抗甲状腺薬副作用なぜ起こる機序と対策

抗甲状腺薬副作用なぜ起こる

服用2ヶ月以降も無顆粒球症は起きる

この記事の3つのポイント
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抗甲状腺薬副作用の発症機序

免疫システムを介した細胞傷害が関与。HLA遺伝子型によるリスク差が明らかに

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副作用発症の時期と頻度

無顆粒球症は0.1~0.5%、肝障害は0.5%未満。投与開始71日目までが最高リスク期

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モニタリングと早期発見

投与開始2ヶ月間は2週ごとの血液検査が必須。急性膵炎が新たな重大副作用に追加

抗甲状腺薬による副作用は、バセドウ病などの甲状腺機能亢進症治療において避けて通れない課題です。医療従事者として、なぜこれらの副作用が発生するのか、そのメカニズムを理解することは患者の安全管理において極めて重要です。

抗甲状腺薬は甲状腺ペルオキシダーゼを阻害してホルモン合成を抑制する薬理作用を持ちますが、その一方で全体の10%以上の患者に何らかの副作用が出現するという報告があります。副作用の発症機序は複雑で、薬剤の体内蓄積によるものとアレルギー反応の両方が関与していると考えられています。

抗甲状腺薬の無顆粒球症発症メカニズム

 

無顆粒球症は抗甲状腺薬による最も重篤な副作用の一つです。発症頻度は0.1~0.5%、言い換えると200人から500人に1人の割合で起こります。これは何万人に一人という稀な副作用ではなく、臨床現場で常に警戒すべき頻度です。

無顆粒球症が起こる理由は長年謎でしたが、近年の研究で免疫システムを介した細胞傷害が発症機序に関わっていることが明らかになっています。特定のヒト白血球抗原(HLA)遺伝子型、具体的にはHLA-B*39:01:01とHLA-DRB1*08:03:02が無顆粒球症のリスク因子として同定されました。

国立遺伝学研究所の研究では、抗甲状腺薬投与後に無顆粒球症を発症した患者87例と未発症の患者384例のHLA遺伝子配列を比較しました。

この結果はどういうことなのでしょうか。

HLA-B*39:01:01を持つ患者では、抗甲状腺薬に対する免疫応答が過剰になり、白血球の一種である顆粒球が攻撃されて減少するのです。

この遺伝的リスク因子は日本人だけでなく、中国、台湾、ヨーロッパの集団でも確認されており、集団を越えた普遍的なリスク因子であることが証明されています。つまり人種の違いを超えて、同じ遺伝子型が同じリスクをもたらすということですね。

国立遺伝学研究所の無顆粒球症とHLA遺伝子に関する研究成果

抗甲状腺薬による肝障害の発生理由

肝障害は無顆粒球症に次いで注意すべき重篤な副作用です。発症頻度は0.5%未満とされていますが、重症例では死亡率が20~30%に達する恐ろしい合併症です。

肝障害が起こる理由は、薬剤の体内蓄積による直接的な肝毒性とアレルギー性機序の両方が考えられています。抗甲状腺薬は肝臓で代謝されるため、肝細胞に直接作用して障害を与える可能性があります。発症時期は投与開始から1~3ヶ月で起こることが多く、肝細胞障害型が大部分を占めます。

興味深いことに、メルカゾール(チアマゾール)とプロパジール(プロピルチオウラシル)では肝障害の頻度に差があります。田尻クリニックの研究では、メルカゾール症例25例中3例(12%)、プロパジール症例26例中8例(31%)で肝機能が悪化したと報告されています。プロパジールのほうが肝障害のリスクが高いのです。

さらに重要な点として、一つの抗甲状腺薬で肝障害が起こった場合、他の抗甲状腺薬でも肝障害が発生する率は高くなります。これはクロスリアクティビティと呼ばれる現象で、薬剤変更時にも慎重なモニタリングが必要な理由です。

軽度の肝機能異常(GOT、GPT共に100IU/L未満)であれば、対症療法や抗甲状腺薬の減量で内服継続できる場合もあります。しかし黄疸の出現、尿の色の濃化、食欲不振、吐き気などの症状が現れた場合は、直ちに服用を中止して専門医に相談することが原則です。

抗甲状腺薬ANCA関連血管炎の発症時期

ANCA関連血管炎は抗甲状腺薬による稀だが重篤な副作用で、肺や腎臓などの臓器障害を引き起こします。この副作用の特徴は、他の副作用と比べて発症時期が遅いという点です。

症状出現まで平均2~3年と比較的長期間使用後に発症するのが特徴で、数ヶ月から数年経ってから起こることもあります。これはどういうことなのかというと、薬剤性ANCA関連血管炎では、薬剤への慢性的な曝露によって徐々に自己抗体(MPO-ANCA)が産生され、ある閾値を超えたときに血管炎が発現すると考えられています。

特にプロパジール(プロピルチオウラシル、PTU)による発症頻度が比較的高く、PTU服用中のMPO-ANCA陽性率は64%、そのうち20%が実際に血管炎を発症したという報告があります。メルカゾールとPTUでの発症頻度比は1:39.2と圧倒的にPTUに多いのです。

初期症状は発熱、倦怠感、関節痛、筋痛などの全身症状で、多彩な皮疹(紅斑、紫斑、結節、血疱、蕁麻疹、リベド、潰瘍)、しびれ、神経痛などを認めます。腎障害を疑う症状がある場合は検尿検査、血清クレアチニン、CRP、MPO-ANCAを測定する必要があります。

抗甲状腺薬を中止すればANCA陽性血管炎症状は、ほとんどの患者で消失し、再発は非常に稀です。

つまり薬剤中止が最も重要な対応ということですね。

抗甲状腺薬投与開始時の副作用モニタリング期間

副作用の早期発見と重篤化予防のためには、投与開始後の適切なモニタリングが不可欠です。特に投与開始後2ヶ月間が最も重要な期間とされています。

無顆粒球症の発症時期を詳しく見ると、投与開始71日目までの発症リスクは9.2/1000人年と明らかに高く、これは約109人に1人が71日以内に発症する計算になります。71日以降はリスクが1.8/1000人年に減少しますが、完全にゼロになるわけではありません。少なくとも6年間以上リスクが持続するという報告があります。

この事実は「2ヶ月過ぎたら安心」という思い込みを否定するものです。投与開始2ヶ月間は原則として2週に1回、白血球分画を含めた血液検査を実施し、顆粒球の減少傾向や肝機能異常の有無を確認します。2ヶ月を過ぎた後も、定期的な血液検査によるモニタリングの継続が必要です。

患者への説明では、発熱、咽頭痛、全身倦怠感などの症状が出現した場合は、すぐに受診するよう指導することが重要です。特に38度以上の発熱や咽頭痛は無顆粒球症の初期症状の可能性があります。このような症状があれば、次の定期受診を待たずに直ちに医療機関を受診してもらう体制を整えておくべきですね。

バセドウ病治療ガイドラインでは、抗甲状腺薬による副作用の多くは治療開始後2~3ヶ月以内に発症するとされていますが、前述のように長期使用中の発症例もあるため、治療期間全体を通じた注意が必要です。

抗甲状腺薬の新規副作用と最新の安全対策

2025年6月24日、厚生労働省医薬局医薬安全対策課は重要な添付文書改訂を指示しました。抗甲状腺薬メルカゾール(チアマゾール)の「重大な副作用」に「急性膵炎」が新たに追加されたのです。

この改訂の理由は、メルカゾールと急性膵炎との因果関係が否定できない国内症例が5件報告されたことと、抗甲状腺薬と急性膵炎との関連を示唆する疫学文献が複数報告されていることです。急性膵炎の症状としては、上腹部痛、背部痛、嘔吐、発熱などがあり、これらの症状が出現した場合には投与中止と適切な対応が必要とされました。

この追加は臨床現場に何をもたらすでしょうか。従来、抗甲状腺薬の重大な副作用としては無顆粒球症、肝機能障害、ANCA関連血管炎が主に認識されていましたが、今後は急性膵炎も含めた包括的な副作用管理が求められます。

患者が腹部症状を訴えた場合、単なる消化器症状として見過ごすのではなく、急性膵炎の可能性を考慮して血清アミラーゼやリパーゼの測定、必要に応じて腹部エコーやCT検査を実施することが推奨されます。特に上腹部から背部にかけての持続的な痛みは急性膵炎の特徴的な症状ですので、見逃さないようにすることが大切です。

メルカゾールとプロパジールの副作用プロファイルには違いがあり、薬剤選択時にはこれらの特性を考慮する必要があります。メルカゾールは無顆粒球症の用量依存性が報告されており、プロパジールは肝障害とANCA関連血管炎のリスクが高い傾向があります。妊娠初期にはプロパジールが推奨されますが、それ以外の期間ではメルカゾールが第一選択とされることが多いのです。

PMDAによるチアマゾールの使用上の注意改訂に関する資料

副作用リスクを最小化するための対策として、必要最小限の用量で治療を開始することや、高齢者・女性・腎機能低下患者自己免疫疾患合併例では特に注意深いモニタリングを行うことが重要です。これらの患者群では副作用の発症頻度が高いことが指摘されているためです。

抗甲状腺薬による副作用は決して稀ではなく、医療従事者の適切な知識と継続的なモニタリングによって早期発見・早期対応が可能です。副作用の発症機序を理解し、各副作用の特徴的な発症時期や症状を把握することで、患者の安全性を最大限に確保することができます。定期的な血液検査の実施と患者教育の徹底が、副作用による重篤な転帰を防ぐ鍵となるのです。


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