一覧

DPP4阻害薬の基本情報
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9種類の薬剤

シタグリプチンからオマリグリプチンまで豊富な選択肢

低血糖リスク低

単独使用では低血糖を起こしにくい特徴

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週1回製剤も

ザファテックやマリゼブは週1回投与で利便性向上

DPP4阻害薬一覧と薬価比較

DPP4阻害薬は現在9種類が臨床使用されており、それぞれ異なる特徴と薬価を持っています。以下に主要な薬剤を薬価順に整理します。

日常的に使用される薬剤:

  • シタグリプチン(ジャヌビア・グラクティブ):12.5mg 36.7~37.7円、100mg 119.5~123.8円
  • ビルダグリプチン(エクア):50mg 42.7円(先発品)、18.4円(後発品)
  • アログリプチン(ネシーナ):25mg 156.7円、12.5mg 84円、6.25mg 45.3円
  • リナグリプチン(トラゼンタ):5mg 118.9円
  • テネリグリプチン(テネリア):20mg 98.3円、40mg 147.3円
  • アナグリプチン(スイニー):100mg 33円
  • サキサグリプチン(オングリザ):2.5mg 48.2円、5mg 71.8円

週1回製剤:

  • トレラグリプチン(ザファテック):100mg 806.9円、50mg 420.7円、25mg 226円
  • オマリグリプチン(マリゼブ):25mg 576円、12.5mg 308.5円

ビルダグリプチンは後発品が多数発売されており、先発品の約半額で使用可能です。経済的負担を考慮する場合、ジェネリック医薬品の選択も重要な要素となります。

DPP4阻害薬の作用機序と生理学的背景

DPP4阻害薬の作用機序を理解するには、インクレチンシステムの生理学的役割を把握することが重要です。

インクレチンの分泌と機能:

食事摂取時に十二指腸や小腸のK細胞からGIP(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)、L細胞からGLP-1(glucagon-like peptide-1)が分泌されます。これらのインクレチンホルモンは以下の作用を示します。

  • 血糖値依存性のインスリン分泌促進
  • 高血糖時のグルカゴン分泌抑制(主にGLP-1)
  • 胃内容物の排出遅延
  • 中枢神経系での満腹感促進

DPP4酵素の阻害作用:

通常、インクレチンはDPP4酵素により数分で分解されてしまいます。DPP4阻害薬はこの酵素活性を阻害することで、内因性インクレチンの血中濃度を2~3倍に上昇させ、生理学的な血糖調節機能を強化します。

この作用機序により、DPP4阻害薬は血糖値が正常範囲にある場合は作用を示さず、高血糖時のみ効果を発揮する「血糖値依存性」の特徴を持ちます。

DPP4阻害薬の副作用と安全性プロファイル

DPP4阻害薬は比較的安全性の高い薬剤群ですが、重要な副作用として急性膵炎が報告されています。

主要な副作用:

  • 急性膵炎(頻度不明):持続的な激しい腹痛、嘔吐が特徴的症状
  • 上気道感染(5~10%程度)
  • 消化器症状:便秘、下痢、悪心
  • 皮膚症状:発疹、かゆみ

重大な副作用の管理:

急性膵炎については薬剤情報提供文書(薬情)への記載が義務付けられており、記載がない場合は薬学管理料の返還対象となることがあります。患者には以下の症状が現れた場合の受診を指導する必要があります。

  • 激しい腹痛(特に背部への放散痛)
  • 持続する嘔吐
  • 発熱

併用時の注意点:

単独使用では低血糖リスクは低いものの、スルホニル尿素薬、グリニド薬、インスリン製剤との併用時は低血糖リスクが増加します。特にスルホニル尿素薬との併用では、インクレチンがインスリン分泌作用を増強するため、低血糖の発現に注意が必要です。

DPP4阻害薬の併用療法と適応

DPP4阻害薬はGLP-1受容体作動薬以外のすべての血糖降下薬およびインスリンとの併用が可能です。

推奨される併用パターン:

  • ビグアナイド薬(メトホルミン)との併用:第一選択の組み合わせ
  • SGLT2阻害薬との併用:相補的な作用機序で効果的
  • スルホニル尿素薬との併用:低血糖リスクに注意が必要
  • チアゾリジン薬との併用:体重増加に注意

臨床での使用実態:

2012年の研究では、スルホニル尿素薬やビグアナイド薬との併用が多く報告されています。近年は特にSGLT2阻害薬との併用が注目されており、作用機序の違いから相乗効果が期待されています。

投与タイミングの特徴:

  • 食事と関係なく投与可能
  • 1日1~2回投与が主流
  • 週1回製剤は服薬コンプライアンス向上に有効

基本的に絶食時は内服を中止することが推奨されており、病棟での管理では食事摂取状況の確認が重要です。

DPP4阻害薬の腎機能別使い分けと個別化医療

DPP4阻害薬の選択において、腎機能は重要な判断要素となります。各薬剤の腎排泄率と減量基準を理解することで、より安全で効果的な薬物療法が可能になります。

腎機能正常時の第一選択:

  • リナグリプチン(トラゼンタ):腎排泄率が最も低く、腎機能低下時も減量不要
  • テネリグリプチン(テネリア):肝代謝主体で腎機能への影響が少ない

腎機能低下時の減量が必要な薬剤:

  • シタグリプチン:eGFR 30-50で50%減量、30未満で75%減量
  • アログリプチン:eGFR 30-50で半量、30未満で1/4量
  • サキサグリプチン:eGFR 45未満で半量

高齢者での使用上の注意:

高齢者では腎機能の生理的低下により、薬物動態が変化しやすくなります。特に以下の点に注意が必要です。

  • 定期的な腎機能モニタリング
  • 他剤との相互作用の確認
  • 脱水状態での使用回避
  • 造影剤使用時の一時中止検討

個別化医療の観点:

患者の腎機能、肝機能、併存疾患、服薬コンプライアンス、経済状況を総合的に評価し、最適なDPP4阻害薬を選択することが重要です。特に週1回製剤は服薬回数の軽減により、患者のQOL向上に寄与する可能性があります。

また、薬価の観点からも、先発品と後発品の選択肢がある場合は、患者の経済的負担を考慮した処方が求められます。ビルダグリプチンのように後発品が豊富な薬剤では、コストパフォーマンスの向上が期待できます。