ネタルスジルの緑内障治療における作用と臨床応用
「ネタルスジルを長期処方した患者の半数超で結膜充血が出ます。」
ネタルスジルの緑内障治療における二重作用機序とは
ネタルスジルは、Rhoキナーゼ(ROCK)とノルエピネフリントランスポーター(NET)の両方を阻害するという、これまでにない二重作用を持つ点眼薬です。 ROCK阻害により線維柱帯の細胞骨格を弛緩させ、房水の主流出経路である線維柱帯–シュレム管ルートからの流出を促進します。 santen(https://www.santen.com/ja/news/2025/2025_1/20250730)
NET阻害はあまり語られない部分ですが、ここが重要です。毛様体上皮でのノルエピネフリン再取り込みを阻害することで、房水産生そのものをわずかに抑制する効果が期待されています。 つまり「出口を広げながら入口も少し閉じる」という二段構えです。 note(https://note.com/pharma_insight/n/n23daa9b2b0e0)
既存のROCK阻害薬であるリパスジル(グラナテック®)は同じ分類に属しますが、ネタルスジルはリパスジルと比較して脂溶性が高く、角膜透過性に優れているため刺激感が少なく効果持続も長いと報告されています。 これは患者アドヒアランスの観点から、医療従事者として見逃せない差異です。 manabe-eye-ladies(https://manabe-eye-ladies.com/blog/1432)
また、ラタノプロストなどのプロスタグランジン系薬と併用した場合、線維柱帯経路(ネタルスジル)とぶどう膜強膜流出経路(ラタノプロスト)という「2つの出口」を同時に開くことができ、相補的な眼圧下降が得られる点も注目されています。 manabe-eye-ladies(https://manabe-eye-ladies.com/blog/1432)
ネタルスジル緑内障の第3相臨床試験:リパスジルとの比較データ
日本人患者245名を対象にした無作為化多施設共同第3相試験が2020年11月に開始され、4週間の試験期間でネタルスジル0.02%(1日1回)とリパスジル0.4%(1日2回)の有効性と安全性が比較されました。 ichgcp(https://ichgcp.net/ja/clinical-trials-registry/NCT04620135)
結果は明確でした。眼圧下降効果の差は歴然です。ネタルスジル群はベースラインから平均4.7 mmHg(22.6%)の眼圧低下を達成し、リパスジル群の3.0 mmHg(14.3%)を統計的に有意に上回りました(p<0.0001)。 4 mmHg以上の差というのは、正常眼圧緑内障の治療目標眼圧(ベースラインから約20〜30%低下)に照らしても、臨床的に意味のある数値です。 jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic(https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/ryokunaisho/5001/)
さらに注目すべきは投与回数の違いです。リパスジルが1日2回必要なのに対し、ネタルスジルは1日1回で上回る効果を示しています。 点眼回数が多いほどアドヒアランスが低下するというエビデンスは多く、回数削減のメリットは小さくありません。 manabe-eye-ladies(https://manabe-eye-ladies.com/blog/1112)
また、カナダのケアネット報告によれば、米国での12か月に及ぶランダム化二重盲検比較試験でも1日1回投与での眼圧低下効果と良好な忍容性が確認されています。 長期安定性という観点でも信頼できるデータが揃いつつあります。 carenet(https://www.carenet.com/news/general/carenet/47516)
以下のデータポイントを押さえておくと、処方検討時に役立ちます。
- ベースライン眼圧が25 mmHg未満の比較的コントロールされた症例でもチモロールと同等の効果 note(https://note.com/pharma_insight/n/n23daa9b2b0e0)
- 単剤療法・他剤との併用療法いずれでも眼圧下降が示されている santen(https://www.santen.com/ja/news/2025/2025_1/20250730)
- 参天製薬は2025年7月30日に日本での承認申請を提出済み mixonline(https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=78772)
参天製薬による承認申請の詳細と背景。
参天製薬:緑内障治療点眼剤STN1013900(ネタルスジルメシル酸塩)承認申請について
ネタルスジル緑内障治療における副作用:結膜充血と涙小点狭窄
副作用プロファイルは処方判断において欠かせない情報です。最も頻度が高いのは結膜充血で、第3相試験ではネタルスジル群の54.9%に認められました。 リパスジル群でも62.6%に出現しており、ROCK阻害薬クラス共通の反応とも言えます。大半は軽度と評価されているため、患者への事前説明と定期観察で対応できます。 jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic(https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/ryokunaisho/5001/)
一方で、あまり知られていない重要な副作用が涙小点狭窄(punctal stenosis:PS)です。意外ですね。
Ophthalmology誌に掲載されたケースシリーズでは、ネタルスジル0.02%を平均14か月使用した患者16名中、13名が原発性開放隅角緑内障、7名にドライアイの既往があり、涙、発赤、目の炎症などの症状を呈しました。 眼瞼炎や眼酒皶の既往がある患者では特にリスクが高まる可能性があり、これらの背景を持つ患者への長期処方時は注意が必要です。 jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic(https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/ryokunaisho/5001/)
処方中止後はすべての涙小点狭窄が解消したことも重要なポイントです。 不可逆的な変化ではないことが確認されており、症状出現時の対応として「まず中止・経過観察」が選択肢に入ります。 jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic(https://jiyugaoka-kiyosawa-eyeclinic.com/ryokunaisho/5001/)
長期処方を行う際は以下の点を定期的にチェックすることが推奨されます。
- 涙小点の形態観察(細隙灯顕微鏡による確認)
- 眼表面のドライアイ症状やうっ滞性変化
- 眼瞼炎・眼酒皶など背景疾患のコントロール状態
涙小点狭窄の副作用に関する原著論文(自由が丘清澤眼科クリニックによる解説)。
涙小点狭窄は緑内障に対するネタルスジル治療の潜在的副作用(Ophthalmology 2022年7月)
ネタルスジル緑内障への適応:眼血流改善という独自の視点
眼圧下降だけが緑内障治療の目標ではない、という議論が近年活発になっています。緑内障性視神経障害には眼血流の低下が関与しているという仮説があり、その観点からネタルスジルを評価した研究が注目されています。
早期緑内障患者を対象にした比較試験では、ネタルスジル0.02%がドルゾラミド2%と比較して眼圧を大きく低下させるだけでなく、黄斑部血管密度や視神経乳頭の血流指標など複数の眼血流パラメータを改善したことが示されました。 これは炭酸脱水酵素阻害薬には見られない付加的な効果です。 academia.carenet(https://academia.carenet.com/share/news/2bb8c33e-108c-4ea0-9a51-668377e4dde5)
ROCK阻害が眼血流に好影響を与えるメカニズムは、血管平滑筋の弛緩による血流抵抗の低下と、内皮細胞機能の改善にあると考えられています。つまり眼圧という「数値」だけでなく、視神経への酸素・栄養供給という面でも貢献する可能性があります。
これは早期緑内障、特に正常眼圧緑内障(NTG)に対する適応を考える際に重要な視点です。眼圧が「正常範囲」でも視野が進行する患者群において、眼血流改善を目的とした治療選択の一つとしてネタルスジルが位置づけられる可能性があります。
ネタルスジルの眼血流改善効果に関するCareNet報告。
ネタルスジル、早期緑内障患者の眼圧低下と眼血流改善に有効(CareNet Academia 2025年7月)
ネタルスジル緑内障治療における処方上の実務的ポイント
実臨床でネタルスジルを使う際に知っておくべき実務的な情報を整理します。処方前の確認事項を押さえておくことが、患者との信頼関係構築にも直結します。
まず用法・用量の特徴を理解することが基本です。ネタルスジルは1日1回・就寝前点眼が基本の投与スケジュールで、日中の結膜充血による患者の見た目の問題を最小化できる利点があります。 就寝中に充血が出ても患者が気にしにくく、アドヒアランス維持につながります。 manabe-eye-ladies(https://manabe-eye-ladies.com/blog/1112)
複数の点眼薬を使用している患者では、点眼間隔に注意が必要です。他の点眼薬と同時使用する場合、5分以上の間隔を空けることが原則です。点眼順序として粘度の低いものから先に使うという基本ルールを患者に指導することが重要です。
承認申請段階(2025年7月時点)であることも認識しておく必要があります。 日本での正式承認後は、先発品として参天製薬から発売される予定です。海外(米国)ではRhopressa®の商品名で承認されており、そちらの処方例や副作用報告も参考情報として活用できます。 santen(https://www.santen.com/ja/news/2025/2025_1/20250730)
下記の表でネタルスジルとリパスジルの主要な違いを整理しておきましょう。
| 項目 | ネタルスジル0.02% | リパスジル0.4%(グラナテック®) |
|---|---|---|
| 投与回数 | 1日1回 | 1日2回 |
| 眼圧低下(第3相) | −4.7 mmHg(22.6%) | −3.0 mmHg(14.3%) |
| 作用機序 | ROCK阻害+NET阻害 | ROCK阻害 |
| 眼血流改善 | あり(報告あり) | 限定的 |
| 主な副作用 | 結膜充血54.9%・涙小点狭窄 | 結膜充血62.6% |
| 日本承認状況(2025年7月時点) | 承認申請中 | 承認済 |
リパスジルとの詳細比較・次世代緑内障点眼薬の解説(真鍋眼科)。