胃排出遅延 薬
胃排出遅延の定義と糖尿病の血糖変動
胃排出遅延(胃不全麻痺)は、機械的閉塞がないにもかかわらず固形食の胃排出が遅れ、悪心・嘔吐、食後膨満、早期飽満、体重減少などが持続する病態です。
糖尿病では、胃排出遅延が「食後高血糖が遅れて来る」「次の食事やインスリンとズレる」といった血糖変動の増悪に直結しやすく、症状と血糖を同時に悪化させます。
また検査設計でも、高血糖は胃排出を遅らせるため、評価の前に血糖を可能な範囲で最適化しておくことが、誤った重症度判定を避ける実務上のポイントになります。
胃排出遅延の検査と休薬(運動促進薬・抗コリン薬・オピオイド)
診断の前提は閉塞の除外で、上部内視鏡の主目的は「器質的閉塞がないこと」と「残渣所見などの状況把握」であり、確定には胃排出シンチ(標準化食・4時間評価)などの客観検査が重要です。
検査前の注意点として、高血糖に加えて、運動促進薬・抗コリン薬・オピオイドなど“胃排出に影響する薬”は結果を歪める可能性があるため、連携先の指示に沿って事前休薬を検討します。
実臨床では「症状が強いほど薬が増え、薬が増えるほど評価が難しくなる」構図になりやすいので、検査予定日から逆算して、いつ何を止め、代わりに何で支えるか(補液、制吐、栄養形態変更)をチームで共有すると混乱が減ります。
胃排出遅延の運動促進薬(メトクロプラミド・ドンペリドン)
運動促進薬の代表であるメトクロプラミドは、上部消化管運動性を高めて胃排出を促進し、制吐にも用いられますが、中枢神経有害事象や錐体外路症状などのリスクに注意が必要です。
特に有害事象は内服開始から早期(開始後5日以内が多い)に起こり得るとされ、処方開始直後の観察強化は安全管理として実装しやすい介入です。
ドンペリドンは同じドパミン受容体遮断薬でも脳内移行が低く、中枢神経有害事象が少ないとされる一方、重篤な心室性不整脈や突然死など心臓伝導系の有害事象との関連が報告され、用量上限(例:30mg/日を超えない推奨)や併用薬(CYP3A4)に注意して設計します。
参考:高齢者でのメトクロプラミド注意点(錐体外路症状、開始後早期発現、処方カスケード等)

胃排出遅延とGLP-1受容体作動薬(用量調整・切替え・麻酔リスク)
胃排出遅延の原因には薬剤性も含まれ、オピオイドや抗コリン薬だけでなく、一部のGLP-1受容体作動薬が胃排出を遅らせ得る点は、糖尿病診療の普及に伴って重要性が増しています。
胃排出遅延の症状が悪化している場面では、GLP-1受容体作動薬の用量・投与間隔の調整や切替えを主治医と相談し、検査前に休薬が必要になる場合があると整理されます。
さらに周術期・麻酔の文脈では、GLP-1受容体作動薬による胃内容排出遅延が誤嚥リスクの論点になり得るため、内視鏡や処置予定がある患者では「いつから絶食扱いにするか」だけでなく「胃排出を遅らせる薬が入っていないか」を術前問診で拾う価値があります。
胃排出遅延の独自視点:処方カスケードと「5日以内」モニタリング設計
胃排出遅延の患者では悪心・食欲不振・腹部膨満が前景に出やすく、対症的に制吐・鎮静・鎮痛が積み上がると、結果的に胃排出をさらに遅らせる薬剤(例:オピオイド、抗コリン薬)へ寄ってしまうことがあります。
このとき重要なのは「薬を足す」より先に「薬を減らす」設計で、原因薬の棚卸し(薬剤性の胃排出遅延)を治療アルゴリズムの最初に置くと、同じ症状でも必要薬剤数が減りやすくなります。
また、メトクロプラミドは開始後早期に神経学的有害事象が出やすいという実データが示されているため、処方指示に“初回5日間の具体的観察項目(眠気、めまい、アカシジア、ジストニア様所見など)”をセット化し、問題があれば速やかに中止する運用にすると、単なる注意喚起より実効性が高くなります。
参考:胃排出遅延の診断フロー(内視鏡で閉塞除外→胃排出シンチ、検査前休薬、高血糖の影響)
