ビグアナイド系薬剤一覧
ビグアナイド系メトホルミンの商品名一覧
ビグアナイド系糖尿病薬の中で最も広く使用されているメトホルミンには、多数の先発品と後発品が存在します。
先発品
- メトグルコ錠250mg・500mg(住友ファーマ):薬価10.4円/錠
- グリコラン錠250mg(日本新薬):薬価10.1円/錠
主要後発品(250mg製剤)
- メトホルミン塩酸塩錠MT「三和」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「トーワ」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「TE」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「JG」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「ニプロ」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「DSEP」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「TCK」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「日医工」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「DSPB」:10.4円/錠
- メトホルミン塩酸塩錠MT「明治」:10.4円/錠
500mg製剤も同様に多数の後発品が存在し、薬価は250mg製剤と同一の10.4円/錠となっています。
配合剤
メトホルミンを含む配合剤も多数存在します。
これらの配合剤は、DPP-4阻害薬との組み合わせにより、単剤療法では血糖コントロールが不十分な症例に使用されます。
ビグアナイド系の作用機序と特徴
ビグアナイド系薬剤は、薬用植物「ガレガソウ」の有効成分グアニジンの誘導体として開発されました。1960年代にフランスでメトホルミンが、アメリカでフェンホルミンが導入されましたが、フェンホルミンは乳酸アシドーシスの問題で1970年代に市場から姿を消しました。
主要な作用機序
ビグアナイド系薬剤にはインスリン分泌促進作用はありませんが、インスリンの存在下で血糖降下作用を発揮します。
肝臓での作用
- 糖新生の抑制(主要作用)
- 脂肪酸合成の抑制
- β酸化の促進
骨格筋・脂肪組織での作用
- GLUT4の細胞膜へのトランスロケーション促進
- ブドウ糖取り込みの増加
腸管での作用
- ブドウ糖吸収の抑制(機序不明)
分子レベルでの機序
メトホルミンはミトコンドリアのComplex Ⅰを一過性に抑制し、細胞内AMP/ATP比を上昇させます。これによりAMPキナーゼが活性化され、ATP産生を促進する異化反応が促進され、ATP消費する同化反応が抑制されます。
薬物動態
メトホルミンの血中濃度は用量依存的に上昇し、250mg投与時のCmaxは898ng/mL、500mg投与時は1,341ng/mLとなります。半減期は2.9-4.7時間で、腎機能障害者では延長します。
ビグアナイド系の副作用と乳酸アシドーシス
ビグアナイド系薬剤の副作用は消化器症状が最も頻度が高く、重篤な副作用として乳酸アシドーシスが知られています。
主要な副作用(発現頻度5%以上)
- 下痢:40.5%
- 悪心:15.4%
- 食欲不振:11.8%
- 腹痛:11.5%
- 嘔吐
これらの消化器症状は投与初期に多く見られ、多くの場合は継続投与により軽減します。750mg/日群では下痢30.8%、1,500mg/日群では48.1%と用量依存的に増加します。
その他の副作用
乳酸アシドーシスのリスクファクター
乳酸アシドーシスは稀ですが致命的な副作用です。以下の条件下で発症リスクが高まります。
メトホルミンとブホルミンを比較すると、側鎖の脂溶性が高いほど乳酸アシドーシスのリスクが高くなるため、現在はメトホルミンが第一選択として使用されています。
ビグアナイド系の手術前後注意点
ビグアナイド系薬剤は手術前後に特別な注意が必要な薬剤です。特に造影剤を使用する検査や手術では、乳酸アシドーシスのリスクが高まるため休薬が必要となります。
休薬が必要な状況
- 造影CT検査
- 尿路造影剤検査
- 飲食制限を伴う手術(小手術は除く)
休薬不要な手術
- 眼科手術(白内障手術等)
- その他の飲食制限を伴わない小手術
具体的な休薬対象薬剤
日本医学放射線学会では、以下の薬剤について造影検査前の休薬を推奨しています。
単剤
- メトグルコ錠(全規格)
- グリコラン錠
- 全てのメトホルミン後発品
- ジベトス錠、ジベトンS腸溶錠
配合剤
- イニシンク配合錠
- エクメット配合錠(LD・HD)
- メタクト配合錠(LD・HD)
- メトアナ配合錠(LD・HD)
休薬期間の目安
造影剤使用前48時間から造影剤使用後48時間までの休薬が一般的に推奨されています。ただし、患者の腎機能や全身状態を考慮して個別に判断する必要があります。
患者には造影検査の際に必ずビグアナイド系薬剤の服用を医療スタッフに申告するよう指導することが重要です。
ビグアナイド系の選択指針と将来展望
ビグアナイド系薬剤の選択においては、患者の病態、併存疾患、経済性を総合的に考慮する必要があります。
第一選択としての位置づけ
メトホルミンは肥満を伴う2型糖尿病患者の第一選択薬として推奨されています。体重増加を抑制し、場合によっては体重減少効果も期待できるためです。
薬剤選択のポイント
先発品 vs 後発品
薬価面では大きな差はなく(10.1-10.4円/錠)、生物学的同等性も確認されているため、後発品の選択も合理的です。
単剤 vs 配合剤
血糖コントロールが単剤で不十分な場合、DPP-4阻害薬との配合剤が選択肢となります。服薬コンプライアンスの向上も期待できます。
ブホルミンの位置づけ
現在は後発品のみが薬価収載されており、使用は極めて限定的です。メトホルミンで副作用が問題となる場合の代替選択肢として検討されることがあります。
新たな知見と応用
心血管保護効果
近年の研究では、メトホルミンの心血管保護効果が注目されています。糖尿病治療を超えた幅広い応用が期待されています。
癌予防効果
疫学研究において、メトホルミン使用者で特定の癌の発症リスク低下が報告されており、今後の研究が期待されています。
個別化医療への展開
薬物動態の個人差を考慮した投与設計や、遺伝子多型に基づく個別化医療の発展により、より安全で効果的な使用法が確立される可能性があります。
医療従事者は患者の全身状態を総合的に評価し、適切な薬剤選択と継続的なモニタリングを行うことで、ビグアナイド系薬剤の有効性を最大化し、副作用リスクを最小化できます。特に乳酸アシドーシスのリスクファクターを持つ患者では、慎重な観察と患者教育が不可欠です。
日本医学放射線学会による造影剤使用時のビグアナイド系薬剤休薬ガイドライン
相模原病院による手術前後のビグアナイド系糖尿病薬休薬基準