レゴラフェニブ作用機序とマルチキナーゼ阻害
代謝物M-2とM-5も親化合物と同等の薬理活性を持つ
レゴラフェニブの基本的な作用機序とキナーゼ阻害
レゴラフェニブは経口投与可能なマルチキナーゼ阻害剤として、がん細胞の増殖や血管新生に関与する複数のプロテインキナーゼを同時に阻害する薬剤です。この薬剤の最大の特徴は、単一の標的ではなく多様なキナーゼを広範囲に阻害することで、がんの進行を多方面から抑制する点にあります。
具体的な標的分子は大きく3つのカテゴリーに分類されます。第一に腫瘍血管新生に関わるキナーゼとして、VEGFR1(血管内皮増殖因子受容体1)、VEGFR2、VEGFR3、そしてTIE2があります。これらの受容体は腫瘍が自身の成長に必要な血管を新たに作り出す「血管新生」のプロセスで中心的な役割を担っています。レゴラフェニブがこれらを阻害することで、腫瘍への栄養供給路を遮断します。
つまり兵糧攻めの戦略です。
第二に腫瘍微小環境の維持に関与するキナーゼとして、PDGFR(血小板由来増殖因子受容体)とFGFR(線維芽細胞増殖因子受容体)を標的とします。腫瘍微小環境とは、がん細胞を取り囲む間質細胞や血管、免疫細胞などから構成される環境を指し、がんの生存と増殖を支える基盤となっています。これらの受容体を阻害することで、がんが生育しやすい土壌そのものを不適切な環境に変えていきます。
第三に腫瘍形成に直接関わるキナーゼとして、KIT、RET、RAF-1、BRAFを阻害します。これらはがん細胞内部のシグナル伝達経路に関与し、細胞の増殖や生存を促進する分子です。特にBRAFはメラノーマや大腸がんの一部で変異が認められ、がん化の駆動因子として知られています。RAF-1とともにMAPK経路を活性化させ、細胞の異常増殖を引き起こすため、これらの阻害は腫瘍細胞の増殖シグナルを直接遮断することを意味します。
このような多標的阻害作用により、レゴラフェニブは血管新生の抑制、腫瘍の栄養供給の遮断、がん細胞自身の増殖抑制という三つの側面から抗腫瘍効果を発揮します。単一標的の阻害剤と比較して、耐性獲得を遅らせる可能性があるとも考えられており、これがマルチキナーゼ阻害剤の大きな利点となっています。
医薬品医療機器総合機構(PMDA)のスチバーガ添付文書には、レゴラフェニブがin vitroで各種キナーゼを阻害することが詳細に記載されています。
レゴラフェニブ代謝とM-2・M-5活性代謝物
レゴラフェニブの薬理作用を理解する上で、代謝物の存在とその活性は見逃せない重要なポイントです。レゴラフェニブは肝臓でCYP3A4という代謝酵素によって主に代謝され、M-2(N-オキサイド体)とM-5(N-オキサイドアミド体)という2つの活性代謝物を生成します。これらの代謝物は単なる不活性な分解産物ではなく、未変化体であるレゴラフェニブ本体とほぼ同等の薬理活性を保持しています。
実は意外に思えますが。
臨床試験のデータによると、定常状態における血漿中濃度では、M-2とM-5の曝露量(AUC)は未変化体と同程度に達することが示されています。つまり体内では親化合物だけでなく、これら2つの代謝物も治療効果に大きく寄与していることになります。この特性は、レゴラフェニブの薬物動態を複雑にする一方で、より持続的な抗腫瘍効果をもたらす可能性があります。
M-2はレゴラフェニブがCYP3A4によって酸化されてN-オキサイド構造を持つようになった代謝物で、さらにこのM-2が代謝されることでM-5が生成されます。興味深いことに、M-2とM-5はBCRP(乳癌耐性タンパク)とP-gp(P-糖タンパク)という排出トランスポーターの基質となることが分かっています。これらのトランスポーターは薬物を細胞外に排出する働きを持つため、代謝物の組織分布や排泄に影響を与えます。
CYP3A4の活性が患者ごとに異なることや、併用薬によってその活性が変化することは、レゴラフェニブの治療効果や副作用の個人差に関連する可能性があります。例えばCYP3A4誘導薬であるリファンピシンとの併用では、未変化体のAUCが50%減少する一方で、M-5のAUCとCmaxは3.6倍と4.2倍に増加したとの報告があります。逆にCYP3A4阻害薬であるケトコナゾールとの併用では、未変化体が増加し、M-2とM-5は90%以上減少します。
結論は併用薬の管理が重要です。
このような代謝物の動態を理解しておくことで、薬物相互作用が疑われる場面では血中濃度測定の必要性を検討したり、患者への服薬指導で併用薬に注意を促したりする判断ができるようになります。また薬物動態の変動が副作用発現に関連している可能性があるため、代謝酵素の遺伝子多型を持つ患者や肝機能障害のある患者では特に慎重な観察が必要となります。
金沢大学医薬保健研究域の研究では、レゴラフェニブと活性代謝物M-2、M-5の体内動態機構の解明を進めており、最適な薬物治療を目指した研究が行われています。
レゴラフェニブとソラフェニブ構造上の違い
レゴラフェニブとソラフェニブは化学構造が非常に類似したマルチキナーゼ阻害剤ですが、その違いはわずか1個のフッ素原子の有無にあります。具体的には、レゴラフェニブはソラフェニブの中央フェニル環にフッ素原子を1個付加した構造を持っています。たったこれだけの違いですが、薬理作用の強さや適応疾患に大きな影響を与えています。
たった1個で大違いです。
ソラフェニブは2008年に本邦で肝細胞癌の治療薬として承認された経口マルチキナーゼ阻害剤で、VEGFR、PDGFR、RAF-1などを標的とします。一方でレゴラフェニブは、基本的に同じ標的分子を持ちながらも、フッ素原子の付加によってキナーゼ阻害効果がより強力になっています。このため、ソラフェニブでは効果が不十分だった大腸癌に対しても、レゴラフェニブは2013年に適応を取得しました。
フッ素原子は有機化学において特殊な性質を持つハロゲン元素です。電気陰性度が高く、炭素-フッ素結合は非常に強固であるため、分子全体の安定性を向上させます。また脂溶性を高める効果もあり、細胞膜透過性や標的分子への結合親和性に影響を与えます。レゴラフェニブの場合、このフッ素の付加によってキナーゼの活性部位への結合がより強固になり、阻害活性が増強されたと考えられています。
興味深い点は、構造がこれほど似ているにもかかわらず、適応疾患が異なることです。ソラフェニブは肝細胞癌、腎細胞癌、甲状腺癌に適応がありますが、大腸癌では単剤での奏効例が認められず保険適応となっていません。一方でレゴラフェニブは治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌、がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍(GIST)、がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌に適応を持ちます。
つまり使い分けが必要です。
副作用プロファイルにも若干の違いがあります。レゴラフェニブはソラフェニブに比べて手足症候群の発現率が高く、日本人では約80%に達すると報告されています。また肝機能障害の頻度もやや高い傾向があります。これらの違いは、より強力なキナーゼ阻害作用の裏返しとも言えます。臨床現場では、効果と副作用のバランスを考慮しながら、患者ごとに最適な薬剤を選択する必要があります。
飯塚病院肝臓内科レターでは、レゴラフェニブとソラフェニブの構造的相違と臨床的特徴について詳しく解説されています。
レゴラフェニブ適応疾患と臨床効果
レゴラフェニブは現在、本邦において3つの適応症を持つマルチキナーゼ阻害剤です。それぞれの適応は、他の標準治療が効かなくなった患者に対する後続治療として位置づけられており、限られた選択肢の中で重要な役割を果たしています。
第一の適応は「治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸癌」です。これは標準的な化学療法(フルオロウラシル系薬剤、イリノテカン、オキサリプラチンなど)や分子標的薬(ベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなど)による治療後に病勢進行が認められた患者が対象となります。国際共同第III相試験であるCORRECT試験では、プラセボ群と比較してレゴラフェニブ群で全生存期間が有意に延長し、死亡リスクが23%減少したことが示されました。
第二の適応は「がん化学療法後に増悪した消化管間質腫瘍(GIST)」です。GISTは消化管の間質細胞から発生する比較的まれな肉腫で、標準治療としてまずイマチニブ、次にスニチニブが使用されます。レゴラフェニブは、これら2つの薬剤による治療後に病勢進行した患者に対する三次治療として承認されています。第III相試験であるGRID試験では、プラセボ群の無増悪生存期間が0.9か月であったのに対し、レゴラフェニブ群では4.8か月と有意な延長が認められました。
第三の適応は「がん化学療法後に増悪した切除不能な肝細胞癌」です。肝細胞癌の一次治療としてはソラフェニブやレンバチニブが使用されますが、これらの治療後に病勢進行した場合の二次治療選択肢は限られていました。RESORCE試験において、レゴラフェニブはプラセボと比較して全生存期間を有意に延長し(10.6か月 vs 7.8か月)、死亡リスクを37%減少させることが示されました。この結果を受けて2017年に肝細胞癌への適応が追加されました。
これらすべて後続治療です。
いずれの適応においても、レゴラフェニブは一次治療や二次治療における有効性・安全性は確立されていません。あくまで標準治療が効かなくなった後の選択肢として位置づけられています。また術後補助化学療法としての使用も確立されていないため、再発予防目的での投与は推奨されません。この点は添付文書の「効能又は効果に関連する注意」に明記されており、適応外使用を避けるためにも医療従事者は十分に理解しておく必要があります。
用法用量は、成人に対してレゴラフェニブとして1日1回160mgを食後に3週間連日経口投与し、その後1週間休薬するという4週間サイクルを繰り返す方法です。副作用の発現状況に応じて、40mg(1錠)ずつ減量し、最低用量は1日80mgとされています。患者の状態を慎重に観察しながら、継続可能な用量を見極めることが重要です。
小野薬品工業のプレスリリースでは、レゴラフェニブと免疫チェックポイント阻害薬との併用療法に関する臨床試験情報が公開されており、新たな治療戦略の可能性が示されています。
レゴラフェニブ服用時の食事と薬物動態
レゴラフェニブの服用において、食事のタイミングと内容は薬物動態に大きな影響を与えるため、適切な服薬指導が不可欠です。添付文書には「空腹時に本剤を投与した場合、食後投与と比較して未変化体のCmax及びAUCの低下が認められることから、空腹時投与を避けること」と明記されています。
空腹時は効果が弱まります。
具体的には、空腹時投与では食後投与と比較してレゴラフェニブ本体のバイオアベイラビリティが低下します。これは脂溶性の高い薬物の特性によるもので、食事によって胆汁酸の分泌が促進され、薬物の溶解性と吸収が向上するためと考えられています。そのため本剤は必ず食後30分以内に服用するよう指導する必要があります。
さらに重要なのは、食事の脂肪含量も薬物動態に影響を与えるという点です。高脂肪食摂取後の投与では、低脂肪食摂取後の投与と比較して、活性代謝物であるM-2とM-5のCmax及びAUCが低下することが報告されています。代謝物の血中濃度低下は治療効果の減弱につながる可能性があるため、「本剤は高脂肪食後の投与を避けることが望ましい」とされています。
低脂肪食とは具体的にどのような食事を指すのでしょうか。
一般的には、総カロリーに占める脂質由来のカロリーが30%以下の食事を低脂肪食と定義します。例えばご飯とみそ汁、焼き魚、おひたしといった和食の朝食や、うどんやそばなどの麺類は比較的低脂肪です。一方で、揚げ物、ステーキ、クリームソースを使った料理、脂身の多い肉料理などは高脂肪食に該当します。患者への指導では、「服用前の食事は和食中心で、揚げ物や脂っこい料理を避けるようにしてください」と具体例を示すと理解しやすくなります。
注意すべき点として、低脂肪食が必要なのは服用前の食事のみで、その他の時間帯の食事については通常通りで構いません。1日3食すべてを低脂肪にする必要はなく、例えば朝食後に服用する場合は朝食を低脂肪にし、昼食や夕食は通常通りの食事が可能です。この点を誤解している患者も多いため、明確に説明することが大切です。
服薬指導時には具体的に次のように伝えると良いでしょう。「この薬は毎日朝食後に飲みますが、その朝食は和食のようなあっさりした食事にしてください。トーストとヨーグルト程度なら問題ありません。
ベーコンエッグや揚げ物は避けましょう。
昼食や夕食は普段通りで大丈夫です。また食事を抜いて薬だけ飲むと効果が弱まるので、必ず何か食べてから飲んでください」といった形です。
食事の影響を考慮しないとどうなるか。
実際の臨床では、空腹時投与や高脂肪食後投与によって十分な血中濃度が得られず、期待される治療効果が得られない可能性があります。逆に患者が独自の判断で服用タイミングを変更すると、薬物動態が不安定になり、副作用発現のリスクも変動します。したがって初回投与時だけでなく、外来でのフォローアップの際にも服薬状況を確認し、食事との関係について継続的に指導することが求められます。
バイエルベターライフナビでは、スチバーガ服用時の食事のコツについて患者向けに分かりやすく解説されており、服薬指導の際の参考資料として活用できます。
レゴラフェニブ副作用と手足症候群対策
レゴラフェニブの使用において最も高頻度で問題となる副作用は手足症候群(Hand-Foot Syndrome, HFS)です。添付文書によれば、その発現率は50.3%と非常に高く、グレード3以上の重篤な症例も17%程度に認められます。特に日本人患者では発現率が約80%に達するとの報告もあり、QOL(生活の質)を著しく低下させる要因となっています。
半数以上が経験します。
手足症候群は、手のひらや足の裏に限局して発現する皮膚障害で、初期には軽度の発赤や違和感から始まり、進行すると水疱形成、亀裂、激しい疼痛を伴うようになります。症状の特徴として、荷重部や外的刺激を繰り返し受ける部位(かかと、親指の付け根、指先など)に強い角化を起こすことが挙げられます。マルチキナーゼ阻害剤による手足症候群は、従来の化学療法薬(5-FUなど)による手足症候群とは発現機序が異なり、VEGFRやPDGFRの阻害による血管修復機能の障害が主な原因と考えられています。
グレード分類に応じた対応が重要です。グレード1(軽度の皮膚変化や皮膚炎で、痛みがない)の段階では、投与を継続しながら対症療法を直ちに開始します。具体的には保湿剤の使用、刺激の軽減、柔らかいクッション性のある靴の着用などです。グレード2(痛みを伴う皮膚変化で、日常生活動作に支障がある)では、1回目の発現時には40mg減量し対症療法を行います。改善が見られない場合は7日間休薬し、グレード0~1に軽快してから再開します。
グレード3(痛みを伴う高度の皮膚変化で、日常生活動作を著しく制限する)では、グレード0~1に軽快するまで少なくとも7日間は休薬し、再開時には40mg減量します。3回目の発現で投与中止となるため、初期段階からの積極的な予防と早期対応が治療継続の鍵となります。
予防策としてはいくつかのアプローチがあります。まず投与開始前から保湿ケアを徹底することです。尿素配合クリームやヘパリン類似物質含有製剤を1日2回以上、手のひらと足の裏に塗布し、皮膚のバリア機能を維持します。次に物理的刺激を避けることが重要で、きつい靴やヒールの高い靴を避け、クッション性の高いインソールを使用します。手作業では厚手の手袋を着用し、熱いお湯での洗い物を避けるよう指導します。
予防が何より大切です。
発現後の対症療法としては、ステロイド外用剤(中等度~強力)の使用が推奨されます。また角化が強い場合には、サリチル酸ワセリンなどの角質軟化剤を併用することもあります。疼痛が強い場合には、鎮痛薬(NSAIDsやアセトアミノフェン)の内服も検討します。皮膚科との連携も重要で、症状が重篤化する前に専門的な評価を受けることで、適切な外用療法の選択や処置が可能になります。
その他の重要な副作用として、肝機能障害(7.7%)、高血圧(29.2%)、下痢(33.7%)、出血(8.8%)などがあります。肝機能障害に関しては、劇症肝炎や肝不全により死亡に至る例も報告されているため、投与開始前および投与中は定期的な肝機能検査(AST、ALT、ビリルビン)が必須です。ALT/ASTが正常上限の5倍を超え20倍以下の場合、1回目は休薬し正常化後に減量して再開しますが、2回目の発現や20倍超過では投与中止となります。
高血圧は約3割で発現し、降圧治療でコントロールできない場合は減量または休薬が必要です。投与開始前および投与中の定期的な血圧測定が推奨されます。下痢も高頻度に認められ、脱水のリスクがあるため、止痢剤の使用や水分摂取の指導が重要です。出血は消化管出血、鼻出血、血尿など多様な部位で発現し、重篤な場合は死亡例も報告されています。
消化器癌治療の広場の副作用対策講座では、レゴラフェニブによる手足症候群の発現機序と具体的な対策について詳しく解説されており、臨床現場での実践的な情報が得られます。

大腸癌に対するレゴラフェニブ: チームレゴラフェニブ-国立がん研究センター東病院のチーム医療