選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)一覧と作用機序及び副作用の特徴

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)一覧と特徴

SSRIの基本情報
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SSRIとは

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は、うつ病・うつ状態の第一選択薬として広く使用されている抗うつ薬です。

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作用機序

シナプス間隙のセロトニン濃度を高めることで抗うつ効果を発揮します。セロトニントランスポーターに作用し、再取り込みを阻害します。

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日本での使用状況

日本では4種類のSSRIが承認されており、2025年現在、多くの患者に処方されています。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の作用機序と特徴

選択的セロトニン再取り込み阻害薬SSRI)は、その名称が示す通り、脳内の神経伝達物質であるセロトニンの再取り込みを選択的に阻害する薬剤です。通常、シナプス前ニューロンから放出されたセロトニンは、シナプス後ニューロンのセロトニン受容体に作用した後、セロトニントランスポーターによって再び取り込まれて再利用されます。

うつ病患者ではシナプス間隙におけるセロトニン濃度が低下していると考えられており(モノアミン仮説)、SSRIはセロトニントランスポーターに選択的に作用することで、セロトニンの再取り込みを阻害します。これにより、シナプス間隙のセロトニン濃度が維持され、神経伝達がスムーズになり、抗うつ作用および抗不安作用を示すと考えられています。

SSRIの「選択的」という表現は、他の神経伝達物質(ノルアドレナリンドーパミンなど)と比較して、セロトニンの再取り込み阻害作用が強いことを意味します。また、従来の三環系抗うつ薬と比較して、アセチルコリン受容体などへの作用が少ないため、副作用プロファイルが改善されています。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の国内承認薬剤一覧と適応症

日本で承認されているSSRIは、2025年4月現在、以下の4種類です。それぞれの薬剤には特徴があり、適応症も若干異なります。

  1. フルボキサミンマレイン酸塩
    • 商品名:デプロメール錠、ルボックス錠
    • 発売年:1999年5月
    • 適応症:うつ病・うつ状態、強迫性障害、社会不安障害
  2. パロキセチン塩酸塩水和物
    • 商品名:パキシル錠、パキシルCR錠
    • 発売年:2000年11月
    • 適応症:うつ病・うつ状態、パニック障害、強迫性障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害
  3. セルトラリン塩酸塩
    • 商品名:ジェイゾロフト錠
    • 発売年:2006年7月
    • 適応症:うつ病・うつ状態、パニック障害、外傷後ストレス障害、社会不安障害
  4. エスシタロプラムシュウ酸塩
    • 商品名:レクサプロ錠
    • 発売年:2011年7月
    • 適応症:うつ病・うつ状態、社会不安障害

これらのSSRIは、主にうつ病・うつ状態の治療に用いられますが、それぞれ強迫性障害、社会不安障害、パニック障害、外傷後ストレス障害などの適応も持っています。医師は患者の症状や副作用プロファイル、薬物相互作用などを考慮して、最適なSSRIを選択します。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)各薬剤の薬理学的特徴と相互作用

SSRIは同じ分類に属する薬剤ですが、化学構造や薬理学的特性、代謝経路などが異なるため、それぞれ特徴があります。医療従事者はこれらの特徴を理解し、患者に適した薬剤を選択することが重要です。

フルボキサミンマレイン酸塩(デプロメール・ルボックス)

  • CYP1A2、CYP2C19を強く阻害するため、これらの酵素で代謝される薬剤との相互作用に注意が必要
  • 半減期が比較的短いため、1日2回の服用が基本
  • 併用禁忌薬:ラメルテオン(ロゼレム)、チザニジン(テルネリン)など

パロキセチン塩酸塩水和物(パキシル)

  • CYP2D6を強く阻害するため、この酵素で代謝される薬剤との相互作用に注意が必要
  • 抗コリン作用があり、口渇、便秘などの副作用が現れることがある
  • CR錠は徐放性製剤で、消化器症状が軽減される傾向がある

セルトラリン塩酸塩(ジェイゾロフト)

  • 薬物相互作用が比較的少なく、多剤併用が必要な患者に適している
  • ワーファリンとの相互作用が少ないSSRIとして知られている
  • OD錠(口腔内崩壊錠)があり、嚥下機能が低下した患者にも使いやすい

エスシタロプラムシュウ酸塩(レクサプロ)

  • セロトニンへの選択性が最も高いとされる
  • アロステリック作用により、セロトニン再取り込み阻害効果が長時間持続
  • QT延長のリスクがあるため、QT延長のある患者には禁忌
  • 初期投与量10mgで治療量に達するため、用量調整が比較的容易

これらの薬剤は、肝臓のCYP酵素系を介して代謝されるため、他の薬剤との相互作用に注意が必要です。特にフルボキサミンとパロキセチンは強いCYP阻害作用を持つため、併用禁忌薬や併用注意薬が多くあります。一方、セルトラリンは比較的相互作用が少なく、多剤併用が必要な患者に適しています。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の副作用と服薬指導のポイント

SSRIは従来の三環系抗うつ薬と比較して副作用が少ないとされていますが、それでも様々な副作用が報告されています。医療従事者は副作用について理解し、適切な服薬指導を行うことが重要です。

主な副作用

  1. 消化器症状:吐き気、嘔吐、下痢、便秘など(特に服用初期に多い)
  2. 精神神経系症状:眠気、めまい、頭痛、不眠など
  3. 性機能障害:勃起障害、射精障害、性欲減退など
  4. セロトニン症候群:不安、イライラ、発熱、振戦、筋硬直など(頻度は稀だが重篤な場合がある)
  5. SSRI離脱症候群:頭痛、めまい、感覚異常、不安など(急な中止で発現)

服薬指導のポイント

  1. 服用タイミング
    • フルボキサミン:1日2回(朝・夕)食後
    • パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム:1日1回(朝または夕)食後
  2. 自動車運転などの危険を伴う作業
    • フルボキサミン:禁止
    • パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム:注意
  3. 飲み忘れ対応
    • 気づいたときに服用し、次回から通常通り服用
    • 次回の服用時間が近い場合は1回分を飛ばす
    • 決して2回分を一度に服用しない
  4. 断薬について
    • 自己判断で急に中止しないよう指導
    • 中止する場合は医師の指示のもと、徐々に減量する
    • 1回の飲み忘れでも離脱症状が出現することがある
  5. アルコールとの併用
    • アルコールとの併用で中枢神経抑制作用が増強される可能性があるため注意

SSRIはハイリスク薬に分類されており、特定薬剤管理指導加算の対象となっています。服薬指導の際は、「患者に不安を与えないこと」「処方医と患者の信頼関係を壊さないこと」を心がけ、必要に応じて指導・フォローを行うことが大切です。

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とSNRIの違いと使い分け

抗うつ薬の中でも、SSRIとSNRIセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)は、作用機序や効果、副作用プロファイルに違いがあります。医療従事者はこれらの違いを理解し、患者に適した薬剤を選択することが重要です。

SSRIとSNRIの主な違い

項目 SSRI SNRI
作用機序 セロトニンの再取り込みを選択的に阻害 セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害
代表的な薬剤 フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム デュロキセチン、ミルナシプラン、ベンラファキシン
適応症 うつ病・うつ状態、不安障害など うつ病・うつ状態、疼痛性疾患(線維筋痛症、糖尿病性神経障害など)
特徴 副作用が比較的少ない、抗不安作用が強い 鎮痛効果がある、意欲低下に効果的な場合がある

使い分けのポイント

SSRIとSNRIの明確な使い分けは難しいとされていますが、一般的に以下のような傾向があります。

  1. 症状による選択
    • 不安症状が強い場合:SSRI
    • 意欲低下や疲労感が強い場合:SNRI
    • 痛みを伴う症状がある場合:SNRI(特にデュロキセチン)
  2. 副作用プロファイルによる選択
    • 血圧上昇のリスクがある患者:SSRI(SNRIは血圧上昇の副作用がある)
    • 性機能障害のリスクが懸念される患者:SNRI(SSRIより性機能障害が少ない傾向)
  3. 治療反応性による選択
    • SSRIで効果不十分な場合、SNRIへの切り替えを検討
    • 逆にSNRIで効果不十分な場合、SSRIへの切り替えを検討

重要なのは、SSRIとSNRIを併用するよりも、1剤ずつ効果を確認し、効果が見られなければ別の薬剤に切り替えるという方針です。また、個々の患者の症状、合併症、併用薬、過去の治療歴などを考慮して、最適な薬剤を選択することが重要です。

SSRIとSNRIはどちらも有効な抗うつ薬ですが、それぞれ特徴があり、患者の状態に合わせた選択が求められます。医療従事者は両者の違いを理解し、適切な薬剤選択と服薬指導を行うことが大切です。

厚生労働省:抗うつ薬の適正使用に関する情報

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のオンライン診療との相性と今後の展望

近年、医療のデジタル化が進み、オンライン診療が普及しつつあります。特に精神科領域では、医師と患者のコミュニケーションが治療の中心となるため、オンライン診療との相性が良いとされています。SSRIの処方においても、オンライン診療は重要な役割を果たす可能性があります。

SSRIとオンライン診療の親和性

  1. 通院負担の軽減

    うつ病や不安障害の患者にとって、外出自体が大きな負担となることがあります。オンライン診療により、通院の心理的・身体的負担を軽減できます。

  2. 治療継続率の向上

    SSRIは効果発現までに2〜4週間程度かかるため、継続的な服用が重要です。オンライン診療により通院のハードルが下がることで、治療継続率の向上が期待できます。

  3. 自宅での患者の様子把握

    患者の生活環境を直接観察できることで、より実態に即した評価が可能になります。

  4. 地理的制約の解消

    精神科医が少ない地域でも、専門医による適切な診療を受けられる可能性が広がります。

オンライン診療におけるSSRI処方の注意点

  1. 初診の取り扱い

    初診からのオンライン診療については、対面診療と組み合わせるなど、各医療機関の方針に従う必要があります。

  2. 副作用モニタリング

    特に治療初期の副作用や、自殺リスクの評価など、慎重なモニタリングが必要です。

  3. 処方日数の制限

    オンライン診療における処方日数には制限がある場合があり、地域や医療機関によって異なります。

  4. 緊急時の対応

    状態悪化時の対応について、事前に患者と取り決めておくことが重要です。

今後の展望

デジタルヘルスの進展により、SSRIなどの抗うつ薬治療とオンライン診療の組み合わせはさらに発展する可能性があります。例えば、スマートフォンアプリを活用した服薬管理や症状モニタリング、オンラインCBT(認知行動療法)との併用など、新たな治療アプローチが期待されています。

また、電子処方箋の普及により、オンライン診療からシームレスに薬局での調剤・服薬指導につながるシステムも整備されつつあります。これにより、SSRIのアドヒアランス向上や、より個別化された治療が可能になるでしょう。

ただし、オンライン診療にはメリットがある一方で、対面診療の重要性も忘れてはなりません。特に重症例や複雑な症例では、対面診療との適切な組み合わせが求められます。医療従事者は、それぞれの患者に最適な診療形態を見極め、SSRIによる治療効果を最大化することが重要です。

厚生労働省:オンライン診療の適切な実施に関する指針