フシジン酸とは何か臨床現場での適切な使用と耐性化対策

フシジン酸の基礎知識と臨床応用

小児アトピー患者の21%がすでに耐性菌を保有している

この記事の3つのポイント
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フシジン酸の独特な作用機序

延長因子EF-Gと結合し、細菌の蛋白合成を阻害する特異的メカニズム

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耐性化リスクへの対応

単剤使用での耐性菌出現リスクと、短期使用の重要性

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小児アトピー患者での注意点

成人の14%に対し小児では21%と高い耐性率を示す疫学データ

フシジン酸の作用機序と抗菌スペクトラム

 

フシジン酸ナトリウムは、真菌Fusidium coccineumから得られるステロイド骨格を有する抗生物質です。化学構造中にステロイド構造を持つという非常に珍しい特徴がありますが、ステロイドホルモン様作用は示しません。つまり、抗炎症作用や免疫抑制作用といったステロイドの副作用を心配する必要はないということです。

細菌のリボソームにおいて、延長因子EF-Gと1対1のモル比で結合し、EF-GとリボソームによるGTP水解および転座反応を阻害することで抗菌作用を発揮します。この作用機序により、アミノ酸が蛋白質に転換される過程が抑制され、細菌の増殖が停止するわけです。他の多くの抗生物質とは異なる独特な作用点を持つため、β-ラクタム系やマクロライド系抗生物質に耐性を示す細菌に対しても有効性を発揮する可能性があります。

主な抗菌スペクトラムは、黄色ブドウ球菌を中心としたブドウ球菌属です。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対しても良好な抗菌活性を示すことが知られており、この点が臨床現場での重要な選択理由となっています。レンサ球菌属やコリネバクテリウム属などのグラム陽性菌にも有効ですが、グラム陰性菌や真菌には効果がありません。

日本では主に外用薬として使用されており、フシジンレオ軟膏2%という製剤名で医療機関から処方されています。海外では経口剤や注射剤も存在し、全身感染症の治療にも用いられていますが、日本国内では承認されていません。外用薬として使用することで、全身性の副作用リスクを最小限に抑えながら、局所の高濃度を維持できるというメリットがあります。

皮膚への浸透性が非常に優れているため、表在性皮膚感染症だけでなく、深在性皮膚感染症にも効果を発揮できます。具体的には、毛包炎やせつなどの浅い感染から、蜂窩織炎のようなより深部に及ぶ感染症まで幅広く対応可能です。

フシジン酸の適応疾患と臨床効果

フシジンレオ軟膏の適応症は、フシジン酸ナトリウムに感性のブドウ球菌属による表在性皮膚感染症、深在性皮膚感染症、慢性膿皮症、外傷・熱傷および手術創等の二次感染です。これは何を意味するかというと、原因菌がブドウ球菌であることが明確、または強く疑われる場合に使用すべき薬剤だということです。

表在性皮膚感染症としては、毛包炎、せつ、よう、伝染性膿痂疹(とびひ)などが含まれます。特にとびひに関しては、黄色ブドウ球菌が原因となる水疱性膿痂疹に対して優れた効果を示します。国内の臨床試験では約80%の症例で有効性が確認されており、早ければ1〜2日で改善の兆しが見られることも珍しくありません。

深在性皮膚感染症では、蜂窩織炎や丹毒といった皮下組織に及ぶ感染症が対象となります。これらの疾患では発赤、腫脹、熱感、疼痛といった炎症症状が強く出現しますが、フシジン酸の優れた組織移行性により、深部まで薬剤が到達して治療効果を発揮できるのです。

外傷や熱傷後の二次感染予防および治療も重要な適応です。皮膚のバリア機能が破綻した状態では、黄色ブドウ球菌をはじめとする常在菌が容易に感染を引き起こします。特に火傷の場合、壊死組織が細菌の温床となりやすく、早期からの適切な抗菌薬外用が重症化予防に不可欠です。手術創の感染予防に関しても、清潔手術後の予防的使用ではなく、すでに感染兆候がある場合の治療的使用が基本となります。

慢性膿皮症は、持続的に膿を排出する難治性の皮膚疾患です。化膿性汗腺炎やざ瘡膿腫などが該当しますが、これらの疾患では繰り返す感染と炎症により組織破壊が進行します。フシジン酸の長期使用は耐性化リスクから推奨されませんが、急性増悪期の短期集中治療としては有用な選択肢となります。

アトピー性皮膚炎患者における黄色ブドウ球菌の異常増殖に対しても使用されることがありますが、この点については後述する耐性化の問題を十分に考慮する必要があります。実際、アトピー性皮膚炎の患者皮膚からは高頻度で黄色ブドウ球菌が検出され、これが症状悪化の一因となっていることが知られています。

フシジン酸使用で避けるべき耐性化の落とし穴

フシジン酸の最も重要な臨床上の問題点は、耐性菌が比較的容易に出現することです。単剤で使用すると急速に耐性化が進むことが複数の研究で示されており、これは医療従事者が最も警戒すべきポイントといえます。日本医事新報の報告では、「フシジン酸もよく効くが、耐性も獲得されやすいので、ゲンタマイシンを併用して耐性化を防ぐ」という指摘がなされています。

しかし、この併用戦略には注意が必要です。なぜなら、ゲンタマイシン自体の耐性率がとびひ原因菌の85%以上に達しているという報告があり、現在では一選択薬として推奨されていないからです。それならどうすればいいのでしょうか?

現在の推奨は、フシジン酸を短期間(3〜7日程度)に限定して使用することです。軽症の表在性感染症であれば3〜7日、中等症で7〜14日、重症例でも14〜21日以内に治療を完結させることが望ましいとされています。

漫然とした長期使用は絶対に避けるべきです。

2025年の研究報告では、アトピー性皮膚炎患者における黄色ブドウ球菌のフシジン酸耐性率が、小児で21%、成人で14%と報告されました。

小児で有意に高いということですね。

これは小児アトピー患者に対してフシジン酸が頻繁に使用されてきた結果と考えられ、今後さらなる耐性化の進行が懸念されます。

耐性化のメカニズムとしては、延長因子EF-Gをコードする遺伝子(fusA遺伝子)の点変異により、フシジン酸の結合部位が変化することが主な原因です。この変異は比較的単一の遺伝子変異で獲得されるため、他の抗生物質に比べて耐性化しやすいという特徴があります。

海外のガイドラインでは、MRSA感染症に対するフシジン酸の使用は、他の抗MRSA薬との併用が推奨されています。日本皮膚科学会のガイドラインでも、重症MRSAによる皮膚軟部組織感染症では全身的な抗MRSA薬の投与を基本とし、フシジン酸外用はあくまで補助的手段と位置づけられています。

耐性菌出現を防ぐための実践的なアプローチとしては、まず感染症の原因菌を可能な限り同定することが重要です。培養検査により感受性が確認された場合に使用すれば、治療失敗のリスクを減らせます。経験的治療として使用する場合でも、3〜4日で効果判定を行い、改善が乏しい場合は速やかに薬剤変更を検討すべきです。

フシジン酸の副作用プロファイルと安全性

フシジンレオ軟膏の副作用発現率は比較的低く、重篤な副作用の報告はほとんどありません。主な副作用は塗布部位の局所反応に限られており、全身性の副作用はほぼ認められないため、安全性は高いと評価できます。

最も頻度の高い副作用は過敏症で、発疹、そう痒、発赤などとして現れます。発現率は1〜2%未満とされていますが、使用部位や使用期間により変動する可能性があります。これらの症状が出現した場合は、感作(アレルギー反応)の可能性を考慮し、直ちに使用を中止して医師に相談する必要があります。

塗布部位の疼痛や刺激感も報告されている副作用です。これは薬剤の局所刺激性によるもので、特に傷口や炎症の強い部位に塗布した場合に生じやすくなります。軽度であれば継続使用可能ですが、強い痛みや灼熱感がある場合は使用を控えるべきです。

長期使用による感作のリスクにも注意が必要です。「感作される」とは、繰り返し接触することで免疫系が反応しやすくなり、アレルギー性接触皮膚炎を発症することを意味します。そう痒、発赤、腫脹、丘疹、小水疱などが典型的な症状で、これらの兆候が見られた場合は投与を中止します。

妊娠中および授乳中の使用に関しては、適量を短期間使用する限りにおいて特に問題はないと考えられています。外用薬として使用した場合の全身への吸収は限定的であり、胎児や乳児への影響は理論的に低いと推測されます。ただし、広範囲への長期使用や、密封療法(ODT)との併用は避けるべきです。

小児への使用も基本的に安全とされています。ただし、先述のように小児アトピー患者での耐性率が高いことを考慮すると、本当に必要な場合に限定し、可能な限り短期間の使用にとどめることが賢明です。

高齢者についても特別な注意事項はありませんが、皮膚の脆弱性が高いため、強くこすらず優しく塗布することが推奨されます。また、複数の外用薬を使用している場合は、塗布の順序や時間をずらすなどの工夫が必要になることもあります。

他の治療薬との相互作用については、内服薬との明確な禁忌は報告されていません。しかし、他の外用抗菌薬との併用は、効果の減弱や刺激増加のリスクがあるため、基本的には推奨されません。ステロイド外用薬との併用は医師の判断で行われることがありますが、この場合も適切な使用方法を守ることが重要です。

腎機能障害や肝機能障害のある患者でも、外用薬として使用する場合は用量調整の必要はありません。

全身吸収が少ないためです。

ただし、広範囲の熱傷や潰瘍など、皮膚バリア機能が著しく低下した状態では、全身吸収の可能性も考慮する必要があります。

医療現場でのフシジン酸最適化戦略と代替薬

フシジン酸の適切な使用方法として、まず患部を清潔にすることが基本です。水道水または生理食塩水で患部を洗浄し、滲出液や壊死組織を除去した後に塗布します。1日2〜3回の塗布が標準的ですが、滲出液が多い場合はより頻回の塗布や、ガーゼへ延ばして貼付する方法も有効です。

塗布量は「適量」と記載されることが多いですが、具体的には病変部を薄く覆う程度が目安となります。厚く塗りすぎても効果は変わらず、むしろ皮膚への負担や経済的負担が増すだけです。チューブ1本(10g)で約50cm²(手のひら5枚分程度)の面積を約1週間カバーできる計算になります。

効果判定のタイミングは重要です。通常、適切な抗菌薬を使用すれば、3〜4日で症状の改善が見られます。発赤や腫脹の軽減、滲出液の減少、疼痛の緩和などが改善のサインです。もしこの期間で改善が認められない場合、原因菌が耐性菌である可能性、真菌や嫌気性菌など適応外の病原体が関与している可能性、そもそも感染症ではない可能性などを考慮し、治療方針の再検討が必要になります。

フシジン酸が効果不十分または使用できない場合の代替薬としては、ナジフロキサシン(アクアチム)やオゼノキサシン(ゼビアックス)などのニューキノロン系外用抗菌薬があります。これらはMRSAを含むブドウ球菌に対して良好な抗菌活性を示し、現在の耐性率もフシジン酸やゲンタマイシンより低いとされています。

ムピロシン(バクトロバン)は海外では広く使用されている外用抗菌薬で、日本でも鼻腔内MRSA除菌用として承認されています。ブドウ球菌に対する強力な抗菌活性を持ちますが、皮膚感染症への適応はないため、保険診療では使用できません。ただし、鼻腔内保菌者の除菌により皮膚感染症の再発予防に寄与する可能性があります。

内服抗菌薬との併用を検討すべき状況もあります。病変が広範囲に及ぶ場合、全身症状(発熱、倦怠感など)を伴う場合、深在性感染が疑われる場合、免疫不全状態にある患者の場合などです。この場合、第一世代セファロスポリン系(セファレキシンなど)が第一選択となることが多く、外用薬は補助的な役割となります。

とびひの場合、軽症で病変が限局していれば外用薬単独で治療可能ですが、多発している場合や学童期の子供で感染拡大のリスクが高い場合は、内服抗菌薬の併用が推奨されます。治療期間の目安は、外用薬単独で7〜14日程度、内服併用で5〜10日程度です。

慢性再発性の皮膚感染症に悩む患者では、単に感染時の治療だけでなく、再発予防戦略も重要になります。保湿剤による皮膚バリア機能の改善、適切なスキンケア指導、基礎疾患(糖尿病、アトピー性皮膚炎など)のコントロール、鼻腔内保菌の除菌なども総合的に検討すべきです。

医療従事者向けの参考情報として、日本化学療法学会が発行する「MRSA感染症の診療ガイドライン」や、日本皮膚科学会の各種ガイドラインが有用です。これらのガイドラインでは、最新のエビデンスに基づいた推奨事項が示されており、臨床判断の助けとなります。

日本感染症学会ガイドライン(MRSA感染症の最新治療指針が掲載されており、フシジン酸の位置づけや使用上の注意点が詳細に記載されています)
日本皮膚科学会ガイドライン(皮膚感染症の診断と治療に関する標準的な指針が示されており、外用抗菌薬の選択基準について学べます)

処方する際の患者指導も重要な要素です。使用方法だけでなく、「症状が改善しても医師の指示通りの期間使い切ること」「他人と共用しないこと」「以前もらった薬を自己判断で使わないこと」「保管方法(室温、直射日光を避ける)」なども併せて説明することで、治療効果を最大化し、耐性菌の発生を抑制できます。

フシジン酸は有効な抗菌薬ですが、その価値を維持するためには、適切な症例選択、短期使用の徹底、効果判定に基づく柔軟な治療変更といった、医療従事者の慎重な判断が不可欠だということですね。


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