ロピバカイン アナペイン 違いと使い分け

ロピバカイン アナペイン 違いと特徴

同じ薬剤なのに3mg/kg超えると中毒症状が発生します。

この記事の3つのポイント
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ロピバカインとアナペインは同一薬剤

一般名ロピバカイン塩酸塩水和物、商品名アナペインとして販売される長時間作用性局所麻酔薬で、S体エナンチオマーのみで構成され心毒性が低い特徴を持つ

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濃度別製剤で適応が異なる

0.2%製剤は術後鎮痛、0.75%製剤は硬膜外麻酔と伝達麻酔、1%製剤は硬膜外麻酔専用と、濃度によって使用目的と遮断効果の強さが使い分けられている

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ブピバカインより安全性が高い

痙攣閾値がブピバカインの1.5~2.5倍高く、心毒性が低いため、高濃度製剤でも比較的安全に使用できる長時間作用性局所麻酔薬として術後管理に広く採用されている

ロピバカインとアナペインの名称の関係性

 

ロピバカインとアナペインは、医薬品の呼び方における一般名と商品名の関係です。一般名はロピバカイン塩酸塩水和物(Ropivacaine Hydrochloride Hydrate)で、これをサンドファーマ社が製造販売する際の商品名がアナペインとなっています。

つまり同一の薬剤です。

医療現場では商品名のアナペインで呼ばれることが多いため、一般名のロピバカインと混同される場合があります。しかし薬効分類は長時間作用性局所麻酔剤で、どちらの名称も同じ薬物を指しているということですね。

薬剤の処方や管理において、一般名と商品名を正確に理解しておくことは医療安全の観点から重要です。特に後発医薬品が登場している現在、テルモ製薬から「ロピバカイン塩酸塩0.75%注『テルモ』」という後発品も販売されており、これらも同じロピバカイン製剤になります。添付文書や薬剤管理簿では一般名で記載されることも多いため、両方の名称を把握しておく必要があります。

電子カルテシステムでは一般名検索と商品名検索の両方に対応していることが一般的ですが、施設によって表示方法が異なるため注意が必要です。処方箋や注射指示書を確認する際は、濃度と容量を必ず確認し、意図した製剤であることを確認してください。

KEGGデータベースのアナペイン医薬品情報:一般名と商品名の対応関係、各濃度製剤の詳細な添付文書情報が確認できます

ロピバカインの濃度別製剤と使い分け

アナペインには0.2%、0.75%、1%の3種類の濃度製剤があり、それぞれ適応が明確に分かれています。濃度が高いほど麻酔効果と運動神経遮断作用が強くなるため、目的に応じた選択が求められます。

0.2%製剤は術後鎮痛に特化しています。

この濃度では運動神経遮断作用が最小限に抑えられ、痛覚神経を選択的に遮断できるため、術後の硬膜外持続投与に適しています。通常は6~12mg/h(3~6mL/h)の速度で持続投与され、患者の早期離床を妨げない利点があります。100mLポリアンプル製剤とバッグ製剤が用意されており、長時間の術後管理に対応できます。

0.75%製剤は硬膜外麻酔と伝達麻酔の両方に使用できる中間濃度です。硬膜外麻酔では1回150mg(20mL)まで投与可能で、伝達麻酔では1回300mg(40mL)まで使用できます。この濃度では適度な運動神経遮断と良好な痛覚遮断が得られるため、手術中の麻酔維持に広く用いられています。腕神経叢ブロックや大腿神経ブロックなどの末梢神経ブロックでも頻用される濃度です。

1%製剤は硬膜外麻酔専用の高濃度製剤です。1回200mg(20mL)まで投与可能で、より深い麻酔効果と強い筋弛緩が必要な手術に使用されます。ただし運動神経遮断作用も強いため、術後鎮痛には使用されません。10mLアンプル製剤のみの展開となっています。

濃度選択を誤ると、術後の運動機能回復遅延や不十分な鎮痛につながるリスクがあります。麻酔計画時には手術部位、手術時間、術後管理方針を総合的に判断し、適切な濃度を選択することが基本です。

ロピバカインのS体エナンチオマー構造

ロピバカインはアミド型局所麻酔薬として初めてS体エナンチオマーのみで構成された製剤です。この光学異性体の特性が、ロピバカインの安全性プロファイルを大きく向上させています。

光学異性体とは、化学構造式は同じでも立体構造が鏡像関係にある物質のことです。局所麻酔薬の多くは不斉炭素を持ち、S体とR体の2つの立体異性体が存在します。これらは体内での作用が異なり、特にR体は心毒性や中枢神経毒性が強いことが知られています。

従来のブピバカインはS体とR体の混合物(ラセミ体)として使用されていました。そのため高用量投与時に重篤な不整脈や心停止のリスクがあり、特に妊婦や高齢者での使用に制約がありました。実際にブピバカインの血管内誤投与による死亡例が報告されており、より安全な代替薬の開発が求められていました。

ロピバカインは毒性の低いS体のみを精製した純粋な光学異性体製剤です。S体は神経膜ナトリウムチャンネルに対する選択性が高く、心筋ナトリウムチャンネルへの作用が弱いという特性があります。この構造的特徴により、痙攣閾値がブピバカインの1.5~2.5倍高く、心毒性も有意に低減されています。

脂質親和性もブピバカインより低いため、血液脳関門や心筋への移行が少なく、中枢神経系および循環器系への影響が軽減されます。これらの薬理学的特性により、ロピバカインは高濃度製剤でも比較的安全に使用できる長時間作用性局所麻酔薬として位置づけられています。

同様のコンセプトで開発されたレボブピバカイン(商品名:ポプスカイン)もS体エナンチオマーですが、ロピバカインはさらに低い心毒性を示すことが複数の臨床研究で確認されています。

日本臨床麻酔学会誌のロピバカイン薬理学的特徴:S体エナンチオマーの毒性プロファイルと臨床的意義について詳細な解説があります

ロピバカインとブピバカインの心毒性比較

ロピバカインとブピバカインの最も重要な違いは心毒性の強さです。心毒性の順位はブピバカイン>レボブピバカイン>ロピバカインとなっており、ロピバカインが最も安全性が高いとされています。

ブピバカインは脂質親和性が高く、心筋ナトリウムチャンネルへの結合が強く持続的です。

そのため高用量の静脈内投与時や血管内誤投与時に、重篤な不整脈や心収縮力低下を引き起こしやすい特性があります。ブピバカインによる心停止は蘇生が困難で、通常の心肺蘇生では回復しないケースも報告されています。これは脂質親和性が高いため心筋からの解離が遅く、持続的にナトリウムチャンネルを遮断し続けるためです。

対照的にロピバカインは脂質親和性が低く、心筋ナトリウムチャンネルへの作用が弱いS体構造を持ちます。動物実験では、ロピバカインの致死量はブピバカインより高く、心毒性発現までのマージンが広いことが示されています。臨床試験においても、ロピバカインは同等の麻酔効果を得るためにブピバカインの約1.3~1.5倍の用量が必要ですが、その用量でも心毒性はブピバカインより低いという結果が得られています。

中枢神経毒性の指標となる痙攣閾値についても、ロピバカインはブピバカインの1.5~2.5倍高い値を示します。これは局所麻酔薬中毒のリスクが低いことを意味しており、特に高齢者や心疾患を持つ患者において重要な安全性の差となります。

ただし注意点もあります。ロピバカインは中枢神経毒性と心毒性の発現閾値の差がブピバカインより小さいため、痙攣などの中枢神経症状が出現してから心停止までの時間が短い可能性があります。そのため局所麻酔薬中毒の初期症状を見逃さず、早期に対応することが依然として重要です。

局所麻酔薬中毒が発生した場合、脂肪乳剤(イントラリポス)による治療が有効です。これは脂溶性の局所麻酔薬を血中から脂肪粒子に取り込ませることで、心筋や中枢神経系での毒性を軽減する機序です。ロピバカインでもこの治療法は有効ですが、脂質親和性が低いため、ブピバカインほど劇的な効果は期待できない場合があります。

ロピバカインとフェンタニルの併用効果

術後硬膜外鎮痛においてロピバカインとフェンタニルを併用する理由は、作用機序の違いを利用した相乗効果にあります。この組み合わせにより各薬剤の必要量を減らし、副作用リスクを低減しながら良好な鎮痛を得ることができます。

ロピバカインは神経伝導をブロックする局所麻酔薬です。神経膜のナトリウムチャンネルを遮断することで、痛覚信号の伝達を物理的に阻止します。しかし用量を増やすと交感神経遮断による血圧低下、運動神経遮断による筋力低下が問題となります。特に術後早期離床を目指す現代の周術期管理では、運動機能を温存しながら鎮痛を得ることが重要になっています。

フェンタニルはオピオイド受容体作動薬です。脊髄後角や脳のμ受容体に直接作用し、痛覚情報の伝達を抑制します。運動神経には作用しないため、鎮痛効果を得ながら筋力を保つことができます。また交感神経遮断作用もないため、血圧低下のリスクも軽減されます。

この2剤を併用すると相乗効果が得られます。

臨床研究では、0.2%ロピバカイン単独よりも、0.13~0.2%ロピバカイン+フェンタニル2~5μg/mLの組み合わせの方が、同等以上の鎮痛効果を得られることが示されています。ロピバカインの濃度を下げることで運動神経遮断を最小限にし、不足する鎮痛効果をフェンタニルで補完する戦略です。

一般的な配合例として、0.2%ロピバカイン100mL+フェンタニル0.2~0.5mg(4~10mL)に生理食塩水を加えて全量を調整し、4~6mL/hで持続投与します。この方法により術後の体動時痛も含めた良好な鎮痛が得られ、患者の早期離床と回復促進につながります。

ただし併用時の副作用管理も重要です。フェンタニルの副作用である悪心・嘔吐、呼吸抑制、掻痒感に注意が必要で、特に高齢者や呼吸機能が低下している患者では慎重な投与速度調整が求められます。制吐剤の予防的投与や、パルスオキシメーターでの経時的モニタリングを実施することで、安全性を確保できます。

レバウェル看護の術後硬膜外麻酔薬剤選択:アナペインとフェンタニルの併用メカニズムと使い分けについて看護師向けにわかりやすく解説されています

ロピバカインの供給不足と代替薬剤の対応

2024年以降、アナペイン製剤の供給不足が深刻化し、全国の医療機関で代替薬の選択を迫られる事態となっています。この供給不足は製造工場移転に伴う製造遅延が原因で、特に無痛分娩や術後鎮痛管理に大きな影響を与えました。

供給不足の背景にはサンド社の製造所移管があります。新製造所への業務移管中にポリアンプル製剤の製造で逸脱が発生し、2024年7月以降に出荷量が大幅に減少しました。アナペインは無痛分娩、術後硬膜外鎮痛、神経ブロックなど広範囲で使用される基本的な麻酔薬であるため、代替品の確保が急務となりました。

代替薬として推奨されているのがレボブピバカイン(商品名:ポプスカイン)です。同じS体エナンチオマーの長時間作用性局所麻酔薬で、薬理作用もロピバカインに類似しています。ただしレボブピバカインもアナペイン不足に伴う需要急増により、既存採用施設への安定供給を優先するため新規採用が制限される状況となりました。

2024年11月には厚生労働省が特例的薬価収載を実施し、テルモ製薬のロピバカイン後発品(0.75%製剤10mLと20mL)が即日発売されました。薬価は先発品の50%に設定され、0.75%10mL1管が260円となっています。この後発品の供給開始により、段階的に供給状況の改善が期待されています。

供給不足時の対応策としては以下が実施されています。キシロカインやメピバカインなどの短時間作用性局所麻酔薬への変更、静脈内患者自己調節鎮痛法(ivPCA)へのシフト、神経ブロックの頻度調整などです。ただしこれらは作用時間や鎮痛効果の違いから理想的な代替とは言えず、患者の術後鎮痛管理に影響を与える可能性があります。

医療機関では限られた在庫を適切に配分するため、使用優先順位を設定しています。緊急手術、無痛分娩、高侵襲手術の術後鎮痛などを優先し、待機的手術や低侵襲手術では代替薬を使用する運用が一般的です。薬剤部門と麻酔科・産婦人科との密接な連携により、在庫管理と適正使用を推進することが求められます。

供給再開の見通しについては、製造元の改善計画次第となっており、2026年2月時点でも完全な供給回復には至っていません。医療機関は引き続き代替薬の確保と適正使用の継続が必要な状況です。

日本麻酔科学会の長時間作用性局所麻酔薬供給対応:アナペイン不足時の代替薬選択基準と医療機関向けの具体的対応指針が掲載されています

基礎から臨床応用までロピバカイン(アナペイン)の上手な使い方(臨床麻酔実践シリーズ3)