サイアザイド系利尿薬一覧と特徴
サイアザイド系利尿薬は高血圧治療において重要な位置を占める薬剤群です。腎臓の遠位尿細管に作用してナトリウムと水分の再吸収を抑制し、尿量を増やすことで体内の余分な水分を排出します。これにより循環血液量が減少し、血圧が低下するという仕組みです。
サイアザイド系利尿薬は、化学構造によって「サイアザイド系」と「サイアザイド類似(非チアジド系)」に分類されますが、臨床的には同様の効果を持つため、まとめてサイアザイド系利尿薬と呼ばれることが多いです。
サイアザイド系利尿薬一覧と薬価比較
現在、日本で使用可能なサイアザイド系利尿薬の主な製品を一覧にまとめました。
【サイアザイド系利尿薬】
- ヒドロクロロチアジド(商品名:ヒドロクロロチアジドOD錠・錠「トーワ」)
- 規格:12.5mg、25mg
- 薬価:5.9円/錠
- トリクロルメチアジド(商品名:フルイトラン)
- 規格:1mg、2mg
- 薬価:10.1円/錠(準先発品)
- トリクロルメチアジド後発品(「NP」「イセイ」「日医工」「ツルハラ」「JG」「TCK」「トーワ」「NIG」など)
- 規格:1mg、2mg
- 薬価:6.4円/錠
- ベンチルヒドロクロロチアジド(商品名:ベハイド)
- 規格:4mg
【サイアザイド類似利尿薬】
- インダパミド(商品名:ナトリックス、テナキシル)
- 規格:1mg、2mg
- トリパミド(商品名:ノルモナール)
- 規格:15mg
- メフルシド(商品名:バイカロン)
- 規格:25mg
サイアザイド系利尿薬は比較的安価であり、特に後発品は1錠あたり10円以下で使用できるものが多いです。高血圧治療において費用対効果の高い選択肢となっています。
サイアザイド系利尿薬の作用機序と効果持続時間
サイアザイド系利尿薬の作用機序は、腎臓の遠位尿細管に存在するNa⁺-Cl⁻共輸送体(NCCトランスポーター)を阻害することです。これにより、ナトリウムイオンと塩化物イオンの再吸収が抑制され、それに伴って水分の再吸収も抑制されます。結果として尿量が増加し、体内の余分な水分が排出されます。
サイアザイド系利尿薬の効果持続時間は比較的長く、薬剤によって異なりますが、一般的に以下のような特徴があります。
- ヒドロクロロチアジド:約12時間
- トリクロルメチアジド:約24時間
- インダパミド:約24時間
この長い効果持続時間により、1日1回の服用で効果が持続するため、服薬コンプライアンスが向上するというメリットがあります。
サイアザイド系利尿薬のナトリウム排泄作用は、糸球体で濾過されたナトリウム量の約3〜5%程度と言われています。これはループ利尿薬(約25%)と比較すると弱いものの、高血圧治療においては十分な効果を発揮します。
サイアザイド系利尿薬と他の利尿薬との比較
利尿薬は作用部位や機序によって大きく分類されます。サイアザイド系利尿薬と他の主要な利尿薬を比較してみましょう。
【主な利尿薬の比較】
分類 代表的な薬剤 作用部位 効果強度 効果持続時間 特徴 サイアザイド系 ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド 遠位尿細管 中程度 12〜24時間 高血圧治療の第一選択薬として使用 ループ利尿薬 フロセミド、アゾセミド、トラセミド ヘンレループ上行脚 強力 6〜12時間 強力な利尿作用、心不全や腎不全に有効 K⁺保持性利尿薬 スピロノラクトン、エプレレノン、エサキセレノン 遠位尿細管・集合管 弱い 48〜72時間 カリウム排泄を抑制、高血圧や心不全に使用 バソプレシン拮抗薬 トルバプタン 集合管 水のみ 12〜24時間 電解質排泄を増加させず水分のみ排泄 各利尿薬は電解質バランスに与える影響も異なります。
- サイアザイド系:Na⁺低下、K⁺低下、Ca²⁺上昇
- ループ利尿薬:Na⁺低下、K⁺低下、Ca²⁺低下
- K⁺保持性利尿薬:Na⁺低下、K⁺上昇、Ca²⁺低下
これらの特性を理解することで、患者の状態に応じた適切な利尿薬の選択が可能になります。例えば、骨粗鬆症リスクのある患者にはカルシウム上昇作用のあるサイアザイド系が有利であり、心不全の急性期には強力な利尿作用を持つループ利尿薬が選択されることが多いです。
サイアザイド系利尿薬の副作用と注意点
サイアザイド系利尿薬は有効な降圧薬である一方で、いくつかの副作用にも注意が必要です。主な副作用と注意点を以下にまとめます。
【主な副作用】
- 電解質異常
- 低カリウム血症:約15%の患者に発生
- 低ナトリウム血症:約15%の患者に発生
- 低マグネシウム血症
- 代謝性副作用
- 高尿酸血症:痛風発作のリスク上昇
- 耐糖能低下:糖尿病リスク上昇
- 脂質代謝異常:LDLコレステロール上昇
- その他
- アルカローシス
- 皮膚炎・皮膚発疹
- 顆粒球減少症(稀)
特に低カリウム血症は重要な副作用であり、遠位尿細管でのナトリウム再吸収阻害により、集合管でのナトリウム-カリウム交換系が活性化されるためです。低カリウム血症は不整脈のリスクを高め、特にジギタリス製剤との併用時には注意が必要です。
一方で、サイアザイド系利尿薬にはカルシウムの再吸収を促進する作用があり、骨密度を改善する効果があります。大腿骨骨折のリスクを約30%減少させるという報告もあり、骨粗鬆症リスクのある高齢者の高血圧治療には有利な選択肢となります。
【使用上の注意点】
- アルコールとの併用で起立性低血圧が増強する可能性がある
- 高齢者では少量から開始し、電解質モニタリングを行う
- 糖尿病患者や痛風の既往がある患者では慎重に使用する
- 腎機能低下患者では効果が減弱するため、eGFR 30mL/min/1.73m²未満では効果が期待できないことが多い
サイアザイド系利尿薬の適切な用量と高血圧治療における位置づけ
サイアザイド系利尿薬の用量については、近年の研究により少量使用が原則とされています。現在の国内外のガイドラインでも少量が推奨されていますが、日本の添付文書における用量は、現在適正と考えられている用量よりも多いケースがあります。
【高血圧治療における推奨用量】
- ヒドロクロロチアジド:12.5〜25mg/日
- トリクロルメチアジド:1〜2mg/日
- インダパミド:1〜2mg/日
サイアザイド系利尿薬の降圧効果は用量依存的ですが、副作用も用量依存的に増加します。特に代謝性副作用(高尿酸血症、耐糖能低下、脂質異常症)は用量に比例して増加するため、最小有効量での使用が推奨されています。
高血圧治療におけるサイアザイド系利尿薬の位置づけは非常に重要です。ALLHAT試験をはじめとする大規模臨床試験では、サイアザイド系利尿薬(特にサイアザイド類似利尿薬であるクロルタリドン)がACE阻害薬やカルシウム拮抗薬と同等以上の心血管イベント抑制効果を示しています。
日本高血圧学会の高血圧治療ガイドラインでも、サイアザイド系利尿薬は高血圧治療の第一選択薬の一つとして推奨されています。特に以下のような患者には有用性が高いとされています。
- 塩分感受性高血圧
- 高齢者高血圧
- 心不全合併高血圧
- 骨粗鬆症リスクのある患者
- 脳卒中既往患者
また、サイアザイド系利尿薬は他の降圧薬との併用効果も高く、特にレニン-アンジオテンシン系阻害薬(ARBやACE阻害薬)との併用で相乗的な降圧効果が得られます。このため、多くの配合剤が開発されています。
【主なサイアザイド系利尿薬を含む配合剤】
- バルサルタン/ヒドロクロロチアジド(商品名:コディオ、バルヒディオ)
- 配合量:バルサルタン80mg/ヒドロクロロチアジド6.25mg(MD)
- 配合量:バルサルタン80mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg(EX)
サイアザイド系利尿薬は費用対効果に優れた降圧薬であり、特に少量使用の場合は副作用も比較的少なく、多くの患者に適した選択肢と言えます。ただし、個々の患者の状態(腎機能、電解質バランス、代謝状態など)を考慮した上で、適切な用量調整と副作用モニタリングが重要です。
高血圧治療においては、サイアザイド類似利尿薬であるインダパミドの使用が推奨される傾向にあります。インダパミドは従来のサイアザイド系利尿薬と比較して、代謝性副作用が少なく、降圧効果も優れているという特徴があります。日本で処方可能なサイアザイド類似利尿薬はインダパミド(ナトリックス®)のみであるため、高血圧治療では第一選択となることが多いです。
日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019 – サイアザイド系利尿薬の推奨に関する詳細情報
サイアザイド系利尿薬は、適切に使用することで高血圧治療の重要な選択肢となります。その特性と副作用を理解し、患者の状態に合わせた適切な薬剤選択と用量調整を行うことが、効果的な高血圧管理につながるでしょう。