炎症性腸疾患治療薬のゴロと覚え方
サラゾピリンは挙児希望の男性に2~3ヶ月前から中止が必要です
炎症性腸疾患治療薬の基本ゴロ合わせ
炎症性腸疾患の治療薬を覚えるとき、多くの薬学生や医療従事者が苦労するのが薬剤分類と適応疾患の整理です。潰瘍性大腸炎とクローン病では使用する薬剤に共通点と相違点があり、それらを混同せずに記憶することが重要になります。
効率的に覚えるためのゴロ合わせとして「隊長のクローンをサラッとテンポよく捨てれんイケメンのプリンが1個」があります。このゴロ合わせを分解すると、「隊長」は潰瘍性大腸炎、「クローン」はクローン病を指し、両疾患の治療薬を一度に記憶できる構造になっています。
「サラッと」の部分は、サラゾスルファピリジンとメサラジン(5-アミノサリチル酸製剤)の2剤を示しています。これらは炎症性腸疾患の第一選択薬として軽症から中等症の患者に広く使用される薬剤です。
つまり基本ということですね。
「テンポよく」は抗TNF-α抗体製剤を表し、中等症以上の症例で使用される生物学的製剤のカテゴリーです。「捨てれん」はステロイド性抗炎症薬、「イケメン」は免疫抑制薬、「プリンが1個」はプリン代謝拮抗薬を示しており、これで主要な治療薬分類がすべて網羅されます。
このゴロ合わせの優れた点は、薬剤の使用順序も自然に示している点です。軽症例では5-ASA製剤から開始し、効果不十分なら生物学的製剤やステロイドへステップアップという実際の治療フローに沿った構造になっています。国家試験でも実務でも活用できる実践的な覚え方ですね。
炎症性腸疾患治療薬の5-ASA製剤の特徴
5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤は炎症性腸疾患治療の基本となる薬剤群で、サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)とメサラジン(ペンタサ、アサコール、リアルダ)の2つのタイプがあります。これらは軽症から中等症の潰瘍性大腸炎やクローン病の寛解導入および寛解維持の両方に使用される重要な薬剤です。
サラゾスルファピリジンは最も古くから使用されている5-ASA製剤ですが、副作用の頻度が比較的高いという特徴があります。重要な副作用として、約15%の患者で何らかの副作用により中止が必要になると報告されています。
特に注意すべきは男性不妊です。
サラゾピリンを服用している男性では、精子数の減少と精子運動能の低下が生じることがあります。ただしこの影響は可逆的で、服用を中止すれば2~3ヶ月で元の状態に戻ることが確認されています。このため挙児希望のある男性患者では、妊活開始の2~3ヶ月前にメサラジンへの切り替えを検討する必要があります。
事前の情報提供が大切ですね。
メサラジンはサラゾピリンのアレルギー反応を回避するために開発された製剤で、男性不妊の報告はありません。ペンタサは小腸病変を持つクローン病にも効果を発揮するように設計された徐放製剤で、1日3~4回の服用が必要です。アサコールは大腸で溶解するpH依存性製剤、リアルダは1日1回投与が可能なマルチマトリックス型製剤という違いがあります。
5-ASA製剤の重大な副作用として間質性肺炎があり、発現頻度は0.1~1%未満と報告されています。発熱、咳、呼吸困難などの症状が出現した場合は速やかに投与を中止し、胸部X線やCT検査で確認する必要があります。
薬剤性か疾患合併かの鑑別が重要です。
炎症性腸疾患治療薬のステロイドと免疫抑制薬
ステロイド製剤は中等症から重症の炎症性腸疾患に対して強力な抗炎症効果を発揮する薬剤ですが、使用において重要な原則があります。
それは寛解維持効果がないという点です。
ステロイドは寛解導入には極めて有効で、初回投与での改善率は約8割とされていますが、長期投与しても再燃を予防する効果は認められていません。
このためステロイドの使用は寛解導入療法に限定され、症状が改善したら速やかに減量・中止することが原則となっています。減量中に再燃する場合や、ステロイドを中止できない状態(ステロイド依存性)になった場合は、免疫抑制薬や生物学的製剤への切り替えを検討します。
漫然とした継続は避けるべきですね。
ステロイドの代表的な副作用として満月様顔貌、体重増加、骨粗鬆症、感染症リスク増加などがあります。これらの副作用は使用量と期間に依存して発現頻度が高まるため、必要最小限の使用にとどめることが重要です。
中止後は副作用の多くが可逆的に改善します。
免疫抑制薬にはアザチオプリン(イムラン)やタクロリムス(プログラフ)があり、ステロイド依存例やステロイド抵抗例に使用されます。アザチオプリンはプリン代謝拮抗薬に分類され、効果発現まで数ヶ月を要する一方で、寛解維持効果とステロイド使用量を減らす効果(ステロイドスペアリング効果)が認められています。
タクロリムスはカルシニューリン阻害薬で、潰瘍性大腸炎の中等症から重症例に使用されます。効果発現は比較的早く、2週間程度で効果判定が可能です。ただし血中濃度モニタリングが必要で、腎機能障害や高血圧などの副作用に注意が必要です。免疫抑制薬使用中は感染症リスクが高まるため、発熱や体調変化に注意しましょう。
炎症性腸疾患治療薬の生物学的製剤の使い分け
生物学的製剤は従来の治療で効果不十分な中等症から重症の炎症性腸疾患患者に使用される分子標的薬です。抗TNF-α抗体製剤が最も使用実績が豊富で、インフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)、ゴリムマブ(シンポニー)の3剤が潰瘍性大腸炎に承認されています。
インフリキシマブは2003年に日本で最初に承認された生物学的製剤で、点滴静注による投与が特徴です。キメラ型抗体(マウス由来の部分を含む)であるため、中和抗体が産生されやすく、単独投与では効果減弱のリスクがあります。このため免疫抑制薬との併用が推奨されることが多いですね。
アダリムマブは完全ヒト型抗体で、中和抗体による効果減弱が起こりにくい特徴があります。皮下注射による投与で、2週間ごとの自己注射が可能なため、通院負担が軽減されます。ゴリムマブはTNF-αに対する結合力が高く、マウス由来成分がほとんど含まれない新世代の抗TNF-α抗体として位置づけられています。
抗TNF-α抗体以外の生物学的製剤として、ベドリズマブ(エンタイビオ)は腸管選択的インテグリン阻害薬で、腸管に特異的に作用するため全身性の免疫抑制が少ないメリットがあります。ウステキヌマブ(ステラーラ)はIL-12/23阻害薬で、抗TNF-α抗体で効果不十分な症例にも有効性が示されています。
生物学的製剤の主な副作用は感染症リスクの増加です。特に結核の再活性化が重要で、投与前には必ず結核スクリーニング(胸部X線、インターフェロンγ遊離試験など)を実施します。また帯状疱疹のリスクも高まるため、発熱や皮疹が出現した場合は速やかに医療機関を受診するよう指導することが大切です。
炎症性腸疾患治療薬のJAK阻害薬と新規薬剤
JAK阻害薬は生物学的製剤とは異なる作用機序を持つ経口の分子標的薬で、ヤヌスキナーゼ(JAK)-STAT経路を阻害することで炎症性サイトカインの産生を抑制します。現在、潰瘍性大腸炎にはトファシチニブ(ゼルヤンツ)、フィルゴチニブ(ジセレカ)、ウパダシチニブ(リンヴォック)の3剤、クローン病にはウパダシチニブのみが承認されています。
トファシチニブは2018年に潰瘍性大腸炎に対して承認された最初のJAK阻害薬で、JAK1、JAK2、JAK3を阻害する特徴があります。1日2回の経口投与で、寛解導入療法と寛解維持療法の両方に使用可能です。生物学的製剤で効果不十分な症例にも有効性が示されている点が重要ですね。
フィルゴチニブはJAK1選択的阻害薬で、比較的炎症の強くない症例に使用されることが多い薬剤です。1日1回の服用で済むため服薬アドヒアランスの面でメリットがあります。ウパダシチニブもJAK1選択的阻害薬ですが、比較的炎症の強い症例に使用され、効果発現が早いという特徴があります。
JAK阻害薬の主な副作用として帯状疱疹の発現頻度が高いことが知られており、約3~5%の患者で発症します。これは健康成人の発症率(年間0.3~0.5%)と比較して明らかに高い値です。このため帯状疱疹ワクチンの接種を検討する場合がありますが、生ワクチンは使用できないため不活化ワクチンを選択します。
その他の副作用として血栓症リスク、感染症リスク増加、脂質異常などが報告されています。特に50歳以上で心血管リスク因子を持つ患者では血栓症のリスクが高まるため、定期的な血液検査とリスク因子の評価が必要です。新規薬剤のため長期安全性データの蓄積が待たれています。
2025年には新たにスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)受容体調節薬のオザニモド(ゼポジア)が潰瘍性大腸炎に承認されました。1日1回の経口投与で、リンパ球の腸管への遊走を抑制する新しい作用機序を持つ薬剤です。治療選択肢が広がることで、個々の患者に最適な治療戦略を立てられるようになってきましたね。
炎症性腸疾患治療薬の服薬指導で押さえるポイント
炎症性腸疾患の薬物治療を行う際、医療従事者が押さえるべき実践的なポイントがいくつかあります。まず重要なのは、患者の年齢、性別、妊娠希望の有無、合併症の状態によって薬剤選択が変わるという点です。
妊娠・授乳期の薬剤使用については、5-ASA製剤は妊娠中も継続可能とされていますが、サラゾピリンを使用する場合は葉酸欠乏のリスクがあるため、特に妊娠3ヶ月までは葉酸補充が推奨されます。メサラジンは比較的安全性が高いですが、妊娠判明後は産科医との連携のもと継続を判断します。
生物学的製剤の中では、胎盤通過性の低いインフリキシマブやアダリムマブは妊娠中も比較的安全に使用できるとされていますが、妊娠後期には胎盤通過量が増加するため、分娩前の投与タイミングには注意が必要です。免疫抑制薬のアザチオプリンも妊娠中の使用データが蓄積されており、適切な管理下では継続可能とされています。
薬剤と食事の相互作用も重要なポイントです。免疫抑制薬を使用している患者では、CYP3A4を阻害するグレープフルーツや柑橘類の摂取により血中濃度が上昇する可能性があります。また生物学的製剤やJAK阻害薬使用中は、生野菜や生魚などの生ものを避けるといった感染症予防の食事指導も必要です。
副作用の早期発見のため、患者自身が観察すべき症状を明確に伝えることが大切です。5-ASA製剤では発熱や咳などの呼吸器症状、生物学的製剤やJAK阻害薬では発熱や体調不良、ステロイドでは体重増加や血糖値上昇などを定期的にチェックします。症状が出現した場合の連絡先を明確にしておくことで、重篤化を防ぐことができます。
服薬アドヒアランスの維持も長期管理において重要な課題です。寛解期に入ると症状がなくなるため、患者が自己判断で服薬を中止してしまうケースがあります。しかし寛解維持療法を中断すると再燃リスクが高まることを丁寧に説明し、定期的な通院と服薬継続の重要性を理解してもらうことが必要です。
寛解状態を維持することが目標ですね。
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