リンパ球性胃炎と内視鏡と病理と診断

リンパ球性胃炎と診断

リンパ球性胃炎の要点
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定義は「上皮内リンパ球増加」

胃表層・腺窩上皮の上皮内リンパ球が増える“病理パターン”として理解すると臨床判断がぶれにくい。

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内視鏡は正常〜びらんまで幅広い

びらん・結節・皺壁肥厚など多彩で、所見が乏しい症例もあるため、生検の設計が重要。

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背景疾患を必ず探索

ヘリコバクター・ピロリ、セリアック病、薬剤(NSAIDs)などの関与を想定し、鑑別と追加検査を組む。

リンパ球性胃炎の病理と定義と上皮内リンパ球

リンパ球性胃炎(lymphocytic gastritis)は、胃の表層上皮や腺窩上皮に「上皮内リンパ球(IEL)が増加する」ことを中核とする病理組織学的所見(パターン)として押さえると理解しやすいです。診断基準としては、胃上皮細胞100個あたり上皮内リンパ球が25個以上というカットオフが広く用いられています。

この「25/100」という数値は、臨床症状や内視鏡像より先に、病理側の客観性を担保するための“共通言語”です。実臨床では、病理報告書に「gastric intraepithelial lymphocytosis」「lymphocytic gastritis pattern」などと書かれた時点で、背景疾患(感染、免疫、薬剤)へ思考を広げるトリガーにします。

また、層固有層にリンパ形質細胞浸潤が目立つこともありますが、リンパ球性胃炎の定義はあくまで「上皮内リンパ球増加」に置かれている点が重要です。

参考)https://www.sciencedirect.com/topics/biochemistry-genetics-and-molecular-biology/intraepithelial-lymphocyte

ここを取り違えると、一般的な慢性胃炎(固有層優位のリンパ球・形質細胞浸潤)との境界が曖昧になり、診断名だけが一人歩きします。

参考)https://pathology.or.jp/corepictures2010/08/c04/05.html

リンパ球性胃炎の内視鏡とびらんと結節

内視鏡所見は「正常に見える」ことすらあり、所見だけで否定できないのがリンパ球性胃炎の厄介さです。

一方で、古典的には“varioliform gastritis(多発する隆起性の慢性びらん・結節様変化)”として語られてきた背景があり、びらんや結節状変化、場合によっては皺壁肥厚(巨大皺壁様)として見えることもあるとされています。

ここで臨床的に役立つのは、「内視鏡像が軽い=病理も軽い」と決めつけないことです。びらんや潰瘍が目立つ群もある一方、リンパ球性胃炎が腸管側の上皮内リンパ球増加(たとえばセリアック病や顕微鏡的大腸炎など)と並走する群では、胃病変が目立ちにくい可能性が示されています。

つまり、上部内視鏡で決定打がなくても、下痢や貧血などの“背景症状”が強いときは、生検戦略や追加検査(小腸・大腸も含む)を再設計する価値があります。

内視鏡で「たこいぼびらん(隆起型びらん性胃炎)」のような隆起+中心びらんが目立つ場合、鑑別として炎症性病変以外(腫瘍性、薬剤性など)も含めて整理が必要になります。

参考)上部消化管内視鏡

リンパ球性胃炎と“たこいぼびらん”が常に同義というわけではありませんが、「びらん・結節・隆起が多発する」時に、病理で上皮内リンパ球増加が返ってくる臨床シーンは想定しておくと動きやすくなります。

リンパ球性胃炎とヘリコバクター・ピロリと除菌

リンパ球性胃炎は、病因としてヘリコバクター・ピロリ感染との関連が指摘されています。

レビューでは「H. pyloriに対する非典型的免疫反応」として説明されることがあり、除菌治療でリンパ球性胃炎が改善・治癒する例が高率にある、という報告もまとめられています。

臨床のコツは、「ピロリ陽性=すべて説明できる」ではなく、「ピロリ陽性=介入可能な可逆因子」として扱うことです。リンパ球性胃炎は“単独の疾患”というより、他の条件に伴って出てくる病理表現型(histopathologic expression)になり得る、という見方が提示されています。

そのため、ピロリが陽性なら除菌を検討しつつ、同時にセリアック病や薬剤(NSAIDs)などの並走因子がないかも並行して潰していくほうが、再燃・遷延を減らしやすくなります。

参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/gee1973b/38/3/38_3_828/_pdf/-char/ja

参考:リンパ球性胃炎は“上皮内リンパ球増加”が鍵で、ピロリ以外の条件でも起こり得る(NSAIDs、顕微鏡的大腸炎など)

https://www.informdx.com/wp-content/uploads/USCAP_Lymphocytic_Gastritis.pdf

リンパ球性胃炎とセリアック病と下痢と貧血

リンパ球性胃炎は、スプルー(セリアック病)関連反応としても説明され、セリアック病症例の一定割合でリンパ球性胃炎が見られ、グルテンフリー食で胃炎が退くことがある、とまとめられています。

ここが重要なのは、「胃の診断名」から「小腸の疾患」へ視点が飛ぶ点で、上部内視鏡だけで完結させない臨床判断につながります。

日本ではセリアック病は欧米ほど頻度が高くない一方、診断概念や検査体制は整備されてきており、関連抗体・HLA・小腸生検などで診断を組み立てる流れが整理されています。

参考)GRJ セリアック病

リンパ球性胃炎が病理で示唆された患者に、慢性下痢、体重減少、鉄欠乏性貧血などが併存する場合は、鑑別としてセリアック病(あるいはセリアック病様腸症)を“念のため候補に挙げる”だけでも、見逃しを減らせます。

意外性のあるポイントとして、リンパ球性胃炎は「胃だけの問題」に見えるのに、腸管の上皮内リンパ球増加とセットで現れる群があり、症状プロファイル(下痢、嘔吐、貧血など)にも差が出うる点が挙げられます。

病理結果が返ってきた後に問診を深掘りし、便通異常や栄養障害のサイン(貧血、低栄養、体重変化)を取り直す“後追い問診”は、実務上かなり効きます。

参考:セリアック病の診断(抗体検査、HLA、病理分類など)の実務的整理

GRJ セリアック病

リンパ球性胃炎の独自視点と生検設計と連携

検索上位の解説は「定義・原因・内視鏡像」に集約されがちですが、現場で差がつくのは“生検設計と病理連携”です。リンパ球性胃炎は内視鏡が正常に見えることもあるため、症状(ディスペプシア、下痢、貧血)や背景(自己免疫、薬剤、感染)から「生検を取る理由」を言語化して病理に渡せるかが結果の解像度を左右します。

実務的には、病理依頼のコメント欄に次のような情報を短く添えるだけで、鑑別の精度が上がることがあります。

  • 症状:慢性下痢、体重減少、鉄欠乏性貧血、上腹部不快感の有無。
  • 既往と内服:NSAIDs、免疫抑制、抗菌薬歴、自己免疫疾患の有無(背景条件として上皮内リンパ球増加が起こり得る)。
  • ピロリ情報:迅速ウレアーゼ、便中抗原、血清抗体、除菌歴(除菌で改善する型があり得る)。​

さらに“意外に効く”のが、リンパ球性胃炎を「疾患名」ではなく「パターン」として説明し、患者説明もそれに合わせることです。病理パターンは可逆因子(ピロリ、薬剤)や併存疾患(セリアック病など)で動く可能性があるため、最初から「原因探索と再評価がセット」と伝えるほうが、再検や追加検査の同意が取りやすく、医療者側の計画も立てやすくなります。

最後に注意点として、上皮内リンパ球の増加があるからといって直ちに腫瘍性病変を示すわけではありませんが、胃のリンパ増殖性疾患が鑑別に上がる局面では「生検の部位選定」「追加免疫染色の要否」を病理と相談する姿勢が安全です。

参考)胃癌—鑑別診断  中條 恵一郎(国立がん研究センター東病院 …

“診断名を付ける”より、“次の一手(原因介入と併存疾患探索)を決める”ことをゴールに置くと、リンパ球性胃炎は扱いやすい所見になります。