胆管炎の症状と発熱や黄疸の特徴的な徴候

胆管炎の症状と原因

胆管炎の基本情報
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胆管炎とは

胆汁の通り道である胆管に炎症が起こる疾患で、細菌感染によって引き起こされます。

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危険性

適切な治療が行われないと敗血症や多臓器不全に進行し、死亡率は2.7~10%と報告されています。

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主な症状

発熱、黄疸、右上腹部痛(シャルコーの三徴)が特徴的ですが、すべての症状が揃わないこともあります。

胆管炎は、胆汁の通り道である胆管に炎症が起こる疾患です。胆管は肝臓で作られた胆汁を十二指腸へと運ぶ管で、何らかの原因で胆管が閉塞し、胆汁の流れが滞ると細菌感染を起こし、炎症が発生します。この記事では、胆管炎の症状や原因、診断方法、治療法について詳しく解説します。

胆管炎の症状とシャルコーの三徴

胆管炎の典型的な症状として知られているのが「シャルコーの三徴」です。これは1887年にシャルコーが初めて記載したもので、以下の3つの症状を指します。

  1. 発熱:高熱(38℃以上)が出ることが多く、悪寒や震え(悪寒戦慄)を伴うことがあります。これは細菌感染による全身反応の表れです。
  2. 黄疸:皮膚や白目が黄色くなる症状です。胆汁の成分(ビリルビン)が肝臓で血液に吸収され、皮膚や白目などに沈着することで起こります。
  3. 右上腹部痛:みぞおちから右の肋骨の下あたりに痛みを感じます。胆管がつまって胆汁がうっ滞することで生じます。

しかし、これら3つの症状がすべて揃うのは患者の50~70%程度とされており、必ずしもすべての症状が現れるわけではありません。特に高齢者では非典型的な症状を示すことが多いため注意が必要です。

胆管炎の重症度と危険なレイノルズの五徴

胆管炎が重症化すると、シャルコーの三徴に加えて以下の2つの症状が現れることがあります。

  1. 意識障害:錯乱や意識レベルの低下が見られます。
  2. ショック状態血圧が低下し、全身に十分な血流や酸素が供給されなくなります。

これら5つの症状を合わせて「レイノルズの五徴」と呼び、急性閉塞性化膿性胆管炎(AOSC: Acute Obstructive Suppurative Cholangitis)の状態を示します。この状態は非常に危険で、敗血症やDIC(汎発性血管内血液凝固症)、多臓器不全といった重篤な状態に進行する可能性が高く、緊急の治療が必要です。

レイノルズの五徴がすべて揃った場合の死亡率は約50%とも言われており、胆管炎は感染症の中でも特に死亡率が高い疾患の一つです。2017年の日本と台湾の急性胆管炎患者を対象とした研究では、急性胆管炎全体の死亡率は2.7%(約40人に1人)と報告されています。

胆管炎の症状と他の消化器疾患との違い

胆管炎は胆嚢炎と混同されることがありますが、臨床像が異なります。胆嚢炎は急性腹症を呈することが多いのに対し、胆管炎は腹痛が目立たず、敗血症が主体となる場合がしばしばあります。

胆管炎と胆嚢炎の症状の違い。

症状 胆管炎 胆嚢炎
発熱 高熱が多い(悪寒戦慄を伴う) 発熱はあるが比較的軽度
腹痛 右上腹部痛(目立たないこともある) 右上腹部痛(マーフィー徴候が特徴的)
黄疸 頻度が高い 頻度は低い
全身状態 敗血症症状が主体になりやすい 局所症状が主体
重症度 より重症化しやすい 比較的限局的

また、胆管炎の症状は膵炎と類似していることもあります。特に胆石が原因の場合、膵炎を合併することもあるため、鑑別診断が重要です。

胆管炎の症状と見逃しやすい初期症状

胆管炎の初期症状は非特異的なことが多く、見逃されやすい傾向があります。特に注意すべき初期症状には以下のようなものがあります。

  • 倦怠感:全身のだるさや疲労感を感じます。
  • 食欲不振:食べる意欲が低下します。
  • 吐き気・嘔吐:消化器症状として現れることがあります。
  • 背部痛:右側の背中に痛みを感じることがあります。
  • 尿の色の変化:尿が濃い茶色や褐色になることがあります。
  • 便の色の変化:便が白っぽくなったり、粘土色になったりします。

これらの症状は他の疾患でも見られるため、胆管炎と診断するのは難しいことがあります。特に高齢者では典型的な症状が現れにくく、単なる「体調不良」と思われてしまうことがあるため注意が必要です。

実際に、医療現場では「高齢者の嘔気と背部痛」で受診し、最初は圧迫骨折を疑われたが、念のため採血をしたところ肝胆道系酵素の上昇が見られ、造影CT検査で総胆管結石による胆管炎と診断されたケースも報告されています。

胆管炎の症状と免疫力低下時の特徴

免疫力が低下している患者(高齢者、糖尿病患者、ステロイド使用中の患者、抗がん剤治療中の患者など)では、胆管炎の症状が非典型的になることがあります。特に注意すべき特徴として。

  1. 発熱が目立たないことがある:通常は高熱を伴うことが多い胆管炎ですが、免疫力が低下している患者では発熱が軽度であったり、まったく見られないこともあります。
  2. 痛みの訴えが少ない:痛みの感覚が鈍くなっていたり、痛みを適切に表現できない場合があります。
  3. 意識障害が初発症状となることがある:高齢者では特に、意識障害や混乱が胆管炎の最初の症状として現れることがあります。
  4. 全身状態の急速な悪化:症状が軽微であっても、急速に敗血症性ショックに進行することがあります。

免疫力が低下している患者では、わずかな体調の変化でも胆管炎を疑い、早期に医療機関を受診することが重要です。

胆管炎は前日まで元気であった人が1日でショック状態になりうる内科疾患の中でも緊急性の高い疾患の一つです。細菌性髄膜炎、結石性腎盂腎炎、感染性心内膜炎、壊死性筋膜炎などと同様に、迅速な診断と治療が必要とされます。

胆管炎の原因と診断

胆管炎の発症には、主に2つの要素が重要とされています:①胆管内で細菌が増殖すること、②細菌や炎症性物質が胆管から血流に逆流するような胆管内圧の上昇です。これらの条件が揃うことで、胆管炎が発症します。

胆管炎の原因と胆石の関係

胆管炎の最も一般的な原因は胆石(特に総胆管結石)です。胆石が胆管に落ちて胆汁の流れを妨げると、胆汁がうっ滞し、細菌感染を引き起こします。

胆管炎の主な原因。

  1. 胆石:胆管に詰まり、胆汁の流れを妨げます。最も頻度の高い原因です。
  2. 胆道狭窄
    • がん(胆管がん、膵頭部がん、転移性腫瘍など)による狭窄
    • 良性疾患(慢性膵炎、胆嚢摘出術後など)による狭窄
  3. 胆道ステントの感染:胆道ドレナージ処置後の感染
  4. 寄生虫感染:まれに胆管内で寄生虫が増殖することがあります
  5. 免疫異常:原発性硬化性胆管炎などの自己免疫疾患

川と水溜りの関係を想像するとわかりやすいでしょう。流れがあるところは汚れにくいですが、流れが滞ると澱みやすくなります。同様に、胆管内の胆汁の流れが滞ると、細菌が増殖しやすい環境となります。

胆管炎の診断と検査方法

胆管炎の診断には、症状の確認、血液検査、画像検査などが用いられます。

1. 血液検査

  • 白血球数増加:感染の存在を示します
  • CRP上昇:炎症反応の指標です
  • 肝胆道系酵素の上昇:AST(GOT)、ALT(GPT)、ALP、γ-GTP、LDHなどが上昇します
  • ビリルビンの上昇:黄疸の指標となります
  • 血液培養:起因菌の同定に役立ちます

2. 画像検査

  • 腹部超音波(エコー)検査:胆管の拡張や結石の有無を確認します
  • CT検査:胆管の状態や周囲の臓器の状態を評価します
  • MRCP(磁気共鳴胆道膵管造影):胆管の詳細な状態を非侵襲的に評価できます
  • ERCP(内視鏡的逆行性胆道膵管造影):診断と同時に治療も行えます

3. 診断基準

東京ガイドライン2018(TG18)では、以下の3項目に基づいて急性胆管炎を診断します。

A. 全身の炎症所見

B. 胆汁うっ滞所見

C. 胆管病変の画像所見

これらの所見に基づいて、「確診」「疑診」に分類されます。

胆管炎の原因菌と抗菌薬選択

胆管炎の原因となる細菌は多岐にわたりますが、主に腸内細菌が関与します。

主な原因菌

  1. グラム陰性桿菌(頻度が高い)。
    • 大腸菌(E. coli):37-40%
    • クレブシエラ菌(K. pneumoniae):19-20%
    • クレブシエラ・オキシトカ(K. oxytoca):4-5%
  2. グラム陽性球菌(頻度がやや低い)。
    • 腸球菌(Enterococcus):3.7-4.9%
    • エンテロバクター・クロアカエ(Enterobacter cloacae):2.4-3.6%
  3. 嫌気性菌
    • クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens):4.3-4.9%

抗菌薬の選択は、患者の重症度や地域の薬剤感受性パターンに基づいて行われますが、一般的にはグラム陰性桿菌と嫌気性菌をカバーできる広域スペクトラムの抗菌薬が選択されます。

重症度別の抗菌薬選択

  • 軽症:セファゾリン、アンピシリン/スルバクタムなど
  • 中等症・重症:ピペラシリン/タゾバクタム、メロペネムなど

胆管炎の症状と特殊な状況での注意点

特定の状況下では、胆管炎の症状や診断が通常とは異なることがあります。

1. 膵頭十二指腸切除術(PD)後の胆管炎

PD術後は胆管と小腸が吻合されている状態で、吻合部に狭窄(良性または悪性腫瘍浸潤)があると区域性胆管炎を呈することがあります。この場合、以下の特徴があります。

  • 胆管拡張がなくても胆管炎が起こりうる
  • 肝内胆管へ腸内細菌が逆流して感染を起こす可能性がある
  • 採血上、肝胆道系酵素の上昇を認めない場合もある

2. 免疫抑制状態の患者の胆管炎

免疫抑制状態(臓器移植後、ステロイド長期投与中、化学療法中など)の患者では。

  • 典型的な発熱パターンが見られないことがある
  • 炎症マーカーの上昇が軽度にとどまることがある
  • 症状が非典型的で診断が遅れやすい

3. 高齢者の胆管炎

高齢者では。

  • 腹痛の訴えが少ないことがある
  • 意識障害や全身状態の悪化が主訴となることがある
  • 発熱が軽度であることがある
  • 非特異的な症状(食欲不振、倦怠感など)のみが現れることがある

これらの特殊な状況では、通常の診断基準に当てはまらないことがあるため、臨床的な疑いが重要になります。

胆管炎の治療と予防

胆管炎の治療は、主に以下の2つの柱から成り立っています。

  1. 抗菌薬治療:細菌感染をコントロールするための治療
  2. 胆道ドレナージ