頭部外傷の症状と診断から治療まで

頭部外傷と診断

頭部外傷の基本知識
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発生頻度

日本では年間約28〜30万人の頭部外傷患者が発生し、不慮の事故による死亡原因の第5位を占めています。

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主な原因

交通事故(頭部外傷死の約60%)、転倒・転落、第三者行為などが主な原因です。

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損傷の種類

頭皮(皮膚)の損傷、頭蓋骨の損傷、脳実質の損傷の3つに大別されます。

頭部外傷とは、頭部に外力が加わることによって生じる頭皮・頭蓋骨・脳の損傷を指します。日本では年間約28〜30万人の頭部外傷患者が発生しており、不慮の事故による死亡原因の第5位を占める重要な疾患です。特に高齢化社会において転倒による頭部外傷が増加傾向にあり、医療従事者にとって適切な診断と治療の知識が不可欠となっています。

頭部外傷の原因としては、交通事故が最も多く、頭部外傷による死亡の約60%を占めています。次いで転落・転倒、暴力行為などが挙げられます。また、スポーツ外傷や幼児虐待による頭部外傷も見逃せない問題となっています。

頭部外傷の診断においては、受傷機転(どのように怪我をしたか)の詳細な聴取が重要です。また、意識状態の評価にはGlasgow Coma Scale(GCS)が広く用いられ、開眼反応、言語反応、運動反応の3項目で評価します。画像診断としては、CTやMRIが用いられますが、特に小児の場合は放射線被曝を考慮し、MRIが推奨されることもあります。

頭部外傷の皮膚損傷の種類と特徴

頭部外傷における皮膚損傷は、その程度によって大きく3つに分類されます。まず最も軽度なものが「皮下血腫」、いわゆる「たんこぶ」です。これは打撲部位の皮下組織に出血が生じた状態で、通常は2週間から1ヶ月程度で自然に吸収されます。時に血腫が重力で顔面方向に移動し、顔が紫色や黄色に変色することもありますが、これも同様の期間で改善することが多いです。

次に「擦過傷」があります。これは表皮が剥離した状態の浅い傷で、いわゆる「擦り傷」のことです。縫合は不要で、適切な洗浄と清潔保持により1〜2週間で自然治癒します。

最後に「挫創」があり、これは深い創傷で縫合が必要となります。頭皮は血管が豊富なため、小さな傷でも出血量が多くなる特徴があります。また、頭皮は頭蓋骨や頭蓋内静脈と連絡があるため、皮下感染を起こすと免疫力の低下した患者では頭蓋内に細菌が侵入し、脳膿瘍などの重篤な合併症を引き起こす可能性もあります。

挫創の処置では、創部の十分な洗浄と消毒の後、ステイプラーやナイロン糸による縫合が行われます。患者の栄養状態や免疫状態によっては感染リスクが高まるため、抗生剤の投与も考慮されます。通常、問題がなければ1週間後に抜糸・抜鉤が行われますが、感染や創部治癒の遅延がある場合は形成外科へのコンサルテーションが必要となることもあります。

頭部外傷における頭蓋骨損傷の診断と対応

頭蓋骨の損傷は、その性状により主に「線状骨折」と「陥没骨折」の2つに分類されます。

線状骨折は、いわゆる「骨にヒビが入った状態」で、手足の骨折と異なり骨が大きく変位することはまれです。転倒して頭を打った場合、多くは頭蓋冠(円蓋部)と呼ばれる部分に骨折が生じます。重要なのは、受傷当日に頭蓋内出血が認められなくても、入院による経過観察が推奨されている点です。これは非骨折例と比較して、頭蓋内出血を起こす確率が300倍も高いとされているためです。

成人の場合、線状骨折自体はその後に問題を起こすことは少ないですが、成長期の小児では骨折部位がうまく成長できず、頭蓋骨に穴が開いてしまう「growing out fracture」という状態になることがあります。そのため、小児の頭蓋骨骨折ではその後のフォローアップが特に重要となります。

一方、陥没骨折は線状骨折よりも重症で、複雑に骨が折れて脳側に凹んでしまう状態です。陥没の程度が大きく脳への圧迫が強い場合は待機的に手術が必要となることがあります。また、骨折部位の硬膜が損傷し外界と交通してしまっている場合は、脳脊髄液の漏出が生じるため緊急手術の適応となります。

頭蓋骨骨折の診断にはCTが有用ですが、小児の場合は放射線被曝を考慮し、MRIによる評価も検討されます。また、頭蓋底骨折では耳や鼻からの脳脊髄液漏出(耳漏、鼻漏)、眼窩周囲の皮下出血(アライグマ徴候)、乳様突起部の皮下出血(バトル徴候)などの特徴的な所見が見られることがあり、これらの臨床所見も診断の手がかりとなります。

頭部外傷後の脳損傷と二次性損傷のメカニズム

頭部外傷における脳損傷は、一次性損傷と二次性損傷に分けて考えることが重要です。一次性損傷は外力が直接脳に及んで生じるもので、脳挫傷や神経線維の断裂などが含まれます。一方、二次性損傷は一次性損傷に引き続いて起こるもので、頭蓋内血腫や脳浮腫、脳腫脹などが該当します。

二次性損傷の特徴は、症状が遅れて(多くは十数分から数時間後に)出現することです。そのため、最初は意識清明であっても後に意識障害が出現する場合があり、このような「lucid interval(清明期)」は特に急性硬膜外血腫で有名です。

頭蓋内出血は、その部位によって以下のように分類されます。

  1. 急性硬膜外血腫:硬膜と頭蓋骨の間に血腫が貯留する状態で、多くは中硬膜動脈の損傷によって生じます。前述のlucid intervalが特徴的で、早期診断と治療が予後を大きく左右します。
  2. 急性硬膜下血腫:脳と硬膜の間に血腫が貯留する状態です。急性硬膜外血腫と比較して重症化しやすく、これは硬膜よりも脳が柔らかいため血腫による圧迫で脳が変形しやすいためです。脳幹を圧迫すると生命に関わるため、速やかな開頭術による血腫除去が必要となります。
  3. 外傷性くも膜下出血:くも膜下腔に出血が生じる状態です。非外傷性のくも膜下出血(脳動脈瘤破裂など)と異なり、それ自体で重篤な病態となることは少なく、多くは静脈性の出血で比較的早期に止血されます。
  4. 脳挫傷:脳実質自体が損傷した状態で、前頭葉下面や側頭葉先端部などに多く見られます。初期の脳挫傷はCTでの診断が難しいことがありますが、MRIでは早期からの診断が可能です。両側前頭葉の損傷では脱抑制状態となり、自己制御が困難になることがあります。また、挫傷部位は将来的にてんかん発作の原因となることもあります。

脳損傷の二次性損傷を防ぐためには、頭部外傷後の適切な観察と早期治療が重要です。特に抗血栓薬を内服している患者や肝機能障害のある患者では、受傷後24〜48時間にわたって出血が持続することがあるため、より慎重な経過観察が必要となります。

頭部外傷患者の初期評価と救急対応

頭部外傷患者の初期評価では、まず生命維持に直結するABCDE(Airway、Breathing、Circulation、Disability、Exposure/Environment)アプローチを行います。特に意識障害のある患者では気道確保が最優先事項となります。

次に、神経学的評価としてGlasgow Coma Scale(GCS)による意識レベルの評価、瞳孔径・対光反射の確認、四肢の運動・感覚機能の評価を行います。GCSは15点満点で、13〜15点を軽症、9〜12点を中等症、8点以下を重症頭部外傷と分類します。

また、受傷機転の詳細な聴取も重要です。高エネルギー外傷(交通事故、高所からの転落など)では、多発外傷の可能性を考慮する必要があります。特に頸椎損傷の合併に注意し、頸椎保護を行いながら評価を進めます。

画像診断としては、頭部CTが第一選択となりますが、小児や妊婦では放射線被曝を考慮し、MRIの適応も検討します。また、頸椎損傷が疑われる場合は頸椎CTも併せて行います。

初期治療としては、以下の点に注意します。

  • 気道確保と適切な酸素化の維持
  • 循環動態の安定化(低血圧の回避)
  • 頭蓋内圧上昇の予防・治療(頭位挙上30度、過換気療法など)
  • 痙攣発作の管理
  • 体温管理(高体温の回避)
  • 血糖値の管理

特に重症頭部外傷では、二次性脳損傷を防ぐために頭蓋内圧モニタリングを行い、脳灌流圧を適切に維持することが重要です。頭蓋内圧が20〜25mmHg以上、または脳灌流圧が60mmHg未満の場合は、積極的な治療介入が必要となります。

また、抗凝固薬・抗血小板薬を内服している患者では、これらの薬剤の中和・拮抗を考慮します。ワルファリン内服中の患者にはビタミンKプロトロンビン複合体濃縮製剤、DOACsには特異的拮抗薬の投与を検討します。

頭部外傷と造血機能の関連性について最新知見

頭部外傷と造血機能の関連性については、一般的にはあまり知られていませんが、興味深い研究結果が報告されています。頭部外傷後に造血機能の低下が観察されることがあり、これは中枢神経系と造血系の間に何らかの関連があることを示唆しています。

研究によれば、頭部外傷患者の約20%で赤血球造血活性の低下が認められたとの報告があります。特に注目すべきは、脳腫瘍患者の中でも尿崩症を伴う症例(頭蓋咽頭腫や第三脳室腫瘍など)で造血機能の低下が顕著だったという点です。これは視床下部-下垂体系が造血調節に関与している可能性を示唆しています。

実験的研究では、頭部打撲や髄腔内空気注入後の犬において一時的な造血機能低下が観察されています。また、脳の特定部位への定位的電気凝固実験により、造血中枢の存在と局在が研究されています。

頭部外傷後の造血機能評価には、末梢血中の網状赤血球数や骨髄中のM:E比(骨髄球系細胞と赤芽球系細胞の比率)が用いられます。造血機能低下のメカニズムとしては、以下のような仮説が考えられています。

  1. 視床下部-下垂体系を介したホルモン調節の障害
  2. 自律神経系を介した骨髄微小環境の変化
  3. 炎症性サイトカインの放出による造血抑制
  4. 直接的な骨髄幹細胞への影響

臨床的には、頭部外傷後の貧血が遷延する場合、単なる出血による貧血だけでなく、中枢性の造血機能低下の可能性も考慮する必要があります。特に視床下部-下垂体系の損傷が疑われる症例では、内分泌学的評価と併せて造血機能の評価も重要となるでしょう。

この分野の研究はまだ発展途上ですが、頭部外傷後のリハビリテーション過程における貧血管理や、造血機能回復のための新たな治療アプローチの開発につながる可能性があります。

頭部外傷と造血機能の関連性に関する臨床的・実験的研究の詳細はこちら

頭部外傷後の経過観察と注意点

頭部外傷後の経過観察は、二次性脳損傷の早期発見と適切な対応のために非常に重要です。特に受傷直後は症状がなくても、時間の経過とともに頭蓋内出血が増大し、症状が出現することがあります。

頭部外傷後に注意すべき症状としては、以下のものが挙げられます。

  • 頭痛が徐々に強くなり、吐き気・嘔吐が繰り返し起こる
  • 意識レベルの低下(ぼんやりする、すぐに眠ってしまう、起こしても起きにくい)
  • 複視(