血管拡張薬の種類と効果的な使用法

血管拡張薬の種類と作用機序

血管拡張薬の主な分類
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カルシウム拮抗薬

血管平滑筋の収縮を抑制し、末梢血管を拡張させる薬剤

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レニン・アンジオテンシン系阻害薬

ACE阻害薬やARBなど、血管収縮物質の作用を阻害する薬剤

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交感神経抑制薬

α遮断薬やβ遮断薬など、神経系に作用して血管を拡張させる薬剤

血管拡張薬のカルシウム拮抗薬の特徴と副作用

カルシウム拮抗薬は、血圧治療の第一選択薬として広く使用されている血管拡張薬です。この薬剤は、血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオンの流入を阻害することで、血管の収縮を抑制し、末梢血管を拡張させる作用があります。

カルシウム拮抗薬の主な種類には以下のものがあります。

これらの薬剤は、心臓が血液を押し出す力を抑制したり血管を広げたりして血圧を下げる効果があります。特にアムロジピンなどは、臓器への血流を保つ効果も優れているため、他の疾患を持っている患者や高齢者にも第一選択薬として使用されることが多いです。

しかし、カルシウム拮抗薬にも副作用があります。主な副作用としては、動悸、頭痛、ほてり、顔の赤み、むくみ、便秘などが報告されています。特に注意すべき点として、徐脈(脈拍が遅くなっている状態)がある患者には使用を避けるべきです。

カルシウム拮抗薬は日本で最も多く処方されている降圧剤の一つであり、その効果と安全性から、多くの高血圧患者の治療に貢献しています。

血管拡張薬のレニン・アンジオテンシン系阻害薬の種類と効果

レニン・アンジオテンシン系阻害薬は、血圧調節に重要な役割を果たすレニン・アンジオテンシン系に作用する血管拡張薬です。この系統の薬剤には、主にACE阻害薬ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)、直接的レニン阻害薬の3種類があります。

ACE阻害薬

ACE阻害薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)を阻害することで、血管収縮作用の強いアンジオテンシンⅡの生成を抑制します。主な薬剤には、テモカプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩などがあります。これらは血圧を上昇させるホルモンの産生を抑制することで血圧を下げる効果があります。

ACE阻害薬の特徴として、腎臓の障害の進行を抑制したり、脳卒中の発症リスクを低下させたりする効果も期待できます。しかし、副作用として痰のからまない空咳や血液中のカリウム上昇などが報告されています。妊婦や透析をしている患者には禁忌とされています。

ARB(アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬)

ARBは、アンジオテンシンⅡが作用する受容体を直接ブロックすることで、血管収縮を抑制します。主な薬剤には、ロサルタンカリウム、カンデサルタン、バルサルタン、テルミサルタンなどがあります。

ARBの大きな特徴は、軽度から高度と幅広い高血圧に使用でき、副作用の発生頻度が低いことです。主な副作用としては、顔や唇、のど、舌の腫れ、めまい、動悸などがありますが、ACE阻害薬で見られる咳の副作用がないため、ACE阻害薬で咳が出る患者の代替薬としてよく用いられます。ARBも妊婦や授乳中の方には禁忌です。

直接的レニン阻害薬

直接的レニン阻害薬は、レニンの活性を直接阻害することで、アンジオテンシンⅡの生成を抑制します。代表的な薬剤としてアリスキレンフマル酸塩があります。

この薬剤は、ARBやACE阻害薬を副作用の観点から内服できない場合の選択肢となります。副作用としては、顔や唇、のど、舌の腫れ、息苦しさ、飲み込みにくさなどが報告されています。妊婦には禁忌であり、また併用禁忌の薬剤が複数あるため注意が必要です。

レニン・アンジオテンシン系阻害薬は、高血圧だけでなく、糖尿病性腎症や心不全の治療にも有効であることが知られており、多くの循環器疾患の治療に幅広く使用されています。

血管拡張薬の交感神経系に作用する薬剤の分類

交感神経系に作用する血管拡張薬には、主にα遮断薬β遮断薬があります。これらは神経伝達物質であるカテコラミンの作用を阻害することで血圧を下げる効果があります。

α遮断薬

α遮断薬は、末梢の血管平滑筋に存在するα受容体をブロックすることで、血管を拡張させ血圧を下げる薬剤です。主な薬剤には、ドキサゾシンメシル酸塩、フェントラミンメシル酸塩などがあります。

α遮断薬の特徴は、末梢の血管を広げることで血圧を低下させる効果があることです。特に褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ:発作性の高血圧などを引き起こす病気)などの治療に使用されます。

しかし、α遮断薬には注意すべき副作用があります。主な副作用としては、頭痛、動悸、立ちくらみ、めまいなどが報告されています。特に初回投与時には、起立性低血圧(起き上がった際にめまいや動悸、失神などが出現する状態)が生じる可能性があるため、少量から開始して慎重に投与量を調整する必要があります。

β遮断薬

β遮断薬は、心臓や血管などに存在するβ受容体をブロックすることで、心拍数や心収縮力を減少させ、血圧を下げる薬剤です。主な薬剤には、プロプラノロールアセブトロールカルベジロールメトプロロールビソプロロールなどがあります。

β遮断薬は、心臓の拍動や収縮する力を抑制して血圧を低下させる効果があります。特に若年者の高血圧や、心筋梗塞後、心不全の患者に積極的に使用されます。

β遮断薬の主な副作用としては、徐脈、脈の乱れ、喘息の誘発、体のだるさ、目の渇きなどがあります。喘息や重度の徐脈の患者には禁忌です。また、β遮断薬は突然内服を中止すると、リバウンド現象として急激に血圧が上昇することがあるため、減量しながら徐々に中止する必要があります。

中枢性交感神経抑制薬

これらの薬剤は、脳内の交感神経中枢に作用して、末梢への交感神経刺激を減少させることで血圧を下げます。代表的な薬剤としては、メチルドパ、クロニジンなどがあります。

中枢性交感神経抑制薬は、血圧を高める神経の活動を抑制して血圧を低下させる効果がありますが、現在では他の降圧薬が第一選択となることが多く、使用頻度は減少しています。

交感神経系に作用する血管拡張薬は、それぞれ特徴的な作用機序と適応があり、患者の状態に応じて適切に選択することが重要です。特に合併症や他の薬剤との相互作用に注意しながら使用する必要があります。

血管拡張薬の利尿薬と配合剤の使用法

利尿薬は、直接的に血管を拡張させる作用はありませんが、ナトリウムと水分の排泄を促進することで循環血液量を減少させ、結果として血圧を下げる効果があるため、広義の血管拡張薬として分類されることがあります。

利尿薬の種類と特徴

利尿薬には主に以下の種類があります。

  1. チアジド系利尿薬:トリクロルメチアジドなど
  2. ループ利尿薬フロセミドなど
  3. カリウム保持性利尿薬:スピロノラクトンなど(MR拮抗薬としても分類)

利尿薬は、第一選択薬の一つとして、特に減塩が難しいケースやむくみがある場合、複数の降圧剤を用いても血圧が低下しない場合などに使用されます。

主な作用機序は、腎臓の尿細管でのナトリウムの再吸収を抑制することで、ナトリウムと共に水分の排泄を促進し、血液量を減少させて血圧を下げることです。

しかし、利尿薬にも注意すべき副作用があります。主な副作用としては、血液中のカリウム、ナトリウム、マグネシウムの減少(特にループ利尿薬やチアジド系)、高尿酸血症、高血糖症などが報告されています。ナトリウムやカリウムが元々不足している患者には使用できません。

配合剤の利点と使用法

近年、複数の作用機序の異なる降圧薬を1つの錠剤に配合した配合剤が多く使用されるようになっています。配合剤の主な利点は以下の通りです。

  • 服薬錠数の減少による服薬コンプライアンスの向上
  • 相補的な作用による降圧効果の増強
  • 一方の薬剤の副作用を他方が軽減する可能性

代表的な配合剤の例。

  • ARB + カルシウム拮抗薬(例:カンデサルタン + アムロジピン)
  • ARB + 利尿薬(例:ロサルタン + ヒドロクロロチアジド)
  • カルシウム拮抗薬 + スタチン(高脂血症治療薬)

配合剤を使用する際の注意点としては、個々の成分の用量調整が難しくなることや、どの成分による副作用かの判断が難しくなる場合があることです。そのため、まずは単剤で用量調整を行い、安定した後に配合剤に切り替えるという方法がよく用いられます。

利尿薬と配合剤は、患者の状態や生活習慣、合併症などを考慮して適切に選択することが重要です。特に高齢者や腎機能障害のある患者では、電解質バランスのモニタリングを定期的に行いながら使用する必要があります。

血管拡張薬の肺高血圧症治療における特殊な応用

肺高血圧症は、肺動脈の圧力が異常に上昇する疾患であり、通常の高血圧症とは異なる特殊な血管拡張薬が使用されます。肺高血圧症治療に用いられる血管拡張薬は、作用する経路によって大きく3つに分類されます。

エンドセリン経路に作用する薬剤

エンドセリン受容体拮抗薬は、強力な血管収縮作用を持つエンドセリンの働きを阻害することで肺血管を拡張させます。主な薬剤には以下のものがあります。

  • マシテンタン
  • ボセンタン
  • アンブリセンタン

これらの薬剤は肺動脈性肺高血圧症の治療に用いられますが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症には適応がありません。副作用としては肝機能障害や貧血などに注意が必要です。

一酸化窒素経路に作用する薬剤

一酸化窒素(NO)は強力な血管拡張作用を持ち、この経路に作用する薬剤には以下の2種類があります。

  1. ホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬

    これらは血管拡張物質であるサイクリックGMPを分解するPDE5の働きを阻害することで、肺血管を拡張させます。肺動脈性肺高血圧症の治療に用いられますが、慢性血栓塞栓性肺高血圧症には適応がありません。

  2. 可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬
    • リオシグアト

    この薬剤はグアニル酸シクラーゼを活性化し、サイクリックGMPの産生を増やして肺血管を拡張させます。肺動脈性肺高血圧症と慢性血栓塞栓性肺高血圧症の両方に適応があります。

リオシグアトは、「外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症」を適応症として2014年1月に日本で承認されました。

プロスタサイクリン経路に作用する薬剤

プロスタサイクリン(PGI2)は肺血管を拡張させ、血小板凝集を抑制する作用があります。この経路に作用する薬剤には以下のものがあります。

  1. プロスタサイクリン(PGI2)製剤
    • エポプロステノール:静脈内持続投与が必要
  2. プロスタサイクリン誘導体製剤
    • ベラプロストナトリウム:経口薬
    • トレプロスチニル:皮下または静脈内持続投与
    • イロプロスト:吸入薬
  3. プロスタサイクリン受容体(IP受容体)作動薬
    • セレキシパグ:経口薬で、プロスタサイクリンと同様の作用で肺血管を拡張

セレキシパグは「外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症」を適応症として2021年8月に承認されました。

肺高血圧症の治療では、単剤療法よりも複数の作用機序の異なる薬剤を併用する併用療法が推奨されることが多く、患者の状態に応じて最適な治療法が選択されます。

最近の研究では、TRPC6チャネル阻害薬という新たな血管拡張薬の開発も進んでおり、従来の治療法では効果が不十分な患者に対する新たな選択肢として期待されています。この薬剤は、血管内皮細胞の機能が低下している患者でも効果を発揮する可能性があり、末梢動脈閉塞疾患の新たな治療法として注目されています。

肺高血圧症治療における血管拡張薬の選択は、疾患のタイプ(肺動脈性か慢性血栓塞栓性か)や重症度、患者の状態などを考慮して慎重に行う必要があります。また、定期的な効果判定と副作用モニタリングが重要です。

肺高血圧症治療ガイドラインの詳細情報