男性ホルモンの薬の一覧:医療現場での製剤選択ガイド

男性ホルモンの薬

男性ホルモン製剤の概要
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注射製剤

持続性でテストステロンエナント酸エステルが主流

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経口製剤

メチルテストステロンによる即効性製剤

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適応症

性腺機能不全から男子不妊症まで幅広い

男性ホルモンの薬の分類と効能

男性ホルモン製剤は、主にテストステロン系とその誘導体に分類されます。これらの薬剤は男子性腺機能不全(類宦官症)、造精機能障害による男子不妊症、末期女性性器癌の疼痛緩和、手術不能の乳癌などに適応があります。

テストステロンは主として精巣で産生・分泌され、男性の第二次性徴の発現と維持、雄性副性器発育肥大作用、蛋白同化作用を示します。興味深いことに、テストステロンの作用は用量によって異なり、少量では精細管に直接作用して造精機能を促進しますが、高用量では下垂体に作用して精子形成を抑制します。

主な分類。

  • テストステロンエナント酸エステル系:持続性注射製剤
  • メチルテストステロン系:経口製剤
  • 蛋白同化ステロイド:メスタノロン、メテノロン

テストステロンは体内で5α-リダクターゼによってジヒドロテストステロン(DHT)に変換され、より強力な男性ホルモン作用を発揮します。この機序は前立腺がんの治療においても重要な標的となっています。

男性ホルモンの薬の注射製剤の特徴

注射製剤の代表格はテストステロンエナント酸エステルで、テスチノンデポーとして商品化されています。125mg製剤(薬価630円)と250mg製剤(薬価1,147円)が用意されており、筋肉内注射により投与されます。

持続性男性ホルモン製剤として分類されるこれらの薬剤は、エナント酸エステル化により徐放性を実現しています。通常、2-4週間間隔での投与が行われ、血中濃度の安定した維持が可能です。

注射製剤の利点。

  • 安定した血中濃度:持続的なホルモン補充
  • コンプライアンス向上:月1-2回の投与で済む
  • 初回通過効果の回避:肝臓での代謝を避けられる

副作用として、投与部位の疼痛、発赤、硬結等の局所反応のほか、男性では陰茎肥大、持続性勃起、大量継続投与により睾丸機能抑制(睾丸萎縮・精子減少・精液減少等)が報告されています。

特に注意すべきは抗凝固剤との併用で、ワルファリンカリウム等との併用により抗凝固作用が増強することがあります。これはテストステロンが凝固因子の合成を抑制あるいは分解を促進するためと考えられています。

男性ホルモンの薬の経口製剤の特徴

経口製剤の主体はメチルテストステロンで、エネルファ錠として10mg錠が商品化されています。メチルテストステロンは17α位にメチル基を導入することで、肝臓での不活化を抑制し、経口投与でもテストステロンとほぼ同程度の男性ホルモン作用を示します。

薬物動態の特徴として、健常成人男子での単回投与試験では約1.1時間で最高血漿中濃度に達し、その後緩やかに減少します。半減期は比較的短く、日常的な服薬管理が必要となります。

用法・用量は適応症により異なります。

  • 男子性腺機能不全:通常成人1日20-50mg
  • 造精機能障害による男子不妊症:通常成人1日50mgを無精子症になるまで投与
  • 末期女性性器癌の疼痛緩和、手術不能乳癌:通常成人1日50-200mg

経口製剤の利点は即効性と用量調整の容易さですが、肝臓への負担が大きく、AST・ALTの上昇等が報告されています。また、17α-アルキル化ステロイドは肝毒性のリスクが高いため、定期的な肝機能検査が必要です。

男性ホルモンの薬の副作用と注意点

男性ホルモン製剤の副作用は性別によって大きく異なり、特に女性への投与では注意が必要です。女性では回復しがたい嗄声、多毛、ざ瘡、色素沈着、月経異常、陰核肥大、性欲亢進などの男性化症状が現れます。これらの症状は投与中止後も回復困難な場合があるため、慎重な適応判断が求められます。

男性患者でも、特に大量継続投与により睾丸機能抑制が起こります。これは下垂体-性腺軸の負のフィードバック機構により、内因性のLH、FSH分泌が抑制されるためです。

重要な相互作用として。

  • 抗凝固剤:ワルファリン等の作用増強
  • 糖尿病薬:血糖降下作用の増強可能性
  • 副腎皮質ホルモン:浮腫のリスク増加

禁忌となる患者。

  • 前立腺癌患者(男性ホルモン依存性のため)
  • 前立腺肥大による尿路閉塞患者
  • 重篤な肝機能障害患者
  • 妊娠中・授乳中の女性

興味深い点として、男性ホルモン製剤は再生不良性貧血の治療にも使用されることがあります。これは蛋白同化作用により造血機能を改善する効果があるためですが、現在では他の治療選択肢が優先されることが多くなっています。

男性ホルモンの薬の薬価と医療経済学的考察

男性ホルモン製剤の薬価には大きな差があり、治療選択に際して医療経済学的な観点も重要になります。代表的な製剤の薬価比較を見ると、エナルモンデポー筋注125mgが692円、250mgが1,297円、テスチノンデポー筋注用125mgが630円、250mgが1,147円となっています。

月あたりのコスト試算。

  • テスチノンデポー125mg月1回:約630円
  • テスチノンデポー250mg月1回:約1,147円
  • エネルファ錠10mg 1日30mg:約1,800円(月30日換算)

注射製剤は一見高価に見えますが、月単位で考えると経口製剤より経済的な場合があります。さらに、注射製剤はコンプライアンスの向上により治療効果の安定が期待でき、長期的な医療費削減につながる可能性があります。

未だに十分に認識されていない点として、男性ホルモン補充療法の適応拡大があります。近年、LOH症候群(Late-onset hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)への関心が高まっており、今後需要の増加が予想されます。

また、スポーツ医学分野では蛋白同化ステロイド(メスタノロン、メテノロン)の不適切使用が問題となっており、処方時には用途の確認と患者教育が重要です。

抗アンドロゲン剤との併用療法も注目されており、前立腺がん治療において、LH-RHアゴニストと抗アンドロゾン剤(ビカルタミド、フルタミド)の組み合わせが標準的治療となっています。これらの治療戦略により、男性ホルモン関連疾患の治療成績は大幅に改善されています。

医療現場では、患者の病態、年齢、社会的背景を総合的に判断し、最適な製剤選択を行うことが求められます。定期的な血中テストステロン濃度測定と副作用モニタリングにより、安全で効果的な治療を提供することが重要です。