脛骨高原骨折の症状と治療法
脛骨高原骨折の発生メカニズムと特徴
脛骨高原骨折は、膝関節に強い衝撃が加わった際に発生する骨折です。特に交通事故で膝に直接外力が加わった場合や、転倒して膝を強く打った場合に起こりやすい傾向があります。
脛骨高原部(けいこつこうげんぶ)とは、膝関節を形成する脛骨の上部にある平らな部分のことで、大腿骨(太ももの骨)を支える重要な役割を担っています。この部分が骨折すると、膝関節の動きに大きな影響を与えることになります。
医学的には「脛骨プラトー骨折」「脛骨顆部骨折」とも呼ばれ、これらはすべて同じ部位の骨折を指しています。「プラトー」は英語で「高原」を意味し、脛骨の上部が平らな高原のような形状をしていることに由来しています。
この骨折の特徴として、単独で発生するだけでなく、半月板損傷や膝の十字靭帯損傷を併発することが多いという点があります。そのため、骨折の治療だけでなく、周囲の軟部組織の損傷にも注意が必要です。
脛骨高原骨折の主な症状と診断方法
脛骨高原骨折を受傷すると、以下のような症状が現れます。
- 膝の痛みと腫れ
- 膝関節の動きの制限
- 起立動作や歩行の困難
- 皮下出血
- 膝関節の不安定性
受傷直後は、起立や膝関節の動きが困難になり、局所の圧痛や腫脹、皮下血腫が現れます。また、内反・外反変形が見られることもあります。
診断には、まず単純X線検査が行われますが、骨折の詳細な状態を把握するためにはCT検査が有効です。特に骨の圧潰や陥没の程度を確認するのに役立ちます。また、併発しやすい半月板損傷や靭帯損傷の確認にはMRI検査が必要となることが多いです。
脛骨高原骨折は不顕性骨折(X線では確認できない微細な骨折)が発生する可能性もあるため、症状があるにもかかわらずX線で骨折が確認できない場合は、MRI検査の実施を医師に相談することをお勧めします。
脛骨高原骨折の治療法と固定期間
脛骨高原骨折の治療方法は、骨折の程度や患者の状態によって異なります。治療法は大きく分けて保存療法と手術療法の2つがあります。
【保存療法】
軽度の骨折で、骨のずれが少ない場合は保存療法が選択されます。具体的には以下の方法があります。
- ギプス固定
- 装具による固定
- 免荷(体重をかけない)期間の設定
保存療法の場合でも、固定期間は比較的長く、6〜10週間程度必要となります。
【手術療法】
骨折部位のずれが大きい場合や、関節面の陥没がある場合、不安定性が強い場合には手術療法が選択されます。
- プレートやスクリューによる内固定術
- 人工骨を用いた骨欠損部の補填
- 重度の場合は人工関節置換術
手術後も6週間程度は全荷重が制限され、その後徐々に荷重量を増やしていきます。通常、手術から6週後に1/6荷重から開始し、状態を見ながら荷重量を増やしていきます。
治療期間中は、歩行器、松葉杖、ロフストランド杖、Q杖、T杖などの補助具を使用して移動することになります。
脛骨高原骨折のリハビリテーションアプローチ
脛骨高原骨折後のリハビリテーションは、骨折の治癒状況や固定期間によって進め方が異なります。ここでは一般的なリハビリテーションの流れと注意点について説明します。
【急性期(固定中)のリハビリ】
固定中は膝関節を直接動かすことができないため、以下の部位へのアプローチが中心となります。
- 膝蓋大腿関節の可動域訓練
- 大腿四頭筋の等尺性収縮訓練
- ハムストリングスのストレッチ
- 膝窩筋のリラクゼーション
これらのアプローチは、膝関節そのものではなく周囲の組織に対して行うことで、固定解除後のリハビリをスムーズに進めるための準備となります。
【回復期(固定解除後)のリハビリ】
固定解除後は、徐々に膝関節の可動域訓練と筋力強化訓練を進めていきます。
- 膝関節の他動運動から開始
- 膝関節周囲筋の筋力強化訓練
- 荷重訓練(医師の指示に従って段階的に)
- バランス訓練
- 歩行訓練
リハビリを進める際の評価方法としては、以下のようなものがあります。
- Patella Gliding Test(膝蓋骨の滑り具合を評価)
- Heel Buttock Distance(踵と臀部の距離で膝の屈曲角度を評価)
- Straight Leg Raising(ハムストリングスの柔軟性評価)
- Screw Home Movement(膝の終末伸展動作の評価)
リハビリテーションを行う際の重要なポイントは、「状態を悪化させないこと」です。特に固定期間と荷重時期を理解し、過度な負荷をかけないように注意する必要があります。
また、膝関節は中間関節であるため、股関節や足関節の影響を受けやすいという特徴があります。そのため、膝に痛みや可動域制限がある場合は、膝以外の関節にも着目することで改善が見られることもあります。
脛骨高原骨折における最新の治療トレンド
脛骨高原骨折の治療においては、近年いくつかの新しいアプローチが注目されています。特に手術技術の進歩と早期リハビリテーションの重要性が強調されるようになってきました。
【低侵襲手術の普及】
従来の手術法では大きく切開する必要がありましたが、最近では小さな切開で行う低侵襲手術が増えています。これにより、術後の痛みの軽減や回復期間の短縮が期待できます。
- 関節鏡視下手術の活用
- ナビゲーションシステムを用いた精密な手術
- 3Dプリント技術を用いたカスタムメイドインプラント
【生体材料の進化】
骨欠損部を補填するための生体材料も進化しています。
- 自家骨移植に代わる人工骨材料
- 骨形成を促進する成長因子の利用
- 生体吸収性材料を用いたインプラント
【早期リハビリテーションの重視】
骨折の固定が安定していれば、従来よりも早い段階からリハビリテーションを開始する傾向にあります。早期からの適切な運動は、関節拘縮の予防や筋萎縮の軽減に効果的です。
- CPM(持続的他動運動)装置の使用
- 水中リハビリテーション
- 電気刺激療法の併用
これらの新しいアプローチは、患者さんの早期回復と機能改善に貢献していますが、個々の症例に応じた適切な治療法の選択が重要です。医師やリハビリテーション専門職との綿密な連携が、治療成功の鍵となります。
脛骨高原骨折と後遺障害
脛骨高原骨折による主な後遺症
脛骨高原骨折は適切な治療を行っても、完全に元の状態に戻らないことがあります。特に関節面に骨折が及んでいる場合(プラトー骨折)は、後遺症が残りやすい傾向にあります。主な後遺症には以下のようなものがあります。
【膝関節の可動域制限】
脛骨高原骨折後は、膝関節の曲げ伸ばしが制限されることがあります。これは骨折治癒後に関節面がでこぼこした状態で固まってしまうことが原因です。可動域制限の程度は、骨折の重症度や治療方法、リハビリテーションの内容によって異なります。
【慢性的な痛み】
骨折部位の痛みが長期間続くことがあります。特に関節面の不整(でこぼこ)が残った場合、動作時に痛みを感じやすくなります。また、天候の変化で痛みが出ることもあります。
【膝関節の不安定性】
骨折と同時に靭帯損傷を併発した場合、膝関節に不安定性が残ることがあります。これにより、歩行時のふらつきや階段の昇り降りの困難さなどの症状が現れます。
【変形性膝関節症のリスク増加】
脛骨高原骨折により関節面が不整になると、長期的には変形性膝関節症を発症するリスクが高まります。関節軟骨の摩耗が進行し、年齢とともに症状が悪化することがあります。
これらの後遺症は、日常生活や仕事に大きな影響を与える可能性があります。そのため、適切な治療とリハビリテーション、そして必要に応じた後遺障害認定の申請が重要となります。
脛骨高原骨折の後遺障害等級認定基準
交通事故などで脛骨高原骨折を負った場合、後遺症が残れば後遺障害等級認定を受けられる可能性があります。自賠責保険における後遺障害等級の認定基準は以下の通りです。
【膝関節の機能障害による等級】
膝関節の可動域制限の程度によって、以下のように等級が分かれます。
- 8級7号:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 患側の関節可動域が健側の1/2以下に制限され、かつ人工関節を挿入した場合
- 10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 患側の関節可動域が健側の1/2以下に制限された場合
- 人工関節を挿入したが、可動域制限が1/2以下には至らない場合
- 12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 患側の関節可動域が健側の3/4以下に制限された場合
【神経症状による等級】
骨折部位に痛みなどの神経症状が残った場合、以下の等級が認定される可能性があります。
- 12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
- 関節面に不整が確認できる場合など
- 14級9号:局部に神経症状を残すもの
- 軽度の神経症状が残る場合
【変形障害による等級】
骨折が変形して癒合した場合や、偽関節となった場合は以下の等級が考えられます。
- 7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
- 8級9号:1下肢に偽関節を残すもの
- 12級8号:長管骨に変形を残すもの(15度以上屈曲して不正癒合した場合など)
後遺障害等級の認定には、医師による後遺障害診断書が必要です。診断書には、膝関節の可動域や痛みの程度、X線やCT、MRIなどの画像所見を詳細に記載することが重要です。
脛骨高原骨折の後遺障害認定で重要なポイント
脛骨高原骨折の後遺障害認定を受ける際には、いくつかの重要なポイントがあります。これらを押さえておくことで、適切な等級認定につながる可能性が高まります。
【適切な医学的証拠の収集】
後遺障害認定には、客観的な医学的証拠が不可欠です。以下の検査結果を収集しておきましょう。
- X線検査:骨折の状態や変形の有無を確認
- CT検査:関節面の不整や陥没の程度を詳細に評価
- MRI検査:軟部組織(半月板や靭帯)の損傷状態を確認
- 関節可動域測定:健側と比較した可動域制限の程度を数値化
【後遺障害診断書の重要性】
後遺障害診断書