ベンゾジアゼピン系薬剤一覧
ベンゾジアゼピン系抗不安薬の種類と特徴
現在、厚生労働省で保険診療による使用が認められているベンゾジアゼピン系抗不安薬は、主要なもので16種類存在します。これらの薬剤は、GABA受容体に作用することで抗不安効果を発揮し、神経症や心身症の治療において重要な役割を果たしています。
主要なベンゾジアゼピン系抗不安薬の分類と特徴。
短時間作用型(半減期6-12時間)
中時間作用型(半減期12-24時間)
- クロルジアゼポキシド(コントール、バランス):初期に開発された薬剤
- メダゼパム(レスミット):比較的軽微な副作用
長時間作用型(半減期24時間以上)
- クロバザム(マイスタン):抗てんかん作用も併せ持つ
これらの薬剤は、半減期の違いにより使い分けがなされており、急性の不安状態には短時間作用型、持続的な抗不安効果が必要な場合には長時間作用型が選択されます。また、ベンゾジアゼピン系薬剤は活性代謝産物を生成するものがあり、薬理学的作用の持続時間を考慮した処方が重要です。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の分類と作用時間
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、その作用時間により4つのカテゴリーに分類されます。この分類は、患者の睡眠障害のタイプに応じた適切な薬剤選択を可能にします。
超短時間作用型(半減期2-5時間)
- ハルシオン(トリアゾラム):半減期2-4時間、臨床用量0.125-0.5mg
- マイスリー(ゾルピデム):半減期2時間、臨床用量5-10mg
- ルネスタ(エスゾピクロン):半減期5時間、臨床用量2-3mg
- アモバン(ゾピクロン):半減期4時間、臨床用量7.5-10mg
これらは入眠困難に対して優れた効果を示し、翌日への持ち越し効果が少ないという特徴があります。
短時間作用型(半減期6-10時間)
- デパス(エチゾラム):半減期6時間、臨床用量1-3mg
- レンドルミン(ブロチゾラム):半減期7時間、臨床用量0.25-0.5mg
- リスミー(リルマザホン):半減期10時間、臨床用量1-2mg
- エバミール・ロラメット(ロルメタゼパム):半減期10時間、臨床用量1-2mg
中途覚醒や早朝覚醒に効果的で、適度な持続時間を持ちます。
中間作用型(半減期20-30時間)
- エミリン(ニメタゼパム):半減期21時間、臨床用量3-5mg
- サイレース(フルニトラゼパム):半減期24時間、臨床用量0.5-2mg
- ユーロジン(エスタゾラム):半減期24時間、臨床用量1-4mg
- ベンザリン・ネルボン(ニトラゼパム):半減期28時間、臨床用量5-10mg
長時間作用型(半減期30時間以上)
- ダルメート(フルラゼパム):半減期65時間、臨床用量10-30mg
- ソメリン(ハロキサゾラム):半減期85時間、臨床用量5-10mg
- ドラール(クアゼパム):半減期36時間、臨床用量15-30mg
長時間作用型は、日中の不安や緊張が強い患者や、睡眠維持困難がある患者に適応されますが、翌日の眠気や認知機能への影響に注意が必要です。
ベンゾジアゼピン系薬剤の薬価と商品名
ベンゾジアゼピン系薬剤の薬価は、先発品、準先発品、後発品により大きく異なります。医療経済の観点から、適切な薬剤選択は重要な要素となっています。
ジアゼパム系薬剤の薬価比較
- セルシン錠2mg(準先発品):6.2円/錠
- セルシン錠5mg(準先発品):9.7円/錠
- ジアゼパム錠2mg「サワイ」(後発品):5.9円/錠
- ジアゼパム錠5mg「トーワ」(後発品):6円/錠
ロラゼパム系薬剤の薬価
- ワイパックス錠0.5mg(先発品):6.1円/錠
- ワイパックス錠1.0mg(先発品):6.1円/錠
- ロラゼパム錠0.5mg「サワイ」(後発品):5.3円/錠
ブロマゼパム系薬剤の薬価
- レキソタン錠1mg(先発品):5.9円/錠
- レキソタン錠2mg(先発品):6.1円/錠
- ブロマゼパム錠1mg「サンド」(後発品):5.9円/錠
注射剤についても、セルシン注射液5mg(先発品)が79円/管、ジアゼパム注射液5mg「NIG」(後発品)が120円/管となっており、後発品の方が高価な場合もあります。これは製造コストや流通量の違いによるものです。
特殊な剤型として、ダイアップ坐剤(小児用)は4mg、6mg、10mgの規格があり、それぞれ50.7円、57.3円、66.1円/個となっています。
ベンゾジアゼピン系薬剤の副作用と注意点
ベンゾジアゼピン系薬剤は有効性が高い一方で、特有の副作用や注意すべき点があります。医療従事者は、これらのリスクを十分に理解した上で処方する必要があります。
主要な副作用
- 鎮静作用:眠気、注意力・集中力の低下、反応時間の遅延
- 筋弛緩作用:筋力低下、ふらつき、転倒リスクの増加
- 健忘作用:前向性健忘、記憶障害
- 抗コリン作用:口渇、便秘、尿閉、視力障害
- 奇異反応:興奮、攻撃性、せん妄(特に高齢者)
特に注意が必要な患者群
- 高齢者:代謝能力の低下により薬剤蓄積しやすく、転倒リスクが高い
- 肝機能障害患者:肝代謝される薬剤では作用が遷延する可能性
- 呼吸器疾患患者:呼吸抑制のリスクがある
- 妊婦・授乳婦:胎児への影響や母乳移行の問題
依存性とベンゾジアゼピン離脱症候群
長期服用により身体依存や精神依存が形成される可能性があります。急激な中止により、以下の離脱症状が出現することがあります。
- 不安、焦燥感
- 不眠、悪夢
- 筋肉の痙攣、振戦
- 知覚過敏、光・音への過敏
- 重篤な場合:痙攣、せん妄
離脱症状を避けるため、長期服用後の中止は段階的な減量が必要です。一般的に、1週間ごとに25%ずつ減量することが推奨されています。
ベンゾジアゼピン系薬剤の臨床現場での選択基準
臨床現場におけるベンゾジアゼピン系薬剤の適切な選択は、患者の症状、年齢、併存疾患、薬物代謝能力などを総合的に考慮して行われます。
症状別選択指針
- 急性不安状態:短時間作用型(ロラゼパム、ジアゼパム)
- 全般性不安障害:中・長時間作用型(クロルジアゼポキシド)
- パニック障害:高力価薬剤(ロラゼパム、クロナゼパム)
- 入眠困難:超短時間作用型睡眠薬(ハルシオン、マイスリー)
- 睡眠維持困難:中・長時間作用型睡眠薬(ベンザリン、ダルメート)
年齢別考慮事項
- 若年成人:標準的な用量と作用時間で選択
- 中年期:肝機能や腎機能の評価を行い、適切な薬剤を選択
- 高齢者:低用量から開始し、短時間作用型を優先(ビアーズ基準参照)
併存疾患による選択の修正
- 肝機能障害:肝代謝を受けないロラゼパム、オキサゼパムを選択
- 腎機能障害:腎排泄される代謝産物がない薬剤を選択
- 呼吸器疾患:呼吸抑制の少ない薬剤を慎重に選択
- 認知症:せん妄のリスクを考慮し、最小必要量で処方
薬物相互作用の評価
- CYP3A4阻害薬との併用時は、ミダゾラム、トリアゾラムの血中濃度上昇に注意
- 中枢神経抑制薬との併用時は、相加的な鎮静作用に注意
- アルコールとの併用は厳禁
処方期間と用量調整
- 急性期治療:2-4週間以内の短期処方が基本
- 慢性期治療:定期的な見直しと減量の検討
- 高齢者:通常用量の1/2-1/3から開始
また、ベンゾジアゼピン系薬剤の等価用量表を活用することで、薬剤変更時の適切な用量設定が可能となります。例えば、ジアゼパム10mgはロラゼパム1mg、クロルジアゼポキシド25mgに相当します。
医療従事者は、これらの選択基準を踏まえ、個々の患者に最適な薬剤選択と安全な薬物療法の提供を心がけることが重要です。定期的なモニタリングと患者教育により、治療効果の最大化と副作用の最小化を図ることができます。