ブチロフェノン系の一覧と抗精神病薬の特徴

ブチロフェノン系抗精神病薬一覧

ブチロフェノン系抗精神病薬の概要
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代表的薬剤

ハロペリドール、ブロムペリドール、チミペロンなど8種類の薬剤が臨床で使用されています

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作用機序

ドパミンD2受容体を強力に遮断し、統合失調症の陽性症状に優れた効果を発揮します

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主な副作用

錐体外路症状、高プロラクチン血症が出現しやすく、慎重な投与量調整が必要です

ブチロフェノン系抗精神病薬の基本情報と分類

ブチロフェノン系抗精神病薬は、第一世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)に属する薬剤群です。1950年代に開発されたこれらの薬剤は、統合失索症の治療において長期にわたって中心的な役割を果たしてきました。

現在日本で使用可能なブチロフェノン系抗精神病薬は以下の通りです。

  • ハロペリドール(セレネース)- 最も代表的な薬剤
  • ブロムペリドール(インプロメン)- 強力な抗精神病作用
  • チミペロン(トロペロン)- 中等度の効力
  • ピパンペロン(プロピタン)- 比較的軽度の副作用
  • スピペロン(スピロピタン)- 研究用途でも使用
  • ドロペリドール(ドロレプタン)- 麻酔時の制吐薬としても使用

これらの薬剤は、ドパミンD2受容体に対する強い親和性を持ち、統合失調症の陽性症状(幻覚、妄想、思考の混乱)に対して優れた効果を示します。

ブチロフェノン系薬剤の商品名と薬価一覧

ブチロフェノン系抗精神病薬の詳細な薬価情報は、医療経済的な観点から重要な情報です。以下に主要な薬剤の薬価を示します。

ハロペリドール(セレネース)

  • セレネース錠0.75mg:8.2円/錠
  • セレネース錠1mg:8.2円/錠
  • セレネース錠1.5mg:9.9円/錠
  • セレネース錠3mg:10.4円/錠
  • セレネース細粒1%:30.5円/g
  • セレネース注5mg:100円/管
  • セレネース内服液0.2%:15.1円/mL

後発品(ジェネリック医薬品)

  • ハロペリドール錠0.75mg「アメル」:6.2円/錠
  • ハロペリドール錠1mg「アメル」:6.3円/錠
  • ハロペリドール錠1.5mg「アメル」:6.3円/錠
  • ハロペリドール錠2mg「アメル」:6.4円/錠
  • ハロペリドール錠3mg「アメル」:6.6円/錠

長時間作用型注射剤

  • ハロマンス注50mg:1,443円/管
  • ハロマンス注100mg:2,263円/管

その他のブチロフェノン系薬剤

  • ブロムペリドール錠1mg「アメル」:5.9円/錠
  • ブロムペリドール錠3mg「アメル」:6.7円/錠
  • ブロムペリドール錠6mg「アメル」:13.3円/錠
  • トロペロン錠0.5mg:6.1円/錠
  • トロペロン錠1mg:8.9円/錠
  • トロペロン錠3mg:24.5円/錠

後発品の使用により、薬剤費を約20-30%削減できることが注目されます。

ブチロフェノン系の副作用と安全性プロファイル

ブチロフェノン系抗精神病薬の最も重要な特徴は、その副作用プロファイルです。これらの薬剤は強力な抗精神病作用を持つ一方で、錐体外路症状のリスクが高いことが知られています。

主要な副作用

  • 錐体外路症状
  • パーキンソン症候群(振戦、筋固縮、無動)
  • アカシジア(静座不能)
  • 急性ジストニア(筋緊張異常)
  • 遅発性ジスキネジア(長期投与による不随意運動)
  • 内分泌系副作用
  • 高プロラクチン血症
  • 月経異常、乳汁分泌
  • 性機能障害
  • 骨密度低下
  • 自律神経系副作用
  • 起立性低血圧
  • 便秘
  • 口渇
  • 尿閉
  • 代謝系副作用
  • 体重増加(比較的軽度)
  • 耐糖能異常
  • 脂質代謝異常

安全性向上のための監視項目

ブチロフェノン系薬剤の投与時には、以下の項目を定期的に監視することが重要です。

  • 錐体外路症状の評価(DIEPSS、AIMS)
  • プロラクチン値の測定
  • 肝機能検査
  • 心電図検査(QT延長の監視)
  • 血糖値、HbA1c
  • 脂質プロファイル

ブチロフェノン系の作用機序とドパミン受容体への影響

ブチロフェノン系抗精神病薬の作用機序は、主にドパミンD2受容体の遮断にあります。脳内のドパミン神経系は4つの主要な経路に分類され、それぞれ異なる生理学的役割を果たしています。

ドパミン神経系の4つの経路

  • 中脳辺縁系:側坐核、扁桃体への投射
  • 統合失調症の陽性症状に関与
  • ブチロフェノン系の主要作用部位
  • 中脳皮質系:前頭葉皮質への投射
  • 統合失調症の陰性症状、認知機能に関与
  • 過度の遮断により症状悪化の可能性
  • 黒質線条体系:線条体への投射
  • 運動制御に関与
  • 遮断により錐体外路症状が出現
  • 下垂体漏斗系:下垂体への投射
  • プロラクチン分泌制御
  • 遮断により高プロラクチン血症が出現

ドパミン受容体サブタイプ

ドパミン受容体にはD1からD5まで5つのサブタイプが存在します。ブチロフェノン系薬剤は主にD2受容体に高い親和性を示し、D1、D3、D4受容体にも結合します。

薬理学的特徴

  • ハロペリドールのD2受容体に対するKi値:0.1-1.0 nM
  • クロルプロマジン換算で200倍の効力を持つ薬剤も存在
  • 血漿中半減期:12-38時間(薬剤により異なる)
  • 肝代謝(CYP2D6、CYP3A4)
  • 脳血液関門の通過性が高い

ブチロフェノン系薬剤の臨床応用と投与指針

ブチロフェノン系抗精神病薬の臨床応用は、現在でも特定の状況下で重要な役割を果たしています。非定型抗精神病薬が第一選択となった現在でも、以下のような場面での使用が推奨されています。

適応症と使用指針

  • 統合失調症
  • 急性期の陽性症状に対する迅速な効果
  • 非定型抗精神病薬が効果不十分な場合の選択肢
  • 長時間作用型注射剤による維持療法
  • 躁病・躁状態
  • 急性躁病の興奮状態制御
  • 気分安定薬との併用療法
  • せん妄
  • ICU での興奮状態管理
  • 術後せん妄の治療

投与量の考え方

従来の高用量投与から、現在では最小有効量での治療が推奨されています。

  • ハロペリドール:1-6mg/日(従来の1/3-1/2の用量)
  • ブロムペリドール:3-9mg/日
  • チミペロン:3-12mg/日

長時間作用型注射剤の活用

服薬アドヒアランスの改善と再発予防の観点から、デカン酸ハロペリドール(ハロマンス)の使用が重要です。

  • 投与間隔:4週間毎
  • 初回投与量:50-100mg
  • 維持量:50-200mg/月
  • 血中濃度の安定化まで3-4ヶ月

他剤との相互作用

  • CYP2D6阻害薬(パロキセチン、フルオキセチン)との併用注意
  • CYP3A4誘導薬(カルバマゼピン、フェニトイン)による血中濃度低下
  • リチウムとの併用による神経毒性のリスク

現代的な使用戦略

近年の研究により、ブチロフェノン系薬剤の新たな使用法が注目されています。

  • マイクロドージング:0.5-2mg/日の超低用量投与
  • 間欠療法:症状に応じた頓用投与
  • 併用療法:非定型抗精神病薬との組み合わせ
  • 個別化医療:薬物代謝酵素の遺伝子多型に基づく投与量調整

治療抵抗性統合失調症での位置づけ

クロザピンが使用困難な治療抵抗性統合失調症において、ハロペリドールの高用量療法や他の非定型抗精神病薬との併用が検討されることがあります。しかし、副作用の増加に十分注意を払う必要があります。

認知機能への影響

最近の研究では、ブチロフェノン系薬剤が認知機能に与える影響について新たな知見が得られています。適切な用量での使用により、認知機能の改善が期待できる症例も報告されており、従来の「認知機能を悪化させる」という概念の見直しが進んでいます。

将来的な展望

ブチロフェノン系薬剤の研究は現在も続いており、新たな投与法や併用療法の開発が進められています。特に、デポ製剤の改良や、副作用軽減を目的とした新しい化合物の開発が注目されています。

統合失調症治療の進歩により、ブチロフェノン系薬剤の使用頻度は減少していますが、その確実な効果と豊富な臨床経験により、今後も精神科薬物療法において重要な地位を占め続けると考えられます。

医療従事者にとって、これらの薬剤の特性を理解し、適切な使用法を習得することは、質の高い精神科医療を提供するために不可欠です。