圧痕性浮腫の原因と症状診断治療法

圧痕性浮腫の病態と臨床的意義

圧痕性浮腫の基本概念
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定義と特徴

指で押すと圧痕が残る浮腫で、組織間隙への水分貯留が原因

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病態生理

膠質浸透圧低下、静水圧上昇、毛細血管透過性亢進により発症

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臨床的重要性

心疾患、腎疾患、肝疾患など重篤な疾患の早期発見に重要

圧痕性浮腫の定義と基本的特徴

圧痕性浮腫(pitting edema)は、指で圧迫した際に圧痕が残る浮腫として定義されます。この現象は、組織間隙に過剰な水分が貯留することで発生し、医療現場では重要な臨床症状の一つとして位置づけられています。

圧痕性浮腫の特徴的な所見として、脛骨前面や仙骨部、前頭部などの骨が皮下にある部位を母指で圧迫すると、指を離した後も圧痕が残存することが挙げられます。この圧痕は通常数秒から数分間持続し、徐々に元の状態に戻ります。

浮腫の評価において、圧痕性浮腫は約10秒間約5mmの深さで圧迫して回復を確認する方法が標準的です。さらに詳細な評価では、圧痕の回復時間により40秒未満のfast edemaと40秒以上のslow edemaに分類されることもあります。

圧痕性浮腫の病態生理メカニズム

圧痕性浮腫の発症メカニズムは、主に以下の3つの要因によって説明されます。

  • 膠質浸透圧の低下:血清アルブミン値の低下により、血管内の水分保持能力が減少し、組織間隙への水分移動が促進されます
  • 血漿静水圧の上昇心不全や静脈還流障害により、毛細血管内圧が上昇し、水分の血管外漏出が増加します
  • 毛細血管透過性の亢進:炎症や感染により血管壁の透過性が増加し、蛋白質とともに水分が組織間隙に移動します

これらの病態生理学的変化により、組織間隙に蓄積された水分は、圧迫により一時的に移動するため圧痕を形成し、圧迫解除後に徐々に元の位置に戻るという特徴的な現象を示します。

圧痕性浮腫の原因疾患と分類

圧痕性浮腫を引き起こす疾患は多岐にわたり、系統的な分類が重要です。

心疾患による圧痕性浮腫

  • うっ血性心不全:左心不全により肺うっ血と右心不全による体循環うっ血が生じます
  • 心房細動不整脈による心拍出量低下が浮腫の原因となります
  • 心筋梗塞:急性期の心機能低下により浮腫が出現することがあります

腎疾患による圧痕性浮腫

  • ネフローゼ症候群:大量の蛋白尿により血清アルブミン値が低下し、膠質浸透圧が減少します
  • 慢性腎不全:水分・電解質の排泄障害により体液過剰状態となります
  • 急性糸球体腎炎:炎症により糸球体濾過率が低下し、水分貯留が生じます

肝疾患による圧痕性浮腫

  • 肝硬変:アルブミン合成能の低下により膠質浸透圧が減少します
  • 急性肝炎:重篤な場合にアルブミン合成障害による浮腫が出現します

その他の原因

圧痕性浮腫の診断と評価方法

圧痕性浮腫の診断には、系統的なアプローチが必要です。まず、浮腫の分布と性状を詳細に観察することから始まります。

身体診察による評価

圧痕の確認は、脛骨前面や仙骨、前頭部などの骨が皮下にある部位で行います。約10秒間、約5mmの深さで圧迫し、指を離した後の圧痕の残存時間を観察します。圧痕が40秒未満で回復するfast edemaは低アルブミン血症を、40秒以上のslow edemaは心不全などの循環障害を示唆します。

検査による評価

圧痕性浮腫の原因究明には、以下の検査が重要です。

発症3カ月以内の圧痕性浮腫で圧痕の回復時間が40秒未満の場合、低アルブミン血症(3~2.5g/dL以下)を疑い血中アルブミンの検査を行うことが推奨されています。

圧痕性浮腫の治療アプローチと看護ケア

圧痕性浮腫の治療は、原因疾患の治療と症状の軽減を目的とした対症療法の両面から行われます。

薬物療法

非薬物療法

  • 食事療法:ナトリウム制限(心不全では2g/日以下、肝硬変やネフローゼ症候群では1g/日以下)
  • 水分制限:重篤な心不全や腎不全では1日1000-1500mLに制限
  • 体位管理:下肢挙上により静脈還流を改善

看護ケアの重要ポイント

圧痕性浮腫患者の看護では、以下の点に注意が必要です。

  • 皮膚の観察と保護:浮腫により皮膚が脆弱になるため、褥瘡や皮膚損傷の予防が重要
  • 感染予防:浮腫部位は感染リスクが高いため、清潔保持と早期発見が必要
  • 体重管理:日々の体重測定により水分バランスの評価を行う
  • 患者教育:塩分制限の重要性や症状悪化時の対応について指導

特に、浮腫患者では皮膚の張りにより知覚が鈍くなることがあるため、熱傷や外傷に対する注意喚起も重要です。また、下肢浮腫では深部静脈血栓症のリスクも考慮し、適切な運動療法や弾性ストッキングの使用も検討されます。

医療従事者として、圧痕性浮腫は単なる症状ではなく、重篤な基礎疾患の存在を示唆する重要なサインであることを認識し、系統的な評価と適切な治療介入を行うことが患者の予後改善につながります。

日本循環器学会の心不全診療ガイドラインでは、浮腫の評価と管理について詳細な指針が示されています。

心不全診療ガイドライン(日本循環器学会)

日本腎臓学会のネフローゼ症候群診療指針では、蛋白尿と浮腫の管理について具体的な治療方針が記載されています。

ネフローゼ症候群診療指針(日本腎臓学会)