MRI対応ペースメーカー の主要メーカー商品と特徴
ペースメーカーは不整脈治療において重要な役割を果たす医療機器ですが、従来はMRI検査との互換性が大きな課題でした。現在では主要メーカーから条件付きMRI対応ペースメーカーが提供されており、患者のQOL向上に貢献しています。本記事では、最新のMRI対応ペースメーカーの主要メーカー別特徴と技術革新について詳しく解説します。
MRI対応ペースメーカーの基本技術と進化の歴史
MRI対応ペースメーカーの開発は、医療機器技術の大きな進歩を象徴しています。従来のペースメーカーを装着した患者はMRI検査を受けることができず、診断の選択肢が制限されていました。この課題を解決するため、各メーカーは条件付きMRI対応ペースメーカーの開発に取り組んできました。
MRI対応ペースメーカーの歴史を振り返ると、日本では2012年10月にメドトロニック社が条件付きMRI対応植込み型心臓ペースメーカAdvisa MRI®を発売したことが大きな転換点となりました。その後、バイオトロニック社やマイクロポート社など他のメーカーも続き、現在では1.5Tだけでなく3.0TのMRI装置にも対応した製品が主流となっています。
MRI対応ペースメーカーの基本技術には以下のような特徴があります。
- MRI環境下での電磁干渉に対する保護機能
- 自動的にMRIモードに切り替わる機能(AutoMRI™など)
- MRI検査中も安定したペーシング機能を維持する技術
- リード線の発熱を防ぐ特殊な設計
これらの技術革新により、現在のMRI対応ペースメーカーは高い安全性と機能性を両立させています。
メドトロニック社のMRI対応ペースメーカー製品と特徴
メドトロニック社は世界的に有名な医療機器メーカーであり、MRI対応ペースメーカー市場でもリーディングカンパニーの一つです。同社の主要製品とその特徴を見ていきましょう。
Micra シリーズ(リードレスペースメーカー)
メドトロニック社のMicraは、リード線を使用しない革新的なペースメーカーです。従来のペースメーカーにおける主要合併症の約半数を占めるとされるリードおよび皮下ポケットに関連する合併症を根絶する画期的な製品です。
- Micra TPS:本邦初のリードレスペースメーカーで、植込み後12ヶ月時点での主要合併症の発生率が既存ペースメーカと比較して63%削減したことが示されています
- Micra AV2:デュアルチャンバ型(VDD)で、内蔵された電極及び加速度計を用いて心臓の電気的活動及び機械的活動の両方を検出するとともにペーシングを行います
Azure XT
Azure XTは、包括的な患者管理を実現するために新しいプラットフォームを採用したペースメーカーです。以下の特徴があります。
- BlueSyncテクノロジー搭載:Bluetooth Low Energy (BLE)を用いた低消費電力によるワイヤレス通信を実現
- 高密度集積回路設計による製品寿命の延長
- 高精度に心房細動(AF)を検出するアルゴリズム
- AFの早期発見、早期治療介入を可能にするタイムリーなアラート機能
- AFの持続リスクを抑制する治療オプション
Reactive ATP™機能搭載モデル
2019年に発売されたReactive ATP™機能を持つデュアルチャンバ型(DDD)ペースメーカーは、心房細動を治療できる機能を持ち、保険適用においても上位のV型の機能区分となっています。AT/AF(心房頻拍/心房細動)に対する総合的な戦略として以下の機能を備えています。
- 予防機能:ARS(atrial rate stabilization)、PMOP(post mode switch over drive pacing)、APP(atrial preference pacing)
- 治療機能:A-ATP(心房抗頻拍ペーシング)
マイクロポート社のMRI対応ペースメーカーと自動検出機能
マイクロポート社(MicroPort)は、革新的なMRI対応ペースメーカーを提供しているメーカーの一つです。同社の製品は小型化と長寿命化、そして高機能化を特徴としています。
ENO/ENO TINY シリーズ
マイクロポート社の最新シリーズには以下の特徴があります。
- 世界最小の経静脈ペースメーカー(一部モデル)
- 1.5Tおよび3Tの全身MR条件付き対応
- 8ccという小型サイズながら12年の長寿命を実現したモデルあり
- AutoMRI™機能:ペースメーカー患者のMRI検査を簡単かつ安全に行うことができる自動検出・切替機能
Kora シリーズ
Koraシリーズは診療の効率化と患者の予後改善を目的に設計されており、以下の特徴があります。
- Kora 100:MRI磁場を自動的に検出する初のMRIモードを搭載した革新的なソリューション
- Kora 250:診療効率化と患者予後改善のために設計された高機能モデル
- SafeR™機能:デュアルチャンバーペーシングを必要とする患者の固有伝導を促進
- Sleep Apnea Monitoring™:睡眠時無呼吸症候群の検査と監視機能
- Dual Sensor™:加速度センサーと微小換気センサーを組み合わせ、洞調律に最も近い速度応答を提供
マイクロポート社の製品は特に自動検出機能に優れており、AutoMRI™機能によりMRI検査時の安全性と利便性を高めています。また、AutoImplant Detect機能により、インプラント時にアルゴリズムを自動で起動する便利な機能も搭載しています。
バイオトロニック社のMRI対応ペースメーカーと心房細動管理機能
バイオトロニック社(BIOTRONIK)は、MRI対応ペースメーカーの分野で独自の技術を持つメーカーです。特に心房細動管理と睡眠時無呼吸症候群の検出に関する機能が充実しています。
Amvea Sky シリーズ
Amvea Skyは、1.5T/3T MRI装置において全身撮像が可能なペースメーカーです。新たに頻拍変動感知型抗上室性頻拍ペーシング治療機能を搭載しており、心房細動管理において高い効果を発揮します。
2023年7月に発売されたAmvia Sky DR-Tは、A-ATP(心房抗頻拍ペーシング)を有するDDDペースメーカーとして、V型の機能区分で保険適用されています。AT/AF(心房頻拍/心房細動)の予防には、バイオトロニック社特有のレートレスポンス機能のアルゴリズムであるCLS(closed loop stimulation)を用いて積極的に心房ペースを行う機能を備えています。
GALI™ シリーズ
GALI™シリーズには以下の特徴的な機能があります。
- SonR®技術:SonRtip™リードの先端に収縮力センサーを使用し、安静時および運動時の心臓再同期パラメーターを自動的に最適化する機能
- AutoMRI™機能:MRIスキャナーの存在を検出し、MRI検査を受ける際に患者を保護するための特定のモードに自動的に切り替える機能
- 低消費電流技術:先進技術を採用し、11.1年の電池寿命を実現
- Brady Tachy Overlap™(BTO):Slow VTの検出と治療を損なうことなく運動時のペーシングを行う機能。運動時に最高145bpmまでの心室ペーシングを行い、同時に100bpm以上のSlow VTを検出し、痛みの伴わない治療をする可能性を提供
バイオトロニック社の製品は特に心房細動管理と自動最適化機能に優れており、患者の状態に合わせた最適なペーシング治療を提供します。
リードレスペースメーカーの革新性とMRI対応の進化
リードレスペースメーカーは、従来のペースメーカーの課題を解決する革新的な技術として注目されています。特にMRI対応という観点からも大きなメリットがあります。
リードレスペースメーカーの特徴と利点
リードレスペースメーカーの最大の特徴は、従来必要だった経静脈リードや皮下ポケットが不要になることです。これにより以下のメリットがあります。
- リード関連合併症の根絶:従来のペースメーカーにおける主要合併症の約半数を占めるリードおよび皮下ポケット関連の合併症を防止できます
- 感染リスクの低減:皮下ポケットがないため、デバイス感染のリスクが大幅に減少します
- リード断線や絶縁不良の問題解消:リード線自体がないため、これらの問題が発生しません
- MRI検査の安全性向上:リード線がないため、MRI環境下での発熱リスクが低減されます
日本におけるリードレスペースメーカーの普及状況
日本では2017年にメドトロニック社のMicra™が薬事承認を得て以降、広く普及しています。現在では、右心室に直接留置するタイプのリードレスペースメーカーが主流となっています。
リードレスペースメーカーの課題と将来展望
リードレスペースメーカーには以下のような課題もあります。
- 電池寿命後の対応:リードレスペースメーカーは一旦右心室に留置すると簡単に取り外すことができず、電池切れの際には新しい本体を古い本体の横に追加して留置する必要があります
- 適応の制限:現状では単室ペーシングしか対応できないモデルが多く、複雑な不整脈治療には限界があります
- 植込み手技の複雑さ:従来のペースメーカーと比較して、植込み手技がやや複雑になる場合があります
将来的には、これらの課題を解決した次世代リードレスペースメーカーの開発が期待されています。特に、デュアルチャンバー対応のリードレスペースメーカーや回収可能なモデルの開発が進んでいます。
MRI対応ペースメーカーの選択基準と臨床的意義
MRI対応ペースメーカーを選択する際には、患者の状態や必要な機能に応じて適切な製品を選ぶことが重要です。ここでは、選択基準と臨床的意義について解説します。
患者の状態に応じた選択基準
患者の状態に応じた選択基準としては、以下のポイントが重要です。
- 不整脈のタイプと重症度
- 単純な洞不全症候群:シングルチャンバー型で十分な場合も
- 房室ブロック:デュアルチャンバー型が望ましい
- 心房細動リスクが高い患者:心房細動管理機能搭載モデルが適切
- MRI検査の必要性と頻度
- 定期的なMRI検査が必要な患者:AutoMRI™など自動検出機能付きが便利
- 3.0T MRIが必要な患者:3.0T対応モデルを選択
- 患者の活動レベル
- 活動的な患者:レートレスポンス機能が充実したモデル
- 睡眠時無呼吸症候群の疑いがある患者:Sleep Apnea Monitoring™機能搭載モデル
- デバイス寿命の考慮
- 若年患者:長寿命モデルが望ましい
- 高齢患者:機能性を優先する場合も
MRI対応ペースメーカーの臨床的意義
MRI対応ペースメーカーの臨床的意義は非常に大きく、以下のような点が挙げられます。
- 診断の幅が広がる:MRI検査が可能になることで、脳卒中、腫瘍、脊椎疾患など様々な疾患の診断精度が向上します
- 治療選択肢の拡大:MRIガイド下での治療が可能になり、治療の選択肢が増えます
- 長期的な医療コスト削減:代替検査の必要性が減少し、より正確な診断により適切な治療が可能になります
- 患者QOLの向上:必要な検査を制限なく受けられることで、患者の安心感とQOLが向上します
MRI対応ペースメーカーの普及により、ペースメーカー装着患者の診療において大きなパラダイムシフトが起きています。今後も技術革新により、さらに安全性と機能性が向上したMRI対応ペースメーカーの開発が期待されています。
医療従事者としては、各メーカーの製品特性を理解し、患者の状態に最適なデバイスを選択することが重要です。また、MRI検査を行う際の安全プロトコルについても十分に理解しておく必要があります。
以上、MRI対応ペースメーカーの主要メーカー商品と特徴について解説しました。この分野は技術革新が著しく、常に最新情報をアップデートすることが重要です。患者さんにとって最適なデバイス選択の一助となれば幸いです。