高ビリルビン血症の種類と原因疾患
高ビリルビン血症の間接型と直接型の違いと特徴
高ビリルビン血症は、血液中のビリルビン濃度が異常に上昇した状態を指します。ビリルビンは赤血球の破壊によって生じるヘモグロビンの代謝産物であり、通常は肝臓で処理されて胆汁として排泄されます。血中ビリルビン値が正常値(1.0 mg/dL未満)を超えると高ビリルビン血症と診断され、2~3 mg/dL以上になると皮膚や眼球の黄染(黄疸)として現れます。
高ビリルビン血症は大きく2つのタイプに分けられます。
- 間接型(非抱合型)ビリルビン優位の高ビリルビン血症
- 不溶性で水に溶けにくい性質を持つ
- 肝臓でグルクロン酸抱合を受ける前の状態
- 血液検査ではジアゾ試薬と直接反応しないため「間接ビリルビン」と呼ばれる
- 直接型(抱合型)ビリルビン優位の高ビリルビン血症
- 水溶性で肝臓でグルクロン酸抱合を受けた状態
- 血液検査ではジアゾ試薬と直接反応するため「直接ビリルビン」と呼ばれる
この2つのタイプの違いを理解することは、原因疾患の特定に非常に重要です。間接型が優位の場合は主に赤血球の破壊(溶血)や肝臓での抱合障害が考えられ、直接型が優位の場合は肝細胞障害や胆汁の排泄障害が考えられます。
高ビリルビン血症における肝機能検査AST・ALTの意義
肝機能検査は高ビリルビン血症の原因を特定するうえで欠かせない検査です。特にAST(GOT)とALT(GPT)は肝細胞の障害を評価する重要な指標となります。
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)はいずれもアミノ酸のアミノ基を2-オキソグルタル酸に転移するトランスアミナーゼです。これらの酵素は通常細胞内に存在していますが、細胞が破壊されると血液中に流出します。そのため、血液検査でこれらの酵素活性が上昇していれば、細胞障害が起きていることを示しています。
ASTとALTの特徴比較:
酵素 | 主な存在場所 | 肝特異性 | 上昇する主な疾患 |
---|---|---|---|
AST(GOT) | 肝臓、心筋、骨格筋、赤血球など | 低い | 肝疾患、心筋梗塞、筋肉疾患など |
ALT(GPT) | 主に肝臓 | 高い | 肝疾患(ウイルス性肝炎、薬剤性肝障害など) |
ALTはASTよりも肝特異性が高いため、ALTの上昇は肝臓の障害を強く示唆します。一方、ASTは肝臓以外の組織にも存在するため、AST単独の上昇では障害臓器の特定が難しいことがあります。
高ビリルビン血症で直接型ビリルビンが優位であり、かつASTとALTの上昇を伴う場合は、肝実質性肝障害(ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、薬剤性肝障害、アルコール性肝障害など)が疑われます。特にASTとALTが100を超える場合は重度の肝細胞障害を示唆し、全身倦怠感などの症状が出現することが多くなります。
高ビリルビン血症と溶血性貧血の関連性
間接型ビリルビンが優位の高ビリルビン血症の主な原因の一つに溶血性貧血があります。溶血性貧血とは、赤血球が通常よりも早く破壊される状態を指します。赤血球が破壊されると、ヘモグロビンからビリルビンが生成されますが、その量が肝臓の処理能力を超えると、間接型ビリルビンが血液中に蓄積します。
溶血性貧血による高ビリルビン血症の特徴:
- 間接型(非抱合型)ビリルビンが優位に上昇
- 血清LDH値の上昇(特にL2分画)
- 網状赤血球の増加
- 血清ハプトグロビンの低下
溶血性貧血にはさまざまな原因があります。
- 遺伝性疾患
- 鎌状赤血球症
- サラセミア
- 遺伝性球状赤血球症
- 後天性要因
- 自己免疫性溶血性貧血
- 薬剤性溶血性貧血
- マラリアなどの感染症
- 機械的溶血(人工弁による溶血など)
溶血性貧血による高ビリルビン血症の診断には、末梢血液塗抹標本の観察、直接・間接クームス試験、赤血球酵素活性測定などが行われます。治療は原因に応じて行われますが、自己免疫性の場合はステロイド療法や免疫抑制剤、遺伝性の場合は対症療法や輸血、重症例では脾臓摘出術が検討されることもあります。
高ビリルビン血症と体質性黄疸(ギルバート症候群)
間接型ビリルビンが優位に上昇する高ビリルビン血症の中で、最も一般的な良性の疾患がギルバート症候群です。これは体質性黄疸の一種で、人口の約8%に見られる比較的頻度の高い状態です。
ギルバート症候群は、肝臓でビリルビンをグルクロン酸と結合させる酵素(UDP-グルクロニルトランスフェラーゼ)の活性が低下している遺伝的な状態です。この酵素活性の低下により、間接型ビリルビンが十分に直接型に変換されず、血中に蓄積します。
ギルバート症候群の特徴:
- 間接型ビリルビンの軽度上昇(通常1~2 mg/dL程度)
- AST、ALTなどの肝機能検査値は正常
- 空腹、疲労、ストレス、感染症などで一時的に悪化することがある
- 通常は無症状で、時に軽度の黄疸を呈する
- 治療の必要はなく、予後は良好
ギルバート症候群の診断は、間接型ビリルビンの軽度上昇と他の肝機能検査が正常であることを確認し、他の肝疾患や溶血性疾患を除外することで行われます。特徴的なのは、絶食によりビリルビン値が上昇することで、これを利用した絶食試験が診断に用いられることもあります。
重要なのは、ギルバート症候群は良性の状態であり、肝臓の障害を引き起こさないことです。治療の必要はなく、今後値が大きく上昇することもほとんどないため、毎年の健康診断で経過観察するだけで十分です。ただし、患者さんに不安を与えないよう、良性の体質であることを十分に説明することが重要です。
高ビリルビン血症における閉塞性黄疸とγ-GTPの関係
直接型ビリルビンが優位に上昇する高ビリルビン血症の中で、胆管の閉塞によるものを閉塞性黄疸と呼びます。閉塞性黄疸では、肝臓で抱合されたビリルビンが胆管の閉塞によって十分に排泄されず、血中に逆流して直接型ビリルビンが上昇します。
閉塞性黄疸の診断において、γ-GTP(ガンマ-グルタミルトランスペプチダーゼ)は非常に重要な指標となります。γ-GTPは肝臓や胆道系に存在する酵素で、特に胆汁うっ滞を敏感に反映します。
閉塞性黄疸の特徴:
- 直接型(抱合型)ビリルビンの上昇
- γ-GTPの著明な上昇
- ALP(アルカリホスファターゼ)の上昇
- 超音波検査やCTで胆管拡張が見られる
- 尿の色が濃くなり(ビリルビン尿)、便の色が薄くなる(灰白色便)
閉塞性黄疸の原因としては、以下のようなものが考えられます。
γ-GTPは「お酒の値」としても知られていますが、アルコール摂取以外にも胆汁うっ滞や薬剤性肝障害などでも上昇します。γ-GTPが高値の場合、まずはアルコール摂取を中止して再検査を行い、それでも下がらない場合は画像検査などでより詳細な評価が必要です。
閉塞性黄疸は放置すると胆管炎や肝不全などの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、原因に応じた適切な治療(内視鏡的処置、外科的処置など)が必要です。
高ビリルビン血症と電解質バランス(Na・K・Cl)の重要性
高ビリルビン血症の評価において、電解質バランスの確認も重要な側面です。特にナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)は体内のミネラルバランスを表す指標として、肝機能障害の重症度や合併症の評価に役立ちます。
電解質は体内の様々な生理機能に関わっており、肝疾患では電解質異常が生じることがあります。特に重症の肝疾患や肝不全では、ホメオスタシス(体内環境の恒常性)が乱れ、電解質バランスの異常が起こりやすくなります。
電解質と肝疾患の関係:
- ナトリウム(Na)
- 重症肝疾患では低ナトリウム血症が生じることがある
- 腹水を伴う肝硬変では希釈性低ナトリウム血症が見られることがある
- 基準値範囲:135~145 mEq/L
- カリウム(K)
- クロール(Cl)
- 通常はナトリウムと連動して変動
- 代謝性アルカローシスでは低クロール血症が見られることがある
- 基準値範囲:98~108 mEq/L
電解質異常、特にカリウム異常は重篤な合併症を引き起こす可能性があるため注意が必要です。カリウム値が5 mEq/L以上に上昇した場合は、心臓への影響を考慮して慎重に経過観察する必要があります。
ただし、採血手技によっても電解質値は影響を受けることがあります。例えば、細い針での採血や採血に時間がかかった場合には溶血が起こり、カリウム値が見かけ上高くなることがあります。そのため、単回の異常値だけでなく、複数回の採血結果を比較検討することが重要です。
高ビリルビン血症の患者さんでは、肝機能検査と併せて電解質バランスも定期的にチェックし、異常がある場合は適切な補正を行うことが、合併症予防のために重要です。
高ビリルビン血症と糖尿病診断の関連性
高ビリルビン血症の評価において、空腹時血糖値(FBS)の確認も重要です。肝臓は糖代謝の中心的な臓器であり、肝機能障害は血糖コントロールにも影響を与えることがあります。また、糖尿病と肝疾患は相互に関連しており、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は2型糖尿病の患者さんに多く見られます。
空腹時血糖値と糖尿病診断:
空腹時血糖値が110 mg/dL以上になると「要精密検査」となることが多く、患者さんが不安に思って医療機関を受診するケースが増えています。しかし、1回の検査で110 mg/dLを超えただけでは、すぐに糖尿病と診断されるわけではありません。
糖尿病の診断基準:
- 空腹時血糖値が2回126 mg/dL以上
- 空腹時血糖値が1回126 mg/dL以上 + HbA1c(ヘモグロビンA1c)