尿酸分解酵素薬と高尿酸血症治療薬の一覧
高尿酸血症は血清尿酸値が7.0mg/dLを超える状態と定義され、放置すると痛風発作や腎障害、心血管イベントなどの合併症を引き起こす可能性があります。高尿酸血症の治療には、生活習慣の改善とともに薬物療法が重要な役割を果たします。高尿酸血症治療薬は主に3つのタイプに分類され、それぞれ異なる作用機序で尿酸値を下げます。
高尿酸血症治療薬の選択は、患者さんの病型(尿酸排泄低下型、尿酸産生過剰型、混合型)や合併症の有無、腎機能などを考慮して行われます。本記事では、特に尿酸分解酵素薬に焦点を当てながら、高尿酸血症治療薬の全体像について解説します。
尿酸分解酵素薬ラスブリカーゼの特徴と適応
尿酸分解酵素薬の代表的な薬剤はラスブリカーゼ(商品名:ラスリテック)です。ラスブリカーゼは、尿酸を水溶性の高いアラントインに分解する酵素で、通常の哺乳類には存在しない酵素です。この薬剤は特に腫瘍崩壊症候群(TLS)による高尿酸血症の治療に用いられます。
腫瘍崩壊症候群とは、主に抗がん剤治療(化学療法)によって腫瘍が急激に破壊されるときに生じる副作用です。がん細胞が大量に破壊されると、細胞内に蓄積されていた核酸などの成分が血中に大量に放出され、これが代謝されて尿酸となります。急激な尿酸値の上昇は急性腎不全などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
ラスブリカーゼの主な特徴。
- 速やかに血中尿酸値を低下させる効果がある
- 静脈内投与のみで使用される
- 短期間(最大7日間)の使用が原則
- アレルギー反応や溶血性貧血などの副作用に注意が必要
- 主に造血器腫瘍患者の化学療法前後に使用される
ラスブリカーゼは、日本では「がんに対する薬剤治療に伴う高尿酸血症」に対して承認されており、腫瘍崩壊症候群のリスクが高い患者さんに対して予防的に投与されることもあります。
尿酸分解酵素薬と他の高尿酸血症治療薬の比較
高尿酸血症治療薬は作用機序によって大きく3つのタイプに分類されます。それぞれの特徴を比較してみましょう。
【尿酸生成抑制薬】
- 作用機序:体内で尿酸を作る酵素(キサンチンオキシダーゼ)の働きを抑制
- 代表的な薬剤。
- アロプリノール(ザイロリック、サロベール、アノプロリンなど)
- フェブキソスタット(フェブリク)
- トピロキソスタット(ウリアデック、トピロリック)
- 適応:尿酸産生過剰型(腎負荷型)の高尿酸血症、尿路結石がある患者、腎機能障害がある患者
- 特徴:腎臓への負担が少なく、尿路結石のリスクが低い
【尿酸排泄促進薬】
- 作用機序:腎臓での尿酸再吸収を抑制し、尿中への排泄を促進
- 代表的な薬剤。
- ベンズブロマロン(ユリノーム)
- プロベネシド(ベネシッド)
- ドチヌラド(ユリス)
- 適応:尿酸排泄低下型の高尿酸血症
- 特徴:尿路結石のリスクがあるため、水分摂取や尿アルカリ化薬の併用が必要な場合がある
【尿酸分解酵素薬】
- 作用機序:尿酸を直接分解して水溶性の高いアラントインに変換
- 代表的な薬剤:ラスブリカーゼ(ラスリテック)
- 適応:腫瘍崩壊症候群による高尿酸血症
- 特徴:速効性があり、急激な尿酸値上昇に対応できる。短期間の使用が原則
これらの薬剤は、患者さんの病態や合併症の有無によって使い分けられます。通常の高尿酸血症や痛風の治療には尿酸生成抑制薬や尿酸排泄促進薬が用いられ、尿酸分解酵素薬は主に腫瘍崩壊症候群などの緊急性の高い状況で使用されます。
尿酸分解酵素薬の作用機序と臨床効果
尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼは、ウリカーゼ(尿酸オキシダーゼ)という酵素の遺伝子組換え体です。この酵素は、尿酸を酸化してアラントインに変換します。アラントインは尿酸よりも水溶性が高く、腎臓から排泄されやすい性質を持っています。
ヒトを含む霊長類では進化の過程でウリカーゼの遺伝子が失われているため、体内で尿酸をアラントインに変換することができません。そのため、他の哺乳類と比較して血中尿酸値が高くなりやすい傾向があります。ラスブリカーゼは、この失われた酵素を補うことで、尿酸値を急速に低下させる効果があります。
ラスブリカーゼの臨床効果。
- 投与後4時間以内に血中尿酸値が大幅に低下する
- 単回投与でも効果が数日間持続する
- 腎機能障害がある患者でも効果的に使用できる
- 従来の高尿酸血症治療薬で効果不十分な場合にも有効
臨床試験では、腫瘍崩壊症候群のリスクが高い患者に対するラスブリカーゼの予防投与により、高尿酸血症の発症率が有意に低下し、腎機能障害のリスクも減少することが示されています。
ラスブリカーゼは通常、0.2mg/kgを1日1回、30分以上かけて点滴静注します。投与期間は最大7日間とされていますが、多くの場合は1〜3日間の投与で十分な効果が得られます。
腫瘍崩壊症候群における尿酸分解酵素薬の重要性
腫瘍崩壊症候群(TLS)は、主に化学療法や放射線療法によってがん細胞が急速に破壊されることで生じる代謝異常の総称です。特に白血病やリンパ腫などの造血器腫瘍患者で発症リスクが高いとされています。
TLSでは、がん細胞の崩壊により大量の核酸が放出され、これが代謝されて尿酸となります。急激な尿酸値の上昇は、腎臓の尿細管で結晶を形成し、尿細管閉塞や急性腎障害を引き起こす可能性があります。また、高カリウム血症、高リン血症、低カルシウム血症などの電解質異常も同時に生じることが多く、これらが複合的に作用して生命を脅かす危険性があります。
TLSのリスク因子。
- 腫瘍量が多い(特に白血病やリンパ腫)
- 腫瘍の増殖速度が速い
- 化学療法に対する感受性が高い
- 既存の腎機能障害がある
- 脱水状態
- 治療前の尿酸値、LDH値が高い
TLSの予防と治療において、尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼは極めて重要な役割を果たします。従来の高尿酸血症治療薬(アロプリノールなど)は尿酸の生成を抑制するのみで、既に生成された尿酸を減少させる効果はありません。一方、ラスブリカーゼは既存の尿酸を直接分解するため、急激な尿酸値上昇に対して即効性のある対応が可能です。
TLSのリスクが高い患者に対しては、化学療法開始前からラスブリカーゼを予防的に投与することで、高尿酸血症の発症を防ぎ、腎機能障害のリスクを低減することができます。また、既にTLSを発症した患者に対しても、ラスブリカーゼの投与により速やかに尿酸値を低下させ、腎機能の悪化を防ぐことが可能です。
フェブキソスタットの腫瘍崩壊症候群への適応拡大
尿酸生成抑制薬の一つであるフェブキソスタット(商品名:フェブリク)は、従来から高尿酸血症や痛風の治療薬として広く使用されてきました。近年、フェブキソスタットは「がんに対する薬剤治療に伴う高尿酸血症」に対する適応追加の申請が行われ、欧州では2015年4月に「腫瘍崩壊症候群(中~高リスク)の造血器腫瘍患者における薬剤療法に伴う高尿酸血症」への適応が承認されています。
フェブキソスタットは、尿酸を生成する酵素であるキサンチンオキシダーゼを選択的に阻害する薬剤です。アロプリノールと比較して、より強力かつ選択的にキサンチンオキシダーゼを阻害する特徴があります。また、アロプリノールが主に腎臓から排泄されるのに対し、フェブキソスタットは肝臓での代謝が主体であるため、腎機能障害のある患者でも用量調整が比較的容易という利点があります。
腫瘍崩壊症候群に対するフェブキソスタットの有効性は、悪性腫瘍患者を対象とした第III相臨床試験で確認されています。この試験では、がん薬剤治療を受ける悪性腫瘍患者に対してフェブキソスタットを投与し、アロプリノールを対照薬として有効性や安全性を比較検討しました。
フェブキソスタットの腫瘍崩壊症候群への適応拡大により、尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼと併用することで、より効果的な高尿酸血症の予防・治療が可能になると期待されています。特に、腫瘍崩壊症候群のリスクが中程度の患者に対しては、フェブキソスタットの予防投与が有効であり、高リスク患者に対してはラスブリカーゼとの併用や切り替えを考慮することで、より適切な治療戦略を立てることができます。
また、フェブキソスタットは経口薬であるため、ラスブリカーゼ(静注薬)と比較して投与が容易であり、外来での治療にも適しています。腫瘍崩壊症候群のリスク評価に基づいて、フェブキソスタットとラスブリカーゼを適切に使い分けることが、患者さんの予後改善につながると考えられています。
尿酸分解酵素薬の副作用と使用上の注意点
尿酸分解酵素薬であるラスブリカーゼは、効果的な治療薬である一方で、いくつかの重要な副作用や使用上の注意点があります。これらを理解し、適切に対応することが安全な治療につながります。
【主な副作用】
- アレルギー反応
- 発疹、蕁麻疹、気管支痙攣、アナフィラキシーショックなどが報告されています
- 特に投与開始時に注意が必要で、投与中は厳重な観察が必要です
- 溶血性貧血
- 特にG6PD(グルコース-6-リン酸脱水素酵素)欠損症の患者で発症リスクが高い
- 重篤な溶血が生じると腎機能障害を悪化させる可能性があります
- メトヘモグロビン血症
- 酸素運搬能力の低下を引き起こす可能性があります
- チアノーゼや呼吸困難などの症状に注意が必要です
- その他の副作用
- 発熱、頭痛、悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状
- 肝機能異常、血小板減少などの臨床検査値異常
【使用上の注意点】
- G6PD欠損症のスクリーニング
- 可能であれば投与前にG6PD欠損症のスクリーニング検査を行うことが推奨されます
- 特にアフリカ系、地中海系、東南アジア系の患者ではG6PD欠損症の頻度が高いため注意が必要です
- 尿酸値測定の注意点
- ラスブリカーゼは採血後も試験管内で作用を続けるため、採血後すぐに氷冷し、4時間以内に測定する必要があります
- 適切な処理を行わないと、実際より低い尿酸値が測定される可能性があります
- 妊婦・授乳婦への投与
- 妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ慎重に行います
- 授乳中の投与については、授乳を中止するか、投与を中止するかを検討する必要があります
- 小児への投与
- 小児に対する安全性は確立していませんが、腫瘍崩壊症候群のリスクがある小児患者に対しても使用されることがあります
- 用量や投与方法は成人と同様ですが、より慎重な観察が必要です
- 他剤との相互作用
- 他の抗悪性腫瘍剤との併用により、腫瘍崩壊症候群のリスクが増大する可能性があります
- アロプリノールなどの他の高尿酸血症治療薬との併用については、個々の患者の状態に応じて検討する必要があります
ラスブリカーゼの使用にあたっては、これらの副作用や注意点を十分に理解し、適切なモニタリングを行うことが重要です。特に投与開始時には厳重な観察を行い、異常が認められた場合には速やかに適切な処置を行う必要があります。
高尿酸血症治療薬の病型別選択基準と個別化治療
高尿酸血症の治療薬選択は、患者さんの病型や合併症の有無、腎機能などを考慮して個別化する必要があります。高尿酸血症は主に以下の3つの病型に分類されます。
- 尿酸排泄低下型:腎臓からの尿酸排泄が低下している状態
- 尿酸産生過剰型(腎負荷型):体内での尿酸産生が過剰な状態
- 混合型:上記の両方の要素を持つ状態
【病型別の薬剤選択基準】
尿酸排泄低下型(全体の約60%)。
- 第一選択:尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシド、ドチヌラドなど)
- 注意点:尿路結石のリスクがあるため、水分摂取や尿アルカリ化薬の併用を考慮
- 尿路結石の既往がある場合は、尿酸生成抑制薬を選択することもある
尿酸産生過剰型(全体の約10%)。
- 第一選択:尿酸生成抑制薬(アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタットなど)
- 理由:腎臓への尿酸負荷を減らし、尿路結石のリスクを低減できる
混合型(全体の約30%)。
- 第一選択:尿酸生成抑制薬
- 効果不十分な場合:尿酸排泄促進薬の追加や切り替えを検討
腫瘍崩壊症候群による高尿酸血症。
- 高リスク患者:尿酸分解酵素薬(ラスブリカーゼ)
- 中リスク患者:尿酸生成抑制薬(フェブキソスタットなど)
- 低リスク患者:水分補給と尿アルカリ化
【個別化治療の考慮点】
- 腎機能障害がある場合。
- 軽度〜中等度:フェブキソスタットが比較的安全(肝代謝が主体のため)
- 重度:アロプリノールは減量が必要(腎排泄型のため)
- 尿酸排泄促進薬は効果が減弱する可能性がある
- 肝機能障害がある場合。
- アロプリノールが比較的安全
- フェブキソスタットは肝代謝のため、重度の肝障害では注意が必要
- ドチヌラド(ユリス)はミトコンドリア毒性が少なく、肝障害リスクが低い
- 尿路結石の既往がある場合。
- 尿酸生成抑制薬を優先
- 尿酸排泄促進薬を使用する場合は、尿アルカリ化薬の併用が必要
- 高齢者の場合。
- 腎機能に応じた用量調整が重要
- 多剤併用に注意(薬物相互作用のリスク)
- 薬物相互作用の考慮。
高尿酸血症の治療は、単に尿酸値を下げるだけでなく、患者さんの全体的な健康状態や生活の質を考慮した総合的なアプローチが重要です。薬物療法と並行して、プリン体摂取の制限、適度な運動、十分な水分摂取、アルコール摂取の制限などの生活習慣の改善も不可欠です。
また、治療効果のモニタリングとして、定期的な尿酸値の測定や腎機能検査、副作用のチェックを行い、必要に応じて治療内容を調整することが推奨されます。目標尿酸値は一般的に6.0mg/dL未満とされていますが、個々の患者さんの状態に応じて設定する必要があります。
高尿酸血症の治療は長期にわたることが多いため、患者さんの治療アドヒアランスを高めるための支援も重要です。医師、薬剤師、看護師などの医療チームが連携して、患者さんの理解と治療継続をサポートすることが、治療成功の鍵となります。