マニジピン販売中止の影響と対応
後発品でも薬価差は2.5倍になるケースがある
マニジピン販売中止の経緯と実態
マニジピン塩酸塩錠の販売中止については、正確に理解しておく必要があります。完全に市場から姿を消したわけではなく、複数のジェネリックメーカーが「一部包装単位」の販売を中止している状況です。
沢井製薬は2023年5月に、マニジピン塩酸塩錠20mg「サワイ」のPTP500錠包装を2024年10月をもって販売中止としました。背景にあるのは「すべてのご注文に十分にお応えできていない状況」であり、安定供給体制の構築および生産効率改善のための措置です。PTP100錠包装は継続して販売されています。
同様に日医工、陽進堂、日本ジェネリックなど複数のメーカーが段階的に一部包装や全規格の販売中止を発表してきました。これは医薬品不祥事や業務停止処分、原薬調達の困難さなど複合的な要因によるものです。
つまり完全な供給停止ではありません。
しかし医療現場では特定の包装単位や特定メーカーの製品を採用していた施設にとって、実質的な「入手困難」状態が生じています。在庫消尽をもって順次販売終了となるため、施設ごとに影響を受けるタイミングが異なる点も混乱を招いています。
日医工は2021年3月に富山県から32日間の業務停止命令を受けました。品質試験不適合品を製造販売承認書と異なる製造方法で適合品として処理していた事実が発覚したためです。この処分により同社が製造する多数の医薬品の供給が滞り、マニジピンを含む後発品市場全体に深刻な影響を及ぼしました。業務停止期間は32日間でしたが、その後の生産体制の立て直しには年単位の時間を要し、現在も一部製品で供給制約が続いています。
日医工公式サイトの製品情報ページでは、販売中止や限定出荷の最新情報が随時更新されています
マニジピンの特徴と代替薬の選択
マニジピン塩酸塩は持続性カルシウム拮抗降圧剤に分類され、血管平滑筋のカルシウムチャネルを遮断することで血管を拡張させ血圧を低下させます。先発品はカルスロット(T’s製薬)で、1990年代から高血圧治療に広く使用されてきました。
マニジピンの最大の特徴は、血管選択性が高く心臓への直接作用が少ない点です。同じジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬でも、ニフェジピンやアムロジピンとは若干異なる薬物動態を示します。半減期は2相性で、α相が1.52時間、β相が7.25時間と比較的短めです。
代替薬として最も選択されるのはアムロジピンです。
アムロジピンは半減期が約35時間と長く、1日1回の服用で24時間安定した降圧効果が得られます。日本の高血圧治療ガイドラインでも第一選択薬として推奨されており、ジェネリックも豊富で供給が比較的安定しています。薬価も後発品で1錠あたり5円程度からと安価です。
ニフェジピンCR錠やベニジピン、シルニジピンなども代替候補になります。ニフェジピンCR錠は冠攣縮性狭心症を合併する患者に適しており、ベニジピンやシルニジピンはN型カルシウムチャネルも阻害するため腎保護作用が期待できます。
切り替え時に注意すべきは血圧変動です。
マニジピンからアムロジピンへの変更では、半減期の違いから効果の持続時間が変わります。切り替え後1〜2週間は血圧測定の頻度を増やし、降圧効果が不十分な場合や過度な降圧が見られる場合は用量調整を検討します。特に高齢者では起立性低血圧のリスクがあるため、ふらつきやめまいの有無を確認することが重要です。
日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」では、カルシウム拮抗薬の使用における注意点が詳しく記載されています
マニジピン供給不安と患者負担の実情
後発品の供給不安は患者の経済的負担に直結します。マニジピン塩酸塩錠の後発品薬価は、10mg錠で1錠あたり10.4円程度です。一方、先発品のカルスロット錠10は16.5円で、約1.6倍の価格差があります。20mg錠では後発品が13円に対し先発品は25.8円と、約2倍の差です。
月に30錠処方される患者の場合、後発品なら月額約300円(3割負担で約90円)ですが、先発品に切り替わると月額約500円(3割負担で約150円)となり、年間で約700円の自己負担増加になります。これは単剤の場合であり、複数の薬剤で同様の状況が生じれば、年間の負担増は数千円規模になり得ます。
さらに2024年10月から導入された「長期収載品の選定療養」制度により、後発品があるにもかかわらず先発品を選択した場合、先発品と後発品の薬価差の4分の1を追加負担する仕組みが始まりました。ただしマニジピンの場合、後発品の供給不安が「医療上の必要性」と認められれば、この追加負担は免除される可能性があります。
供給不安による影響は金銭面だけではありません。
医療機関では在庫管理が複雑化し、薬剤部の業務負担が増大しています。特定のメーカー品が入手困難になると、急遽別メーカーの製品に切り替える必要が生じますが、包装単位や規格の違いにより調剤ミスのリスクも高まります。薬局では患者への説明業務が増加し、代替品の在庫確保のため複数の卸業者との調整に時間を費やすケースも見られます。
厚生労働省の調査では、2021年以降、全体として3,000品目以上の医薬品供給に影響が生じている状況が報告されています。マニジピンはその一例に過ぎず、循環器系薬剤だけでなく抗菌薬、消化器系薬剤、精神神経系薬剤など幅広い領域で同様の問題が発生しています。
患者への影響を最小限にするため、医療機関では代替品リストの作成や定期的な在庫確認体制の構築が求められています。
マニジピン在庫不足への医療現場の対応策
医療現場でマニジピンの在庫不足に直面した際、組織的な対応が不可欠です。まず現状把握として、採用しているマニジピン製品のメーカーと包装単位、現在の在庫量、今後の使用予測を明確にします。
在庫が逼迫している場合の優先対応は、継続服用中の患者の処方を確保することです。新規処方については当初から代替薬を選択し、限られた在庫を既存患者に振り向けます。この判断は診療科医師、薬剤部、事務部門が連携して行う必要があります。
代替薬への切り替えでは、患者ごとの背景を考慮した個別対応が重要です。腎機能障害がある患者では腎保護作用のあるシルニジピンやベニジピンを、冠攣縮性狭心症の既往がある患者ではニフェジピンCR錠を選択するなど、単純な置き換えではなく最適な代替薬を検討します。
代替薬選択の基本は降圧効果の同等性です。
マニジピン10mgからの切り替えでは、アムロジピン5mgまたはニフェジピンCR20mgが標準的な用量設定となります。ただし個人差があるため、切り替え後2週間程度は血圧モニタリングを強化し、必要に応じて用量調整を行います。特に複数の降圧薬を併用している患者では、他剤との相互作用や降圧効果の相加作用にも注意が必要です。
患者への説明では、供給不安の背景と代替薬の有効性・安全性について丁寧に伝えます。「ジェネリックメーカーの製造問題により一部製品が入手しづらくなっているため、同じ系統で同等の効果がある別の薬に変更します」と具体的に説明することで、患者の不安を軽減できます。薬価の変化についても事前に情報提供し、経済的負担増が予想される場合は配慮が必要です。
医療機関内での情報共有体制の構築も欠かせません。医薬品供給情報を一元管理し、定期的に更新することで、各診療科が最新の状況を把握できるようにします。電子カルテシステムに供給制約情報を組み込むことで、処方時に自動的にアラートを表示させる施設も増えています。
薬剤師の役割は特に重要です。
疑義照会の段階で代替薬を提案したり、患者が複数の医療機関を受診している場合は重複処方や相互作用をチェックしたりと、多面的な支援が求められます。お薬手帳を活用して処方変更の経緯を記録し、次回受診時や他の医療機関での情報共有に役立てることも有効です。
厚生労働省の「医療用医薬品の供給不足に係る対応について」では、医療機関向けの具体的な対応方針が示されています
マニジピン供給問題から見る後発品市場の課題
マニジピンの供給問題は、日本の後発医薬品市場が抱える構造的課題を浮き彫りにしています。最大の問題は、低薬価政策による製造業者の収益性悪化です。
後発品の薬価は先発品の0.5掛けまたは0.4掛けで算定されるルールがあり、さらに薬価改定のたびに引き下げられてきました。マニジピン塩酸塩錠10mgの薬価10.4円という水準では、原薬調達コスト、製造コスト、品質管理コスト、流通コストを考慮すると、利益率は極めて限定的です。このため製造業者は生産効率の高い製品に経営資源を集中させる傾向があり、採算性の低い品目から撤退する動きが加速しています。
小林化工、日医工、沢井製薬と相次いで発覚した品質管理問題も、根底には過度なコスト削減圧力があると指摘されています。品質管理体制の維持には人材と設備への継続的な投資が必要ですが、低薬価環境ではそれが困難になります。不正の発覚により業務停止処分を受けた企業は生産能力を失い、その製品を使用していた患者や医療機関に甚大な影響を与えました。
日医工の場合、2021年3月の業務停止処分により約1,000品目以上の医薬品供給に影響が出ました。
同社はジェネリック医薬品の大手メーカーであり、市場シェアも大きかったため、他社での代替生産が追いつかない事態となりました。その後の経営悪化により2022年には事業再生ADRを申請し、債務超過356億円という深刻な財務状況に陥りました。このような大手メーカーの経営危機は、後発品市場全体の持続可能性に対する懸念を強めています。
原薬供給の海外依存も大きなリスク要因です。マニジピンを含む多くの後発品原薬は中国やインドから輸入されており、製造トラブルや国際情勢の変化により供給が途絶えるリスクがあります。実際、日医工のセファゾリンナトリウムでは、イタリアの製造工場での問題発生により長期間の供給停止が生じました。
供給安定化に向けた対策として、厚生労働省は2020年に「医療用医薬品の安定確保策に関する関係者会議」を設置し、製造業者への支援策や情報共有体制の強化を議論してきました。しかし抜本的な解決には至っておらず、医療現場の不安は継続しています。
医療従事者としてできることは限られています。
しかし供給状況の最新情報を常に把握し、早期に代替策を準備すること、患者への丁寧な説明を心がけること、疑義照会や処方提案を通じて適切な薬剤選択を支援することは可能です。また医薬品供給不安の問題を医療政策の課題として認識し、必要に応じて関係機関に声を上げることも、長期的な改善につながります。
後発品の使用促進は医療費抑制の観点から国策として進められてきましたが、供給体制の脆弱性という代償を伴っていることを忘れてはなりません。安定供給と適正価格のバランスをどう取るかは、今後の医療制度設計における重要な論点となるでしょう。