Dieulafoy病変の診断と治療
Dieulafoy病変の病態と異常動脈
Dieulafoy病変(Dieulafoy潰瘍/Exulceratio simplex)は、粘膜欠損が小さいにもかかわらず、粘膜下層に存在する比較的太い動脈が露出・破綻して急性大量出血を起こす病変です。日本救急医学会の用語解説では、粘膜下に拡張・蛇行する動脈があり、その一部が粘膜を貫通して自然破裂し大出血に至る、という病理学的イメージが示されています。さらに「いわゆる消化性潰瘍ではない」という点は、治療戦略(酸分泌抑制だけでは完結しない)を理解するうえで重要です。
また、発症機序は単純な“潰瘍が深くなって血管が切れた”というより、先天的な走行異常などの「異常血管の上の粘膜が欠損する」ことで出血が顕在化する、という考え方が主流です(=背景に太い血管が先にある)。このため、内視鏡で見ると「病変の小ささ」と「出血の激しさ」が不釣り合いになりやすく、初見時に違和感として気づけるかがポイントになります。
臨床では、前駆症状が乏しいまま突然の吐血・下血で発症することがあるとされ、緊急対応になりがちです。特に高齢者・抗血栓薬内服・併存疾患がある場合は循環動態の破綻が早く、病態の理解がそのまま初動の質に直結します。
- 特徴(押さえるべき核)
- 「浅い粘膜欠損」+「太い露出血管」
- 動脈性出血になりやすく、短時間で大量出血
- 典型的な“潰瘍らしさ”が乏しいことがある
権威性のある日本語参考:病理像・診断法(血管造影も含む)・「消化性潰瘍ではない」点

Dieulafoy病変の内視鏡所見と露出血管
内視鏡的には「ごく小さな潰瘍(あるいはびらん)なのに、中心部に太い露出血管が見える」ことが典型所見として整理されています。ガストロ用語集では、皺襞集中や周堤などの“潰瘍らしい付帯所見”を欠く小病変の中心に太い露出血管が観察される点が述べられています。つまり、形態診断というより「露出血管を見つけるゲーム」に近く、視認性が全てと言っても過言ではありません。
診断の実務上の落とし穴は、活動性出血や血餅付着で出血点が隠れることです。結果として「胃内に血液が多いのに、明らかな潰瘍がない」状況に遭遇しやすく、洗浄・吸引・体位変換で視野を作ってから、粘膜のわずかな欠損や血管断端を丹念に追う必要があります。
文献上は、潰瘍径が10mm以下などの内視鏡的診断の目安が提示されることがあり、少なくとも「大きな潰瘍でないのに血管が目立つ」不均衡を言語化しておくと、チーム内共有が容易になります。十二指腸の症例報告PDFでは、潰瘍最大径10mm以下・露出血管径1mm以上などの基準に言及があります。
- 見つけるコツ(手技の工夫)
- 血餅は“剥がす前提”で洗浄し、再出血の瞬間を恐れず視野確保
- 接線方向で見にくい部位は体位やスコープ角度を変え、露出血管の「断端」を探す
- 小病変でも動脈性噴出を想定し、止血デバイスを先に準備してから詰める
参考:潰瘍径10mm以下など診断目安に触れている症例報告(十二指腸Dieulafoy)
Dieulafoy病変の内視鏡的止血とクリップ
治療の主戦場は内視鏡的止血で、機械的止血(クリップ)を中心に、局注・熱凝固・結紮を状況に応じて組み合わせます。一般向け解説でも、Dieulafoy潰瘍では小さな潰瘍の中心に露出血管があり、動脈性で大量出血し得るため、内視鏡的止血術としてクリップで血管を縫縮して止血する流れが示されています。実臨床でも「露出血管を直接つかむ」ことの再現性が高い一方で、出血点が接線方向だったり、視野が悪いとクリップが浅く噛んで再出血につながることがあります。
小腸など到達が難しい部位でも、ダブルバルーン内視鏡で露出血管を確認し、クリップで止血できた症例が報告されています。つまり、病変の本質が「局在する動脈性出血」なので、到達さえできれば“止血原理”は胃と同じで、クリップは部位を選ばず有効になり得ます。
止血戦略を言語化すると、次のように整理するとチーム運用が楽になります。
- 初回止血の考え方
- 最優先:出血点(露出血管)を直視化し、機械的に制御(クリップ/結紮)
- 併用:視野確保目的の局注、にじむ出血への凝固、再出血リスクを考えた追加処置
- 代替:内視鏡で制御不能なら、血管造影下の塞栓や外科も選択肢(施設体制次第)
参考:Dieulafoy潰瘍の特徴(露出血管・動脈性大量出血)とクリップ止血の説明
参考:小腸Dieulafoyをダブルバルーン内視鏡で同定しクリップ止血した報告(到達困難部位の実例)
Dieulafoy病変の再出血と追加治療
Dieulafoy病変は内視鏡止血が基本ですが、再出血が起こり得るため「次の一手」を事前に決めておくと対応が速くなります。医書.jpの症例概要では、内視鏡治療後に再出血し、追加内視鏡でも制御しきれず手術に至った例が紹介されており、まれでも“内視鏡が万能ではない局面”があることを示唆します。再出血時に慌てないためには、初回止血の時点で出血機序(太い動脈)を前提に、止血の確実性を高める工夫(露出血管の根元を跨ぐクリップ、結紮の検討、併用療法)を選びやすくなります。
また、小腸や出血源不明消化管出血(OGIB)では、出血しているタイミングかどうかで診断率が大きく変わる、という指摘があります。ダブルバルーン内視鏡の解説資料では、OGIBの原因に血管性病変が多く、Dieulafoyのような動脈性病変はクリップ止血が適している旨が述べられています。再出血時は「再検のタイミング」「到達手段(DBE、カプセル、造影CT)」「止血法の切替」をセットで判断するのが現実的です。
- 再出血時の実務チェック(例)
- バイタル不安定なら輸血・循環管理を最優先し、止血手段を並行手配
- 内視鏡で出血点が再確認できるなら、より確実な機械的止血(クリップ追加/結紮)へ
- 出血点が不明・到達困難なら、造影CTでextravasation評価→血管造影・塞栓の検討
- 外科が必要になる状況(内視鏡・IVRが不成功、反復再出血、局在が確定し切除可能 など)をチームで共有
参考:内視鏡止血後に再出血し、最終的に手術となったDieulafoy(Exulceratio simplex)の報告概要
Dieulafoy病変の独自視点:見逃し防止とチーム設計
検索上位が「定義・所見・止血法」に寄りがちな一方で、医療現場では“見逃しが起きる構造”を潰すほうが成果に直結します。Dieulafoy病変は「小さく見える」「しかし動脈性で急変する」というギャップが本質なので、内視鏡医の技能だけでなく、救急外来・病棟・内視鏡室の連携が止血成功率を左右します。たとえば、吐血・黒色便で搬入された時点で「小病変でも致死的になり得る出血源」を想定し、内視鏡室到着前に輸血・太径ルート・鎮静計画・止血デバイス準備を前倒しすると、視野確保や止血選択の自由度が上がります(=“探しながら準備する”時間を減らす)。
実際、用語解説では出血中に血管造影で診断されることもある、とされています。これは「内視鏡で見つからない=出血がない」ではなく、条件が揃わないと見えない出血がある、という教訓です。そこで、施設ごとの現実に合わせて“分岐プロトコル”を作ると、夜間帯でも判断がブレにくくなります。
- チームで決めておくと強い項目(例)
- 造影CTを挟む条件(循環動態、内視鏡の待機時間、抗血栓薬など)
- 内視鏡止血の第一選択(クリップ主体か、結紮併用か)と、エスカレーション先(IVR・外科)
- 「血餅が多く観察不能」時の標準手順(洗浄水量、体位変換、補助具)
- 再出血時の再検タイミング(何時間以内に再内視鏡/DBE/血管造影へ進むか)
この“設計”は教科書より施設文化に依存しやすく、だからこそ各施設で作り込む価値があります。
参考:出血中に血管造影で診断されることもある、という記載(診断モダリティの分岐を考える根拠)