過敏性腸症候群治療薬一覧と使い分け
イリボーは男性5μg・女性2.5μgと用量が性別で違います
過敏性腸症候群治療薬の基本分類と作用機序
過敏性腸症候群(IBS)の治療薬は作用機序によって複数のカテゴリーに分類されます。主要な分類として高分子重合体、消化管運動調整薬、セロトニン受容体拮抗薬、上皮機能変容薬、プロバイオティクス、抗コリン薬、抗うつ薬があります。
高分子重合体であるポリカルボフィルカルシウム(ポリフル、コロネル)は、腸管内で水分を吸収してゲル化する特性を持ちます。下痢の際には過剰な水分を吸収して便を固め、便秘の際には水分を保持して便を柔らかくする双方向性の作用があります。この薬剤は症状タイプを問わず第一選択薬として使用されることが多いです。胃内では酸性条件下でカルシウムが遊離し、小腸・大腸の中性~弱アルカリ性条件下で膨張してゲル化します。
セロトニン5-HT3受容体拮抗薬であるラモセトロン(イリボー)は、下痢型IBSに特化した薬剤です。選択的にセロトニン5-HT3受容体を遮断することで、腸管運動の亢進を抑制し、内臓知覚過敏も改善します。つまり下痢と腹痛の両方に効果があるということですね。
日本消化器病学会の過敏性腸症候群診療ガイドライン2020では、各薬剤のエビデンスレベルと推奨度が詳細に記載されています
消化管運動調整薬のトリメブチンマレイン酸塩(セレキノン)は、オピオイド受容体に作用して腸管運動を双方向性に調節します。腸管運動が亢進している時には抑制し、低下している時には促進する作用があります。副作用が少ないため長期使用にも適しています。
便秘型IBSに使用される上皮機能変容薬には、リナクロチド(リンゼス)、ルビプロストン(アミティーザ)、エロビキシバット(グーフィス)があります。これらは腸管内への水分分泌を促進し、便を柔らかくして排便を促します。リンゼスは特に内臓知覚過敏を抑制する作用があるため、腹痛を伴う便秘型IBSに有効です。
過敏性腸症候群治療薬における性別・年齢による処方の違い
イリボー(ラモセトロン)の処方では性別による用量設定が明確に規定されています。男性の通常用量は5μgを1日1回、最高用量は10μgまでですが、女性は2.5μgを1日1回、最高用量は5μgまでとなっています。この設定理由は第Ⅲ相試験において女性で便秘や硬便の副作用発現率が高かったためです。
女性患者への処方では、便秘の副作用リスクが男性より高いことを説明し、症状が改善しない場合のみ慎重に増量を検討します。開始後1~2週間で効果判定を行い、便秘傾向が強まる場合は減量または中止を考慮する必要があります。実際の臨床では、女性患者の約20~30%で便秘関連の副作用が報告されているため、定期的な便通状態の確認が欠かせません。
抗うつ薬の使用においても年齢や性別による配慮が必要です。三環系抗うつ薬は抗コリン作用による口渇、便秘、排尿障害などの副作用があり、高齢者では転倒リスクも増加します。そのため高齢者には通常量の半分から開始し、慎重に増量していくのが原則です。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)は三環系より副作用が少ないものの、若年者では賦活症候群のリスクがあります。25歳未満の患者に処方する際は、不安や焦燥感の増悪、自殺念慮などの出現に注意が必要です。
プロバイオティクスは年齢や性別による制限がほとんどなく、安全性の高い治療選択肢です。ビフィズス菌製剤のミヤBMやビオフェルミンは、腸内環境を整えることで症状改善が期待できます。日本消化器病学会のガイドライン2020では、プロバイオティクスはIBSの各病型において有用性が示されており、推奨度も高く設定されています。
過敏性腸症候群の下痢型・便秘型・混合型別の薬剤選択
下痢型IBSでは第一選択薬として高分子重合体のポリカルボフィルカルシウムが推奨されます。効果不十分な場合、セロトニン5-HT3受容体拮抗薬のイリボーを追加または変更します。イリボーは下痢症状だけでなく腹痛も改善するため、QOLの向上に大きく寄与します。開始後1週間程度で効果が現れ始め、長期投与により症状の安定化が期待できます。
抗コリン薬のチキジウム臭化物(チアトン)やメペンゾラート臭化物(トランコロン)は、腸管の過剰な収縮を抑制します。しかし口渇や便秘の副作用があるため、高齢者や前立腺肥大のある男性患者では慎重投与が必要です。緑内障患者には禁忌となっているため、処方前の確認が重要です。
止瀉薬のロペラミド(ロペミン)は頓服として使用することができます。ただし連用すると腸管運動の自然なリズムが損なわれる可能性があるため、外出時など必要な場合に限定して使用するよう指導します。
便秘型IBSでは、まず高分子重合体のポリカルボフィルカルシウムを試みます。効果不十分な場合、上皮機能変容薬のリンゼス、アミティーザ、グーフィスのいずれかを選択します。リンゼスは内臓知覚過敏を抑制する作用があるため、腹痛が強い患者に適しています。0.25mgまたは0.5mgを食前に投与し、初期に下痢が出現することがあるため、患者への説明が必要です。
アミティーザはクロライドチャネルを活性化して腸管内への水分分泌を促進します。
食後投与により悪心の副作用を軽減できます。
グーフィスは胆汁酸トランスポーターを阻害し、大腸運動促進作用も持つため、効果発現が比較的早いのが特徴です。
混合型IBSは下痢と便秘を繰り返すため、治療が最も困難なタイプです。基本薬として高分子重合体のポリカルボフィルカルシウムが有効で、下痢時にも便秘時にも対応できます。症状に応じて他の薬剤を短期間追加する柔軟な対応が求められます。
整腸剤のプロバイオティクスは全てのタイプに補助的に使用できます。ビフィズス菌、乳酸菌、酪酸菌などの菌種を組み合わせることで、腸内環境の改善とともに免疫調節作用も期待できます。最近の研究では、特定の菌株がIBS症状を有意に改善することが報告されています。
過敏性腸症候群に対する抗うつ薬・抗不安薬の適応と注意点
抗うつ薬がIBS治療に使用される理由は、脳腸相関の調整と内臓知覚過敏の改善にあります。ストレスや不安が腸の症状を悪化させるメカニズムに対して、中枢神経系に作用することで症状緩和を図ります。通常のうつ病治療より少量で効果が得られることが多いのが特徴です。
三環系抗うつ薬のアミトリプチリンやイミプラミンは、セロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。特に下痢型IBSに有効性が高く、内臓知覚過敏を改善して腹痛を軽減します。抗コリン作用による便秘傾向が下痢症状の改善に寄与する面もあります。しかし抗コリン作用による口渇、便秘、眠気、起立性低血圧などの副作用があるため、少量(10~25mg/日)から開始し、効果と副作用を見ながら慎重に調整します。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)のパロキセチンやセルトラリンは、三環系より副作用が少なく、便秘型IBSにより適しています。不安症状が強い患者や、IBSに伴う気分障害がある場合に特に有効です。開始初期に悪心や下痢が出現することがあるため、極少量から開始し、2~4週間かけて治療量まで増量していきます。
効果判定には4~8週間必要です。
抗不安薬のベンゾジアゼピン系薬剤は、急性のストレス状況下で症状が悪化する患者に短期間使用することがあります。しかし依存性や耐性の問題があるため、長期使用は避け、頓服として最小限の使用にとどめます。エチゾラムやクロチアゼパムなどが使用されますが、高齢者では転倒リスクや認知機能低下のリスクがあるため特に注意が必要です。
EPARKくすりの窓口のサイトでは、IBS治療における抗うつ薬の使い分けについて患者向けにわかりやすく解説されています
抗うつ薬を処方する際は、患者に「抗うつ薬」という名称に対する抵抗感があることを考慮します。IBSの病態である脳腸相関の異常に対する治療であること、少量で腸の症状に効果があること、うつ病の診断ではないことを丁寧に説明する必要があります。効果発現まで2~4週間かかることも事前に伝えておくと、服薬コンプライアンスが向上します。
過敏性腸症候群治療における保険適用と実臨床での工夫
IBS治療薬の保険適用状況を正確に把握することは、適切な処方のために不可欠です。ポリカルボフィルカルシウム、トリメブチン、イリボーは過敏性腸症候群の病名で保険適用があります。イリボーは当初男性のみの適応でしたが、2015年に女性への適応が追加され、現在は男女ともに使用可能です。
上皮機能変容薬のリンゼス、アミティーザ、グーフィスは「慢性便秘症」の病名で保険適用されています。便秘型IBSの患者に処方する場合、「慢性便秘症」または「便秘型過敏性腸症候群」の病名を適切に記載することで保険請求が可能です。リンゼスは特に「便秘型過敏性腸症候群」の適応を持っているため、腹痛を伴う便秘型IBSに最適です。
抗うつ薬をIBS治療に使用する場合、保険適用上の注意が必要です。三環系抗うつ薬やSSRIは「うつ病」「うつ状態」などの精神科的病名がなければ保険請求できません。IBS患者に不安障害や抑うつ症状が併存している場合は、適切な診断のもとで処方します。精神科的評価が必要な場合は、心療内科や精神科との連携も検討します。
プロバイオティクスのビオフェルミン、ミヤBM、ラックビーなどは「腸内細菌叢異常」の病名で処方できます。これらは副作用がほとんどなく、他の薬剤との併用も問題ないため、基本治療として広く使用されています。
漢方薬も保険適用でIBS治療に使用できます。桂枝加芍薬湯は腹痛を伴う下痢や便秘に、大建中湯は腹部膨満感に、半夏瀉心湯は下痢と腹鳴に効果があります。体質や症状に応じて選択し、西洋薬と併用することで相乗効果が期待できます。
実臨床では、薬剤の組み合わせを工夫することで治療効果を高めることができます。基本薬としてポリカルボフィルカルシウムとプロバイオティクスを併用し、症状に応じてイリボーや上皮機能変容薬を追加する階段療法が推奨されます。効果判定は最低2~4週間必要で、無効な場合は薬剤変更を検討します。
患者教育も治療成功の鍵となります。薬物療法と並行して、食事内容の見直し(FODMAPの制限など)、ストレス管理、規則正しい生活習慣の重要性を説明します。薬だけに頼らず、生活全体を改善する意識を持ってもらうことが長期的な症状コントロールにつながります。
定期的なフォローアップで効果と副作用を評価し、必要に応じて薬剤調整を行います。症状日誌をつけてもらうと、症状パターンの把握と治療効果の判定に役立ちます。難治例では心理療法や認知行動療法の併用も検討する価値があります。

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