ドパミン受容体拮抗薬と分類
メトクロプラミドの血液脳関門通過率はドンペリドンの100倍以上です。
ドパミン受容体拮抗薬の基本分類と作用機序
ドパミン受容体拮抗薬は、脳内や末梢のドパミン受容体に結合してドパミンの作用を阻害する薬物群の総称です。現在、ドパミン受容体にはD1からD5まで5種類のサブタイプが知られており、これらの受容体は中枢神経系、末梢神経系、血管、腎臓などに広く分布しています。
ドパミン受容体拮抗薬の主な作用部位はD2受容体です。このD2受容体を遮断することで、過剰なドパミン活性を抑制し、統合失調症における幻覚や妄想などの陽性症状を改善します。また、延髄の化学受容器引き金帯(CTZ)や消化管のD2受容体を遮断することで、制吐作用や消化管運動促進作用を発揮します。
臨床的には、ドパミン受容体拮抗薬は大きく3つのカテゴリーに分類されます。第一に抗精神病薬として使用される定型抗精神病薬、第二に非定型抗精神病薬、第三に消化管運動改善薬です。定型抗精神病薬は主にD2受容体のみを強力に遮断するため、錐体外路症状などの副作用が出やすい特徴があります。
非定型抗精神病薬は、D2受容体に加えてセロトニン5-HT2A受容体も遮断することで、陰性症状にも効果を示し、錐体外路症状が少ないという利点があります。一方、消化管運動改善薬は末梢のD2受容体に作用して、悪心・嘔吐や消化器症状を改善します。
ドパミン受容体拮抗薬の種類一覧と商品名
定型抗精神病薬には、フェノチアジン系、ブチロフェノン系、ベンザミド系が含まれます。フェノチアジン系の代表的な薬剤としては、レボメプロマジン(レボトミン)やクロルプロマジン(コントミン、ウインタミン)があり、主に統合失調症の治療に使用されます。
ブチロフェノン系では、ハロペリドール(セレネース)が最も知られており、強力な抗精神病作用を持ちますが、錐体外路症状の発現頻度が高いという特徴があります。ベンザミド系にはスルピリド(ドグマチール)があり、比較的軽度の統合失調症や消化器症状にも適応があります。
非定型抗精神病薬は、セロトニン・ドパミン拮抗薬(SDA)とドパミン受容体部分作動薬(DPA)に分類されます。SDAにはリスペリドン(リスパダール)、パリペリドン(インヴェガ)、ペロスピロン(ルーラン)、ブロナンセリン(ロナセン)、ルラシドン(ラツーダ)などが含まれます。これらは定型抗精神病薬と比較して錐体外路症状が少なく、現在の統合失調症治療の第一選択薬となっています。
DPAの代表格はアリピプラゾール(エビリファイ)です。この薬剤はドパミンD2受容体部分作動薬という独自の作用機序を持ち、ドパミンが過剰な状態では拮抗薬として、不足している状態では作動薬として働きます。体重増加や高プロラクチン血症が比較的少ないという利点がある一方で、アカシジア(静坐不能)の副作用には注意が必要です。
消化管運動改善薬としては、メトクロプラミド(プリンペラン)、ドンペリドン(ナウゼリン)、イトプリド(ガナトン)の3種類が主に使用されています。これらは制吐作用と消化管運動促進作用を持ち、悪心・嘔吐、胃もたれ、腹部膨満感などの消化器症状の改善に用いられます。
ドパミン受容体拮抗薬の副作用と注意点
ドパミン受容体拮抗薬の最も重要な副作用は錐体外路症状です。抗精神病薬使用時の薬剤性パーキンソニズムの発症頻度は15~60%と非常に高く、特に定型抗精神病薬では高頻度で出現します。錐体外路症状には、パーキンソン症状(振戦、筋強剛、無動)、ジストニア(筋緊張異常)、アカシジア、遅発性ジスキネジアなどが含まれます。
大脳の線条体で75~80%以上のドパミンD2受容体が占拠されると、錐体外路症状が出現することが明らかになっています。定型抗精神病薬はD2受容体に固く結合するため、もともとあるドパミンの濃度が変動しても関係なく受容体を遮断し続けることが、副作用の多さにつながっています。
高齢者では特に注意が必要です。というのも、高齢者は加齢によりドパミンがそもそも減少しているため、ドパミン受容体拮抗薬の使用で薬剤性パーキンソニズムを起こしやすいからです。実際、高齢者における第一世代抗精神病薬での薬剤性パーキンソニズム発生率は30~50%にも達します。
悪性症候群は稀ですが重篤な副作用です。抗精神病薬または制吐薬による治療を受けた人のごく少数に発症し、発症リスクは0.02~3%とされています。高熱、意識障害、高度の筋硬直、不随意運動などが特徴的な症状で、致死的な経過をたどる可能性があります。悪性症候群は薬剤開始時や用量増減時に約20%、2日~2週間に50%、2週間以降に20%が発症するとされています。
その他の副作用として、高プロラクチン血症、体重増加、代謝異常(糖尿病、脂質異常症)、心血管系への影響(QT延長)などがあります。非定型抗精神病薬は錐体外路症状が少ない反面、代謝異常や体重増加のリスクが高い薬剤もあるため、個々の薬剤特性を理解した使い分けが重要です。
メトクロプラミドとドンペリドンの違いと使い分け
消化管運動改善薬として広く使われるメトクロプラミドとドンペリドンには、血液脳関門の透過性という決定的な違いがあります。メトクロプラミドは血液脳関門を通過しやすく、中枢性と末梢性の両方のドパミン受容体を遮断します。一方、ドンペリドンは血液脳関門を通過しにくく、脳内移行率は1%未満という驚異的な低さです。
具体的には、ドンペリドンの血液脳関門透過率はメトクロプラミドと比較して100分の1以下であることが報告されています。この差が臨床的な安全性の違いとして現れます。つまり、メトクロプラミドは中枢性の嘔吐に対しても効果を発揮する一方で、錐体外路症状などの中枢性副作用が出やすいということです。
メトクロプラミドは主に尿中に排泄されるため、腎機能低下患者では血中濃度が上昇しやすく、用量調整が必要です。また、長期連用すると神経障害をきたす可能性があるため、使用期間にも注意が必要です。特に高齢者や若年女性では錐体外路症状が出やすいとされています。
ドンペリドンは脳内移行が極めて低いため、メトクロプラミドのような中枢神経有害事象は少ないという利点があります。そのため、錐体外路症状のリスクを避けたい高齢者や、長期使用が想定される症例では、ドンペリドンが優先的に選択されます。経口剤以外に坐剤も使用可能で、嘔吐が激しく経口投与が困難な場合にも対応できます。
ただし、ドンペリドンにも心血管系のリスクが報告されています。QT延長や不整脈のリスクがあるため、心疾患の既往がある患者や高齢者では慎重投与が必要です。イトプリドはメトクロプラミドとドンペリドンの中間的な特性を持ち、アセチルコリンエステラーゼ阻害作用も併せ持つことで、より強力な消化管運動促進作用を発揮します。
ドパミン受容体拮抗薬の適応疾患と臨床での選択基準
統合失調症の薬物治療では、非定型抗精神病薬が第一選択となります。初発の統合失調症では、SDAやDPAから開始することが推奨されており、定型抗精神病薬は副作用の観点から現在ではあまり使用されません。ただし、興奮状態が激しい急性期には、定型抗精神病薬の注射剤を短期間使用することもあります。
若年発症で運動合併症のリスクが高い場合は、アリピプラゾールなどのDPAから開始します。アリピプラゾールは血中濃度の半減期が60時間と長く、1日1回の投与で安定した効果が得られます。不眠となることがあるため、朝1回投与が基本です。一方、65歳以上で発症し運動合併症のリスクが高くない場合は、リスペリドンなどのSDAを選択することが一般的です。
双極性障害における躁状態の治療では、気分安定化作用を持つアリピプラゾールやリスペリドンが使用されます。アリピプラゾールは少量でドパミンの作用を増やし、多い量でドパミンの作用を減らすという特性があるため、用量調整により躁状態だけでなくうつ状態にも対応できます。
消化器症状に対しては、症状の原因と患者背景に応じて薬剤を選択します。慢性胃炎、胃下垂症、胃切除後症候群などの消化器疾患による悪心・嘔吐には、イトプリドが第一選択となることが多いです。化学療法後の悪心・嘔吐(PONV)では、5-HT3受容体拮抗薬と併用してメトクロプラミドを使用することもあります。
高齢者や錐体外路症状のリスクが高い患者では、ドンペリドンが安全性の観点から優先されます。ただし、心疾患の既往がある場合は、心電図モニタリングを行いながら慎重に使用する必要があります。パーキンソン病患者では、ドパミン受容体拮抗薬は症状を悪化させるため原則禁忌です。
医療従事者として重要なのは、患者の既往歴、併用薬、年齢、症状の重症度を総合的に評価し、最も適切な薬剤を選択することです。また、副作用モニタリングを怠らず、早期発見・早期対応を心がける姿勢が求められます。
KEGGデータベース:ドパミンD2受容体拮抗薬の商品一覧と薬価比較
厚生労働省:薬剤性パーキンソニズムとパーキンソン病との違い(PDF)
PMDA:重篤副作用疾患別対応マニュアル 薬剤性パーキンソニズム(PDF)