膀胱炎の症状と原因
膀胱炎とは、膀胱に細菌が侵入して炎症を起こす疾患です。膀胱は尿を貯める臓器であり、伸縮性のある粘膜が伸び縮みする働きを持っています。この膀胱に何らかの原因で外部から大腸菌などの腸内細菌が尿道をさかのぼって侵入し、増殖することで炎症が発生します。
膀胱炎は単純性膀胱炎、複雑性膀胱炎、間質性膀胱炎、出血性膀胱炎、放射性膀胱炎、腎盂腎炎など様々な種類がありますが、本記事では一般的な膀胱炎として知られる単純性膀胱炎について詳しく解説します。
膀胱炎の主な症状と特徴
膀胱炎になると、以下のような特徴的な症状が現れます。
- 頻尿:10分前後の短い間隔で頻回に尿意を感じ、トイレに行く回数が増加します。健康な方は1日に4〜8回程度排尿するのが一般的ですが、膀胱炎になると明らかに回数が増えます。
- 排尿時痛:排尿の終わりにかけて下腹部や尿道口に「ツーン」とした強い痛みを感じることが特徴的です。これは炎症を起こした膀胱が排尿により急激に縮まり刺激されることが原因です。
- 残尿感:排尿後にもかかわらず、すっきりとした感じがせず「まだ尿が残っている」という違和感が続きます。
- 尿混濁:細菌が尿の中で繁殖すると白血球や炎症を起こし剥がれた膀胱の粘膜が混ざり、尿が白濁します。また尿の臭いがいつもより強くなることもあります。
- 血尿:膀胱粘膜が細菌により傷つけられ、肉眼でも確認できるほどの血尿が見られることがあります。色は薄いピンク色から赤ワインのように真っ赤になることもあり、まれに血液の塊が出ることもあります。
- 下腹部の不快感:膀胱のある下腹部に痛みや違和感を感じることがあります。
急性膀胱炎の場合は、これらの症状が突然現れることが特徴です。一方、慢性膀胱炎の場合は、急性膀胱炎と同様の症状がみられますが、自覚症状はないかあっても弱く、慢性的に膿が混じった膿尿と細菌が混じった細菌尿がみられることが多くあります。また、症状が持続的に続いたり、繰り返し発生したりすることが特徴です。
膀胱炎の原因と感染経路
膀胱炎の主な原因は以下の通りです:
1. 細菌感染
最も一般的な原因は大腸菌などの細菌感染です。女性の場合、解剖学的な特徴が膀胱炎のリスクを高めています。女性の尿道は男性に比べて4〜5cmと短く、また肛門や膣が尿道と近いため、細菌が膀胱内に入りやすい構造になっています。このため、女性は男性よりも膀胱炎になりやすいとされています。
2. ストレスや疲労による抵抗力の低下
ストレスや疲労が蓄積していたり、睡眠不足が続くと菌に対する抵抗力が低下します。免疫力が低下すると膀胱内に侵入した細菌に対抗することができず、膀胱炎になりやすくなります。
3. 排尿の我慢
排尿を我慢すると膀胱に尿がたまる時間が長くなり、それだけ菌が繁殖しやすくなります。定期的に排尿することで膀胱内の細菌を洗い流す効果がありますが、長時間尿を我慢することでこの自然な防御機能が働かなくなります。
4. 性行為
閉経前の女性の膣内は強い酸性に保たれており、菌が繁殖しないように守る常在菌が存在します。しかし、性行為中は細菌が尿道に侵入しやすい状況になり、大腸菌が繁殖すると膀胱炎になりやすくなります。これは「ハネムーン膀胱炎」とも呼ばれることがあります。
また、閉経後の女性はエストロゲンの減少により膣内の常在菌が減少し、膀胱炎になりやすくなります。
5. 下半身の冷え
腰まわりが冷えると膀胱周辺の血流が悪くなり、免疫機能が低下して膀胱炎のリスクが高まります。特に冷房の効いた環境や冬場は注意が必要です。
膀胱炎の検査と診断方法
膀胱炎の診断には、主に以下の検査が行われます:
1. 問診と身体診察
医師は患者の症状や既往歴、生活習慣などについて詳しく聞き取りを行います。膀胱炎は特徴的な症状から診断は比較的容易ですが、他の疾患との鑑別も重要です。
2. 尿検査
膀胱炎の診断に最も重要な検査が尿検査です。尿中の白血球や潜血反応、細菌の有無などを調べます。尿検査では以下の項目をチェックします:
- 尿中白血球:炎症の指標となります
- 潜血反応:膀胱粘膜の損傷を示します
- 亜硝酸塩:細菌の存在を示唆します
- 尿蛋白:腎機能に問題がないかを確認します
3. 尿培養検査
尿を培養して原因となる菌を特定することもあります。これにより、効果的な抗生物質を選択することができます。特に再発を繰り返す場合や複雑性膀胱炎が疑われる場合には重要な検査です。
4. 超音波検査(エコー検査)
膀胱や腎臓の状態を確認するために超音波検査が行われることがあります。特に再発性の膀胱炎や複雑性膀胱炎が疑われる場合に有用です。
5. 膀胱鏡検査
繰り返し膀胱炎を発症する場合や、血尿が続く場合には膀胱鏡検査が行われることがあります。これにより膀胱内部を直接観察し、膀胱結石や膀胱がんなどの他の疾患の有無を確認します。
尿検査の際の正しい採尿方法も重要です。女性の場合、外陰部の細菌が混入しないよう、以下の点に注意して採尿を行います:
- トイレに座り股を軽く開く
- 左手の指で外陰部を広げ、右手で持ったコップに尿を採る
- 出始めの尿(初期尿)はトイレに流し、途中の尿(中間尿)を採取する
- 可能であれば採尿前に外陰部を清拭する
膀胱炎の治療法と対処法
膀胱炎の治療は、症状の程度や原因によって異なりますが、一般的には以下のような方法が用いられます:
1. 抗生物質による治療
単純性膀胱炎の基本的な治療は抗生物質の内服です。通常、3〜7日間の服用で症状は改善します。よく使用される抗生物質には以下のようなものがあります:
抗生物質は医師の処方に従って最後まで服用することが重要です。症状が改善したからといって途中で服用を中止すると、細菌が完全に排除されず再発のリスクが高まります。
2. 十分な水分摂取
水分を多く摂取することで尿量が増え、排尿とともに膀胱内の細菌を洗い流す効果があります。1日の尿量を1500ml以上保つように心がけましょう。特に膀胱炎の初期症状を感じたときは、積極的に水分を摂取することが重要です。
3. 鎮痛剤の使用
排尿痛がつらい場合には、一時的に鎮痛剤(カロナール、アセトアミノフェン、ロキソニンなど)を使用することで症状を緩和できます。ただし、鎮痛剤はあくまでも症状の緩和をするだけで膀胱炎の根治にはならないため、抗生物質による治療が必要です。
4. 市販薬の利用
軽度の膀胱炎の初期症状には、薬局で購入できる膀胱炎の薬(漢方薬や生薬など)が効果を発揮することもあります。ただし、症状が改善しない場合は早めに医療機関を受診しましょう。
5. 応急処置
深夜や休日に膀胱炎の症状が始まった場合の応急処置としては、まず水分を多く摂取することが重要です。悪寒戦慄を伴う発熱や全身倦怠感、食欲不振が強い場合は腎盂腎炎や菌血症を起こしている可能性があるため、救急病院を受診することをお勧めします。
膀胱炎の予防法と生活習慣の改善
膀胱炎を予防するためには、以下のような生活習慣の改善が効果的です:
1. 排尿習慣の改善
尿意を感じたら我慢せずに排尿することが重要です。膀胱に菌が侵入すると時間とともに細菌はどんどん増殖していきますが、排尿することにより細菌も排出されるため、膀胱炎の進行を抑えることができます。特に性行為の後は膀胱に菌が侵入しやすいため、排尿をせずに入眠すると翌朝までに膀胱内の細菌が繁殖し膀胱炎のリスクが高まります。
2. 水分摂取の増加
水分を多く摂ることで尿量が増え、排尿と同時に細菌も体外へ排出されます。1日の尿量を1500ml以上保つように飲水を心がけましょう。ただし、カフェインやアルコールは利尿作用があり膀胱を刺激する可能性があるため、過度の摂取は避けるべきです。
3. 衛生管理の徹底
陰部の清潔を保つことも重要です。以下の点に注意しましょう:
- 生理用ナフキンやタンポンは汚染したら早めに交換する
- 大便の後は前から後ろに拭く(肛門から尿道方向への細菌の移動を防ぐため)
- 入浴や下着の交換をこまめに行い、身体を清潔に保つ
- 膣洗浄剤の過度な使用は避ける(膣内の善玉菌も減少させてしまうため)
4. 体調管理
過労、ストレス、暴飲暴食、風邪、便秘、下痢、下半身の冷えなどは免疫力を低下させ、膀胱炎のリスクを高めます。規則正しい生活習慣を心がけ、十分な睡眠をとることが大切です。
5. 性行為後の対策
性行為後は必ず排尿するようにしましょう。これにより尿道に入った細菌を洗い流すことができます。また、清潔なコンドームの使用も細菌の侵入を防ぐのに役立ちます。
6. 適切な衣類の選択
通気性の良い綿の下着を選び、きつい下着や長時間のパンティーストッキングの着用は避けましょう。これにより陰部の蒸れを防ぎ、細菌の繁殖を抑えることができます。
膀胱炎と腎盂腎炎の違いと危険信号
膀胱炎は適切に治療すれば比較的短期間で治る疾患ですが、治療が遅れたり不適切だったりすると、細菌が尿管を通って腎臓に達し、腎盂腎炎を引き起こすことがあります。腎盂腎炎は膀胱炎よりも重篤な疾患であり、早急な治療が必要です。
膀胱炎と腎盂腎炎の症状の違い
症状 | 膀胱炎 | 腎盂腎炎 |
---|---|---|
発熱 | ほとんどない | 38℃以上の高熱が多い |
痛み | 下腹部の不快感・痛み | 腰背部の痛み |
全身症状 | 軽度または無し | 悪寒、倦怠感、食欲不振 |
排尿症状 | 頻尿、排尿痛、残尿感 | 膀胱炎と同様の症状に加え、より重度 |
尿の状態 | 混濁、時に血尿 | 膿尿、細菌尿、時に血尿 |
腎盂腎炎の危険信号
以下のような症状がある場合は、膀胱炎から腎盂腎炎に進行している可能性があるため、すぐに医療機関を受診してください:
- 38℃以上の高熱
- 悪寒戦慄(体が震えるような寒気)
- 腰背部の痛み
- 強い全身倦怠感
- 吐き気