皮膚筋炎の症状と診断および治療
皮膚筋炎の特徴的な皮膚症状とその診断的価値
皮膚筋炎の診断において、特徴的な皮膚症状の存在は非常に重要です。最も代表的な皮膚所見としては、上眼瞼に現れる紫紅色の浮腫性紅斑である「ヘリオトロープ疹」と、手指関節背面に見られる境界明瞭な暗紫色扁平な皮疹「ゴットロン徴候」または丘疹状の「ゴットロン丘疹」が挙げられます。
しかし、診断の際に注意すべき点として、これら2つの徴候のみでは約6%の症例で診断できないことが知られています。また、甲状腺機能低下症でもヘリオトロープ疹に類似した所見が見られたり、尋常性乾癬でもゴットロン徴候に似た所見を呈したりすることがあります。そのため、複数の好発部位を系統的に診察することが重要です。
その他の特徴的な皮膚所見
- 前胸部のV字型紅斑(Vネックサイン)
- 肩から上背部にかけての紅斑(ショール徴候)
- 背中の掻爬による綿状の紅斑(むち打ち様紅斑)
- 手指の「機械工の手徴候」(mechanic’s hand):ざらざらした角化性の皮疹
特に「むち打ち様紅斑」は掻爬によるケブネル徴候であり、診断的価値が高いとされています。皮膚筋炎の皮疹の特徴として、かゆみを伴うことが多い点も鑑別に役立ちます。
皮膚所見を詳細に観察する際には、「顔と耳と手指」を重点的に診察することが推奨されています。顔では、ヘリオトロープ疹以外にも鼻根部や鼻翼周囲、前額部の皮疹に注意が必要です。また、通常の皮膚炎では所見を認めにくい耳周囲の皮疹も皮膚筋炎では特徴的です。
皮膚筋炎における筋症状と筋力低下の特徴
皮膚筋炎の筋症状は、多発性筋炎と同様に、対称性の筋力低下が主体となります。特に近位筋優位に症状が現れるのが特徴で、上腕から肩、頸部、大腿の筋肉に症状が出やすくなります。
具体的な筋症状としては以下のようなものがあります。
- 近位筋優位の筋力低下:腕が挙げにくい、しゃがみにくい、立ち上がりにくいなどの症状
- 筋肉痛:筋肉に炎症が起こることによる痛み
- 筋肉の圧痛:筋肉を押すと痛みを感じる
- 筋疲労感:通常より早く疲れを感じる
- 筋萎縮:進行すると筋肉の萎縮が見られることもある
また、呼吸筋や嚥下筋も侵されることがあり、呼吸困難や嚥下困難といった症状が現れることもあります。これらの症状は生命予後に直結する可能性があるため、早期発見・早期治療が重要です。
筋症状の評価には、徒手筋力テストや日常生活動作の評価が用いられます。また、客観的な評価として、血液検査での筋原性酵素(クレアチンキナーゼ[CK]、アルドラーゼ、GOT、LDHなど)の上昇が診断の手がかりとなります。特にCK値は疾患活動性のモニタリングにも用いられます。
筋症状の確定診断には、MRIによる筋炎の画像診断や、筋電図、筋生検などが行われます。筋生検では、皮膚筋炎に特徴的な病理所見として、筋束周辺の炎症細胞浸潤や筋線維の変性・壊死などが観察されます。
皮膚筋炎の自己抗体と合併症の関連性
皮膚筋炎では、特異的な自己抗体が70%以上の症例で検出され、これらの抗体は疾患の分類や予後予測に非常に有用です。興味深いことに、1つの症例では通常1種類の抗体のみが陽性となり、抗体の種類と臨床像には強い相関があります。
主要な筋炎特異的自己抗体とその臨床的特徴は以下の通りです。
- 抗ARS抗体(抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体)
- 抗MDA5抗体
- 臨床的無筋症性皮膚筋炎(CADM)に多く見られる
- 予後不良の急性進行性間質性肺炎を合併(半数が重症で死亡例が多い)
- 逆ゴットロン徴候(鉄棒まめ様皮疹)が特徴的
- CK値は比較的低値(2,000以下)であることが多い
- 抗TIF1抗体
- 悪性腫瘍との関連が強い(40歳以上では約70%に悪性腫瘍を合併)
- 皮疹が重症で、嚥下障害を合併することが多い
- CK値は比較的低値(1,000以下)が多いが、高値ほど悪性腫瘍合併リスクが高い
- 抗Mi2抗体
- 古典的な皮膚筋炎の臨床像を呈する
- 筋症状が強い傾向がある
- 間質性肺炎は比較的まれで、生命予後は良好
- CK値は高値を示すことが多い
- その他の抗体
- 抗NXP2抗体:悪性腫瘍合併と関連し、皮膚の石灰沈着が特徴的
- 抗SAE抗体:抗TIF1抗体陽性例に類似した症状を呈する
これらの自己抗体検査は、皮膚筋炎の診断だけでなく、合併症のリスク評価や治療方針の決定にも重要な役割を果たします。特に間質性肺炎や悪性腫瘍といった生命予後に関わる合併症の早期発見には、自己抗体の種類に基づいたスクリーニング検査が推奨されます。
皮膚筋炎の治療法とステロイド療法の実際
皮膚筋炎の治療は、疾患活動性の抑制と合併症の予防・管理を目的として行われます。治療の基本はステロイド療法ですが、症例の重症度や合併症の有無によって治療戦略は異なります。
ステロイド療法の基本
皮膚筋炎・多発性筋炎ともに、ステロイド治療が第一選択となります。通常、プレドニゾロン換算で0.5-1mg/kg/日の高用量から開始し、臨床症状や検査所見の改善に応じて徐々に減量していきます。減量のペースは一般的に2〜4週間ごとに10〜20%程度とされていますが、個々の患者の状態に応じて調整します。
ステロイド治療に際しては、以下の合併症予防対策が重要です。
- 感染症予防(予防的抗菌薬の使用を検討)
- 胃・十二指腸潰瘍予防(プロトンポンプ阻害薬の併用)
- ステロイド骨粗鬆症予防(ビスホスホネート製剤、ビタミンD製剤の併用)
- ステロイド糖尿病への対策(血糖モニタリングと適切な介入)
免疫抑制剤の併用
ステロイド単独で効果不十分な場合や、ステロイド減量時の再燃防止、ステロイド減量を促進する目的で、以下の免疫抑制剤が併用されます。
特に間質性肺炎合併例では、早期からの免疫抑制剤併用が推奨されています。
その他の治療法
- 大量免疫グロブリン療法(IVIg)
- ステロイド抵抗性の症例、特に嚥下障害を伴う例に有効
- 通常400mg/kg/日を5日間投与
- アフェレシス療法
- 急速進行性の間質性肺炎に対して血漿交換やPMX-DHPを実施
- 重症例では早期導入が重要
- 生物学的製剤
- リツキシマブなどの分子標的治療薬が難治例に試みられることがある
- リハビリテーション
- 活動期には安静、回復期には積極的な理学療法が重要
- 筋力回復と日常生活動作の改善を目指す
治療経過のモニタリングには、臨床症状の評価とともに、CKなどの筋原性酵素の定期的測定が有用です。また、間質性肺炎合併例では、呼吸機能検査や画像検査による肺病変の評価も重要となります。
皮膚筋炎は厚生労働省の指定難病であり、医療費の公費負担制度があるため、診断がついたら申請するよう患者に指導することも医療従事者の重要な役割です。
皮膚筋炎と多臓器合併症の早期発見と管理
皮膚筋炎は全身性疾患であり、筋肉や皮膚の症状だけでなく、様々な臓器に合併症を引き起こす可能性があります。これらの合併症は生命予後に大きく影響するため、早期発見と適切な管理が極めて重要です。
間質性肺炎
間質性肺炎は皮膚筋炎の最も重要な合併症の一つで、特に抗ARS抗体陽性例や抗MDA5抗体陽性例で高頻度に認められます。
- 臨床像:乾性咳嗽、労作時呼吸困難、捻髪音(fine crackles)
- 検査:胸部CT(すりガラス影、網状影、蜂巣肺など)、肺機能検査(拘束性換気障害)
- 管理。
- 抗MDA5抗体陽性の急速進行性間質性肺炎では、初期からステロイドと免疫抑制剤の併用療法が必須
- 呼吸状態の定期的評価(SpO2モニタリング、6分間歩行テストなど)
- 感染症との鑑別が重要(時に気管支肺胞洗浄が必要)
悪性腫瘍
成人の皮膚筋炎では約30%に悪性腫瘍を合併するとされ、特に抗TIF1抗体陽性例や抗NXP2抗体陽性例でリスクが高まります。