冠動脈ステントの種類と特徴や適応症について

冠動脈ステントの種類と適応

冠動脈ステントの基本情報
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ステントの役割

冠動脈ステントは狭くなった血管を拡張し、血流を確保するためのメッシュ状の医療デバイスです。

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主な種類

ベアメタルステント(BMS)、薬剤溶出ステント(DES)、生体吸収性ステント(BVS)の3種類が主に使用されています。

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選択の重要性

患者の状態、血管径、病変の特性などに応じて最適なステントを選択することが治療成功の鍵となります。

冠動脈ステントは、冠動脈疾患の治療において重要な役割を果たしています。ステントとは、メッシュ状の金属のチューブで、血管内に留置することで血管を拡張し、血流を確保する医療デバイスです。冠動脈ステントの歴史は1980年代後半に遡りますが、それ以降、技術の進歩により様々な種類のステントが開発されてきました。本記事では、現在臨床で使用されている主な冠動脈ステントの種類とその特徴、適応について詳しく解説します。

冠動脈ステントの基本的な種類と構造

冠動脈ステントは大きく分けて以下の3種類に分類されます。

  1. ベアメタルステント(BMS: Bare Metal Stent)
    • 金属製のメッシュ構造のみのシンプルなステント
    • ステンレス、コバルトクロム、プラチナクロムなどの合金で作られている
    • 比較的安価で、太い血管に適している
  2. 薬剤溶出ステント(DES: Drug Eluting Stent)
    • 金属製ステントに再狭窄を防ぐ薬剤がコーティングされている
    • エベロリムス、ゾタロリムス、シロリムスなどの細胞増殖抑制剤を使用
    • 細い血管や複雑な病変に適している
  3. 生体吸収性ステント(BVS: Bioresorbable Vascular Scaffold)
    • 体内で徐々に分解・吸収される素材で作られたステント
    • ポリ乳酸(PLLA)などの生体吸収性ポリマーが主な素材
    • 留置後約3年で体内から完全に消失する

各ステントはそれぞれ独自の構造を持ち、ストラットの厚さ、デザイン、柔軟性などが異なります。これらの特性は、ステントの留置のしやすさ、血管壁への密着性、長期的な開存率に影響を与えます。

冠動脈ステントのベアメタルステントと薬剤溶出ステントの比較

ベアメタルステント(BMS)と薬剤溶出ステント(DES)には、それぞれ長所と短所があります。以下に両者の比較を表にまとめました。

特徴 ベアメタルステント(BMS) 薬剤溶出ステント(DES)
構成 金属のみ 金属+薬剤コーティング
再狭窄率 20~30% 5~10%
抗血小板薬服用期間 約1ヶ月~6ヶ月 6ヶ月~1年以上
コスト 比較的安価 高価
適応 太い血管、出血リスクの高い患者 細い血管、糖尿病患者、複雑病変
内皮化期間 約1ヶ月 3~6ヶ月以上

ベアメタルステントは、留置後約1ヶ月程度で内皮化(ステントの内側に内膜が張ること)が完了するため、抗血小板薬の服用期間が比較的短くて済むという利点があります。一方、薬剤溶出ステントは再狭窄率が低いものの、内皮化の過程が遅れるため、抗血小板薬の長期服用が必要となります。

薬剤溶出ステントに使用される主な薬剤には、エベロリムス、シロリムス、ゾタロリムス、パクリタキセルなどがあり、これらは細胞増殖を抑制することで新生内膜増殖を防ぎ、再狭窄を予防します。

冠動脈ステントの生体吸収性ステントの革新的特徴

生体吸収性ステント(BVS)は、冠動脈ステント治療における最新の革新的技術です。アボット社のAbsorb(アブゾーブ)ステントは、日本で初めて承認された生体吸収性ステントで、従来の金属製ステントとは異なる特徴を持っています。

生体吸収性ステントの主な特徴。

  1. 一時的な足場の提供:血管拡張後、約3年かけて体内で完全に分解・吸収される
  2. 血管機能の回復:ステントが消失することで、血管本来の運動機能や適応性が回復する
  3. 将来の治療オプションの確保:血管内に永久的な金属が残らないため、将来的な治療選択肢が制限されない
  4. 非侵襲的画像診断の容易さ:金属アーチファクトがないため、CT、MRIなどの画像診断が容易

Absorbステントは、生体吸収糸と同様の素材(ポリ乳酸)で構成されており、血管を拡げて支える役割を果たした後、徐々に分解されていきます。ステントの位置を確認するための小さな金属製マーカーのみが体内に残ります。

日本で実施されたABSORB Japan臨床試験(AVJ-301治験)では、Absorbステントの安全性および有効性が従来の薬剤溶出ステントと同水準であることが示されています。この治験では国内38医療機関において400症例が登録され、評価が行われました。

冠動脈ステントの適応と選択基準

冠動脈ステントの選択は、患者の状態や病変の特性に基づいて慎重に行われる必要があります。以下に主な選択基準をまとめます。

ベアメタルステント(BMS)が適している場合

  • 太い血管(直径3.5mm以上)の病変
  • 出血リスクが高く、長期の抗血小板薬服用が困難な患者
  • 予定手術がある患者
  • 抗凝固薬を服用中の患者(特に心房細動合併例)
  • コスト面での制約がある場合

薬剤溶出ステント(DES)が適している場合

  • 細い血管(直径3.0mm未満)の病変
  • 長い病変(20mm以上)
  • 糖尿病患者
  • 再狭窄病変
  • 分岐部病変
  • 複雑な病変形態

生体吸収性ステント(BVS)が適している場合

  • 対照血管径が2.5mmから3.75mmの範囲にある新規の冠動脈病変(病変長24mm以下)
  • 若年患者(長期的な血管機能の回復が望ましい)
  • 金属アレルギーのある患者
  • 将来的に外科的治療が必要となる可能性がある患者

ステント選択においては、再狭窄リスク、出血リスク、コンプライアンス(服薬遵守能力)、併存疾患、予定されている手術などを総合的に評価することが重要です。

冠動脈ステントの留置後の抗血小板療法と管理

冠動脈ステント留置後の血栓予防には、適切な抗血小板療法が不可欠です。ステントの種類によって推奨される抗血小板薬の服用期間が異なります。

抗血小板薬2剤併用療法(DAPT: Dual Antiplatelet Therapy)の期間

  1. ベアメタルステント(BMS)の場合
    • 内皮化が約1ヶ月程度で完了するため、DAPTは通常1ヶ月間
    • その後は抗血小板薬1剤(SAPT: Single Antiplatelet Therapy)に移行
  2. 薬剤溶出ステント(DES)の場合
    • 急性冠症候群の症例:約1年間のDAPT(出血リスクが高い場合は6ヶ月)
    • 安定型の冠動脈疾患:6ヶ月のDAPT(出血リスクが高い場合は3ヶ月)
    • DAPTスコアが高い場合(年齢、糖尿病、喫煙、心機能、ステント径など)は1年を超えるDAPTも考慮
  3. 生体吸収性ステント(BVS)の場合
    • 通常、少なくとも12ヶ月間のDAPTが推奨される
    • 個々の患者の出血リスクと血栓リスクを評価して調整

特殊な状況での抗血小板療法

  • 心房細動を合併している場合
    • 抗凝固薬(DOAC等)と抗血小板薬の併用が必要
    • 出血リスクを考慮し、3剤併用期間を短縮(PCI後1ヶ月のみ3剤併用など)
    • その後は抗凝固薬+抗血小板薬1剤の組み合わせに移行
  • 消化管出血リスクがある場合

    抗血小板療法の管理においては、血栓予防の効果と出血リスクのバランスを慎重に評価することが重要です。また、患者の服薬アドヒアランスを高めるための教育も不可欠です。

    冠動脈ステントの特殊な治療法と最新技術

    通常のステント留置が困難な複雑病変に対しては、特殊な治療法が開発されています。これらの技術は、ステント治療の適応範囲を広げ、より多くの患者に効果的な治療を提供することを可能にしています。

    高度石灰化病変に対する特殊治療

    1. ロータブレーター
      • 先端にダイヤモンドの粒を装着した丸い金属を高速回転させて石灰化病変を削る治療
      • バーサイズと同じ大きさで前方向にのみ削ることが可能
      • 施設基準を満たした施設のみで使用可能
    2. ダイヤモンドバック
      • ダイヤモンドで構成されたクラウンが軌道回転して石灰化病変を削る
      • クラウンサイズよりも大きく削ることが可能で、前方向だけでなく後方向にも削れる
      • ロータブレーターと併用することでより安全な石灰化病変の切削が可能
    3. エキシマレーザー冠動脈形成術
      • カテーテル先端から照射されるレーザー光によって動脈硬化を蒸散
      • 慢性完全閉塞、分岐部病変、急性心筋梗塞、ステント内再狭窄に有効
      • 2018年5月に施設基準が認められ、急性期治療にも使用
    4. DCA(方向性冠動脈粥腫切除術)
      • バルーンを膨らませて刃を動脈硬化に押しつけ、回転させて削りとる治療
      • 動脈硬化をうまく削りとることができればステント留置が不要
      • 2018年4月に施設基準が認められた

    これらの特殊治療は、薬剤溶出性ステントの登場により冠動脈カテーテル治療の成績が飛躍的に向上した一方で、ステントを十分に広げられない石灰化病変や、左主幹部病変、手術前、金属アレルギーなどでステント留置を避けたい場合の課題を解決するために重要な役割を果たしています。

    特に、エキシマレーザーは急性心筋梗塞などの血栓性病変やステント再閉塞に対して効果があり、治療の選択肢を広げています。実際の臨床例として、急性心筋梗塞と十二指腸潰瘍穿孔を同時に発症した85歳男性に対し、エキシマレーザーで血栓を蒸散させ、開腹術前のためステントは留置せずに治療を完了した症例が報告されています。

    これらの特殊治療法は、従来のステント治療では対応が難しかった症例に対して新たな選択肢を提供し、より安全で効果的な冠動脈疾患治療を可能にしています。

    特殊な心臓カテーテル治療についての詳細情報(洛和会音羽病院)

    冠動脈ステントの種類は多岐にわたり、それぞれに特徴と適応があります。患者の状態や病変の特性を総合的に評価し、最適なステントを選択することが治療成功の鍵となります。また、ステント留置後の適切な抗血小板療法の管理も重要です。

    技術の進歩により、生体吸収性ステントのような革新的なデバイスや、複雑病変に対応するための特殊治療法が開発され、冠動脈疾患治療の選択肢はさらに広がっています。医療従事者は、これらの新しい技術や治療法に関する知識を常にアップデートし、患者に最適な治療を提供することが求められています。

    冠動脈ステントの基本情報と種類についての解説(心カテブートキャンプ)

    冠動脈ステント治療は今後も進化を続け、より低侵襲で効果的な治療法の開発が期待されています。特に、生体吸収性ステントの改良や、薬剤溶出ステントの新しい薬剤・ポリマーの開発、ステントデザインの最適化などが進められています。これらの進歩により、再狭窄率のさらなる低減や、抗血小板療法期間の短縮、長期的な血管機能の改善などが期待されています。

    医療従事者は、個々の患者に最適なステントを選択し、適切な周術期管理と長期フォローアップを行うことで、冠動脈疾患患者のQOL向上と予後改善に貢献することができます。