放射線治療機器の主要メーカーと商品特徴
放射線治療は、がん治療の重要な選択肢として確立されており、その効果を最大限に引き出すためには高性能な治療機器が不可欠です。本記事では、放射線治療機器の主要メーカーとその代表的な製品の特徴について詳しく解説します。医療機関での機器選定や導入検討の参考になる情報を提供します。
放射線治療機器のリニアックシステム最新動向
リニアック(直線加速器)は放射線治療の中核を担う機器です。現在、バリアン社、エレクタ社、キヤノンメディカルシステムズ社などが主要メーカーとして市場をリードしています。
バリアン社の最新リニアックシステムには、TrueBeam / TrueBeam Edge / VitalBeam、Halcyon、ETHOS Therapyなどがあります。特にTrueBeamシリーズは高精度な照射が可能で、画像誘導放射線治療(IGRT)や強度変調放射線治療(IMRT)、回転型強度変調放射線治療(VMAT)に対応しています。国内の多くの医療機関で導入されており、聖隷浜松病院や宮城県立がんセンターなどでも使用されています。
エレクタ社からは、Versa HD、Elekta Harmony、Elekta Infinity、Elekta Espritなどが提供されています。Versa HDは高精度な放射線治療が可能で、特に頭頸部や脳腫瘍などの複雑な形状の腫瘍に対する治療に強みを持っています。
キヤノンメディカルシステムズ社も放射線治療機器市場に参入しており、Versa HDやElekta Harmonyなどを取り扱っています。
これらの最新リニアックシステムには、以下のような特徴があります。
- マルチリーフコリメータ(MLC)による精密な照射野形成
- 画像誘導システムによる高精度な位置合わせ
- AIを活用した治療計画の最適化
- 呼吸同期照射機能
- 複数のエネルギーレベルに対応した照射能力
放射線治療機器における定位放射線治療装置の特徴
定位放射線治療は、小さな腫瘍に対して高線量の放射線を集中的に照射する治療法です。この分野では、アキュレイ社のサイバーナイフが代表的な機器として知られています。
アキュレイ社のサイバーナイフS7シリーズは、非アイソセントリック・ノンコプラナー照射が可能で、線量集中性に優れています。特に動く標的に対する追尾照射機能を持ち、呼吸で動く肺腫瘍などの治療に適しています。聖隷浜松病院では、マルチリーフコリメータを搭載した最新バージョンのサイバーナイフM6が導入されています。
サイバーナイフの主な特徴は以下の通りです。
- ロボットアームによる多方向からの照射
- リアルタイム画像誘導システム
- 動体追尾機能
- マルチリーフコリメータによる照射野形成
- 頭部および体幹部定位放射線治療に対応
また、アキュレイ社はラディザクトシリーズも提供しており、こちらもヘリカル式の放射線治療装置として高い評価を得ています。
定位放射線治療装置の選定ポイントとしては、治療対象となる腫瘍の部位や大きさ、動きの有無などを考慮する必要があります。頭部腫瘍が主な対象であれば従来型のガンマナイフも選択肢となりますが、体幹部腫瘍も対象とする場合はサイバーナイフやリニアックベースの定位照射システムが適しています。
放射線治療機器の粒子線治療システム導入状況
粒子線治療は、X線を用いた従来の放射線治療と比較して、より精密に腫瘍に線量を集中させることができる先進的な治療法です。日本国内でも徐々に導入施設が増えています。
日立ハイテクは陽子線治療システム「PROBEAT」と重粒子線治療システム「HyBEAT」を提供しています。これらのシステムは、従来のX線治療では難しかった深部腫瘍や放射線抵抗性の腫瘍に対する治療に有効です。
陽子線治療システムの特徴。
- ブラッグピークを利用した線量集中性
- 正常組織への線量低減
- スキャニング照射技術による精密な線量分布
- 回転ガントリーによる多方向からの照射
重粒子線治療システムの特徴。
- 高い生物学的効果比(RBE)
- 放射線抵抗性腫瘍への有効性
- 少ない分割回数での治療完了
- 固定ポートによる治療
粒子線治療システムは導入コストが高く、施設の建設も含めると数百億円規模の投資が必要となるため、導入できる施設は限られています。しかし、その治療効果の高さから、今後も徐々に普及していくことが予想されます。
国内の粒子線治療施設は2025年4月現在、陽子線治療施設が20施設以上、重粒子線治療施設が6施設程度となっています。今後も新設計画が進んでおり、患者アクセスの向上が期待されています。
放射線治療機器と治療計画システムの連携
放射線治療の精度を高めるためには、治療機器だけでなく、治療計画システムの性能も重要です。主要メーカーはそれぞれ独自の治療計画システムを提供しています。
バリアン社のEclipseは、IMRTやVMATなど高度な治療計画に対応した治療計画システムです。3次元的な線量分布の最適化や、リスク臓器への線量制約を考慮した計画立案が可能です。
アキュレイ社のPrecisionは、サイバーナイフやラディザクトシリーズと連携し、非アイソセントリック・ノンコプラナー照射による放射線治療計画を短期間で提供できるシステムです。
これらの治療計画システムには、以下のような機能が実装されています。
- CT画像ベースの3次元治療計画
- 強度変調放射線治療(IMRT)計画
- 回転型強度変調放射線治療(VMAT)計画
- 線量計算アルゴリズム
- DVH(Dose Volume Histogram)解析
- 自動輪郭抽出機能
- 計画最適化機能
近年では、AIを活用した治療計画の自動最適化機能も実装されるようになり、プランナーの負担軽減と計画品質の向上が図られています。例えば、バリアン社のETHOS Therapyでは、AIを活用した適応放射線治療が可能になっています。
治療計画システムと治療機器の連携がスムーズであることは、臨床ワークフローの効率化と治療精度の向上に直結するため、機器選定の際には重要な検討ポイントとなります。
放射線治療機器の画像誘導システムと精度向上技術
現代の放射線治療では、治療精度を高めるための画像誘導システムが不可欠となっています。各メーカーは独自の画像誘導技術を開発し、製品に実装しています。
バリアン社のTrueBeamシリーズには、On-Board Imager (OBI)と呼ばれるkV-CBCTシステムが搭載されており、治療直前に患者の3次元画像を取得して位置合わせを行うことができます。これにより、セットアップ誤差を最小限に抑え、高精度な治療が可能になります。
エレクタ社のVersa HDには、XVI(X-ray Volume Imaging)システムが搭載されており、同様に治療前の位置確認が可能です。また、Elekta Unityは、MRIとリニアックを組み合わせたMR-Linacシステムで、軟部組織のコントラストに優れたMRI画像をリアルタイムで取得しながら治療を行うことができます。
画像誘導システム以外にも、治療精度を向上させるための技術として以下のようなものがあります。
- 呼吸同期システム:患者の呼吸に合わせて照射をコントロールし、呼吸性移動による位置ずれを補正
- 体表面監視システム:レーザー光などを使用して患者の体表面を監視し、わずかな動きも検出
- 6軸治療台:患者位置を6方向(上下、左右、前後、回転)に微調整可能な治療台
- 金属アーチファクト低減処理:治療計画CTにおける金属インプラントによるアーチファクトを低減する技術
聖隷浜松病院では、レーザー光を使った体表面三次元スキャナー(ERD社:VOXELAN HEV-600M/RMS)を導入し、照射体位の捻じれや傾きを1mm/1度以内で検出可能としています。このような補助装置も、治療精度の向上に大きく貢献しています。
放射線治療機器の選定ポイントと医療機関での導入事例
放射線治療機器を選定する際には、施設の特性や治療対象となる疾患、患者数などを考慮する必要があります。以下に主な選定ポイントと国内医療機関での導入事例を紹介します。
【選定ポイント】
- 治療対象疾患と必要な治療技術
- 頭頸部腫瘍が多い場合:高精度IMRTが可能な機種
- 肺がんが多い場合:呼吸同期や動体追跡機能を持つ機種
- 前立腺がんが多い場合:IGRTに優れた機種
- 患者数と治療効率
- 大規模施設:複数台の導入や処理能力の高い機種
- 中小規模施設:コストパフォーマンスに優れた機種
- 施設の物理的制約
- 設置スペース
- 放射線遮蔽の要件
- 電源容量
- コスト
- 初期導入コスト
- 保守メンテナンスコスト
- 消耗品コスト
- サポート体制
- メーカーの技術サポート
- トレーニングプログラム
- 故障時の対応
【導入事例】
聖隷浜松病院では、アキュレイ社製サイバーナイフとバリアン社製TrueBeam STx/Clinac21EXを導入し、定位放射線治療から通常の外部照射まで幅広い治療に対応しています。特に、サイバーナイフによる動体追尾技術を活用した肺がん治療に力を入れています。
宮城県立がんセンターでは、バリアン社製CLINAC iXを導入し、IGRT(画像誘導放射線治療)による高精度な治療を提供しています。特に肺定位照射に活用されており、2台のリニアックをフル稼働させることで多くの患者の治療に対応しています。
国立国際医療研究センター病院では、バリアン社製CLINAC-iXを2台導入し、X線と電子線の両方による治療に対応しています。マルチリーフコリメータを活用したIMRTやVMATなどの高精度治療も実施しています。
これらの事例からわかるように、各施設は自らの診療方針や患者特性に合わせて最適な機器を選定しています。また、複数台の導入によって、機器故障時のバックアップ体制を確保している点も重要です。
放射線治療機器の未来展望とAI技術の活用
放射線治療機器は技術革新が続いており、今後もさらなる進化が期待されています。特にAI技術の活用は、治療精度の向上と効率化の両面で大きな可能性を秘めています。
現在、AI技術は以下のような分野で活用されています。
- 治療計画の自動最適化
- 臓器の自動輪郭抽出
- 画像誘導における位置合わせの自動化
- 適応放射線治療(ART)のワークフロー効率化
- 治療効果予測と副作用リスク評価
例えば、バリアン社のETHOS Therapyは、AIを活用した適応放射線治療システムで、治療計画から照射までのプロセスを大幅に効率化しています。また、キヤノンメディカルシステムズのAquilion ONEシリーズには、ディープラーニングを応用した画像再構成技術「Advanced Intelligent Clear-IQ Engine(AiCE)」が搭載されており、画質向上と被ばく低減を両立しています。
今後の技術トレンドとしては、以下のような方向性が考えられます。
- MR-Linacの普及拡大
エレクタ社のUnityに代表されるMRIとリニアックを組み合わせたシステムは、軟部組織の視認性に優れ、治療中のリアルタイム画像取得が可能です。今後、より多くのメーカーがこの分野に参入し、技術の洗練が進むと予想されます。
- FLASH放射線治療
超高線量率で短時間に照射を完了するFLASH放射線治療は、正常組織への影響を抑えつつ腫瘍制御を図る新しいアプローチとして注目されています。現在は研究段階ですが、将来的には臨床応用が期待されています。
- 生物学的応答を考慮した治療計画
腫瘍の放射線感受性や低酸素領域などの生物学的特性を考慮した治療計画が可能になると予想されます。これにより、個々の患者に最適化された「精密放射線治療」が実現するでしょう。
- クラウドベースの治療計画システム
治療計画の計算負荷が高まる中、クラウドコンピューティングを活用した治療計画システムの開発が進んでいます。これにより、高度な計算を必要とする治療計画も短時間で完了することが可能になります。
- 統合診療システムとの連携強化
放射線治療機器と病院情報システム(HIS)や放射線情報システム(RIS)との連携が強化され、シームレスな診療ワークフローが実現すると考えられます。
放射線治療機器の進化は、がん治療の質向上に直結する重要な要素です。医療機関は最新技術の動向を把握しつつ、自施設の特性に合った機器選定を行うことが求められます。同時に、高度化する機器を最大限に活用できる人材育成も重要な課題となっています。