硫酸アトロピン 作用 機序 禁忌 副作用

硫酸アトロピン 作用 機序

硫酸アトロピンの作用を最短で把握
🧠

作用機序の核

ムスカリン受容体に競合的に拮抗(抗コリン作用)。「何が抑えられるか」を押さえると適応・副作用がつながる。

❤️

循環への影響

迷走神経性徐脈などで使用。一方で重篤な心疾患では過度の迷走神経遮断で不整脈リスクも。

⚠️

禁忌・過量投与

緑内障、前立腺肥大による排尿障害、麻痺性イレウスは禁忌。抗コリン中毒の徴候と対応(ネオスチグミン等)を事前に確認。

硫酸アトロピン 作用機序とムスカリン受容体

硫酸アトロピンは、アセチルコリンムスカリン様薬物に対して競合的拮抗作用を示す、いわゆる抗コリン作用副交感神経遮断)を中核とする薬剤である。

添付文書レベルでは、平滑筋・心筋・外分泌腺などのムスカリン受容体に対して選択性が高いことが明記され、消化管・胆管・膀胱・尿管などの攣縮緩解と、唾液・気管支粘膜・胃液・膵液などの分泌抑制が、作用の「見取り図」として提示されている。

この見取り図は、そのまま副作用(口渇、便秘、排尿障害、散瞳、視調節障害など)にも直結するため、薬理を「受容体→臓器→症状」で追えるようにしておくと、投与前のリスク評価が速くなる。

現場では「徐脈にアトロピン」という連想が先行しがちだが、硫酸アトロピンは“副交感神経を引く薬”であり、“交感神経を直接押す薬(カテコラミン)”ではない点が重要である。

そのため、原因が迷走神経優位かどうか(薬剤性、低酸素、伝導系障害、虚血など)を短時間で見極めることが、反応性の予測と次の一手(ペーシング、昇圧薬など)につながる。

硫酸アトロピン 作用と適応(徐脈・中毒・麻酔前投薬)

注射薬の効能・効果として、迷走神経性徐脈および迷走神経性房室伝導障害、その他の徐脈・房室伝導障害、麻酔前投薬、ECTの前投与、有機リン系殺虫剤・副交感神経興奮剤の中毒、さらに消化管領域の痙攣性疼痛などが列挙されている。

用法・用量の記載では、一般的な成人で0.5mg皮下/筋注(場合により静注)とされ、中等症の有機リン中毒では1~2mgを投与し必要に応じ反復、重症では2~4mg静注後にアトロピン飽和の徴候が認められるまで反復する、という“目的別に強度が変わる”設計になっている。

ここでのポイントは、同じ硫酸アトロピンでも「徐脈の是正」と「コリン作動性クリーゼの解除」では求める効果のレベルが異なり、後者では反復投与が前提になり得る点である。

また、添付文書には「低用量では通常徐脈があらわれるが、高用量では心拍数を増加させる」との記載があり、投与量によって心拍応答が単純でない可能性が示されている。

この“二相性”は、現場では「効かない」「逆に遅くなった気がする」といった違和感として表面化しやすく、投与量・投与経路・背景(鎮静、麻酔、低体温、伝導障害のレベルなど)をセットで再評価する契機になる。

硫酸アトロピン 作用と禁忌・慎重投与(緑内障・前立腺肥大・心疾患)

禁忌として、閉塞隅角緑内障、前立腺肥大による排尿障害、麻痺性イレウス、成分過敏症が明記されている。

理由も具体的で、抗コリン作用により眼圧上昇(房水通路の狭小化を含む)や、膀胱平滑筋の弛緩と括約筋緊張による排尿困難の悪化、消化管運動抑制によるイレウス悪化が挙げられている。

禁忌は「絶対に使わない」だけでなく、「見落としやすい問診項目」のリストでもあるため、救急・周術期・当直帯ほど“短い問診で拾う工夫(緑内障の型、排尿障害の程度、腹部症状)”が必要になる。

慎重投与では、うっ血性心不全心拍数増加による過負荷)、重篤な心疾患、潰瘍性大腸炎(中毒性巨大結腸のリスク)、甲状腺機能亢進症(頻脈・体温上昇などの増強)、高温環境(発汗抑制による体温調節困難)などが挙げられる。

とくに重篤な心疾患の項では、心筋梗塞に併発する徐脈や房室伝導障害に対して、過度の迷走神経遮断効果として心室頻脈・細動を起こすことがある、と踏み込んだ注意喚起がある。

「徐脈だから安全に上げる」ではなく、「どの徐脈か(虚血性、伝導系の構造障害、薬剤性、反射性)」を意識し、心電図や循環動態の変化を見ながら、次に何を準備するか(除細動、昇圧、ペーシング)を先回りしておくことが実務上のリスク低減になる。

硫酸アトロピン 作用と副作用・相互作用(抗コリン作用の総点検)

副作用は「抗コリン作用の裏返し」として理解すると整理しやすく、散瞳・視調節障害・緑内障、口渇、悪心・嘔吐、嚥下障害、便秘、排尿障害、頭痛・記銘障害、心悸亢進、発疹、顔面潮紅などが挙げられている。

重大な副作用としてショック、アナフィラキシーが記載され、頻脈、全身潮紅、発汗、顔面浮腫などがみられた場合は中止して適切に対応する、とされる。

「発汗」は通常、抗コリンで抑制方向(発汗抑制→熱こもり)に語られることが多いが、アナフィラキシー文脈では発汗が兆候として登場するため、単一の薬理だけで決め打ちせず、バイタルと皮膚所見を合わせて鑑別する癖が重要になる。

相互作用(併用注意)では、三環系抗うつ薬、フェノチアジン系薬剤、イソニアジド、抗ヒスタミン薬など“抗コリン作用を有する薬剤”との併用で口渇・便秘・麻痺性イレウス・尿閉等が増強する可能性が示されている。

また、MAO阻害剤で作用増強の可能性、ジギタリス製剤で中毒症状が出る可能性(必要に応じ血中濃度測定など)、PAM(プラリドキシム)との混注で薬効発現遅延の可能性が記載されている。

救急や周術期では、内服歴が不明確なことも多いが、せめて「抗ヒスタミン薬」「抗うつ薬」「抗精神病薬」など、患者が思い出しやすいカテゴリで聞き取ると、抗コリン負荷の総量(anticholinergic burden)を見積もりやすくなる。

硫酸アトロピン 作用の独自視点:過量投与の“先回り”と抗コリン中毒の言語化

過量投与(アトロピン中毒)の徴候・症状として、頻脈、心悸亢進、口渇、散瞳、近接視困難、嚥下困難、頭痛、熱感、排尿障害、腸蠕動の減弱、不安、興奮、せん妄等が挙げられている。

処置として、重度の抗コリン症状にはコリンエステラーゼ阻害薬ネオスチグミン0.5~1mg筋注を行い、必要に応じ2~3時間ごとに繰り返すことが記載されている。

この“記載のある解毒選択肢”を知っているだけで、投与後にせん妄や著明な頻脈が出た場面で、原因が「敗血症」や「疼痛」だけではなく「抗コリン過量」という線でチームが同じ地図を持てるようになる。

独自視点として強調したいのは、硫酸アトロピンの過量投与は「大量投与をした時」だけでなく、“抗コリン作用の積み上げ”で臨床的に中毒様に見えることがある点である(例:抗ヒスタミン薬三環系抗うつ薬などとの併用で口渇・便秘・尿閉が一気に前面化する)。

添付文書にも抗コリン作用を有する薬剤との併用で抗コリン作用が増強する旨が明確にあり、薬歴が揃わないほどリスクが上がる構造が見て取れる。

そのため、投与前に「排尿」「腹部膨満」「見えにくさ」「高温環境」「認知機能(せん妄素因)」を短くチェックし、投与後は“頻脈だけ”ではなく「腸蠕動」「尿量」「意識・興奮」「体温」をセットで追うと、合併症の早期発見につながる。

麻酔前投薬などで使用する場合も、重要な基本的注意として散瞳や視調節障害が起こり得るため、自動車運転など危険作業への注意喚起が必要とされている。

この注意は「患者向け説明」に見えるが、医療者側の観察点でもあり、術後の転倒リスクや、眩しさ・近見困難による不安増悪(せん妄リスク)を拾うヒントになる。

禁忌や慎重投与に絡む“あまり語られない実務の罠”としては、高温環境の患者で発汗抑制が起こり体温調節が困難になるおそれがある点が挙げられており、夏季の救急外来や搬送直後の発熱・高体温の解釈に影響し得る。

「感染で熱い」と決めつける前に、抗コリン負荷と環境要因(暑熱、脱水)を並行して評価することで、不要な検査や治療の偏りを減らせる。

参考:禁忌・用法用量・作用機序・副作用・過量投与(ネオスチグミン等)がまとまっている(添付文書相当)

https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00054121.pdf