ブレンツキシマブベドチン添付文書の要点
体重100kgを超えても100kgで投与量を計算する
ブレンツキシマブベドチンの基本的な薬剤特性と適応
ブレンツキシマブベドチン(商品名:アドセトリス)は、CD30陽性のホジキンリンパ腫や末梢性T細胞リンパ腫、皮膚T細胞リンパ腫に対して使用される抗体薬物複合体です。この薬剤の最大の特徴は、抗CD30キメラ抗体に微小管阻害薬であるモノメチルアウリスタチンE(MMAE)をプロテアーゼで切断可能なリンカーを介して結合させた構造にあります。
CD30は、ホジキンリンパ腫のリード・シュテルンベルグ細胞や未分化大細胞リンパ腫の腫瘍細胞表面に高発現している抗原です。
つまり、標的が明確ということですね。
ブレンツキシマブベドチンが腫瘍細胞表面のCD30に結合すると、複合体として細胞内に取り込まれます。その後、細胞内のリソソーム内でリンカーが切断され、MMAEが放出される仕組みです。
放出されたMMAEは微小管のチューブリンに結合し、細胞周期の停止とアポトーシスを誘導します。この選択的な標的指向性により、正常細胞への影響を最小限に抑えながら腫瘍細胞を攻撃できるのが抗体薬物複合体の大きな利点です。ターゲットを絞った攻撃が可能ということです。
添付文書に記載された効能・効果は、CD30陽性のホジキンリンパ腫(未治療および再発・難治性)、CD30陽性の末梢性T細胞リンパ腫(未治療および再発・難治性)、再発または難治性のCD30陽性皮膚T細胞リンパ腫となっています。未治療の場合は他の抗がん剤との併用療法が基本です。
KEGGの医療用医薬品データベースには、アドセトリスの詳細な添付文書情報が掲載されており、用法用量や警告事項の確認に有用です。
ブレンツキシマブベドチンの用法用量と投与設計の実際
添付文書における用法用量は、適応症と患者の年齢によって異なる設定がなされています。未治療のCD30陽性ホジキンリンパ腫に対しては、ドキソルビシン、ビンブラスチン、ダカルバジンとの併用で使用します。成人には1回1.2mg/kg(体重)、小児には1回48mg/m²(体表面積)を2週間に1回、最大12回点滴静注するのが基本です。
再発または難治性のCD30陽性ホジキンリンパ腫および末梢性T細胞リンパ腫に対しては、単剤療法として3週間に1回1.8mg/kg(体重)を点滴静注します。
患者の状態に応じて適宜減量が必要です。
ここで重要な注意点があります。体重が100kgを超える患者では、投与量計算時に100kgとして算出するという規定です。これは海外臨床試験での設定を踏襲したもので、過量投与による副作用リスクを回避するための安全対策となっています。体重150kgの患者でも100kgで計算するということですね。
小児患者における用量設定が体表面積換算である点も見落としてはいけません。成人は体重換算、小児は体表面積換算と、投与量の算出方法が異なるため、処方監査時には患者の年齢を必ず確認する必要があります。
計算ミスは重大な医療事故につながります。
調製方法については、1バイアルに注射用水10.5mLを加えると濃度5mg/mLの溶解液になります。溶解の際は泡立てないよう静かに回転させて混和することが求められています。希釈後速やかに投与しない場合は、2~8℃で保存し、溶解後24時間以内に投与することが添付文書に明記されています。
ブレンツキシマブベドチン投与時の末梢神経障害と減量基準
ブレンツキシマブベドチンの最も重要な副作用は末梢神経障害で、発現率は驚くべきことに53%にも達します。半数以上の患者で何らかの神経症状が出現するということです。具体的には末梢性感覚ニューロパチー(42%)、末梢性運動ニューロパチー(9%)、錯感覚(5%)などが報告されています。
添付文書には、末梢神経障害の発現時における詳細な休薬・減量基準が設定されています。Grade 1(機能障害はなく、知覚障害や反射消失のみ)の場合は同一用法用量で投与を継続できます。Grade 2(機能障害はあるが日常生活に支障はない)に進行した場合、0.9mg/kgまたは36mg/m²に減量して投与を継続します。
Grade 3(日常生活に支障がある)では、Grade 2以下に回復するまで休薬が必要です。回復後は0.9mg/kgまたは36mg/m²に減量して投与を再開します。Grade 4(生命を脅かす、または障害が永続的)では投与中止が原則となります。
段階的な対応が求められるということですね。
臨床試験のデータでは、末梢神経障害の多くは投与中止後に改善または消失することが示されています。ECHELON-1試験では、治療終了後の最終フォローアップまでにA+AVD群で86%の患者の神経障害が消失または改善しました。ただし、一部の患者では症状が1年以上持続する可能性もあるため、治療終了後も継続的な観察が重要です。
末梢神経障害のリスクを最小化するために、神経毒性を有する他の抗がん剤との併用には特に注意が必要です。添付文書では、ビンクリスチンなどビンカアルカロイド系薬剤との併用時には、各薬剤の用法用量に従い適切に減量・休薬することが推奨されています。
医薬品情報センターの資料では、ブレンツキシマブベドチン治療に伴う末梢神経障害の管理方法について詳細な解説がなされており、実臨床での対応の参考になります。
ブレンツキシマブベドチンの重大な副作用と安全性管理
末梢神経障害以外にも、添付文書には複数の重大な副作用が警告されています。特に注意すべきは進行性多巣性白質脳症(PML)で、頻度不明ながら致死的な経過をたどる可能性があります。本剤の治療期間中および治療終了後は、意識障害、認知障害、麻痺症状、言語障害などPMLを疑う症状の出現に十分注意する必要があります。
骨髄抑制も高頻度で発現する副作用です。好中球減少症がGrade 3以上(1,000/mm³未満)となった場合、ベースラインまたは1,000/mm³以上に回復するまで休薬します。回復後は通常量で投与を再開できますが、Grade 4の好中球減少が再発した場合は0.9mg/kgまたは36mg/m²への減量が推奨されています。
Infusion reactionも重要な副作用の一つです。薬剤投与に伴う免疫反応により、悪寒、吐き気、呼吸困難、そう痒、咳嗽、蕁麻疹、発熱などが出現することがあります。投与前30分に抗ヒスタミン薬、解熱鎮痛薬、副腎皮質ステロイド薬による前投薬を行うことで、発現リスクを低減できます。
前投薬が予防の鍵ということです。
肝機能障害を有する患者への投与には特別な注意が必要です。添付文書の警告欄には、「中等度及び重度の肝機能障害を有する患者に対して本剤を投与した場合、MMAEの血中濃度が上昇し、副作用が強くあらわれるおそれがある」と明記されています。投与前には必ず肝機能検査を実施し、定期的なモニタリングが求められます。
ブレオマイシンとの併用は禁忌です。肺毒性(間質性肺炎等)の発現リスクが高まるため、絶対に併用してはいけません。過去にブレオマイシンを含むレジメンで治療歴のある患者でも、十分な期間が経過していれば本剤の使用は可能ですが、肺機能の慎重な評価が必要です。
ブレンツキシマブベドチンの薬物相互作用と併用注意薬剤
ブレンツキシマブベドチンから放出されるMMAEは、主にCYP3A4で代謝されます。そのため、強力なCYP3A4阻害薬との併用により、MMAEの血中濃度が上昇し、好中球減少症などの副作用発現頻度が高まる可能性があります。添付文書では、ケトコナゾール、イトラコナゾール、クラリスロマイシンなどのCYP3A4阻害薬が併用注意薬剤として挙げられています。
海外の薬物相互作用試験では、健康成人にブレンツキシマブベドチン1.2mg/kgを単回投与し、その後ケトコナゾール(強力なCYP3A4阻害薬)を併用投与した結果、MMAEのAUCが約34%増加したことが報告されています。
3分の1程度の増加ということですね。
臨床的に意味のある相互作用と考えられるため、併用する場合は患者の状態を慎重に観察し、副作用の早期発見に努める必要があります。
逆にCYP3A4誘導薬(リファンピシン、フェニトイン、カルバマゼピンなど)との併用では、MMAEの血中濃度が低下し、治療効果が減弱する可能性があります。添付文書には明記されていませんが、これらの薬剤を併用している患者では効果判定に注意が必要です。
神経毒性を有する併用薬剤についても注意が必要です。ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド系薬剤、プラチナ製剤、タキサン系薬剤などは末梢神経障害を引き起こすことが知られており、ブレンツキシマブベドチンとの併用で神経障害のリスクが相加的に高まる可能性があります。
併用薬剤の確認は薬剤師の重要な職責です。処方監査時には必ず患者の併用薬を確認し、相互作用の可能性がある場合は処方医にフィードバックすることが求められます。特にCYP3A4阻害薬を長期服用している患者では、代替薬への変更を含めた検討が必要になることもあります。
武田薬品工業の製品情報ページでは、アドセトリスの相互作用情報を含む詳細な製品特性が確認でき、臨床での薬剤管理に活用できます。