il-6阻害薬の種類と作用機序
IL-6阻害薬使用中はCRPがほぼゼロになるため、重症感染症でも検査値が正常に見えてしまいます。
il-6阻害薬として承認されている2つの製剤
日本で現在使用できるIL-6阻害薬は、トシリズマブ(商品名アクテムラ)とサリルマブ(商品名ケブザラ)の2剤です。いずれもインターロイキン-6受容体に結合し、IL-6を介するシグナル伝達を阻害することで抗リウマチ効果を発揮します。
トシリズマブは世界初のIL-6阻害薬として2008年に日本で承認され、点滴静注製剤と皮下注製剤の両方が利用可能です。点滴静注は体重1kgあたり8mgを4週間隔で投与し、投与時間は約1時間程度となります。一方、皮下注製剤は162mgを2週間隔で自己注射することができ、効果不十分な場合には1週間隔まで投与間隔を短縮できる柔軟性があります。
サリルマブは2017年に承認された第2のIL-6阻害薬で、皮下注製剤のみが利用可能です。通常用量は200mgを2週間隔で投与しますが、患者の状態により150mgに減量することも可能です。
両薬剤の最も大きな違いは、抗体の構造と受容体への親和性にあります。トシリズマブはヒト化抗体(約90%がヒト由来)であるのに対し、サリルマブは完全ヒト型抗体(100%ヒト由来)です。サリルマブはIL-6受容体に対する親和性がトシリズマブの約20倍高いとされており、より強力にIL-6シグナルを遮断すると考えられています。
日本リウマチ学会が発行する「関節リウマチに対するIL-6阻害薬使用の手引き(2024年7月改訂版)」では、両薬剤の適正使用について詳細なガイダンスが示されています。
il-6阻害薬の作用機序と炎症抑制効果
IL-6(インターロイキン-6)は、関節リウマチにおいて中心的な役割を果たす炎症性サイトカインです。関節の滑膜細胞や免疫細胞から産生されたIL-6は、細胞表面のIL-6受容体に結合することで、関節の炎症、痛み、腫れを引き起こし、さらに骨や軟骨の破壊を促進します。
IL-6阻害薬は、このIL-6受容体に先回りして結合することで、IL-6が受容体と結合するのを物理的にブロックします。その結果、IL-6を介した一連の炎症反応が抑制され、関節症状が改善するという仕組みです。
IL-6の生理作用は多岐にわたります。肝臓でのCRP(C反応性タンパク)や血清アミロイドAなどの急性期タンパク質の産生誘導、発熱中枢への作用による体温上昇、骨髄での血小板産生促進、B細胞の抗体産生細胞への分化促進などが知られています。
つまりこれが基本です。
このため、IL-6阻害薬を投与すると、関節炎の改善だけでなく、CRPの著明な低下、発熱の抑制、貧血の改善、血小板数の正常化といった全身的な効果が得られます。臨床試験では、投与開始後早期からCRPが検出限界以下まで低下することが確認されており、この迅速な炎症マーカーの改善は、患者の主観的な症状改善とも相関しています。
ただし、この強力な抗炎症効果には注意すべき側面もあります。感染症や悪性腫瘍が合併している場合でも、IL-6阻害薬によってCRPや発熱が抑制されてしまうため、重篤な合併症を見逃すリスクが存在します。したがって、投与中は炎症マーカーだけでなく、患者の臨床症状の変化を注意深く観察することが不可欠です。
il-6阻害薬の適応疾患と投与対象患者
IL-6阻害薬の主な適応は既存治療で効果不十分な関節リウマチですが、トシリズマブはそれ以外にも複数の適応を持っています。関節リウマチ以外の保険適応として、若年性特発性関節炎、キャッスルマン病、高安動脈炎、巨細胞性動脈炎、全身型若年性特発性関節炎、サイトカイン放出症候群、SARS-CoV-2による肺炎などが承認されています。
関節リウマチにおける投与対象患者は、過去の治療においてメトトレキサート(MTX)をはじめとする少なくとも1剤の抗リウマチ薬による適切な治療を行っても、疾患活動性に起因する明らかな症状が残る場合とされています。これは日本リウマチ学会のガイドラインでも明確に示されている基準です。
さらに、日和見感染症に対する安全性を考慮して、以下の3項目を満たすことが望ましいとされています。第一に末梢血白血球数が4000/mm³以上であること、第二に末梢血リンパ球数が1000/mm³以上であること、第三に血中β-D-グルカンが陰性であることです。
これらは必須条件ではありません。
一方、投与禁忌となる患者も明確に定められています。活動性結核を含む重篤な感染症を有している患者、本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者には投与してはいけません。特に慢性活動性EBウイルス感染(CAEBV)を伴う患者への投与は、急激な悪化により死亡した症例の報告があるため避けるべきです。
il-6阻害薬の単剤療法の有効性とメトトレキサート併用
IL-6阻害薬の最も特徴的な点の一つは、メトトレキサート(MTX)を併用しなくても高い有効性を示すことです。これは他の多くの生物学的製剤とは異なる重要な特性であり、MTXが使用できない患者にとって大きなメリットとなります。
トシリズマブの単剤療法の有効性は、複数の大規模臨床試験で確認されています。SATORI試験では、日本人患者を対象に、トシリズマブ単剤療法とMTX単剤療法を比較し、トシリズマブ単剤の優位性が示されました。ACT-RAY試験では、MTX効果不十分例に対してトシリズマブを追加する群と、MTXを中止してトシリズマブに切り替える群を比較し、両群で同等の有効性が確認されました。
SURPRISE試験では、トシリズマブの単剤療法とMTX併用療法を直接比較し、臨床的寛解率において両群で差がないことが示されています。ただし関節破壊抑制効果については、MTX併用の方がやや良好である可能性が示唆されており、長期的な構造的予後を重視する場合にはMTX併用も検討すべきです。
単剤療法が有効な理由として、IL-6阻害がTNF阻害とは異なる機序で作用することが考えられています。MTXはTNF阻害薬と併用した場合、IL-6阻害作用が加わることで相乗効果を発揮しますが、IL-6阻害薬自体が強力な抗炎症・抗免疫作用を持つため、MTXの追加効果が相対的に小さくなるのです。
この特性は、高齢者、肝機能障害、腎機能障害、間質性肺疾患などでMTXの使用が困難な患者に対して、IL-6阻害薬が第一選択となる根拠となっています。実際の臨床現場では、患者背景に応じて単剤療法とMTX併用療法を使い分けることが重要です。
il-6阻害薬使用時の重要な副作用と感染症リスク管理
IL-6阻害薬の使用において最も注意すべき副作用は感染症です。製造販売後全例調査において、感染症が最多の重篤有害事象として報告されており、特に呼吸器感染症、結核、ニューモシスチス肺炎などが臨床上重要となります。
重篤感染症の危険因子として、以下が明らかになっています。併用グルココルチコイドが5mg/日(プレドニゾロン換算)を超える場合、呼吸器系疾患の既往・合併がある場合、罹病期間が10年以上の場合、65歳以上の高齢者などです。これらの危険因子が重複する患者では、特に慎重な経過観察が必要です。
IL-6阻害薬の最も特徴的なリスクは、炎症症状のマスキング効果です。IL-6は発熱やCRP産生を直接誘導するため、IL-6阻害薬を使用すると、重篤な感染症が発生していても発熱が軽度であったり、CRPがほとんど上昇しなかったりする可能性があります。実際に、前日まで症状がなく、翌日来院時に重症肺炎と診断された症例も報告されています。
これは危険です。
したがって、IL-6阻害薬投与中の患者には、わずかな体調不良でも速やかに医療機関に連絡するよう指導することが極めて重要です。また、医療従事者側も、軽微な症状であっても感染症を疑い、画像検査などを積極的に実施する姿勢が求められます。
結核のスクリーニングも必須です。投与前には問診、インターフェロンγ遊離試験(クォンティフェロンまたはT-SPOT)、胸部X線撮影を必ず実施し、必要に応じて胸部CT撮影を行います。潜在性結核感染症のリスクがある患者では、投与開始3週間前からイソニアジド300mg/日を6~9カ月間予防投与することが推奨されています。
B型肝炎ウイルス感染の確認も投与前に必須です。HBV感染者(キャリアおよび既往感染者)に投与する場合は、肝機能検査値や肝炎ウイルスマーカーのモニタリングを行い、日本肝臓病学会のB型肝炎治療ガイドラインに従って対処します。
その他の重要な副作用として、好中球減少症、血小板減少症、肝機能障害、脂質異常症、消化管穿孔、アナフィラキシーショックなどがあります。定期的な血液検査によるモニタリングと、異常が認められた場合の迅速な対応が不可欠です。
il-6阻害薬の費用と高額療養費制度の活用
IL-6阻害薬は生物学的製剤の中でも高額な薬剤であり、経済的負担は患者にとって重要な問題です。トシリズマブ皮下注162mg(2週間隔投与)の場合、薬価は1回あたり約32,600円で、3割負担の患者では1カ月あたり約19,500円×2回=約39,000円の自己負担となります。
点滴静注製剤の場合、体重により投与量が異なりますが、おおむね1カ月あたり30,000~40,000円程度の自己負担(3割負担)が発生します。サリルマブも同程度の費用となり、年間では約40万円以上の薬剤費負担が生じることになります。
この高額な医療費に対しては、高額療養費制度を活用することが重要です。高額療養費制度では、1カ月の医療費が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みとなっており、自己負担限度額は年齢や所得に応じて設定されています。
例えば、70歳未満で年収約370万~770万円の標準的な所得区分の場合、自己負担限度額は80,100円+(総医療費-267,000円)×1%となります。総医療費が100万円の場合、実際の自己負担額は約87,430円に抑えられます。過去12カ月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合は、4回目から多数回該当となり、自己負担限度額がさらに44,400円に軽減されます。
これは使えそうです。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくことで、医療機関の窓口での支払いを最初から自己負担限度額までに抑えることができます。患者には、加入している健康保険組合や協会けんぽ、市区町村の国民健康保険担当窓口で認定証の交付を受けるよう指導することが重要です。
また、自治体によっては難病医療費助成制度や障害者医療費助成制度などの公費負担制度が利用できる場合もあります。患者の経済状況や利用可能な制度について情報収集し、適切な支援につなげることも医療従事者の重要な役割といえます。
il-6阻害薬投与前のスクリーニングと定期モニタリング項目
IL-6阻害薬を安全に使用するためには、投与前の綿密なスクリーニングと投与開始後の定期的なモニタリングが不可欠です。スクリーニング検査を怠ると、重篤な有害事象のリスクが大幅に上昇します。
投与前に必ず実施すべき検査として、まず感染症スクリーニングがあります。結核に関しては、詳細な問診(結核の既往歴、結核患者との濃厚接触歴)、インターフェロンγ遊離試験(クォンティフェロンまたはT-SPOT)、胸部X線撮影が必須で、必要に応じて胸部CT検査も実施します。
B型肝炎ウイルス感染の確認も必須項目です。HBs抗原、HBs抗体、HBc抗体を測定し、いずれかが陽性の場合はHBV-DNA量を測定して、肝臓専門医と連携した管理計画を立てます。C型肝炎ウイルス抗体も測定しておくことが推奨されます。
血液検査では、血球数(白血球、リンパ球、好中球、血小板、ヘモグロビン)、肝機能(AST、ALT、γ-GTP、ビリルビン)、腎機能(クレアチニン、eGFR)、脂質(総コレステロール、LDL-コレステロール、HDL-コレステロール、中性脂肪)、CRP、血糖などを確認します。
β-D-グルカンの測定も推奨されており、陰性であることを確認してから投与を開始することが望ましいとされています。これはニューモシスチス肺炎などの真菌感染症リスクを評価するための指標です。
投与開始後のモニタリングでは、初期には2~4週間ごと、安定後は4~8週間ごとに血液検査を実施します。モニタリング項目として、血球数、肝機能、脂質、CRPなどを定期的にチェックし、異常値が出現した場合には速やかに対応します。
好中球数が1000/mm³未満、血小板数が50,000/mm³未満、AST/ALTが基準値上限の3倍以上に上昇した場合には、休薬または減量を検討します。脂質異常症が出現した場合は、動脈硬化性疾患予防ガイドラインに従ってスタチンなどの脂質異常症治療薬の併用を考慮します。
患者自身による症状モニタリングも重要です。発熱、咳、呼吸困難、倦怠感、腹痛、下痢などの症状が出現した場合は、軽微であっても速やかに医療機関に連絡するよう指導します。IL-6阻害薬の特性上、重篤な病態でも症状が軽度にしか現れない可能性があることを、患者と家族に十分に説明しておくことが必要です。
il-6阻害薬の周術期管理と休薬期間の考え方
関節リウマチ患者が整形外科手術を含む外科的処置を受ける際、IL-6阻害薬の周術期管理は手術部位感染(SSI)や創傷治癒遅延のリスクと、関節リウマチ再燃のリスクのバランスを考慮した慎重な判断が求められます。
日本リウマチ学会の関節リウマチ診療ガイドライン2024では、「整形外科手術の周術期には生物学的製剤の休薬を推奨する」とされています。これは手術部位感染や創傷治癒遅延のリスクを軽減するための予防的措置です。
術前休薬期間については、薬剤の半減期を考慮して決定します。海外ガイドラインでは、それぞれの生物学的製剤の予定投与日以降の手術を推奨しており、これは半減期を超える期間の休薬で薬物の血中濃度が安全域に低下していると考えられるためです。
トシリズマブ点滴静注(4週間隔投与)の場合、少なくとも4週間の術前休薬が推奨されます。皮下注製剤(2週間隔投与)の場合は少なくとも2週間の休薬が目安となります。感染のハイリスクの手術においては、半減期の3~5倍の休薬期間を設定することも検討されます。
注意すべき点として、米国や英国ではトシリズマブ皮下注は毎週投与が標準治療であるため、海外ガイドラインをそのまま日本の臨床に適用する際には投与間隔の違いを考慮する必要があります。
IL-6阻害療法中の患者では、術後もCRPの上昇が抑制されていることが多く、CRPの推移だけでは感染症の判断が困難です。
つまりCRPは当てになりません。
したがって、創部の観察、局所の発赤・腫脹・熱感・疼痛の評価、患者の全身状態の変化など、臨床所見を総合的に判断することが重要です。白血球数や体温も参考にしますが、これらもIL-6阻害薬の影響を受ける可能性があることを念頭に置く必要があります。
術後の再投与時期については、創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認できれば再投与が可能です。一般的には術後2~4週間程度が目安となりますが、手術の種類、創部の治癒状況、患者の全身状態を総合的に評価して個別に判断します。
人工関節置換術などの大きな手術では、整形外科医とリウマチ専門医が密に連携し、手術計画の段階から休薬スケジュールと再開時期について協議しておくことが望ましいといえます。患者にも事前に十分な説明を行い、インフォームドコンセントを得ておくことが必要です。
il-6阻害薬の最新の臨床知見と今後の展望
IL-6阻害薬に関する臨床研究は現在も継続的に進められており、新たな知見が蓄積されています。関節リウマチ以外の適応拡大も進んでおり、COVID-19重症例に対するトシリズマブの有効性が確認され、2021年にSARS-CoV-2による肺炎への適応が追加されました。
長期安全性に関するデータも充実してきており、5年以上の長期使用における有効性の維持と安全性プロファイルが報告されています。製造販売後長期フォローアップ調査では、悪性腫瘍発現への影響は示唆されておらず、心血管イベントの発現率も他の生物学的製剤と同等レベルであることが確認されています。
バイオシミラー(バイオ後続品)の開発も進んでおり、今後トシリズマブのバイオシミラーが承認されれば、薬剤費の低減により患者の経済的負担が軽減される可能性があります。これにより、より多くの患者がIL-6阻害療法にアクセスできるようになることが期待されます。
個別化医療の観点からは、どのような患者がIL-6阻害薬に良好な反応を示すかを予測するバイオマーカーの研究も進められています。治療前のIL-6値、CRP値、血小板数などが治療反応性の予測因子となる可能性が示唆されており、将来的には患者ごとに最適な生物学的製剤を選択できるようになるかもしれません。
サリルマブは完全ヒト型抗体であり、抗薬物抗体の産生が少ないという理論的利点があります。トシリズマブで二次無効(初期には効果があったが徐々に効果が減弱する現象)を示した患者に対して、サリルマブへのスイッチが有効である可能性も検討されています。
厳しいところですね。
IL-6阻害薬と他の治療法との併用や使い分けについても研究が進んでいます。JAK阻害薬やTNF阻害薬で効果不十分な患者に対するIL-6阻害薬の有効性、逆にIL-6阻害薬不応例に対する他の生物学的製剤への切り替え戦略など、実臨床に即した研究結果が蓄積されつつあります。
医療従事者としては、これらの最新知見を常にアップデートし、個々の患者に最適な治療選択肢を提供できるよう努めることが重要です。日本リウマチ学会や各種学術集会での情報収集、最新のガイドラインの確認、専門医とのディスカッションなどを通じて、IL-6阻害薬の適正使用を実践していくことが求められています。