腎シンチグラフィの種類と適応と評価方法

腎シンチグラフィの種類と特徴

 

腎シンチグラフィの基本情報
💉

検査の目的

腎臓の機能や形態を非侵襲的に評価する核医学検査

🔍

主な種類

腎動態シンチグラフィと腎静態シンチグラフィの2種類

⏱️

検査時間

動態:約30分間の連続撮像、静態:注射後1〜2時間後に撮像

 

腎シンチグラフィは、ラジオアイソトープ(RI)という放射性医薬品を用いて腎臓の状態を評価する核医学検査です。この検査は腎臓の機能や形態を非侵襲的に評価できる点が大きな特徴で、他の検査方法では得られない情報を提供します。

腎シンチグラフィは大きく分けて2種類あります。腎臓の機能を評価する「腎動態シンチグラフィ」と、腎臓の形態を評価する「腎静態シンチグラフィ」です。それぞれ使用する放射性医薬品や検査の目的、方法が異なります。

腎シンチグラフィの動態検査と使用核種の特徴

腎動態シンチグラフィは、腎臓への血流や腎機能を経時的に評価する検査です。主に使用される放射性医薬品(核種)は以下の2種類です。

  1. 99mTc-MAG3(テクネチウム99m標識マーカプトアセチルトリグリシン)
    • 主に近位尿細管から排泄される物質
    • 腎血漿流量(ERPF: effective renal plasma flow)の評価に適している
    • 腎機能が低下した症例でも比較的明瞭に腎尿路系の機能形態情報を捉えることができる
    • 第一選択として使用されることが多い
  2. 99mTc-DTPA(テクネチウム99m標識ジエチレントリアミン五酢酸)
    • 糸球体濾過のみで排泄される物質(糸球体濾過物質)
    • 糸球体濾過率(GFR: glomerular filtration rate)の評価に適している
    • 1回循環による濾過率は約20%

検査の実施方法としては、放射性医薬品を静脈注射し、直後から腎臓への集積と排泄の様子を25〜30分間連続的に撮像します。検査前には水分を200〜300ml摂取し、検査直前に排尿することが一般的です。

腎シンチグラフィの静態検査と分腎機能評価

腎静態シンチグラフィは、主に腎臓の形態や位置、病変部位を評価するための検査です。使用される放射性医薬品は99mTc-DMSA(テクネチウム99m標識ジメルカプトコハク酸)です。

99mTc-DMSAは主に腎皮質に集積する特性があり、以下のような特徴があります。

  • 腎皮質の形態把握(腎瘢痕の有無)が可能
  • 機能の定量評価(摂取率をカウント)ができる
  • 腎機能検査として有用

検査方法としては、99mTc-DMSAを静脈注射し、1〜2時間後に撮像を行います。一般的には静注1時間後の撮像が行われることが多いですが、2時間後の撮像では腎摂取率がより高い値を示すことが報告されています。これは主にバックグラウンドカウントの減少によるものと考えられています。

腎静態シンチグラフィは特に小児の膀胱尿管逆流による腎瘢痕の評価に有用で、腎実質の形態的な異常を詳細に評価することができます。

腎シンチグラフィのレノグラム解析と機能評価

腎動態シンチグラフィでは、得られた画像データをもとに「レノグラム」と呼ばれる時間放射能曲線を作成し、腎機能を評価します。レノグラムは腎臓のRI摂取・排泄を時間経過とともにグラフ化したもので、正常なレノグラムは以下の3相に分けられます。

  1. 第I相(血流相): 注射後20〜30秒間で、腎血流を反映した急峻な上昇を示す
  2. 第II相(機能相/実質相): 3〜5分間で、腎クリアランスを反映した緩徐な上昇を示しピークに達する
    • 正常なTmax(ピークに達する時間)は4〜6分
  3. 第III相(排泄相): その後比較的速やかに減少する

レノグラムの解析により、以下のような情報が得られます。

  • 左右の腎臓の機能を個別に評価できる
  • 腎血流や腎クリアランスの状態を評価できる
  • 尿路閉塞の有無や程度を評価できる

99mTc-MAG3を用いた場合、腎実質の20分時カウント(C20)とピークカウント(Cmax)の割合(C20/Cmax)を求めることで腎機能を評価します。正常では、C20/Cmaxは0.2未満とされています。

レノグラムのパターンは腎機能の状態によって異なり、以下のようなパターンに分類されます。

  • 正常型: 典型的な3相のパターンを示す
  • 機能低下型: ピークの高さが低下し、排泄相の勾配が緩やかになる
  • 閉塞型: 排泄相で下降せず、むしろ上昇し続ける
  • 高度機能低下型/無機能型: 有意な集積が見られない

腎シンチグラフィの適応疾患と臨床的意義

腎シンチグラフィは様々な腎疾患の診断や評価に用いられます。主な適応疾患は以下の通りです。

  1. 腎不全における腎機能評価
    • 血清クレアチニン値は様々な要因で変動しますが、腎シンチグラフィでは再現性の高い定量値が得られます
    • 左右の腎機能を個別に評価できるため、片側性の腎機能低下の評価に有用です
  2. 腎血管性高血圧の診断と治療効果判定
    • 腎動脈狭窄による腎血流低下を評価できます
    • 治療前後での腎機能の変化を定量的に評価できます
  3. 閉塞性尿路疾患の診断と腎機能評価
    • 水腎症や尿管狭窄などの閉塞性疾患の評価に有用です
    • 利尿シンチグラフィにより、機能的な狭窄や器質的狭窄の可逆性の判断に役立ちます
  4. 移植腎の機能評価
    • 移植腎の機能や急性拒絶反応の診断に有効です
  5. 腎、腎血管手術前後における分腎機能評価
    • 手術による腎機能への影響を評価できます
  6. 膀胱尿管逆流による腎瘢痕の評価
    • 特に小児の膀胱尿管逆流による腎瘢痕の評価に腎静態シンチグラフィ(99mTc-DMSA)が有用です

腎シンチグラフィの臨床的意義として、他の腎機能検査法と異なり、左右の腎機能を分けて評価できることが挙げられます。また、検査法が比較的簡単で被検者への負担が少ないという利点もあります。

腎シンチグラフィと年齢による腎機能変化の関連性

腎シンチグラフィによる腎機能評価は、年齢による生理的な腎機能の変化を反映することが知られています。特に99mTc-DMSA腎摂取率は年齢との相関が報告されています。

研究によると、腎機能が正常な症例(OIHレノグラムが正常型を示す症例)において、99mTc-DMSA腎摂取率と年齢との間には有意な負の相関が認められています。つまり、加齢とともに腎摂取率は低下する傾向にあります。

この現象は、加齢に伴う生理的な腎機能の低下を反映していると考えられています。具体的には以下のような変化が起こります。

  • 腎血流量の減少
  • 糸球体濾過率の低下
  • ネフロン数の減少
  • 腎皮質の萎縮

このような年齢による変化を考慮することは、腎シンチグラフィの結果を解釈する上で重要です。特に高齢者の場合、腎摂取率の低下が病的な状態を示すのか、あるいは生理的な加齢変化を反映しているのかを慎重に判断する必要があります。

また、小児の場合は成人とは異なる正常値を用いる必要があります。小児では体格に応じた投与量の調整が必要であり、通常は体重あたりの投与量(例:99mTc-DMSA 3.7MBq/kg、99mTc-MAG3 1.85MBq/kg)が用いられます。

腎シンチグラフィの結果を解釈する際には、患者の年齢を考慮した上で、適切な基準値と比較することが重要です。特に経時的な腎機能の評価を行う場合には、加齢による生理的な変化と疾患による変化を区別することが求められます。

腎シンチグラフィの利尿負荷検査と閉塞性疾患の評価

利尿シンチグラフィは、尿路閉塞の機能的評価に特に有用な検査方法です。通常の腎動態シンチグラフィに利尿剤負荷を追加することで、機能的閉塞と器質的閉塞を区別することができます。

利尿シンチグラフィの実施方法は以下の通りです。

  1. 通常の腎動態シンチグラフィを開始
  2. 放射性医薬品(99mTc-MAG3または99mTc-DTPA)を静脈注射
  3. 注射後15〜20分後に利尿剤(フロセミド)を静脈注射(通常0.5〜1.0mg/kg)
  4. その後も撮像を継続し、利尿剤投与後の排泄動態を評価

利尿剤投与後のレノグラムパターンにより、以下のように閉塞の程度を評価します。

  • 非閉塞型: 利尿剤投与後に速やかな排泄を示す(T1/2<10分)
  • 部分閉塞型: 利尿剤投与後に緩やかな排泄を示す(10分<T1/2<20分)
  • 完全閉塞型: 利尿剤投与後も排泄が見られない(T1/2>20分)

この検査は特に以下のような症例の評価に有用です。

  • 水腎症の機能的意義の評価
  • 尿管狭窄の程度と臨床的意義の評価
  • 腎盂尿管移行部狭窄症の手術適応の判断
  • 尿路結石による閉塞の機能的評価

例えば、腎盂尿管移行部狭窄症の症例では、利尿シンチグラフィにより機能低下型のパターンを示すことがあります。また、尿管結石による閉塞では、閉塞型のパターンを示すことが多いです。

利尿シンチグラフィの結果は、閉塞性疾患の治療方針決定に重要な情報を提供します。特に手術適応の判断や、経過観察の可否の決定に役立ちます。また、治療後の効果判定にも利用されます。

腎シンチグラフィは、他の画像検査(CT、MRI、超音波検査など)と組み合わせることで、より詳細な病態の把握が可能になります。形態的な情報と機能的な情報を統合することで、より適切な治療方針を立てることができます。

以上のように、腎シンチグラフィは腎臓の機能と形態を評価する上で非常に有用な検査方法であり、様々な腎疾患の診断や治療方針の決定に重要な役割を果たしています。特に左右の腎機能を個別に評価できる点や、非侵襲的に腎機能を定量的に評価できる点が大きな特徴です。

日本腎臓学会による腎機能検査のガイドライン(腎シンチグラフィの臨床的位置づけについての詳細情報)