持続血液濾過透析 適応
持続血液濾過透析の適応とAKI診断基準(KDIGO)
持続血液濾過透析(CHDF)は、持続腎代替療法(CRRT)の一つで、血液濾過(HF)と血液透析(HD)の要素を組み合わせ、24時間持続的に緩徐な除水と溶質除去を行う治療です。
適応を考える出発点は「AKIを正しく同定すること」で、現在は国際的にもKDIGO診断基準が中心であり、日本のAKI診療ガイドラインでもKDIGO基準の使用が推奨(提案)されています。
ただし、KDIGOでAKIと診断された=直ちにCHDF開始、ではありません。
AKIは病態スペクトラムが広く、可逆的要因(腎灌流低下、尿路閉塞、薬剤性など)の検索と是正が常に求められる、という位置づけがガイドライン上も明確です。
臨床的には、次のように「AKIの重症度」と「今まさに破綻している機能」をセットで見ます。
- 尿量:乏尿/無尿が持続し、体液管理が破綻している(出納が合わない)。
- 電解質:高カリウム血症など致死性不整脈リスクが迫る。
参考)https://www.jseptic.com/ce_material/update/ce_material_02.pdf
- 酸塩基:代謝性アシドーシスが高度で、循環・呼吸管理に影響する。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsbpcc/7/1/7_3/_pdf
- 尿毒症:意識障害・出血傾向・心膜炎など臓器障害につながる兆候(“尿毒症症状”の臨床的評価)。
また、集中治療領域では「AKI単体」より「多臓器不全の一分症としてのAKI」を想定することが多く、敗血症やショックなど背景病態が適応判断を強く左右します。
持続血液濾過透析の適応と循環動態不安定・体液過剰
CHDFが選ばれやすい最大の理由は、短時間で急速に除水・溶質除去する間欠透析(IHD)と比べ、循環動態への影響を小さくしながら出納管理を進めやすい点です。
この特徴から、昇圧薬使用中、敗血症性ショック、重症心不全、術後の不安定な体液管理など、「血圧が崩れやすい状況」では持続が実務的に適します。
体液過剰(fluid overload)は、腎代替療法の適応を早める重要な“現場の圧”になります。
ICU患者では、肺水腫やARDSなど呼吸不全の合併が多く、溢水の是正が呼吸管理そのものを改善させ得るため、単にCrやBUNの数字だけでは語れません。
一方で「体液過剰=とにかく強い除水」は危険です。
CHDFは緩徐に除水できる反面、除水設定の積み上げが長時間に及ぶため、血管内容量の見積もり違いがあると、じわじわ循環が悪化し臓器灌流を下げることもあります(“静かに悪くなる”タイプ)。
実務で役に立つ整理として、体液過剰の評価は以下の3系統で行うと判断がブレにくくなります。
- 末梢:浮腫、体重増加、皮膚の緊張。
- 呼吸:酸素化低下、肺水腫所見、換気条件の悪化。
- 循環:血圧、心拍、尿量、乳酸、末梢冷感など“灌流指標”とのバランス。
持続血液濾過透析の適応と高カリウム血症・代謝性アシドーシス
RRT(腎代替療法)の適応として、乏尿、尿毒症、高カリウム血症などが開始判断の軸として整理されることが多い、という教育資料もあります。
高カリウム血症は、心停止につながる不整脈リスクが直接問題になるため、「腎機能が悪いから」ではなく「Kを安全域に戻す必要があるから」という目的ベースで適応が立ちます。
代謝性アシドーシスも同様で、呼吸性代償が限界に近い、循環作動薬が増えてきた、換気量が増やせないなど、全身管理の制約が強いほどCHDFを含むRRTの価値が上がります。
心臓術後AKIなどのレビューでは、高度代謝性アシドーシスの例として動脈血pH<7.20が提示されており、現場で“危険域の目安”として参照されることがあります。
ただし、アシドーシスの是正は「透析で一気に治す」以外にも、循環不全・組織低灌流(乳酸)を改善しない限り再燃しやすい点が落とし穴です。
そのため、CHDFは“原因治療が効くまでの橋渡し”として位置づけ、敗血症治療や循環再建と同時並行で計画するのが実用的です。
持続血液濾過透析の適応と開始タイミング・早期開始の誤解
「AKIに対して血液浄化療法を早期に開始すべきか?」について、日本のAKI診療ガイドラインは、早期開始が予後を改善するエビデンスは乏しく、臨床症状や病態を広く考慮して開始時期を決定すべき、と整理しています。
つまり、CHDFの適応は“早ければ良い”ではなく、“開始しないリスク”と“開始する不利益(抗凝固、カテーテル、体温低下、電解質変動、看護負荷など)”の天秤になります。
現場で起きやすい誤解は、次の2つです。
- 誤解1:Crが上がってきたからCHDF、という単純化(実際は尿量・体液過剰・電解質・酸塩基・全身状態の統合)。
- 誤解2:CHDFは“安全だから気軽に”という認識(実際は回路凝固、出血リスク、アクセス関連合併症などの管理課題がある)。
特に、循環動態不安定例では「持続が望ましい」とされやすい一方、同じガイドライン内でもCRRTとIRRTの死亡率差は明確でない、という整理もあります。
よって“モダリティ選択=予後を劇的に変える魔法”ではなく、患者の制約条件(血圧、呼吸、出納、体温、抗凝固リスク)に合う手段を選び、合併症を減らすことが本質になります。
持続血液濾過透析の適応とTMP監視・回路凝固(独自視点)
検索上位の記事では「適応疾患」や「開始基準」に焦点が当たりがちですが、実務上は“回路が保つか”が適応の成否を左右する、という視点が抜けやすいです。
CHDFは長時間回す治療なので、回路凝固や膜性能低下が起きると、除水・浄化が「やっているのに効いていない」状態になり、結果として適応判断(開始してよかったか)が崩れます。
ここで鍵になるのがTMP(膜間圧力差)や濾過圧などのトレンド監視です。
日本臨床工学技士会の血液浄化業務指針でも、持続的血液浄化用装置の使用中点検として、濾過圧、TMP、二次膜圧などの表示値が通常と比較して逸脱していないか、急激な変化がないかを確認することが明記されています。
この視点での「適応の再評価」は、次のように実務的です。
- 予定どおりの除水が入っているか(除水積算と体重・浮腫・呼吸状態が整合するか)。
- 回路の“見かけ上の目詰まり”で、実効クリアランスが落ちていないか(TMP上昇、警報増加、交換頻回)。
- 抗凝固の方針が、出血リスクと回路寿命の両方に対して妥当か(出血しやすい症例では抗凝固薬の選択や無抗凝固も検討され得る)。
つまり、CHDFの適応は「開始する適応」だけでなく、「継続できる適応(回路が保つ、管理資源がある)」まで含めて判断するのが、ICUの実態に合います。
(AKIと血液浄化療法の開始タイミング、浄化量、持続/間欠の考え方がまとまっている:AKI診療ガイドライン)
https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/419-533.pdf
(CHDF装置の点検項目としてTMPなどの監視が明記され、運用・安全管理の実務に直結する:血液浄化業務指針)
https://www.ja-ces.or.jp/01jacet/shiryou/pdf/gyoumubetsu_gyoumushishin03.pdf