HIV関連腎症 抗HIV療法 腎障害

HIV関連腎症

HIV関連腎症の臨床で迷わないための要点
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まず「HIVANだけ」と決め打ちしない

HIV関連腎症の周辺にはHIVICK、AKI、薬剤性腎障害が並走します。尿所見・経過・薬歴で“分岐”を意識すると診断精度が上がります。

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尿細管マーカーを早めに使う

TDFなどの尿細管障害は、血清Crだけでは拾いにくいことがあります。尿中β2ミクログロブリン、尿糖、リン酸、蛋白定量を組み合わせます。

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治療はARTが軸、腎保護は同時進行

HIV関連腎症ではART導入が腎機能低下の進行抑制に重要とされます。併せてACE阻害薬/ARB、血圧・糖代謝の介入でCKD全体の悪化を抑えます。

HIV関連腎症 病態 たんぱく尿 FSGS

HIV関連腎症(HIVAN)は、典型的にはネフローゼ症候群や急速な腎機能低下を呈し、病理ではcollapsing型の巣状分節性糸球体硬化(FSGS)が特徴になります。HIVが糸球体上皮細胞や尿細管上皮細胞に感染した後、HIVアクセサリー蛋白(Vpr、Nef)が細胞障害やミトコンドリア障害、アポトーシス亢進に関与する可能性が示唆されています。さらに疫学的には黒人で発症が多く、APOL1遺伝子変異が関与し得る点は、国際診療や外国籍患者の診療では押さえておきたい背景です。

一方、日本ではHIVAN自体は「稀」になってきたとされ、腎障害を見たときにHIVANだけを想定すると診断が歪むことがあります。ART普及によってHIVANの有病率が低下した一方で、加齢や糖尿病高血圧など“非HIV要因”のCKDが増えているため、同じeGFR低下でも意味合いが異なります。HIV感染者の腎障害は「HIV関連病変+一般的なCKD+薬剤性」が同時に重なり得る、という前提が実務上とても重要です。

参考)https://www.hok-hiv.com/for-medic/download/manual_202103/07-2.pdf?20210312

HIV関連腎症 診断 尿検査 腎生検

HIV関連腎症を疑う入口は、まず一般尿検査(蛋白尿・血尿)と腎機能(Scr、eGFR)です。尿蛋白は尿比重でブレるため、陽性なら蛋白定量(例:尿蛋白/Cr比)で“量”を確かめ、血尿が出た場合は尿沈渣で赤血球の確認まで進めるのが実践的です。蛋白尿が高度(尿蛋白/Cr比0.5g/gCr以上、または2+以上)などでは腎臓専門医への早期コンサルトが推奨され、HIV関連病変を含む鑑別を加速できます。

確定診断としては腎生検が重要になり得ますが、臨床では「今すぐ生検」か「先にART最適化と薬剤レビュー」かの判断が悩ましい場面が多いです。ここで役立つのが“並走する疾患”の見立てで、HIVICK(免疫複合体型腎炎)では血尿・蛋白尿が多彩で、低補体血症を伴うこともあるとされています。さらにHIVICKはHIVANより腎機能悪化が緩徐になり得る一方、免疫抑制を含む治療の有効性は確立されていない点が臨床上の落とし穴です。

HIV関連腎症 治療 ART ACE阻害薬

治療の中心は抗HIV療法(ART)で、HIVAN発症後にARTを導入すると腎障害の進行が抑制されることが示されており、CD4数にかかわらずARTが積極的適応とされています。腎保護としてACE阻害薬やARBが用いられ、加えて(エビデンスは乏しいとされるものの)コルチコステロイドが使われる場合もあります。つまり、HIV関連腎症の治療は「ウイルス制御(ART)」と「CKDの一般原則(血圧・蛋白尿介入)」を同じ熱量で同時に回す設計になります。

また、HIV感染者ではAKI合併が多いとされ、重症感染症と関連することが多い点も現場的には重要です。AKIのリスクファクターとしてCKD、蛋白尿、低Alb、低BMI、心血管合併症、低CD4、高ウイルス量などが報告されており、腎前性要因や併用薬(アミノグリコシド、抗真菌薬、ST合剤、NSAIDsなど)も含めて複合的に点検する必要があります。「HIV関連腎症の治療中にAKIを起こした」のか、「AKIが主でHIVAN様に見える」のかで、打つ手が変わります。

参考:腎障害の副作用(TDF/TAF、腎機能モニタリング、切り替え指標)がまとまっている(薬剤選択・変更の判断に有用)

抗HIV治療ガイドライン:腎障害(副作用)

HIV関連腎症 薬剤性腎障害 TDF TAF

HIV診療で腎障害を難しくする最大要因の一つが、ART自体が腎に影響し得る点です。たとえばTDFは近位尿細管上皮細胞内に蓄積してミトコンドリア障害を起こし、AKI、尿細管性アシドーシス、Fanconi症候群、腎性尿崩症を呈し得るとされています。リスク因子として血清Cr高値、腎毒性薬の使用、低体重、高齢、CD4低値などが挙げられ、日本では低体重例が多い背景からTDF関連腎障害の頻度が高めになり得る点も指摘されています。

この領域の実務的なポイントは、「Scrだけ追っていても遅れる」ことがある点です。TDFの腎障害観察では、血清Cr・リン酸・尿糖・尿蛋白に加え、尿中β2ミクログロブリンなど尿細管マーカーが有用とされます。さらにTDFからTAFへの切り替えで尿細管マーカーの改善が示された報告があり、腎機能低下や尿蛋白など一定条件下では切り替えを考える指標も提案されています。

参考)https://www.hok-hiv.com/for-medic/download/manual_202509/07-2.pdf

もう一つの“紛らわしさ”として、cobicistat(cobi)やDTG、BICなどは尿細管のクレアチニン分泌を阻害し、投与直後に血清クレアチニンが上がって見えることがあります。これは真のGFR低下を伴わない可能性があるため、薬剤開始直後のScr上昇を「腎炎の増悪」と誤認しない工夫が必要です。このとき、シスタチンCは阻害因子の影響を受けにくく、モニタリングに有用とされています。

HIV関連腎症 独自視点 透析 腎移植 チーム

検索上位の説明では「HIVAN=腎予後不良」という定型文が多い一方、現場での“独自の盲点”は、末期腎不全になった後の選択肢提示が遅れることです。以前はHIV感染が腎移植の禁忌とされていましたが、ARTの普及で生命予後が改善し、条件(例:CD4 200個/mm3以上、ウイルス量が検出感度以下)を満たす場合に腎移植も可能になっています。したがって、透析導入や腎移植の話は「最後に言う」のではなく、eGFR低下の段階から腎臓内科と並走し、患者の生活背景も含めて早期に共有する方が結果として合併症を減らしやすくなります。

また、HIV関連腎症の診療は腎臓内科だけで完結しません。感染症/免疫、薬剤師、看護師、ソーシャルワーカーを含むチームで、①腎毒性薬の棚卸し、②感染症(重症感染症によるAKI)の早期察知、③蛋白尿・血圧・糖代謝の介入、④透析施設との連携、といった“運用”が予後を左右します。疾患名の理解よりも、診断の分岐とフォロー体制の設計に一段踏み込むことが、医療従事者向け記事としての付加価値になります。