再生医療学会横浜宣言の影響と検証型診療の未来

再生医療学会横浜宣言の革新的内容

YOKOHAMA宣言2025の核心
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検証型診療の定義

第三者レジストリへの臨床データ蓄積と検証型研究の実施を条件とした治療

⚠️

無検証診療の問題

科学的検証を伴わない未承認再生医療の明確な定義と抑制

🌐

国際的責任

科学的整合性と患者保護を重視した透明性の確保

再生医療学会による検証型診療と無検証診療の明確な区分

2025年3月19日、一般社団法人日本再生医療学会(理事長:岡野栄之)は、横浜で開催された第24回日本再生医療学会総会において、「YOKOHAMA宣言2025」を発表した。この宣言は、科学的検証を経ていない再生医療の拡散に対する国際的な懸念を受けて策定されたものである。

宣言の核心は、未承認の再生医療を以下の2つのカテゴリーに明確に区分することにある。

検証型診療(Explorative Therapy) 🔬

  • 医薬品医療機器等法(PMD Act)に基づく製造販売承認を取得していない加工細胞や核酸等を用いる治療
  • 独立した第三者レジストリに臨床データを蓄積
  • 治療前後に検証型研究(Explorative Study)を実施

無検証診療(Uninvestigated Therapy) ⚠️

  • 上記の「検証型診療」の条件を満たさない治療
  • PMD Actに基づく製造販売承認を取得していない加工細胞や核酸等を使用
  • 科学的検証が不十分な状態での提供

この分類により、日本再生医療学会は科学的に正当な治療と、十分な科学的検証を経ていない治療を明確に区別する責任を果たそうとしている。

再生医療学会の国際的な科学的厳密性への対応

国際幹細胞学会(ISSCR)が2024年12月に厚生労働大臣宛てに書簡を送付し、再生医療の審査体制改善を求めるという異例の事態が発生した。これは、日本の再生医療等安全確保法(ASRM)の下で提供される科学的検証を経ていない再生医療の拡散が国際的に問題視されたことを意味する。

この背景には、以下の具体的な問題が存在していた。

健康被害の報告事例 📋

  • 2025年3月:福岡のクリニックが無届けで再生医療を提供し、厚生労働省が法令違反で処分
  • 2024年12月:東京都内の医療機関で再生医療関連のがん治療による感染症が発生し、行政処分

自由診療での再生医療拡散 💊

  • 美容医療分野でのアンチエイジング目的の間葉系幹細胞治療
  • PRP(多血小板血漿)による治療の一般化
  • 幹細胞培養上清やエクソソーム治療の普及

日本再生医療学会は、これらの国際的な指摘を真摯に受け止め、説明責任を果たすため積極的に患者・市民および社会全体との対話を進めることを明言している。

再生医療学会による臨床試験支援サービスの強化計画

YOKOHAMA宣言2025では、日本がiPS細胞をはじめとした再生医療分野で最前線の開発国としての地位を維持するため、具体的な支援体制の強化が掲げられている。

臨床試験委員会による支援強化 🏥

  • 高度な専門性を共有知とするコンサルテーション事業の確立
  • ティッシュ・エンジニアリング分野での技術支援
  • 細胞移植技術の標準化推進
  • 組織再生補助技術の開発支援

グローバルコンセンサス形成への貢献 🌍

  • 新規医療技術のヒトへの応用に関する基準策定
  • 世界に先駆けた政策提言の実施
  • 研究成果の発信強化
  • 国際的な規制整備への積極的参加

この取り組みは、日本が2002年から政府主導で進めてきた再生医療の国家戦略の延長線上に位置づけられる。初期の18プロジェクトのうち15プロジェクトが既に臨床試験段階に進んでおり、網膜、心筋、ドーパミン産生細胞の分化・移植などで具体的な成果を上げている。

再生医療学会宣言における患者保護と透明性確保の具体策

YOKOHAMA宣言2025の最も革新的な側面は、患者保護を最優先に置いた透明性確保のメカニズムにある。これは従来の2022年のYOKOHAMA宣言から大きく進化した内容となっている。

患者との積極的対話促進 👥

  • 承認済み治療と未承認再生医療の正しい認識向上
  • 一般市民への教育プログラムの充実
  • 臨床医との連携強化による情報共有
  • リスク・ベネフィット評価の標準化

独立した第三者レジストリの活用 📊

  • 臨床データの客観的な蓄積システム
  • 治療前後の詳細な記録管理
  • 長期的な追跡調査の実施
  • データの国際共有による透明性向上

科学的整合性の担保システム 🔍

  • 検証型研究(Explorative Study)の義務化
  • エビデンスに基づく評価基準の設定
  • 規制科学とELSI(倫理的・法的・社会的課題)の重視
  • 責任ある研究・イノベーションの推進

この取り組みは、日本の再生医療分野において透明性の確保、患者保護、そして科学的整合性を担保するための実践的な指針として機能することが期待されている。

再生医療学会の産業化戦略と費用負担の新たな枠組み

YOKOHAMA宣言2025では、これまであまり言及されてこなかった再生医療の産業化と経済的持続可能性について、革新的な視点が提示されている。これは従来の学術的な議論を超えた、実用化を見据えた戦略的な内容である。

革新的な費用負担モデルの検討 💰

  • 保険適用外治療の新たな評価システム
  • 価値に基づく医療(Value-Based Healthcare)の導入
  • 患者アウトカムに連動した価格設定
  • 長期的な医療費削減効果の定量的評価

Cell & Gene Therapy Products(CGTPs)の日本発展開 🧬

  • 2022年以降、日本発のCGTPsが医薬品承認を取得
  • 政府の経済財政運営と改革の基本方針2022での重点投資項目
  • 国家的な科学技術戦略との直接連携
  • 製造業としてのCGTPs産業育成

国際競争力の維持戦略 🏆

  • iPS細胞技術での国際的リーダーシップ継続
  • ティッシュ・エンジニアリング分野での優位性確保
  • 細胞治療技術の標準化推進
  • 組織再生補助技術の商業化促進

この産業化戦略は、日本が2001年の学会設立以来蓄積してきた6,000名を超える研究者による集学的アプローチの成果を、実際の医療現場に届けるための具体的な道筋を示している。

日本再生医療学会の外務室担当者による国際連携の強化や、AMED(日本医療研究開発機構)との連携による再生医療ナショナルコンソーシアムの運営など、組織的な取り組みも本格化している。

この宣言により、日本の再生医療は新たな段階に入ったと言えるだろう。科学的厳密性と患者保護を両立させながら、国際的な信頼を回復し、同時に産業としての競争力を維持するという困難な課題に、学会として組織的に取り組む姿勢を明確に示したものとして評価される。

医療従事者にとっては、検証型診療と無検証診療の明確な区分により、患者への説明責任がより重要になると同時に、エビデンスに基づいた治療選択の重要性が一層高まることになる。この宣言を受けて、今後の再生医療の発展がどのような方向に向かうのか、医療現場での実践が注目される。

再生医療等実用化基盤整備促進事業の詳細情報

https://www.amed.go.jp/news/program/saisei250319.html

日本再生医療学会の公式発表

https://www.jsrm.jp/news/news-16112/

YOKOHAMA宣言2025の全文

https://www.jsrm.jp/cms/uploads/2025/03/01-YOKOHAMA-Declaration-2025(日・英)2.pdf