CKDと腎不全の関係から見る早期発見と治療の重要性

CKDと腎機能低下の進行過程と最新治療法

CKDの基本情報
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定義

腎機能低下や腎障害が3カ月以上続く状態(GFR60ml/分/1.73㎡未満またはたんぱく尿などの腎障害所見)

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患者数

日本では成人の約8人に1人(約1,330万人)が罹患している国民病

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特徴

初期は無症状で気づきにくく、進行すると透析や移植が必要な末期腎不全に至る

慢性腎臓病CKD)は、英語の「Chronic Kidney Disease」の頭文字を取った略称で、腎機能の低下が3カ月以上続く状態を指します。日本では成人の約8人に1人がCKDに該当するとされ、新たな国民病とも言われています。CKDは初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに進行してしまうことが大きな問題です。

CKDの診断基準は、①尿検査や血液検査で腎障害が明らかである(特にたんぱく尿の存在)、②糸球体ろ過量(GFR)が60ml/分/1.73㎡未満である、のいずれか、または両方が3カ月以上持続する場合とされています。

2024年には「CKD診療ガイド」が12年ぶりに改訂され、新薬の登場や治療アプローチの進化により、CKD診療は大きく変化しています。特に、かかりつけ医と腎臓専門医の連携による「二人主治医制」の重要性が強調されるようになりました。

CKDの進行段階と腎不全への道筋

CKDの進行は、腎機能の指標であるeGFR(推算糸球体ろ過量)の値によってステージ分類されます。健康な人のeGFRは約100ml/分/1.73㎡ですが、この値が低いほど腎機能が低下していることを示します。

CKDの進行段階。

  • ステージG1:eGFR ≧ 90(正常または高値)
  • ステージG2:eGFR 60-89(軽度低下)
  • ステージG3a:eGFR 45-59(軽度~中等度低下)
  • ステージG3b:eGFR 30-44(中等度~高度低下)
  • ステージG4:eGFR 15-29(高度低下)
  • ステージG5:eGFR < 15(末期腎不全)

CKDが進行すると、最終的には透析療法や腎移植が必要な末期腎不全に至ります。特に注意すべきは、ステージG3b以降は腎機能低下の速度が加速する傾向があることです。このため、早期発見・早期治療が非常に重要となります。

進行したCKDでは、以下のような症状が現れることがあります。

  • 夜間頻尿の増加
  • 立ちくらみや貧血
  • 全身の倦怠感
  • 手足のむくみ(浮腫)
  • 息切れ

これらの症状が現れた時点では、すでにCKDがかなり進行している可能性が高いため、定期的な健康診断での早期発見が重要です。

CKDの原因疾患と糖尿病性腎症の特徴

CKDの主な原因疾患には、糖尿病、高血圧、慢性糸球体腎炎、多発性嚢胞腎などがあります。特に糖尿病は、1998年以降、透析導入の原因疾患の第一位となっています。

糖尿病性腎症の進行過程は以下のように特徴づけられます。

  1. 初期段階:高血糖状態が続くと腎臓の糸球体に負担がかかります
  2. 微量アルブミン尿期:尿中に微量のアルブミン(たんぱく質)が漏れ出します
  3. 顕性たんぱく尿期:たんぱく尿が増加し、腎機能が低下し始めます
  4. 腎不全期:腎機能が著しく低下し、むくみや息切れなどの症状が現れます
  5. 透析療法期:腎機能が末期まで低下し、透析が必要になります

糖尿病性腎症は、血糖コントロールと血圧管理を適切に行うことで進行を遅らせることができます。特に早期の段階では、生活習慣の改善や適切な薬物療法により、腎機能の低下を抑えることが可能です。

高血圧が長期間続くと発症する「腎硬化症」も重要なCKDの原因です。腎硬化症では、尿検査で異常が見られないことがあり、血液検査で初めて発見されることもあります。

CKDの診断に用いる検査と腎機能評価法

CKDの診断には、主に以下の検査が用いられます。

  1. 尿検査
    • たんぱく尿の有無と程度
    • 尿潜血(血尿)の有無
    • アルブミン/クレアチニン比(ACR)
  2. 血液検査
    • 血清クレアチニン値:腎機能の指標で、高値であるほど腎機能低下を示します
    • eGFR(推算糸球体ろ過量):血清クレアチニン、年齢、性別から算出される腎機能の指標
    • 血清尿素窒素(BUN):腎機能低下で上昇します
    • 電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウム、リン等)
  3. 画像検査
    • 腹部超音波検査:腎臓の大きさや形状を評価
    • CT検査:腎臓の詳細な構造を確認
    • MRI検査:腎血管や腎実質の評価に有用
  4. 腎生検
    • 原因不明の腎機能低下や特定の腎炎の診断に必要な場合に実施

CKDの重症度は、eGFRとたんぱく尿の程度によって総合的に評価されます。例えば、同じeGFRでもたんぱく尿が多い患者さんは、腎機能低下の進行リスクが高いとされています。

最近の研究では、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)やα-Klothoなどのバイオマーカーが、CKDの進行予測や骨折リスクの評価に有用である可能性が示されています。2022年の研究では、これらのバイオマーカーとCKD患者の骨折リスクとの関連が報告されています。

CKDの最新治療アプローチとチーム医療の重要性

CKDの治療は、原因疾患の管理、生活習慣の改善、薬物療法など多岐にわたります。2024年に改訂された「CKD診療ガイド」では、以下のような治療アプローチが重視されています。

  1. 原因疾患の治療
    • 糖尿病:血糖コントロール(HbA1c 7.0%未満を目標)
    • 高血圧:適切な降圧療法(たんぱく尿がある場合は130/80mmHg未満、ない場合は140/90mmHg未満を目標)
    • 慢性糸球体腎炎:免疫抑制療法など
  2. 生活習慣の改善
    • 減塩(6g/日未満)
    • 適正体重の維持
    • 禁煙
    • 適度な運動
    • アルコール摂取の制限
  3. 薬物療法

最近の臨床試験では、SGLT2阻害薬がCKDの進行を抑制する効果が示され、糖尿病の有無にかかわらずCKD治療の選択肢として注目されています。

また、「CKD診療ガイド2024」では、かかりつけ医と腎臓専門医の連携による「二人主治医制」の重要性が強調されています。CKDの早期発見はかかりつけ医が担い、進行した場合や複雑な病態の場合は腎臓専門医と連携して治療を行うことで、より効果的なCKD管理が可能になります。

CKDと急性腎障害(AKI)の関連性と予防戦略

急性腎障害(AKI)とCKDは密接に関連しています。AKIを経験した患者は、その後CKDに進展するリスクが高まることが知られています。2021年の研究では、腎虚血後のAKIからCKDへの移行過程において、VEGF(血管内皮増殖因子)のプロモーター領域におけるDNAメチル化が重要な役割を果たしていることが報告されています。

AKIからCKDへの移行を防ぐためには、以下の予防戦略が重要です。

  1. 腎毒性のある薬剤の適正使用
    • NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の長期使用を避ける
    • 造影剤使用時の適切な水分補給
    • 腎機能に応じた薬剤投与量の調整
  2. 脱水の予防
    • 十分な水分摂取
    • 発熱や下痢・嘔吐時の水分補給
  3. 感染症の早期治療
  4. 心血管疾患の管理

AKIを経験した患者は、その後少なくとも3ヶ月間は腎機能の定期的な評価が推奨されます。特に高齢者や糖尿病、高血圧を有する患者では、AKI後のCKD発症リスクが高いため、より慎重なフォローアップが必要です。

最近の研究では、AKIからCKDへの移行過程において、腎臓の低酸素状態や酸化ストレス、炎症、線維化などの病態が関与していることが明らかになってきています。これらの病態を標的とした新たな治療法の開発が期待されています。

CKDと骨ミネラル代謝異常の関連と最新知見

CKDが進行すると、骨ミネラル代謝異常(CKD-MBD:Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder)が生じることが知られています。これは、リン・カルシウム代謝異常、副甲状腺機能亢進症、骨代謝異常、血管石灰化などを特徴とする複合的な病態です。

最近の研究では、FGF23(線維芽細胞増殖因子23)とKlothoが骨ミネラル代謝において重要な役割を果たしていることが明らかになっています。2022年の研究によれば、CKD患者においてFGF23の上昇とKlothoの低下が骨折リスクの増加と関連していることが報告されています。

CKD-MBDの管理には以下のアプローチが重要です。

  1. リン管理
    • リン制限食(CKDステージG3b以降で血清リン値上昇時)
    • リン吸着薬の適切な使用
  2. 活性型ビタミンD製剤
    • 甲状腺ホルモン(PTH)高値時に使用
    • 血清カルシウム・リン値のモニタリングが必要
  3. カルシウム受容体作動薬
    • 二次性副甲状腺機能亢進症の治療
    • 透析患者でのPTHコントロール
  4. 骨粗鬆症の評価と治療
    • 骨密度測定
    • 適切な骨粗鬆症治療薬の選択

また、2024年の研究では、血管平滑筋細胞(VSMC)におけるビタミンD受容体(VDR)がCKDに伴う血管石灰化の調節に関与していることが報告されています。この研究では、miR-145aというマイクロRNAがVDRを介した血管石灰化の制御に関与している可能性が示唆されています。

CKD患者の骨折リスクは一般人口と比較して高いため、CKD-MBDの適切な管理と骨折予防は重要な治療目標となります。特にステージG3b以降のCKD患者では、定期的な骨ミネラル代謝パラメータ(カルシウム、リン、PTH、ビタミンD)の評価が推奨されています。

CKDの治療において、代謝性アシドーシスの補正も重要です。2024年に報告されたVALOR-CKD試験では、新規の塩酸結合薬であるveverimerの効果が検討されましたが、CKD進行抑制効果は示されませんでした。しかし、代謝性アシドーシスの適切な管理はCKD進行抑制に寄与する可能性があり、今後さらなる研究が期待されています。

CKDは複雑な病態を持つ疾患であり、多面的なアプローチによる管理が必要です。最新の研究知見を取り入れながら、個々の患者に最適な治療戦略を構築することが重要です。

日本腎臓学会の診療ガイドライン – CKD診療ガイド2024の詳細情報
National Kidney Foundation – CKDに関する包括的な情報(英語)