脛骨プラトー骨折の特徴と治療法
脛骨プラトー骨折は、膝関節周辺の骨折の中でも比較的頻度の高い骨折です。「プラトー」とは英語で「高原」を意味し、脛骨の関節面を高地に広がる平原に見立てた専門用語です。正式には脛骨近位端骨折と呼ばれ、脛骨高原骨折という名称でも知られています。
この骨折が特に重要視されるのは、膝関節の一部であり体重を支える役割を担っているからです。また、関節面の骨折であるため、膝の脱臼、靱帯損傷、半月板損傷などを伴うことが多く、適切な治療を行わないと後遺症を残すリスクが高い骨折でもあります。
受傷機転としては、若年者では交通事故や高所からの転落など大きな外力によるものが多く、高齢者では転倒などの比較的小さな外力でも発生することがあります。骨折部位が陥没したり、段差を生じたりすることで、膝関節の機能に大きな影響を与えます。
脛骨プラトー骨折の症状と診断方法
脛骨プラトー骨折を受傷すると、膝の痛みが強く現れ、多くの場合は歩行が困難になります。時間の経過とともに膝関節内に血液が溜まり(関節血腫)、膝の腫れや熱感が生じ、関節の動きも制限されます。
診断には以下の検査が行われます:
- X線検査:骨折の有無や骨片のずれを確認する基本的な検査
- CT検査:骨折の詳細な状態や関節面の陥没の程度を立体的に評価
- MRI検査:靱帯損傷や半月板損傷など、軟部組織の損傷を評価
特に脛骨プラトー骨折では、骨折だけでなく周囲の軟部組織損傷の評価が重要です。靱帯損傷の有無や程度によって、治療方針や予後が大きく変わるためです。
骨折型の分類にはAO分類が広く用いられ、骨折のパターンや重症度に応じて治療方針が決定されます。B型(部分関節内骨折)やC型(完全関節内骨折)に分類されることが多く、特にC型では予後が不良になる傾向があります。
脛骨プラトー骨折の治療方法と手術適応
脛骨プラトー骨折の治療方針は、骨折型や骨片のずれの程度、患者の年齢や活動性によって異なります。大きく分けて保存療法と手術療法があります。
【保存療法】
骨折部位のずれがほとんどない場合(2mm未満の陥没や転位)には、ギプス固定などによる保存的治療が選択されることがあります。しかし、関節面の骨折であるため、わずかなずれでも将来的な関節症のリスクが高まるため、慎重な経過観察が必要です。
【手術療法】
以下のような場合は手術適応となります:
- 関節面の陥没が2mm以上
- 骨片の転位が大きい
- 不安定性を伴う骨折
- 開放骨折
- 血管・神経損傷を伴う場合
手術方法としては、主に以下のような方法があります:
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プレート固定:最も一般的な方法で、骨折部位を整復した後、プレートとスクリューで固定します
- Single plate固定:一つのプレートで固定
- Double plate固定:より不安定な骨折に対して二つのプレートで固定
- スクリュー固定:骨折が単純で安定している場合に選択されることがあります
- 骨移植:関節面の陥没が大きい場合、陥没部を持ち上げた後、その下の空間に骨移植を行います
近年では低侵襲な手術法が推奨される傾向にありますが、荷重関節の関節内骨折という観点から、骨移植を併用した強固な内固定を行うことも多いです。手術後は通常2か月以上の入院が必要となることが多く、早期からのリハビリテーションが重要です。
脛骨プラトー骨折後のリハビリテーション過程
脛骨プラトー骨折の術後リハビリテーションは、骨折の治癒と関節機能の回復を目指して段階的に進められます。リハビリの進行は骨折型や手術方法、合併症の有無によって個別に調整されますが、一般的な流れは以下の通りです。
【急性期(術後1〜2週間)】
- アイシングや下肢挙上による腫脹・疼痛コントロール
- 深部静脈血栓症(DVT)予防のための下肢の運動
- 医師の指示のもと、早期から膝関節の可動域訓練を開始
- 非荷重での歩行訓練(松葉杖やウォーカーの使用)
【回復期前期(術後2〜6週)】
- 膝関節の可動域訓練の強化
- 大腿四頭筋や周囲筋のアイソメトリック訓練
- 医師の許可があれば部分荷重歩行の開始
【回復期後期(術後6週〜3ヶ月)】
- 徐々に荷重量を増やし、全荷重歩行を目指す
- 筋力強化訓練の本格化
- 膝関節の安定性を高めるためのバランス訓練
【維持期(術後3ヶ月以降)】
- 日常生活動作の完全回復を目指す
- スポーツ復帰を目指す場合は専門的なトレーニングを追加
リハビリテーションにおいて特に重要なのは、膝関節の可動域確保です。術後の癒着や拘縮を防ぐため、医師の指示のもとできるだけ早期から関節可動域訓練を開始します。患者自身にも可動域訓練の必要性を十分に説明し、積極的な自主トレーニングを促すことが重要です。
また、筋力低下を最小限に抑えるため、荷重制限がある時期でも可能な筋力トレーニングを継続します。特に大腿四頭筋は膝関節の安定性に重要な役割を果たすため、早期からのトレーニングが推奨されます。
脛骨プラトー骨折に伴う靱帯損傷と動揺関節
脛骨プラトー骨折では、骨折だけでなく膝周囲の靱帯損傷を合併することが少なくありません。特に前十字靱帯(ACL)、後十字靱帯(PCL)、内側側副靱帯(MCL)、外側側副靱帯(LCL)などの損傷が問題となります。
靱帯は膝関節の安定性を保つ重要な組織であり、これらが損傷して十分に修復されないと、膝が前後左右にぐらつく「動揺関節」と呼ばれる状態が残存することがあります。動揺関節は日常生活に大きな支障をきたし、将来的な変形性膝関節症のリスク因子ともなります。
動揺関節の評価方法には以下のようなものがあります:
- 徒手ストレステスト:医師が患者の膝に直接ストレスをかけ、動揺性を評価する臨床検査
- MRI検査:靱帯損傷の有無や程度を画像で確認
- ストレスX線撮影:膝関節に圧力をかけた状態でレントゲン撮影し、関節のずれを客観的に評価
特に自賠責保険の後遺障害認定では、ストレスX線撮影による客観的な評価が重視されます。動揺関節の後遺障害等級は以下のように定められています:
- 8級:常に硬性補装具を必要とするもの
- 10級:時々硬性補装具を必要とするもの
- 12級:重労働以外では硬性補装具を必要としないもの
靱帯損傷を合併した脛骨プラトー骨折では、骨折の治療と同時に靱帯修復も考慮した治療計画が必要です。場合によっては靱帯再建術を併用することもあります。また、リハビリテーションでは関節の安定性を高めるための筋力強化やバランストレーニングが特に重要となります。
脛骨プラトー骨折の長期予後と合併症対策
脛骨プラトー骨折は適切な治療を行っても、長期的には様々な合併症や後遺症のリスクがあります。主な合併症と対策について理解しておくことが重要です。
【主な合併症と後遺症】
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変形性膝関節症
関節面の不整が残ると、軟骨の摩耗が進行し、早期に変形性膝関節症を発症するリスクが高まります。特に関節面の陥没が十分に整復されなかった場合や、術後に陥没が進行した場合に問題となります。 -
膝関節の痛み
骨折が治癒した後も、歩行時や階段の昇降時に膝の痛みが残ることがあります。これは関節面の不整や軟骨損傷、周囲組織の癒着などが原因となります。 -
関節可動域制限
術後のリハビリテーションが不十分だと、膝関節の屈曲・伸展制限が残ることがあります。特に伸展制限は歩行に大きな影響を与えます。 -
動揺関節
前述の通り、靱帯損傷が適切に治療されないと膝の不安定性が残ります。 -
感染
手術後の合併症として創部感染や骨髄炎のリスクがあります。
【長期予後を改善するための対策】
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適切な手術治療
関節面の正確な整復と強固な固定が重要です。近年では低侵襲手術の技術も向上していますが、関節面の整復精度を犠牲にしないことが大切です。 -
計画的なリハビリテーション
早期からの関節可動域訓練と段階的な筋力強化が重要です。特に大腿四頭筋の筋力は膝関節の安定性と機能に直結します。 -
適切な荷重制限の遵守
医師の指示に従った荷重制限を守ることで、内固定材の破損や骨折部の再転位を防ぎます。一般的に部分荷重開始は術後6〜8週、全荷重は術後10〜12週頃からとされていますが、骨折型や固定性によって個別に判断されます。 -
体重管理
過度な体重増加は膝関節への負担を増大させるため、適正体重の維持が重要です。 -
定期的な経過観察
術後も定期的な診察とX線検査を受け、問題の早期発見・対応を心がけましょう。
脛骨プラトー骨折の治療成績に関する研究では、適切な手術治療とリハビリテーションを行った場合、約70〜80%の患者が良好な機能回復を得られるとされています。しかし、関節内骨折という性質上、10〜20%程度の患者では何らかの後遺症が残ることも報告されています。
特に高齢者や骨粗鬆症がある患者、複雑な骨折型(AO分類C型など)、靱帯損傷を合併した症例では予後不良となるリスクが高いため、より慎重な治療とリハビリテーションが必要です。
以上のように、脛骨プラトー骨折は単なる骨折ではなく、膝関節全体の機能に影響を与える重要な外傷です。適切な治療選択と計画的なリハビリテーション、そして患者自身の積極的な取り組みが良好な長期予後につながります。