抗ヘルペスウイルス薬副作用
腎機能正常でも意識障害が起きる
抗ヘルペスウイルス薬の主な副作用と発現頻度
抗ヘルペスウイルス薬の副作用は、薬剤の種類と投与経路によって発現頻度が大きく異なります。アシクロビル(ゾビラックス®)の経口投与では消化器症状が最も多く、悪心・嘔吐が約5~10%、下痢が約2~5%の患者に認められます。
バラシクロビル(バルトレックス®)はアシクロビルのプロドラッグですが、バイオアベイラビリティが54%と高いため、同様の副作用プロファイルを示します。ファムシクロビル(ファムビル®)では頭痛の発現率が約10~15%とやや高めです。
静注製剤では局所の血管痛や静脈炎が約1~3%で発生します。
これは薬剤のpHが高いことが原因です。
重篤な副作用としては以下が報告されています:
- 急性腎不全:0.1~1%(特に急速静注時)
- 中枢神経系症状(意識障害、せん妄、幻覚):0.5~2%(腎機能低下患者では5~10%)
- 血小板減少症:0.1%未満
- 汎血球減少症:0.01%未満
- アナフィラキシー:0.01%未満
数字だけ見ると低頻度ですが、高齢者や腎機能低下患者では発現率が大幅に上昇します。CCr(クレアチニンクリアランス)が30mL/分未満の患者では、中枢神経系副作用のリスクが通常の3~5倍に増加するというデータがあります。
つまり腎機能の評価が必須です。
投与前には必ずeGFRまたはCCrを計算し、投与量調整の要否を判断してください。特に75歳以上の高齢者では、血清クレアチニン値が正常範囲内でも実際の腎機能は低下していることが多いため、Cockcroft-Gault式を用いた推算CCrの評価が重要です。
PMDA 医薬品医療機器情報提供ホームページ(アシクロビルの添付文書情報)
腎機能低下時の抗ヘルペスウイルス薬投与量調整
腎機能低下患者への投与量調整は、重篤な副作用を防ぐ最も重要な管理項目です。アシクロビルとバラシクロビルは主に腎臓から未変化体として排泄されるため、腎機能に応じた厳密な用量調整が求められます。
CCr別の投与量調整基準(アシクロビル経口投与の例):
- CCr ≧50mL/分:通常量(1回200mg、1日5回)
- CCr 25~49mL/分:1回200mg、1日3回
- CCr 10~24mL/分:1回200mg、1日2回
- CCr <10mL/分:1回200mg、1日1回
バラシクロビルの場合、帯状疱疹治療での標準用量は1回1000mg、1日3回ですが、CCrが30mL/分未満では1回500mg、1日2回に減量します。CCrが10mL/分未満ではさらに1回500mg、1日1回まで減量が必要です。
静注アシクロビルでは、CCrが25~50mL/分で投与間隔を12時間ごとに延長し、10~25mL/分では24時間ごと、10mL/分未満では24時間ごと投与かつ用量を半量にします。
これが原則です。
血液透析患者では透析後に追加投与が必要です。アシクロビルは透析性が高く、4時間の血液透析で血中濃度が約60%低下するため、透析終了後に通常量の半量を追加投与します。腹膜透析患者では投与量調整が複雑になるため、血中濃度測定を検討してください。
高齢者では筋肉量の減少により血清クレアチニン値が実際の腎機能を反映しないことがよくあります。例えば、70歳・体重50kgの女性で血清クレアチニン0.9mg/dLの場合、Cockcroft-Gault式で計算すると推算CCrは約42mL/分となり、投与量調整の対象です。
意外ですね。
eGFRとCCrの使い分けも重要で、薬物投与量調整にはCCrを使用するのが標準的な方法です。eGFRは体表面積で補正された値のため、特に低体重や高度肥満の患者では実際の腎機能と乖離する可能性があります。
腎機能の定期的なモニタリングも欠かせません。投与開始後3~5日目、その後は1週間ごとに血清クレアチニン値を測定し、腎機能の変動に応じて投与量を再調整してください。
抗ヘルペスウイルス薬による中枢神経系副作用の特徴
中枢神経系副作用は抗ヘルペスウイルス薬の最も注意すべき有害事象の一つです。主な症状は意識障害、せん妄、幻覚、ミオクローヌス、振戦、けいれんなどで、高齢者や腎機能低下患者で発現リスクが著しく高まります。
発症メカニズムは、アシクロビルの主要代謝物である9-carboxymethoxymethylguanine(CMMG)が中枢神経系に蓄積することが主因です。CMMGはGABA受容体に拮抗作用を示し、神経興奮性を亢進させます。
症状の出現時期は投与開始後24~72時間以内が最も多く、約80%の症例が投与開始3日以内に発症します。初期症状として軽度の見当識障害や注意力低下が見られることがあり、この段階で気づけば重症化を防げます。
どういうことでしょうか?
具体的には、患者が日付や場所を正確に答えられない、会話が支離滅裂になる、昼夜逆転が起こるなどの変化が現れます。医療従事者が「いつもと違う」と感じたら、すぐに薬剤性の可能性を疑う必要があります。
高齢者では認知症やせん妄との鑑別が困難なケースが多く、見逃されやすいのが現状です。特に既往に認知症がある患者では「いつもの症状」と判断されがちですが、急激な悪化は薬剤性を示唆します。
リスク因子として以下が明確に関連しています。
これらの因子が複数該当する患者では、発症リスクが相乗的に高まります。例えば、80歳でCCr 20mL/分の患者では、発症率が20~30%に達するという報告もあります。
痛いですね。
診断には脳波検査が有用で、全般性の徐波化や三相波が特徴的です。ただし臨床現場では脳波検査がすぐに実施できないことも多いため、臨床症状と投与歴、腎機能から総合的に判断します。
治療は直ちに薬剤を中止し、必要に応じて血液透析を検討します。軽症例では中止のみで24~72時間以内に症状が改善しますが、重症例では透析により血中濃度を速やかに低下させることが推奨されます。
予防には適切な投与量調整が最も重要です。また投与開始時から意識レベルのモニタリングを行い、Japan Coma Scale(JCS)やGlasgow Coma Scale(GCS)を用いた客観的評価を記録してください。
抗ヘルペスウイルス薬と併用注意薬剤の相互作用
薬剤相互作用による副作用リスクの増大は臨床上見逃せない問題です。特に腎機能への影響が大きい薬剤との併用では、予期しない重篤な副作用が発生する可能性があります。
腎毒性を増強する薬剤との併用:
NSAIDsとの併用では腎血流量が減少し、アシクロビルの腎排泄が遅延します。特にインドメタシンやジクロフェナクなどの強力なNSAIDsでは、血清クレアチニン値が0.5~1.0mg/dL上昇することがあります。
アミノグリコシド系抗菌薬(ゲンタマイシン、アミカシンなど)との併用は、相加的に腎毒性が増強されます。両剤とも尿細管上皮細胞に障害を与えるため、併用時には48時間ごとの腎機能チェックが必要です。
シクロスポリンやタクロリムスなどの免疫抑制薬も腎毒性を有します。臓器移植後の患者でヘルペス感染症治療を行う際は、免疫抑制薬の血中濃度モニタリングと並行して腎機能を厳重に監視してください。
結論は併用回避が理想です。
しかし臨床的に両剤の使用が必要な場合は、十分な水分負荷(1日2~3L)と腎機能の頻回モニタリング、必要に応じた抗ヘルペスウイルス薬の減量で対応します。
プロベネシドとの相互作用:
プロベネシドは尿細管分泌を阻害するため、アシクロビルの腎クリアランスを約30~40%低下させます。これによりアシクロビルの血中濃度-時間曲線下面積(AUC)が約40%増加し、副作用リスクが上昇します。
この相互作用は痛風治療でプロベネシドを服用中の患者で問題となります。併用する場合は、アシクロビルの投与量を25~30%減量するか、投与間隔を延長してください。
テオフィリン製剤との相互作用:
アシクロビルはテオフィリンの代謝を阻害し、血中濃度を10~20%上昇させることがあります。テオフィリンは治療域が狭く(有効血中濃度5~15μg/mL)、20μg/mL以上で中毒症状が出現するため、併用時はテオフィリン血中濃度の測定が推奨されます。
ミコフェノール酸モフェチルとの相互作用:
腎移植患者で使用されるミコフェノール酸モフェチル(セルセプト®)は、アシクロビルとの併用で両剤のAUCが約20~30%増加します。
これは両剤が尿細管分泌で競合するためです。
厳しいところですね。
併用が必要な場合は、両剤の血中濃度モニタリングと副作用の注意深い観察が必要です。特に消化器症状や血液学的異常(白血球減少、貧血)に注意してください。
薬剤相互作用を避けるための実践的アプローチとして、抗ヘルペスウイルス薬投与前に必ず併用薬を確認し、相互作用の可能性がある薬剤については投与スケジュールの調整や代替薬の検討を行います。電子カルテの相互作用チェック機能を活用することも有効です。
抗ヘルペスウイルス薬投与時の腎障害予防と水分管理
腎障害は抗ヘルペスウイルス薬の重大な副作用であり、適切な予防策が患者の安全を左右します。特に静注アシクロビルでは、投与方法と水分管理が腎障害発生率を大きく変えます。
静注アシクロビルによる急性腎不全の発生メカニズムは、主に尿細管内での薬剤結晶析出です。アシクロビルは水溶性が低く(25℃で2.5mg/mL)、尿中濃度が高くなると結晶化して尿細管を閉塞します。
急性腎不全のリスクを高める因子:
これらの因子が複数重なると、腎障害リスクは指数関数的に上昇します。例えば、脱水状態で急速静注を行うと、腎障害発生率が通常の8~10倍になるというデータがあります。
予防策として最も重要なのは適切な投与速度です。アシクロビル静注は必ず1時間以上かけて点滴投与し、できれば2時間かけて投与することが理想的です。投与速度が遅いほど尿細管内での結晶析出リスクが低下します。
水分負荷も極めて重要で、投与前の水分補正と投与中の十分な尿量確保が必須です。具体的には、投与開始前に500~1000mLの生理食塩水を投与し、投与中も尿量を100mL/時以上に維持します。
つまり十分な水分補給が基本です。
経口投与でも水分摂取は重要です。バラシクロビル1000mgを1日3回服用する場合、1回の服用につき200~300mLの水分摂取を推奨してください。これにより尿中薬物濃度が希釈され、結晶析出リスクが低減します。
投与中の腎機能モニタリング計画:
- 投与開始前:血清クレアチニン、BUN、尿検査
- 投与開始後3~5日目:血清クレアチニン、BUN
- その後:週2回の血清クレアチニン測定
- 尿量モニタリング:毎日記録
血清クレアチニン値が前値より0.5mg/dL以上上昇した場合、または尿量が400mL/日以下に減少した場合は、直ちに投与量の見直しまたは中止を検討します。
尿検査で結晶尿や蛋白尿が検出された場合も、腎障害の初期徴候として対応が必要です。結晶尿は尿沈渣で針状結晶として観察されます。
高齢者では口渇感が低下しているため、自発的な水分摂取が不十分になりがちです。看護師による定期的な水分摂取の促しと、摂取量の記録が重要です。1日2000~3000mLの水分摂取を目標としますが、心不全など水分制限が必要な患者では主治医と相談の上、個別に設定してください。
脱水のリスクが高い状況(下痢、嘔吐、発熱)では、より積極的な水分補正が必要です。必要に応じて点滴による水分補給を検討し、経口摂取困難な場合は入院管理も選択肢です。
妊婦・授乳婦への抗ヘルペスウイルス薬投与の安全性評価
妊娠中のヘルペス感染症は母体だけでなく胎児にも影響を及ぼすため、治療の必要性と薬剤の安全性を慎重に評価する必要があります。抗ヘルペスウイルス薬の妊娠中の使用に関するエビデンスは蓄積されつつありますが、完全にリスクフリーとは言えません。
アシクロビルは米国FDA分類でカテゴリーB(動物実験では危険性なし、ヒトでの十分な研究なし)に分類されています。大規模な前向き研究では、妊娠初期のアシクロビル曝露による先天異常の増加は認められていません。
デンマークとスウェーデンの登録研究では、妊娠第1三半期にアシクロビルを使用した1804例の妊婦を追跡した結果、先天異常の発生率は2.2%で、一般集団の2.4%と有意差がありませんでした。
これは使えそうです。
バラシクロビルも同様にカテゴリーBで、妊娠中の使用実績があります。妊娠後期の性器ヘルペス再発予防として、妊娠36週から分娩まで1日500mgの投与が行われることがあります。
妊娠時期別の投与判断:
妊娠第1三半期(器官形成期)では、母体の重症感染症(播種性ヘルペス、ヘルペス脳炎など)以外では投与を控えるのが原則です。軽症の性器ヘルペスや口唇ヘルペスでは、局所療法や対症療法で経過観察します。
妊娠第2・3三半期では、重症感染や初感染性器ヘルペスの場合、治療のベネフィットがリスクを上回ると判断されれば投与を検討します。ただし最小有効量で最短期間の使用が基本です。
妊娠後期の性器ヘルペス再発予防投与は、新生児ヘルペス感染のリスク低減効果が示されています。帝王切開率を約40%減少させるというメタアナリシスの結果があります。
授乳中の使用については、アシクロビルは乳汁中に移行しますが、乳児が摂取する量は母体投与量の約1%程度です。米国小児科学会は授乳中の使用を「通常は適合」としています。
乳汁中濃度は母体の血漿中濃度の約0.6~4.1倍(平均2.2倍)ですが、乳児の全身曝露量は非常に少なく、200mgを1日5回服用する母親が授乳した場合、乳児の推定摂取量は約0.3mg/kg/日です。
これは新生児への治療量(10~20mg/kg/日)の1~3%に過ぎません。
授乳を継続する場合の注意点として、乳児の機嫌や哺乳状況、便の性状を観察します。下痢や不機嫌が続く場合は小児科医に相談してください。また乳児の腎機能が未熟な場合(早産児や低出生体重児)は、より慎重な観察が必要です。
実際の投与判断では、産科医、感染症専門医、薬剤師が連携してリスク・ベネフィットを評価します。患者への説明では、現在得られているエビデンスと限界を正確に伝え、インフォームドコンセントを十分に取得することが重要です。
代替選択肢として、軽症例では局所療法(アシクロビルクリーム、ビダラビンゲル)の使用も検討できます。全身投与に比べて胎児への影響はさらに低いと考えられます。
国立成育医療研究センター 妊娠と薬情報センター(授乳中の薬の安全性情報)

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